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第四章
第七節
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「睦美!ここまで来たら目標の場所はわかるか!?」
『ええ、以前『月下の雫』のデータを蒐集していましたから勿論……イドの言葉通りというのは腹が立ちますが【星具】はこの空間内にあるみたいです……そのまま直進していれば見えるはずかと…』
「そいつは重畳!」
扉に飛び込み、兵器の保管・発射台とされる空間をひた走る大和にチェルシー、エイプリルの三名。
無差別攻撃を意識しているのか、空間は木々に囲まれた森林部のような様相であり、空には巨大な扉が存在していた。
「成程な…あのバカでかい扉で撃ち出した兵器を日本にデリバリーするわけか…」
「ご主人。目標を見つけた際の手筈ですがぁ…」
「ああ、話した通りだ…エイプリルも頼むぜ」
「うぃ」
手筈を再確認しつつ急ぐ大和達。
道中、一切敵と相対しなかった為かすぐに目標の場所となる発射場までたどり着く。
発射場には久弥と複数名の【星】。そして人間が発射準備を進めている。
そしてその中心に位置する弾頭ミサイルのような形状のモノが件の【星具】兵器であった。
「エイプリル」
「うぃ…行って」
手筈通り影の銃士を幾重にも展開するエイプリル。物量により【星】を抑えにかかる。
「………!?敵しゅ…」
「失礼しますぅ」
続いて人間を抑えるチェルシー。影を縫い留める技術により無傷で動きを止める。
そして大和が…。
「……ッ!!?ぐがッツ!!?」
「流石に今回は気配のみの立体映像じゃあねぇよな?」
知覚外、死角から久弥に高速接近した大和。反応する前に無防備な横っ腹に打撃を叩き込む。
たまらず吹き飛ぶ久弥。兵器側面に叩きつけられる。
「睦美!」
『わかっています………弾頭部2メートル下、右部70度、振り下ろす形で』
「OK!!だらッしゃああああああああ!!」
一時的に敵を無効化した僅かな隙で兵器の構造を調べ上げた睦美。大和に指示を出す。
大和も彼女の言葉通りの形で蹴りを叩き込んだ。
「よっしゃあ、ドンピシャ!」
中の基盤ごと外部鋼板が九の字にひしゃげたの見て思わずガッツポーズをとる大和。誘爆の警戒もしていたがどうやら杞憂で済んだようである。
そのままメキメキと音を立てながら折れ曲がっていく兵器。
弾頭部が地面に叩きつけられ土埃を舞い上げたのを見て大和達は兵器を無力化したことを確信した。
「そんな…兵器が……俺の鬼札が…」
呆然とした表情で呟く久弥。大和はそんな彼を取り押さえつけた。
「悪ぃな久弥。チェックメイトって奴だ」
「呉成・大和……お前たちいったいどうやってここの空間までたどり着いた?ここは【領域】でも最も複雑な位置に配置したというのに…っ!?」
「……さぁな…」
敵のゲーム感覚によるものとは言い難く、はぐらかす大和。
だが、久弥は大和のその言葉だけで全てを察した。
「イド……あいつか…ッ!あの野郎一体何を考えているッ!!」
大和達の前で初めて声を荒げた久弥。ぎりぎりと歯軋りを鳴らし地面の土を握りしめる。
そんな状態の彼。だが大和は問いかけた。
「なあ久弥、お前がこの兵器を使って日本を潰し世界を混乱させようとしていたのはわかった…けれど何でそんな企みに至ったんだ?」
「……ふははっ、なんだよ…『龍王』ともあろう奴が勝った瞬間にその物言いか?…存外お前も小物だな…」
「ああ、紙一重だったからな…辛勝と言わざるを得ねぇ…様々な要素が敵に回り、それ以上に様々な要素が味方をしてくれなきゃあ、今この立場が逆だったかもしれないからな」
「………」
