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第三章
第九節
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「遠くで響いていた銃声が止んだ……ってことは門司の方はケリが着いたか……早ぇなぁ…」
『はい。仰る通り門司様と亡霊の戦闘はたった今終了いたしました』
「門司が勝ったんだろ?亡霊も中々のタマだとは思うが…言っちゃあ悪いが門司の方が数段上だろうからな…」
そう分析する大和。ジュリからの異が無い事で凡そはその通りだと確信する。
「そうなれば」と即座に自分の状況へと思考を戻す。
眼前には無数の炎のミサイルがこちらに向かって来ていた。
「無誘導だなッ!」
それらを全て躱す大和。そのまま着弾したミサイルにより木々が火の海に変わる様子を目の端に写しながら晴菜の動きを追いかける。
「おいおいオイオイコイツは環境破壊だぜ晴菜ッ!もう少し地球に優しくしたらどうだいッ!?」
「…ッツ!だったら代わりに当たりなさいッ!!」
【演目】『爆炎 炎懐 マーク2 宴 』
大和の軽口にイラつきながら炎の手榴弾を投擲する晴菜。両手からそれぞれ一つずつ放たれた手榴弾は離れると同時に分裂し始める。
数瞬後には無数の量となって大和に降り注いだ。
「オラッシャァアアアッ!」
手ごろな木を一本幹からへし折り手にし上段の構えで振るう大和。風圧と木により炎の中に生まれた道を駆ける。
そして晴菜に近づくと打撃を叩き込む。
「くッ!!」
炎の銃と手甲のような防具を顕現させ受ける晴菜。吹き飛ばされるが、ダメージは大して受けていないのか即座に空中で体勢を立て直す。
【演目】『爆炎 炎銃 右腕 ミニ・ミトラィユーズ 』
【演目】『爆炎 炎壊 左腕 RPG 』
苦虫を噛み潰したような表情で右手と左手それぞれに炎の軽機関銃とロケットランチャーを作り出す晴菜。即座に大和に照準を合わせ引き金を引く。
大和は身を捻り躱す。
(この森林地帯でこの火力。このまま長期戦にもつれ込んじゃあ…こっちがやられるな)
弾丸とロケット弾を躱し続けながらそう思考する大和。
「だったら…こっちも色々させてもらうぜッ!」
言って近くの木々に跳びかかった。
大きくしなる木々。幹の太さから考えると本来なら大和の体重程度何ともないのに、そうなっているという事は体重の他に大和の脚力が込められているからである。
そのまま足の脚力を一気に無くした大和。木々は勢いよく元に戻ろうとし、その反動によって大和は撃ちだされる。
まるで投石機の如く射出された大和。超高速で加速し飛翔、また別の木々にぶつかり飛翔を繰り返す。
「面倒な手を……ッ!」
まるでピンボールの様に移動する大和。高速且つジグザグに動く彼に晴菜は中々に照準を定めることが出来ない。
「…………ふふんッ、そういう事ね♪」
だがそれも一瞬、即座にこの戦術の甘さを看破した晴菜。笑みを受かべる。
【演目】『爆炎 炎銃 両腕 ザウエル 』
軽機関銃とロケットランチャーから二丁拳銃へと持ち替えた晴菜。追うように合わせるのではなく。構えずに佇み、大和のバンダナの軌跡と弾む木々のみを目で追う。
あらかじめ弾むであろう方向と彼自身を見失わない為に……。
「………………そこッ!!」
言って銃口を向ける晴菜。その一瞬後、向けた先…右足元に大和の姿が現れる。
晴菜は即座に引き金を引き絞った。
動きを読まれ眼前へと弾丸が迫る大和。躱すことは不可能な超近距離。
だが、大和の見せた表情を驚きの後の笑みであった。
「流石だぜ晴菜ァ!!」
叫ぶ大和。出し惜しみは失礼だと……自らの【演目】に入る。
【演目】『龍桜 手刀一閃 薙』
演たれる大和の【演目】。
一見すると振り上げるような手刀での一閃。
