プライベート・スペクタル

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第三章

第十節

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「…一瞬、まさしく一瞬でした……」
敵の【領域】を脱し『創世神』の【領域】まで帰還した大和達。
傷の手当てをしながら【星具】が奪われた経緯を睦美から聞く。
「【領域】からの離脱の為、入口まで戻っていた最中…急に私の懐に穴のようなモノが空いたかと思えば、その中から手が伸びて来たんです。そして私の懐からピンポイントに【星具】を抜き取ると穴の中に消えたんです」
「そうか…緊急で仕込んでいた発信機はどうした?」
尋ねる門司。実は大和達が『フツノミタマ』にも知らせずに仕込んでいたのである。
「詳しい位置や内部の音声等は拾えないだろうが…微弱な信号でもあれば、そこをピンにして敵【領域】の座標を割り出だせると思うが…」
「それが、調べたところ即座に発信機に気づかれ…破壊の後、破棄されたようです。信号が起こった座標を精査いたしましたが…変更された後の様でした」
「成程な…」
睦美の報告に頷く門司。新調した刀の柄を撫でる。
「……完全に油断した私のミスです……返す言葉もありません……本当に申し訳ない」
「睦美様の所為だけではありませんよぉ…同じく場に居た私も同じ程…いぇ、それ以上の責がありますぅ…どうか罰するなら私をぉ…」
「いや…敵の方が一枚上手だったということだ…そうなった事は残念だが、謝るなよ睦美、チェルシー」
失態により頭を下げた睦美とチェルシーにそう言った門司。
睦美の懐から現れた穴というのは十中八九。敵の【演目】なんだろう。
おそらく久弥に一度取り返された時に何らかの仕込みが施されたに違いない。
(いや…亡霊は久弥の行動についてはノータッチだと言っていた……知ってはいないのだろう。晴菜や亡霊が知っており…久弥が知らない……という事は…)
「晴菜達の雇い主。久弥と協力関係にある何らかの者ってことか…」
晴菜の去り際の一言からそう推測する門司。
先の敵対勢力との全面対決。『フツノミタマ』の協力の下行われた作戦は目的であるエイプリルの奪還に至らず、逆にこちらの【星具】は奪われた。
こちらに大きな被害は無く。【銘付き】を含む多数の【星】倒すという損害は与えたが…敵は、ほとんどが雇われの存在。補充なんていくらでも効く。
つまるところ……。
「こちらの完全敗北か……」
「…そうですね」
認めたくはないがそう評せざるを得なかった門司と睦美。払った代償リスクに比べ、あまりにも低い報酬リターンであった。
「……一応『フツノミタマ』の者達も彼らの消えた先を探っているそうですが…手がかりも無い状態での探索。かなりの時を要することになるでしょう…」
「そもそも連中は、もう俺達に関わる必要すらないんだ…深く潜られてしまえば…その時点で終わり。次に補足できるのは、連中の目的の達成目前の何もかも手遅れな状態だろう」
その事実が重くのしかかる。
そしてそれと大きな懸念が一つ。
その方向に目をやる門司と睦美。
そこには……。
「………(むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ…)」
回復用の食事を口に運ぶ大和の姿があった。
戻ってから一言も喋らずに一心不乱に食事を頬ばる。
そんな姿を見て睦美は門司に尋ねる。
「……そちらの方は一体なにがあったのです?同じ馬鹿はやっていますが…テンションはまるで別人の様じゃあないですか……」
「俺も詳しいことはわからない……ジュリから戦闘中の晴菜の問答の後にああなったと聞いた……何かあったんだろう」
「…………ご馳走さんでした…」
食事を終え手を合わせた大和。
立ち上がるとそのまま部屋を出て行こうとした。
「…ちょっと…失態直後で少々後ろめたい気持ちですが言わせてもらいますよ…何出て行こうとしているんです馬鹿二号。こんな状況の中一体どこに向かう気です?」
「ちょいと外の空気を吸ってくる」
振り返らずにそう返す大和。睦美は軽く溜息を吐く。
「馬鹿か馬鹿かとこちらも言っておりましたが、モノホンですか貴方は……今の状況にエイプリルの先例もある中……もう少し空気を読んだらどうです?」
「……心配するな、コイツはちゃんと持って行くからよ」
言って通信機を掲げる大和。
睦美は「そういう問題ではなく…」と言葉を挟もうとする。
「んじゃ、ちょいと一人にさせてくれや…」
だが、それを嫌がった大和。睦美が言葉を続ける前にそそくさと出て行ってしまった。
「……全く…あの二号は…」
「まぁまぁ睦美様。そこはどうかご寛大にぃ」
勝手な行動に溜息がこぼれる睦美。チェルシーはそんな彼女を宥めながら続ける。
「見たところぉ、先程の件で何やら引き摺っているご様子…ああいう時は従者的にはどうかと思いますが、放っておくのが良ですよぅ」
「そうなのか?」
「ええそうですよぅ門司様、お一人で気持ちの整理の時間を取らせてあげましょう」
「……ほんとに全く……」
「貴方のお気持ちはわかりますよぅ睦美様。ですがご心配なく、ああやって戻って来たご主人は迷いも吹っ切ってきますからねぇ、強いですよぉ…それも反撃に出るなんて時には特に…お二方もこのまま泣きを見て終わろうなんて、さらさら考えていないのでしょう?」
「「…………」」
両名の沈黙で肯定を察したチェルシー。大和の食べた食器を片づけ始める。
門司と睦美も普段共に過ごす彼女の言葉を信じることに決めた。
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