「それに手前も想うことがあって、こんなけったいな事をしでかしたんだろう?俺にそいつを話してくれねぇかい?立場としてバチは当たらねぇと思うが……」
「…………はあ、まるでサスペンスかミステリードラマの犯人みたいだ……」
大和の言葉に毒気を抜かれ根負けした久弥。激昂した気持ちを静めると話を始めた。
東郷・久弥が【星】へと覚醒したのは高校2年の終わり頃であった。
どういうきっかけで覚醒ったのかは一切わからない。ただその時に彼は自分が人間を超えた存在になったという事をはっきりと自覚出来たらしい。
そうして自覚した【星】としての自分、その力を彼は人助けの為に使おうとした。漫画やアニメ、映画などの受け売りのようなものであったが、授かったこの力を人々のために使おうとしたのだ。
当時自分以外に【星】を知らなかったという全能感もその行為に拍車をかけた。
結果…。彼に待っていたのは感謝ではなく畏怖と恐怖による迫害であった。
超えたという事だけで、人間とそう変わらない見た目の容姿。人間と同じ姿をした存在が人とは違う化け物のような力を振るう。そのことに周囲は奇異の目を向けた。
そして奇異は蔑視に蔑視が恐怖に代わるのもそう遅くはなく。周囲の者は両親や兄弟を含め一丸となって久弥を追い立てたのであった。
「……ッ…」
『大和。これは…』
「ああ、周りに理解者が存在しなかった【星】の典型的な例だ…」
人類の隣人としての【星】。
彼らは英雄や守護者、破壊者と様々な形で人類に寄り添うが、限りなく不可能になる立場もある。
それは人々の輪に入り生きる事。隣人であるが故に人類の営みの輪の中に入ることだけは叶わなくなるのだ。
人が【星】へと覚醒する。すると周囲の人々は途端に違う生物であると感じるようになる。例え先日まで家族であろうと親しい友人であろうと同じ【星】でなければ別の生物であると本能で思うようになってしまうのだ。
そして別の生き物は排斥される。相手がどんな強者であろうと関係はない。生き延びるためにそうするのは生物の常だからである。
それが【星】が隣人という一線を引いている理由。
なおそのように排斥されポツンと放り出された【星】は孤独感により人類に対して恨みを募らせ犯罪や悪事を引き起こしやすいとされる。
特に周囲の為に行動しようとした者ほど、顕著にその傾向が表れやすいとされている。
『日本最大規模の『フツノミタマ』が【星団】未所属の方々を人物評価関係無し、手あたり次第に受け入れるのはこういった者たちの受け皿となるためらしいですからね…』
「基本超人的な【星】とはいえ個だから、大したことは出来ねぇ…だが今回は個人ではなく集団っていうのはすごいな……しかも傭兵までも雇い入れるコネなんて持っている大規模さは滅多なことじゃあねぇ」
「……結局そのコネクションも提供者であるイドの気まぐれによって無に帰ってしまったがな…」
自虐するように吐き捨てた久弥。どうでもよさそうに大和へと告げる。
「…殺せよ、俺の復讐は失敗に終わったんだ。失敗した以上、悪いが生きていても意味がないからな」
『大和…』
「ご主人…どうしますぅ?」
「……ああいいぜ、望み通りにしてやるよ……」
「っ!?」
予想外の大和の言葉に全員が困惑の表情を浮かべた。
「し、師匠っ……」
制止を望むようなエイプリルの言葉。大和は応じずに拳を振り上げる。
そして勢いよく振り下ろした。
「だらァアアアアアアアアアアアアア!!」
響く破砕音。ひび割れる地面。
土煙が収まるとなんと久弥は無事であった。
よく見ると拳が頭部数センチ横を掠めている。
「なッ!?」
「……なんて言うと思うか、悪ぃが自暴自棄になった奴の介錯人なんてちゃんちゃらゴメンだね」
「お前…日和やがったな『龍王』!!」