だがそれを「ただの…」なんて言う言葉で表すにはあまりにも規格が違い過ぎた。
まずは速度。異次元のような速度で繰り出されたことで、肘より先の部分がモヤの様なブレを生じさせ、力に技を両立させた流麗さと合さり回避難度を二段、三弾と引き上げる。
そして威力。それは極難度を何とか乗り越え掠る程度にとどめることが出来た晴菜が風圧により発した炎と近くにあった木々とまとめて吹き飛ぶのを見れば何よりも理解出来るだろう…。
「かっ…はっ……ふッ……!」
幾本かの木々をぶち抜きながら飛ぶ晴菜。だが彼女も【銘付き】。何とか空中で姿勢を立て直し着地した。
「はッ、躱しやがったか、やるな晴菜ッ!」
「ハア…ハア…………」
受け止めたことに増々楽しそうな笑みを浮かべる大和。一方の晴菜は荒い息を吐きながら失神しかかりそうになる意識を何とか保とうとする。
「これが…アンタの【演目】……ハァハァ…『龍桜』。アタシとつるんでいたころには至っていなかった…アンタのとっておき……アンタお得意の体術をただ昇華させたなんて単純なモノじゃあ……なさそうね……」
「一撃…それも掠った程度だけでそこまで看破するたァ、やるな晴菜。そうだぜ『龍桜』にゃあ、俺の体術の他にあるモンを少々混ぜ込んである…そいつが何かは企業秘密だけどな…」
「それで結構……アタシも興味はないから…答えなくていいわよ…」
手に炎の拳銃を創り、銃口を自らの顎に突き付ける晴菜。引き絞る引き金。
激痛が起こったが、それによる来付けで何とか真っ直ぐ立つ。
肩で息を吐きつつも手の拳銃を握り締めた。
「……なあ晴菜よぉ…」
そんな晴菜に問いかける大和。「なによ…」と晴菜は短く応じる。
「前、再会した時だな…お前はあん時、相手に俺がいるからっていう理由でこの【星具】の奪い合いに参加したんだったよな?」
「そうよ」
「何で俺と敵対しようと思ったんだ?確かにお前とつるんでいた時に無茶苦茶な事を一杯したぜ俺ァ……それこそ数えきれんぐらいによ、ひょっとしてそん時の恨みで俺をつけ狙っているのか?」
「……一応の自覚はあったのね……答えてあげるけれど、答えはNOよ…誰がそんなチンケな理由で狙うもんですか……」
「だとしたら何でなんだ?それ以外でこれ以上の何かがあるのか?あるんだとしたら俺はどうすれば許してくれる?」
「そいつは悪いが無しで…生きて許してもらえる方法は?」
「……………」
「ガキん時、俺達が別たれるときの直前…俺がお前に言ったよな?「お前が助けを欲しい時、俺を呼んでくれって、絶対にどんなことがあっても俺が助けるから」ってよ忘れてねぇかい?」
「覚えているわよ…忘れるものですか…」
「ならその言葉いま果たさせてくれねぇかい?」
「…………………………いいわ、なら言ってあげる…アタシがあんたを狙うその理由を…」
「おう言ってくれ、お前の助ける為にゃあ俺ぁ…何だってやるぜ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
大和にしか聞こえないぐらいの声量で言葉を紡ぐ晴菜。それを大和は黙って聞く。
「以上が理由よ…アンタの馬鹿な脳でも理解できた?」
「……………………」
全てを話し終えた晴菜。
その晴菜の言葉に何も答えない大和。彼には似合わない無表情である。
だが、彼のその表情だけで、理解したことを晴菜は十二分にわかった。
「でもこれでわかったでしょ…アンタの贖罪は死ぬことだけだって!」
言って掌の炎を激しく燃え上がらせる晴菜。
【演目】『爆炎 炎銃 ゴスペル』
大型拳銃へと姿を変える炎。晴菜は躊躇なく引き金を引き絞る。
大和はソレを棒立ちで受ける。
「………ッ…」
躱すことも防御もせずに受け燃え上がる大和の頭部。続けて放たれる弾丸も全て受ける。
表情は無のまま動かず、立っている身体には先程のような力を一切感じることが出来ない。
