プライベート・スペクタル

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第四章

第一節

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「ふむ…このプレートに刻まれたこの座標。これは奴らの【領域】の位置を示しているのですね…」
「おそらくそうなりますねぇ」
手にしたナンバープレートを見ながら睦美は呟く。
あの後、大和を通信機の位置で追い続けた睦美達。
日も暮れたところである場所からピタリと動かなくなったことから、何かがあったと感じチェルシーがその場に赴いたのである。
そこにはズタボロの状況で動かなく大和の姿があった。
すぐに回収したチェルシー。
その際に大和が何よりも先に押し付けてきたのがこのプレートであった。
「しかも聞けば、頂いた相手は晴菜様と仰るじゃあありませんかぁ……どういう事なんでしょうかねぇ?」
「ふむ、何らかの思惑はあるのでしょう」
敵の新たなる罠か、何らかの策略か……どちらにしても敵側からの事、警戒し手を出さないに越したことは無いと睦美は判断する。
だが…。
「違うな鉄面皮」
そんな考えの睦美に刀の手入れをしながら静観をしていた門司が口を挟む。
「コレは晴菜がくれた千載一遇の機械チャンスの一つだ。警戒はすれど…コレを利用しない手は無いと思うぞ」
「ああ、そうだぜ睦美」
そこで治療を終えた大和も会話に入ってくる。手には回復用の料理を山程抱えていた。
「コイツは晴菜の奴が用意してくれた起死回生の一手になる為の欠片の一つだ。利用しなけりゃあ、今度こそ俺達の敗北だ!」
「早いな兄弟…傷の様子はもういいのか?」
「おうよ!ちょいと眠って、飯食ったらもう完治だぜ!」
漫画みたいな骨付きの肉に齧り付きながら大和は頷く。
「……そんな馬鹿みたいなビックリ生命力の部分は置いておいて……聞かせてもらいましょうか?敵から与えられた情報を頼りにする理由を……」
「そんなのは簡単だぜ。晴菜だからだッ!」
「……理由になってませんね二号。過去の知り合いとはいえ今現在は敵対しているんですよ」
「だな…だけれど俺はアイツを信じたい!あの時にタイマンで会ってわかった、アイツは何一つ昔と変わっちゃあいねぇ!昔からの優しい晴菜だ!それだけは確信できた!」
「ご主人…」
「それにアイツに言われたんだよ「今度はきっちりとやれ」ってな、一度は俺の未熟で裏切ってしまったんだ。今度は失敗したりはしねぇ!エイプリルもアイツも仲間としてきっちりと救ってやりたいッ!!」
そう言い放った大和。そんな彼の言葉に睦美は溜息を一つ吐く。
「……はあ…本来なら参謀として、貴方の行動を止めるのが正解なんでしょうが……そこまで言われてそれを拒絶するのは【星】として、そしてなによりも仲間としても想いに欠ける行為ですね…やれるだけお手伝い致しますよ…参謀としてね…」
「睦美…」
「俺もお前の意見を尊重するぜ兄弟…それに負けで終わるなんて癪に障るからな……とことんまでやってやるさ…」
「門司も……サンキュウな…」
頷く門司と睦美に笑みを浮かべた大和。
こうして思わぬ反撃の機会を得た『創世神』の面々。反撃の準備を始めるとともにこの争奪戦の最終局面が幕を開けたのであった。

『今回の作戦では『フツノミタマ』と合同での行動は難しいでしょう…その為私がナビに戻ります』
「おうさ!」
「…ああ鉄面皮。問題ない」
「いつも通りですねぇ」
準備を終え、決行の時を迎えた大和達。『無限回廊』に繋げ即座に座標内【領域】へと侵入した。
「入ったぜ睦美。…今のところ手厚い歓迎のようなものは無いな…」
辺りを見回す大和。最初に侵入出来た場所は会社のオフィスビルを思わせる空間であった。
『こちらも位置の確認が取れました……場所は【領域】内でも人の出入りが少ない空きの空間の様です。周囲には我々を除く一切の反応は有りませんね……』
「どうやら…晴菜を信用したのは間違いなかったってことだな……今の所は……」
『ふむ、そうなりますね……ではもう一度この【領域】における目標を確認しておきます』
睦美の問いかけに「ああ」と頷き目標を口にした大和。
エイプリル、そして晴菜の奪還、取り返された【星具】の再強奪、忘れるはずがない。
『それと今回は敵の本拠【領域】です。可能なら久弥…それともう一方の主犯の撃破、もしくは企みの頓挫もお願いします。ここで彼らとの因縁も一度断っておきたいので…』
「同意見だ鉄面皮…俺達の野望にいつまでも付き纏われてもたまったもんじゃあないからな……」
『それと敵本拠【領域】についてもう一つ…どうやらその【領域】中々に厄介なようです』
「ん?そいつは一体どういう………」
言葉の途中、急な浮遊感に襲われた大和達。
侵入のために使用した扉が突如として閉まり、まるで落ちているかのような感覚を味わう。
「………今のは……?」
感覚はすぐには収まったが奇妙な感覚に首を傾げる門司。
瞬間、背後の扉が開きそこから二名の【星】が入って来た。
「…ッ!貴様ら!いったい何処から!?」
最後まで言わすことも無く、目が合った【星】を即座に沈黙させる大和と門司。空間内に引きずり込み一目では見えない場所に隠す。
隠した後、見られていないか彼らが来た空間を覗く大和。
そこは中央にリングが設置されサンドバックが吊るされたボクシングジムのような内装であった。
「……随分と奇妙な間取りですねぇ」
チェルシーの言葉の後、再び起こる浮遊感。扉が閉まり落ちる感覚を再び味わう。
『大和。今閉められた扉を開けてみて下さい』
睦美に言われるまま扉を開ける大和。
すると先程のジムではなく大きな池が中央に存在する日本庭園のような空間であった。
「ん?」
三度目の浮遊感。急に扉が閉まり落ちる感覚を味わう。
収まった後、言われることなく開けた扉。そこは音楽スタジオのような空間に変わっていた。
「…一体どういうことだ鉄面皮?」
『ふむ、どうやらその【領域】ですが…【領域】内にいくつもの部屋のような空間が存在し、それを繋げたり離れたり性質を持っているようですね』
「空間を組み替え任意の場所に向かう…あれか、言うなれば簡易な『無限回廊』というわけだな…」
『それが一番的を得ていますね…』
「ソレで終わらせるな鉄面皮。ということは周辺を探知や探索はそれを組み替える術が必要って事じゃあないか」
『そうですね……モニタリングしていますが貴方達以外の空間が今も目まぐるしく組み替えられています。領域の正確な分析は結構骨が折れそうですね……』
「ではどうしますぅ?このままでは先に進めませんよぉ?」
『それについては…このような類は経験上何かしらのシステムやプログラムによって制御されているのだと推測できます。それを何とか掠め取れないか試してみるつもりです。そちら側は分断されないようにしながら、ひたすら進んでみて下さい。出来る限り隠密で…聞いていますか?馬鹿…』
「ん?なぜ俺を指すんだい子猫ちゃん」
『自分の胸に手を当ててじっくり考えたらどうです馬鹿。毎度毎度…馬鹿みたいに派手に暴れ回る立ち回り…少しは忍ぶということを覚えたらどうです?』
「そりゃあ、主役はいつも派手にやりてぇからな……まあでもTPOは弁えるようにするさ…分かったぜ……」
『ふむ、まあ期待はしませんが…』
そんな睦美の小言を聞きながら、大和達は繋がった目の前の空間へと足を踏み込んだ。
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