「日和っただって…手前のその姿を見て言いやがれ!」
そう言って久弥に自身の姿を見せる為に横転している兵器へと近づける大和。
ピカピカに磨かれた鋼板に写った久弥の姿。
それは悔しさと死への恐怖に涙を流し顔を歪ませた姿であった。
「そんな面して一番簡単な方法を取って終わらせるんじゃあねぇ!!」
「………ッ…!」
「「失敗しました→なら死にます」なんて…一番つまんねぇと思わねぇのか!?誰も浮かばれねぇよそんな結末ッ!!誰よりも何よりも、手前自身だろうとなッ!!」
「そんな……こと……は………」
「あんまり他人に強制しない俺だがな珍しく言ってやる。これからお前は罪を償ってこい!『フツノミタマ』でも未遂で理解出来ないかもだが日本政府でもどこでもいい!!迷惑をかけたと思う連中に頭下げてこい!!まずはそっからだ!!」
「……………」
「そして罪を償って、許してもらったら俺達の【星団】に入れ」
「……………えッ…!?…」
「言っとくがお前に拒否権はねぇぞ、リーダーの片割れの俺が今決めた!お前は俺達『創世神』の所属だ」
「………」
「そんでよ、そっからまた始めりゃあ良いじゃあねぇか…人助けって奴をよ……」
「今の…俺でも……出来ると思うか……?」
「まあ一筋縄じゃあいかねぇだろうな……でも今回はお前ひとりじゃあねぇ、俺達もいるんだ、余裕だろ?」
「……」
「ぶっちゃけよお前は再起不能になるまで叩き潰してやろうと思ったんだぜ…でもお前は悪人だったが外道ではなかった。特にその根っこにあったお人好しな部分は嫌いじゃあないからな………」
「………」
「なあどうだ?」
そう言って手を差し伸べた大和。
「くっそ……負けたよ『龍王』…完敗だ…」
そんな大和に悪態をつきつつも清々しい表情を浮かべた久弥。差し出された手を取ろうと手を伸ばそうとする。
「あ~あ~ダメじゃあないか久弥☆」
とそこで響くそんな声。
声の方向の先にはイドがいた。
『イド!コイツは門司と晴菜が倒したはずですが…っ!』
「そんな安っぽい文句で簡単に絆されてどうするんだい☆君を蔑ろにした世の中に復讐を果たすという君の目的はどうしたんだい☆」
「色々といいたいことはあるが……もういいんだイド」
「ええ~☆それはあんまりじゃあないか久弥☆武器に人員、この【領域】もコネクションとして提供した俺の立場はどうなるんだい☆」
「それについては悪いと思っている。復讐心とはいえ俺の考えに一番に賛同してくれたのはお前だったのに……」
「まあ仕方がないっか☆大きな変更はなく予定通りだし♪」
「…は?」
「スイッチ・オーン♪」
テレビのリモコンのようなものを取り出し、横転している兵器に向けてスイッチを押したイド。
瞬間、爆発と共に兵器の側面の一部が外れる。
それと同時に穴が開いた兵器の空洞から触手のようなモノが飛び出てくる。
『これは…』
「ああ『断片』って奴じゃあねぇか!?」
見覚えのある表面の質感の触手。蛸の足のような見た目でうねうねと蠢く。
そのまま触手は久弥を絡めとった。
「久弥ッ!?」
「おい!?なんだよこれはイド!!?」
「見てわからないの☆まあ弱くて脆いダメダメな久弥なら仕方がないっか♪これが俺の本来の目的☆君みたいなやつに手を貸した本来の理由だよ☆」
「本来の目的……だと……?」
「イグザクトリー☆兵器に搭載し発射によってこの方を甦らせるのが俺の本来の目的☆でも発射には失敗してしまったからね☆起動によるプランBってわけ♪」
「発射によっての復活だと……じゃあ兵器が日本国土に着弾しても…」
「イエエース☆そのあたりの察せるオツムはあったみたいだね☆そうだよ『月下の雫』の特性である『吸収・放射』における破壊ではなく、吸収したエネルギーをそのままこの方の栄養となるはずだったとそういうわけ☆」