「ようやく潔く死んでくれることを選んでくれたのね、だったら疾く死になさい!」
拳銃を撃つ手を止めず、空いた片手に新たに炎を発する晴菜。
炎は投下型の焼夷爆弾へと形を変える。
「これで終わりよッ!」
「…………………………」
【演目】『爆炎 炎壊 ヘルグローリー』
叩きつける様に投じる晴菜。
爆ぜる爆弾。轟音を響かせながら炎は勢い良く燃え盛る。
「ようやくね、長かったわ……」
その様子を見て呟く晴菜。炎と煙は徐々に収まっていく。
そこには……。
「おいおい晴菜、随分と激しいじゃあないか…」
「なっ!?」
晴菜の視線の先、弱った炎と煙の中に大和を脇に抱えた門司の姿があった。
思わず声が漏れる晴菜。
一方の門司は大和の方を見る。
「お前も随分だな兄弟。全くお前らしくない…」
「へへっ、すまねぇ……」
溜息を吐きつつ大和の頭を小突く門司。大和も面目なさそうに笑う。
再び門司は晴菜の方を向く。
「お前もお前だ晴菜…知り合いと敵対するなんてことは、俺達【星】としては日常茶飯事。別に目くじらを立てるほどでもないが…やる気のなくなったコイツが問題あるとはいえ、無抵抗の相手を一方的とは…少々いただけんな……」
「そんな道義知った事じゃないわ…そんな事で敵が倒せなくなら。アタシはそんなモノ犬に食わせてやる」
「再会して面と向かって話すのは初めてだが…変わったなお前は…」
「それはそれはおかげさまで…アンタ等によって一般人を辞めさせられた憐れな女ですから…」
晴菜の返しに笑みを浮かべる門司。鞘のみの刀を突きつける。
「ところで随分と強くなったのは理解るが、今からでも俺と一戦交えるか?」
「そんなモノで?亡霊と戦って万全の状況じゃあないのに同じ【銘付き】にそんな事言えるとは…無謀さは昔と変わっていないのね『鬼神』」
「万全の状況じゃあないのはお前もだろ『爆炎』?平然とはしているが、大和に与えられたダメージは相当のモノだと察するぞ」
「………………」
「さ、どうする?」
門司の問いかけに思案する晴菜。炎の拳銃を握り直す。
相対する両者。僅かな無言の時間が流れる。
その状況を破ったのは晴菜であった。
「…はあ~~ッ……もういいわ…今日のところは…」
やる気が削がれ大きく溜息を吐いた晴菜。手にしていた炎の拳銃を掻き消す。
「何だやらないのか?」
「削ぐようなことを遠回しに言っておいて何言ってんのよ全く……」
髪を掻きながらそうボヤく晴菜。門司達へ背を向ける。
「あーあ…アホらし……帰るわ……」
「そうかそいつは残念だ」
「本心でもないことを…」
そう吐き捨てる晴菜。そのままその場から去ろうと足を進める。
「それじゃあね門司」
「おう。また会おう」
歩を進める晴菜。だあ、途中で何かを思い出したかのように足を止め振り向き直る。
「……何だ?気が変わったか?」
「そんなに気まぐれじゃあないわよ…二つほどアンタ等に言っておこうと思ってね、まずは一つ。そこの馬鹿」
言って視線を大和の方へと向ける晴菜。
「今回はお預けにされたけれど…次に会ったら必ずアンタを終わらせてやるわ…覚えておきなさい」
「……………」
何も答えない大和。
「そして二つ目。今回の戦い…悪いけれど、こちらの作戦勝ちよ…アタシの雇い主がむかつくから一応教えてあげるわ…」
「……?」
「すぐにわかる事よ」
そう言い残し、今度こそ晴菜は消え去った。
「…勝ちだと…どういうことだ?」
その数瞬後、ジュリから無線が入る。
「どうした?」
『門司様。緊急事態が発生いたしましてッ!あの…あのッ!!』
「落ち着けジュリ。何があった?」
無線越しで慌てるジュリを宥める門司。ジュリは深呼吸を繰り返し落ち着くと門司に告げる。
『【星具】が…『月下の雫』が奪われたと……睦美様から報告がありました』
「……何?」