「なん…だと……じゃあ攻撃による復讐は…?」
「それは問題なかったね♪日本国土のエネルギーを全てこの方に注ぎ込むんだ☆エネルギーがあればあるほどに成長するこの方はおそらく列島全てを飲み込むほどに巨大化していたはず☆それでドッシーンだよ☆まあ日本のみならず全世界をも巻き込むけれど☆」
「……ッ……」
「ちなみに☆プランBでは君を含めたこの【領域】にある全ての存在を材料に成長を始める内容さ☆Bになっちゃったのはちょい不満だったけれど☆いや~よかった♪よかった♪ここまで仕向けた甲斐があったよ☆」
「仕向けた…だと?」
「そうだよ愚鈍な久弥☆ドラマチックに楽しみたいから『龍王』呉成・大和等のの介入や身勝手な行動もしたけれど☆君の思いに賛同したのも☆君の孤独に理解を示したのも☆無知な君に【星具】の存在を教え兵器することを促したのも☆そもそも君が孤立するように仕向けたのもみんなこの為さ~♪」
「イどぉおおオオオオオ!!」
「あっは☆その表情イイヨ☆受ける~♪」
全ての元凶だったことに憤怒の表情を見せる久弥。
だがイドは気にも留めることはない。
「それじゃあバイバイ☆せっかく人間を超えたのに心は人間未満の弱くて脆いダメダメな久弥♪」
「久弥!!?」
そのまま中に取り込まれた久弥。
久弥を取り込むと『断片』は急に成長を始める。
「ああ~☆イイヨいいよ~☆ようやくこちらに現れるんですね☆」
「イド!こいつはなんだ!?」
変容を見て恍惚の表情を浮かべるイドに問いかける大和。昂っているイドは上機嫌に答える。
「そうだな呉成・大和とその一同★ここまで盛り上げてくれて次に取り込まれる順番の君には答えないと失礼だね☆これはとある競争の敗北者☆上に立たなければいけないのに敗れ貶められた哀れな存在♪」
「『旧支配者』その亡骸さ☆」
『ええ、以前『月下の雫』のデータを蒐集していましたから勿論……イドの言葉通りというのは腹が立ちますが【星具】はこの空間内にあるみたいです……そのまま直進していれば見えるはずかと…』
「そいつは重畳!」
扉に飛び込み、兵器の保管・発射台とされる空間をひた走る大和にチェルシー、エイプリルの三名。
無差別攻撃を意識しているのか、空間は木々に囲まれた森林部のような様相であり、空には巨大な扉が存在していた。
「成程な…あのバカでかい扉で撃ち出した兵器を日本にデリバリーするわけか…」
「ご主人。目標を見つけた際の手筈ですがぁ…」
「ああ、話した通りだ…エイプリルも頼むぜ」
「うぃ」
手筈を再確認しつつ急ぐ大和達。
道中、一切敵と相対しなかった為かすぐに目標の場所となる発射場までたどり着く。
発射場には久弥と複数名の【星】。そして人間が発射準備を進めている。
そしてその中心に位置する弾頭ミサイルのような形状のモノが件の【星具】兵器であった。
「エイプリル」
「うぃ…行って」
手筈通り影の銃士を幾重にも展開するエイプリル。物量により【星】を抑えにかかる。
「………!?敵しゅ…」
「失礼しますぅ」
続いて人間を抑えるチェルシー。影を縫い留める技術により無傷で動きを止める。
そして大和が…。
「……ッ!!?ぐがッツ!!?」
「流石に今回は気配のみの立体映像じゃあねぇよな?」
知覚外、死角から久弥に高速接近した大和。反応する前に無防備な横っ腹に打撃を叩き込む。
たまらず吹き飛ぶ久弥。兵器側面に叩きつけられる。
「睦美!」
『わかっています………弾頭部2メートル下、右部70度、振り下ろす形で』
「OK!!だらッしゃああああああああ!!」
一時的に敵を無効化した僅かな隙で兵器の構造を調べ上げた睦美。大和に指示を出す。
大和も彼女の言葉通りの形で蹴りを叩き込んだ。
「よっしゃあ、ドンピシャ!」
中の基盤ごと外部鋼板が九の字にひしゃげたの見て思わずガッツポーズをとる大和。誘爆の警戒もしていたがどうやら杞憂で済んだようである。
そのままメキメキと音を立てながら折れ曲がっていく兵器。
弾頭部が地面に叩きつけられ土埃を舞い上げたのを見て大和達は兵器を無力化したことを確信した。
「そんな…兵器が……俺の鬼札が…」
呆然とした表情で呟く久弥。大和はそんな彼を取り押さえつけた。
「悪ぃな久弥。チェックメイトって奴だ」
「呉成・大和……お前たちいったいどうやってここの空間までたどり着いた?ここは【領域】でも最も複雑な位置に配置したというのに…っ!?」
「……さぁな…」
敵のゲーム感覚によるものとは言い難く、はぐらかす大和。
だが、久弥は大和のその言葉だけで全てを察した。
「イド……あいつか…ッ!あの野郎一体何を考えているッ!!」
大和達の前で初めて声を荒げた久弥。ぎりぎりと歯軋りを鳴らし地面の土を握りしめる。
そんな状態の彼。だが大和は問いかけた。
「なあ久弥、お前がこの兵器を使って日本を潰し世界を混乱させようとしていたのはわかった…けれど何でそんな企みに至ったんだ?」
「……ふははっ、なんだよ…『龍王』ともあろう奴が勝った瞬間にその物言いか?…存外お前も小物だな…」
「ああ、紙一重だったからな…辛勝と言わざるを得ねぇ…様々な要素が敵に回り、それ以上に様々な要素が味方をしてくれなきゃあ、今この立場が逆だったかもしれないからな」
「………」
「それに手前も想うことがあって、こんなけったいな事をしでかしたんだろう?俺にそいつを話してくれねぇかい?立場としてバチは当たらねぇと思うが……」
「…………はあ、まるでサスペンスかミステリードラマの犯人みたいだ……」
大和の言葉に毒気を抜かれ根負けした久弥。激昂した気持ちを静めると話を始めた。
東郷・久弥が【星】へと覚醒したのは高校2年の終わり頃であった。
どういうきっかけで覚醒ったのかは一切わからない。ただその時に彼は自分が人間を超えた存在になったという事をはっきりと自覚出来たらしい。
そうして自覚した【星】としての自分、その力を彼は人助けの為に使おうとした。漫画やアニメ、映画などの受け売りのようなものであったが、授かったこの力を人々のために使おうとしたのだ。
当時自分以外に【星】を知らなかったという全能感もその行為に拍車をかけた。
結果…。彼に待っていたのは感謝ではなく畏怖と恐怖による迫害であった。
超えたという事だけで、人間とそう変わらない見た目の容姿。人間と同じ姿をした存在が人とは違う化け物のような力を振るう。そのことに周囲は奇異の目を向けた。
そして奇異は蔑視に蔑視が恐怖に代わるのもそう遅くはなく。周囲の者は両親や兄弟を含め一丸となって久弥を追い立てたのであった。
「……ッ…」
『大和。これは…』
「ああ、周りに理解者が存在しなかった【星】の典型的な例だ…」
人類の隣人としての【星】。
彼らは英雄や守護者、破壊者と様々な形で人類に寄り添うが、限りなく不可能になる立場もある。
それは人々の輪に入り生きる事。隣人であるが故に人類の営みの輪の中に入ることだけは叶わなくなるのだ。
人が【星】へと覚醒する。すると周囲の人々は途端に違う生物であると感じるようになる。例え先日まで家族であろうと親しい友人であろうと同じ【星】でなければ別の生物であると本能で思うようになってしまうのだ。
そして別の生き物は排斥される。相手がどんな強者であろうと関係はない。生き延びるためにそうするのは生物の常だからである。
それが【星】が隣人という一線を引いている理由。
なおそのように排斥されポツンと放り出された【星】は孤独感により人類に対して恨みを募らせ犯罪や悪事を引き起こしやすいとされる。