予想外の報告に思わず聞き返した門司。
一方の大和は晴菜が消えた方向を何とも言えない表情で見ていた。
『はい。仰る通り門司様と亡霊の戦闘はたった今終了いたしました』
「門司が勝ったんだろ?亡霊も中々のタマだとは思うが…言っちゃあ悪いが門司の方が数段上だろうからな…」
そう分析する大和。ジュリからの異が無い事で凡そはその通りだと確信する。
「そうなれば」と即座に自分の状況へと思考を戻す。
眼前には無数の炎のミサイルがこちらに向かって来ていた。
「無誘導だなッ!」
それらを全て躱す大和。そのまま着弾したミサイルにより木々が火の海に変わる様子を目の端に写しながら晴菜の動きを追いかける。
「おいおいオイオイコイツは環境破壊だぜ晴菜ッ!もう少し地球に優しくしたらどうだいッ!?」
「…ッツ!だったら代わりに当たりなさいッ!!」
【演目】『爆炎 炎懐 マーク2 宴 』
大和の軽口にイラつきながら炎の手榴弾を投擲する晴菜。両手からそれぞれ一つずつ放たれた手榴弾は離れると同時に分裂し始める。
数瞬後には無数の量となって大和に降り注いだ。
「オラッシャァアアアッ!」
手ごろな木を一本幹からへし折り手にし上段の構えで振るう大和。風圧と木により炎の中に生まれた道を駆ける。
そして晴菜に近づくと打撃を叩き込む。
「くッ!!」
炎の銃と手甲のような防具を顕現させ受ける晴菜。吹き飛ばされるが、ダメージは大して受けていないのか即座に空中で体勢を立て直す。
【演目】『爆炎 炎銃 右腕 ミニ・ミトラィユーズ 』
【演目】『爆炎 炎壊 左腕 RPG 』
苦虫を噛み潰したような表情で右手と左手それぞれに炎の軽機関銃とロケットランチャーを作り出す晴菜。即座に大和に照準を合わせ引き金を引く。
大和は身を捻り躱す。
(この森林地帯でこの火力。このまま長期戦にもつれ込んじゃあ…こっちがやられるな)
弾丸とロケット弾を躱し続けながらそう思考する大和。
「だったら…こっちも色々させてもらうぜッ!」
言って近くの木々に跳びかかった。
大きくしなる木々。幹の太さから考えると本来なら大和の体重程度何ともないのに、そうなっているという事は体重の他に大和の脚力が込められているからである。
そのまま足の脚力を一気に無くした大和。木々は勢いよく元に戻ろうとし、その反動によって大和は撃ちだされる。
まるで投石機の如く射出された大和。超高速で加速し飛翔、また別の木々にぶつかり飛翔を繰り返す。
「面倒な手を……ッ!」
まるでピンボールの様に移動する大和。高速且つジグザグに動く彼に晴菜は中々に照準を定めることが出来ない。
「…………ふふんッ、そういう事ね♪」
だがそれも一瞬、即座にこの戦術の甘さを看破した晴菜。笑みを受かべる。
【演目】『爆炎 炎銃 両腕 ザウエル 』
軽機関銃とロケットランチャーから二丁拳銃へと持ち替えた晴菜。追うように合わせるのではなく。構えずに佇み、大和のバンダナの軌跡と弾む木々のみを目で追う。
あらかじめ弾むであろう方向と彼自身を見失わない為に……。
「………………そこッ!!」
言って銃口を向ける晴菜。その一瞬後、向けた先…右足元に大和の姿が現れる。
晴菜は即座に引き金を引き絞った。
動きを読まれ眼前へと弾丸が迫る大和。躱すことは不可能な超近距離。
だが、大和の見せた表情を驚きの後の笑みであった。
「流石だぜ晴菜ァ!!」
叫ぶ大和。出し惜しみは失礼だと……自らの【演目】に入る。
【演目】『龍桜 手刀一閃 薙』
演たれる大和の【演目】。
一見すると振り上げるような手刀での一閃。
だがそれを「ただの…」なんて言う言葉で表すにはあまりにも規格が違い過ぎた。
まずは速度。異次元のような速度で繰り出されたことで、肘より先の部分がモヤの様なブレを生じさせ、力に技を両立させた流麗さと合さり回避難度を二段、三弾と引き上げる。