特に周囲の為に行動しようとした者ほど、顕著にその傾向が表れやすいとされている。
『日本最大規模の『フツノミタマ』が【星団】未所属の方々を人物評価関係無し、手あたり次第に受け入れるのはこういった者たちの受け皿となるためらしいですからね…』
「基本超人的な【星】とはいえ個だから、大したことは出来ねぇ…だが今回は個人ではなく集団っていうのはすごいな……しかも傭兵までも雇い入れるコネなんて持っている大規模さは滅多なことじゃあねぇ」
「……結局そのコネクションも提供者であるイドの気まぐれによって無に帰ってしまったがな…」
自虐するように吐き捨てた久弥。どうでもよさそうに大和へと告げる。
「…殺せよ、俺の復讐は失敗に終わったんだ。失敗した以上、悪いが生きていても意味がないからな」
『大和…』
「ご主人…どうしますぅ?」
「……ああいいぜ、望み通りにしてやるよ……」
「っ!?」
予想外の大和の言葉に全員が困惑の表情を浮かべた。
「し、師匠っ……」
制止を望むようなエイプリルの言葉。大和は応じずに拳を振り上げる。
そして勢いよく振り下ろした。
「だらァアアアアアアアアアアアアア!!」
響く破砕音。ひび割れる地面。
土煙が収まるとなんと久弥は無事であった。
よく見ると拳が頭部数センチ横を掠めている。
「なッ!?」
「……なんて言うと思うか、悪ぃが自暴自棄になった奴の介錯人なんてちゃんちゃらゴメンだね」
「お前…日和やがったな『龍王』!!」
「日和っただって…手前のその姿を見て言いやがれ!」
そう言って久弥に自身の姿を見せる為に横転している兵器へと近づける大和。
ピカピカに磨かれた鋼板に写った久弥の姿。
それは悔しさと死への恐怖に涙を流し顔を歪ませた姿であった。
「そんな面して一番簡単な方法を取って終わらせるんじゃあねぇ!!」
「………ッ…!」
「「失敗しました→なら死にます」なんて…一番つまんねぇと思わねぇのか!?誰も浮かばれねぇよそんな結末ッ!!誰よりも何よりも、手前自身だろうとなッ!!」
「そんな……こと……は………」
「あんまり他人に強制しない俺だがな珍しく言ってやる。これからお前は罪を償ってこい!『フツノミタマ』でも未遂で理解出来ないかもだが日本政府でもどこでもいい!!迷惑をかけたと思う連中に頭下げてこい!!まずはそっからだ!!」
「……………」
「そして罪を償って、許してもらったら俺達の【星団】に入れ」
「……………えッ…!?…」
「言っとくがお前に拒否権はねぇぞ、リーダーの片割れの俺が今決めた!お前は俺達『創世神』の所属だ」
「………」
「そんでよ、そっからまた始めりゃあ良いじゃあねぇか…人助けって奴をよ……」
「今の…俺でも……出来ると思うか……?」
「まあ一筋縄じゃあいかねぇだろうな……でも今回はお前ひとりじゃあねぇ、俺達もいるんだ、余裕だろ?」
「……」
「ぶっちゃけよお前は再起不能になるまで叩き潰してやろうと思ったんだぜ…でもお前は悪人だったが外道ではなかった。特にその根っこにあったお人好しな部分は嫌いじゃあないからな………」
「………」
「なあどうだ?」
そう言って手を差し伸べた大和。
「くっそ……負けたよ『龍王』…完敗だ…」
そんな大和に悪態をつきつつも清々しい表情を浮かべた久弥。差し出された手を取ろうと手を伸ばそうとする。
「あ~あ~ダメじゃあないか久弥☆」
とそこで響くそんな声。
声の方向の先にはイドがいた。
『イド!コイツは門司と晴菜が倒したはずですが…っ!』
「そんな安っぽい文句で簡単に絆されてどうするんだい☆君を蔑ろにした世の中に復讐を果たすという君の目的はどうしたんだい☆」
「色々といいたいことはあるが……もういいんだイド」
「ええ~☆それはあんまりじゃあないか久弥☆武器に人員、この【領域】もコネクションとして提供した俺の立場はどうなるんだい☆」
「それについては悪いと思っている。復讐心とはいえ俺の考えに一番に賛同してくれたのはお前だったのに……」
「まあ仕方がないっか☆大きな変更はなく予定通りだし♪」
「…は?」
「スイッチ・オーン♪」
テレビのリモコンのようなものを取り出し、横転している兵器に向けてスイッチを押したイド。
瞬間、爆発と共に兵器の側面の一部が外れる。
それと同時に穴が開いた兵器の空洞から触手のようなモノが飛び出てくる。
『これは…』
「ああ『断片』って奴じゃあねぇか!?」
見覚えのある表面の質感の触手。蛸の足のような見た目でうねうねと蠢く。
そのまま触手は久弥を絡めとった。
「久弥ッ!?」
「おい!?なんだよこれはイド!!?」
「見てわからないの☆まあ弱くて脆いダメダメな久弥なら仕方がないっか♪これが俺の本来の目的☆君みたいなやつに手を貸した本来の理由だよ☆」
「本来の目的……だと……?」
「イグザクトリー☆兵器に搭載し発射によってこの方を甦らせるのが俺の本来の目的☆でも発射には失敗してしまったからね☆起動によるプランBってわけ♪」
「発射によっての復活だと……じゃあ兵器が日本国土に着弾しても…」
「イエエース☆そのあたりの察せるオツムはあったみたいだね☆そうだよ『月下の雫』の特性である『吸収・放射』における破壊ではなく、吸収したエネルギーをそのままこの方の栄養となるはずだったとそういうわけ☆」
「なん…だと……じゃあ攻撃による復讐は…?」
「それは問題なかったね♪日本国土のエネルギーを全てこの方に注ぎ込むんだ☆エネルギーがあればあるほどに成長するこの方はおそらく列島全てを飲み込むほどに巨大化していたはず☆それでドッシーンだよ☆まあ日本のみならず全世界をも巻き込むけれど☆」
「……ッ……」
「ちなみに☆プランBでは君を含めたこの【領域】にある全ての存在を材料に成長を始める内容さ☆Bになっちゃったのはちょい不満だったけれど☆いや~よかった♪よかった♪ここまで仕向けた甲斐があったよ☆」
「仕向けた…だと?」
「そうだよ愚鈍な久弥☆ドラマチックに楽しみたいから『龍王』呉成・大和等のの介入や身勝手な行動もしたけれど☆君の思いに賛同したのも☆君の孤独に理解を示したのも☆無知な君に【星具】の存在を教え兵器することを促したのも☆そもそも君が孤立するように仕向けたのもみんなこの為さ~♪」
「イどぉおおオオオオオ!!」
「あっは☆その表情イイヨ☆受ける~♪」
全ての元凶だったことに憤怒の表情を見せる久弥。
だがイドは気にも留めることはない。
「それじゃあバイバイ☆せっかく人間を超えたのに心は人間未満の弱くて脆いダメダメな久弥♪」
「久弥!!?」
そのまま中に取り込まれた久弥。
久弥を取り込むと『断片』は急に成長を始める。
「ああ~☆イイヨいいよ~☆ようやくこちらに現れるんですね☆」
「イド!こいつはなんだ!?」
変容を見て恍惚の表情を浮かべるイドに問いかける大和。昂っているイドは上機嫌に答える。
「そうだな呉成・大和とその一同★ここまで盛り上げてくれて次に取り込まれる順番の君には答えないと失礼だね☆これはとある競争の敗北者☆上に立たなければいけないのに敗れ貶められた哀れな存在♪」
「『旧支配者』その亡骸さ☆」
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彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
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