そして威力。それは極難度を何とか乗り越え掠る程度にとどめることが出来た晴菜が風圧により発した炎と近くにあった木々とまとめて吹き飛ぶのを見れば何よりも理解出来るだろう…。
「かっ…はっ……ふッ……!」
幾本かの木々をぶち抜きながら飛ぶ晴菜。だが彼女も【銘付き】。何とか空中で姿勢を立て直し着地した。
「はッ、躱しやがったか、やるな晴菜ッ!」
「ハア…ハア…………」
受け止めたことに増々楽しそうな笑みを浮かべる大和。一方の晴菜は荒い息を吐きながら失神しかかりそうになる意識を何とか保とうとする。
「これが…アンタの【演目】……ハァハァ…『龍桜』。アタシとつるんでいたころには至っていなかった…アンタのとっておき……アンタお得意の体術をただ昇華させたなんて単純なモノじゃあ……なさそうね……」
「一撃…それも掠った程度だけでそこまで看破するたァ、やるな晴菜。そうだぜ『龍桜』にゃあ、俺の体術の他にあるモンを少々混ぜ込んである…そいつが何かは企業秘密だけどな…」
「それで結構……アタシも興味はないから…答えなくていいわよ…」
手に炎の拳銃を創り、銃口を自らの顎に突き付ける晴菜。引き絞る引き金。
激痛が起こったが、それによる来付けで何とか真っ直ぐ立つ。
肩で息を吐きつつも手の拳銃を握り締めた。
「……なあ晴菜よぉ…」
そんな晴菜に問いかける大和。「なによ…」と晴菜は短く応じる。
「前、再会した時だな…お前はあん時、相手に俺がいるからっていう理由でこの【星具】の奪い合いに参加したんだったよな?」
「そうよ」
「何で俺と敵対しようと思ったんだ?確かにお前とつるんでいた時に無茶苦茶な事を一杯したぜ俺ァ……それこそ数えきれんぐらいによ、ひょっとしてそん時の恨みで俺をつけ狙っているのか?」
「……一応の自覚はあったのね……答えてあげるけれど、答えはNOよ…誰がそんなチンケな理由で狙うもんですか……」
「だとしたら何でなんだ?それ以外でこれ以上の何かがあるのか?あるんだとしたら俺はどうすれば許してくれる?」
「そいつは悪いが無しで…生きて許してもらえる方法は?」
「……………」
「ガキん時、俺達が別たれるときの直前…俺がお前に言ったよな?「お前が助けを欲しい時、俺を呼んでくれって、絶対にどんなことがあっても俺が助けるから」ってよ忘れてねぇかい?」
「覚えているわよ…忘れるものですか…」
「ならその言葉いま果たさせてくれねぇかい?」
「…………………………いいわ、なら言ってあげる…アタシがあんたを狙うその理由を…」
「おう言ってくれ、お前の助ける為にゃあ俺ぁ…何だってやるぜ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
大和にしか聞こえないぐらいの声量で言葉を紡ぐ晴菜。それを大和は黙って聞く。
「以上が理由よ…アンタの馬鹿な脳でも理解できた?」
「……………………」
全てを話し終えた晴菜。
その晴菜の言葉に何も答えない大和。彼には似合わない無表情である。
だが、彼のその表情だけで、理解したことを晴菜は十二分にわかった。
「でもこれでわかったでしょ…アンタの贖罪は死ぬことだけだって!」
言って掌の炎を激しく燃え上がらせる晴菜。
【演目】『爆炎 炎銃 ゴスペル』
大型拳銃へと姿を変える炎。晴菜は躊躇なく引き金を引き絞る。
大和はソレを棒立ちで受ける。
「………ッ…」
躱すことも防御もせずに受け燃え上がる大和の頭部。続けて放たれる弾丸も全て受ける。
表情は無のまま動かず、立っている身体には先程のような力を一切感じることが出来ない。
「ようやく潔く死んでくれることを選んでくれたのね、だったら疾く死になさい!」
拳銃を撃つ手を止めず、空いた片手に新たに炎を発する晴菜。
炎は投下型の焼夷爆弾へと形を変える。
「これで終わりよッ!」
「…………………………」
【演目】『爆炎 炎壊 ヘルグローリー』
叩きつける様に投じる晴菜。
爆ぜる爆弾。轟音を響かせながら炎は勢い良く燃え盛る。
「ようやくね、長かったわ……」
その様子を見て呟く晴菜。炎と煙は徐々に収まっていく。
そこには……。
「おいおい晴菜、随分と激しいじゃあないか…」
「なっ!?」
晴菜の視線の先、弱った炎と煙の中に大和を脇に抱えた門司の姿があった。
思わず声が漏れる晴菜。
一方の門司は大和の方を見る。
「お前も随分だな兄弟。全くお前らしくない…」
「へへっ、すまねぇ……」
溜息を吐きつつ大和の頭を小突く門司。大和も面目なさそうに笑う。
再び門司は晴菜の方を向く。
「お前もお前だ晴菜…知り合いと敵対するなんてことは、俺達【星】としては日常茶飯事。別に目くじらを立てるほどでもないが…やる気のなくなったコイツが問題あるとはいえ、無抵抗の相手を一方的とは…少々いただけんな……」
「そんな道義知った事じゃないわ…そんな事で敵が倒せなくなら。アタシはそんなモノ犬に食わせてやる」
「再会して面と向かって話すのは初めてだが…変わったなお前は…」
「それはそれはおかげさまで…アンタ等によって一般人を辞めさせられた憐れな女ですから…」
晴菜の返しに笑みを浮かべる門司。鞘のみの刀を突きつける。
「ところで随分と強くなったのは理解るが、今からでも俺と一戦交えるか?」
「そんなモノで?亡霊と戦って万全の状況じゃあないのに同じ【銘付き】にそんな事言えるとは…無謀さは昔と変わっていないのね『鬼神』」
「万全の状況じゃあないのはお前もだろ『爆炎』?平然とはしているが、大和に与えられたダメージは相当のモノだと察するぞ」
「………………」
「さ、どうする?」
門司の問いかけに思案する晴菜。炎の拳銃を握り直す。
相対する両者。僅かな無言の時間が流れる。
その状況を破ったのは晴菜であった。
「…はあ~~ッ……もういいわ…今日のところは…」
やる気が削がれ大きく溜息を吐いた晴菜。手にしていた炎の拳銃を掻き消す。
「何だやらないのか?」
「削ぐようなことを遠回しに言っておいて何言ってんのよ全く……」
髪を掻きながらそうボヤく晴菜。門司達へ背を向ける。
「あーあ…アホらし……帰るわ……」
「そうかそいつは残念だ」
「本心でもないことを…」
そう吐き捨てる晴菜。そのままその場から去ろうと足を進める。
「それじゃあね門司」
「おう。また会おう」
歩を進める晴菜。だあ、途中で何かを思い出したかのように足を止め振り向き直る。
「……何だ?気が変わったか?」
「そんなに気まぐれじゃあないわよ…二つほどアンタ等に言っておこうと思ってね、まずは一つ。そこの馬鹿」
言って視線を大和の方へと向ける晴菜。
「今回はお預けにされたけれど…次に会ったら必ずアンタを終わらせてやるわ…覚えておきなさい」
「……………」
何も答えない大和。
「そして二つ目。今回の戦い…悪いけれど、こちらの作戦勝ちよ…アタシの雇い主がむかつくから一応教えてあげるわ…」
「……?」
「すぐにわかる事よ」
そう言い残し、今度こそ晴菜は消え去った。
「…勝ちだと…どういうことだ?」
その数瞬後、ジュリから無線が入る。
「どうした?」
『門司様。緊急事態が発生いたしましてッ!あの…あのッ!!』
「落ち着けジュリ。何があった?」
無線越しで慌てるジュリを宥める門司。ジュリは深呼吸を繰り返し落ち着くと門司に告げる。
『【星具】が…『月下の雫』が奪われたと……睦美様から報告がありました』
「……何?」
予想外の報告に思わず聞き返した門司。
一方の大和は晴菜が消えた方向を何とも言えない表情で見ていた。
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