プライベート・スペクタル

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第三章

第八節

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『…たった今、春日様とチェルシー様が敵対【星】一名を無力化。そのままこの【領域】を離脱する予定です』
「ふん、鉄面皮にしては…中々に頑張ったじゃあないか…」
ジュリの無線での報告にそう返す門司。森の中を駆ける。
と同時に、左側頭部に向かってくる銃弾を躱した。
「高速で動く俺の頭部を正確に撃ち抜く精度に曲芸まがいの跳弾技術…こんな潜伏場所が多い森林内、目視も未だに出来ていない状況でコレは…骨が折れる」
愚痴りながら右後方と正面に同時にやって来た弾丸を斬り落とす門司。亡霊の【演目】『凶弾』によって刀身は更に折れ短くなる。
「ジュリ。音による発砲位置は大まかには変わっていないだろうな?」
『はい変わっておりません。そこから五十メートル進んでから一時の方向に直進。それで会敵可能です』
(……怪しい部分はあるが…弾丸と銃声の差は数秒程度にまでなっている。1キロを切っているな……これ以上の刀の損耗の前に決着を付けたい)
そう思いながら駆ける門司。
そこで木々達の奥、ライフルを構えボロ布を纏う人影が見えた。
(見えたッ…)
確認と同時。強く踏み込み人影へと一気に接近する門司。
向こうもそれに合わせるように門司へと銃口を向け弾丸を放つ。
門司は折れた刀身をばら撒く事で姿勢を変えることなく銃弾を逸らした。
「終わりだ…」

【演目】『鬼震 小噺一太刀 首提灯』

おそらく頸部の位置への抜き打ち一閃。容易く切り裂かれたボロ布ははらりと落ちる。
「なッ!?」
そこで困惑の声を上げる門司。亡霊だと思い今斬ったボロ布から現れたモノは、何と人形であった。
それと同時に感じる殺気。門司と人形の周囲には遠隔射撃装置付きの自動小銃がぐるりと取り囲んでいた。
「ちッ!」

【演目】『鬼震 小噺二太刀 小烏丸こがらすまる 』

一斉に放たれる弾丸。
それを【演目】による全方位への絶え間ない斬撃で応じる門司。斬撃により創り上げた壁により銃弾を全て斬り落とす。
「………ッツ!?」
銃撃と斬撃の応酬の最中、得体の知れない殺気を感じその方向を見る門司。
瞬間、鳴り響いた爆音。
異常な音と共にこれまでの銃弾とは一線を画す程の大型の弾丸が向かって来ていた。
「不味い…ッ」
【演目】での隙。斬撃でのごくわずかな間を狙っての射撃。大人の薬指程の弾丸に門司は何とか刀を追いつかせようとする。
着弾。空気が爆ぜ土埃が舞い上がる。
「しまった…」
すぐに収まった土埃から姿を現す門司。何とか弾丸を逸らすことが出来たのか、負った傷は掠めた肩の肉を少々裂いた程度で済むことが出来た。
「だが、これは…な……」
刀に目をやる門司。先程の防御により刀は完全に砕かれ、刀身は柄からわずか数センチほどしか残されていなかった。
「音と気配でここだと勝負には出たが……完全に騙されたな……」
『そうですよ『鬼神』…』
門司のぼやきに応じる亡霊。どうやら人形の中にスピーカーが内蔵されておりそこから聞こえるようである。
『我々狙撃手にとって位置取りは何より重視するモノ…知られたままでは死に直結しますからね……貴方がこちらに向かう時にはすでに場所の移動を行っておりました』
「俺が来ると想定して罠の設置、気配のブラフに、人形の遠隔操作でのあれだけの狙撃技術か……『幻凶手』なんて銘を賜るのも納得できる」
『感心はこちらもですよ『鬼神』…完全に嵌めた罠をそんな僅かな負傷のみで凌ぎきるとは…こちらとしてはこの一手で終わらせようと対【星】ライフルとライフル弾を改良した特製の対【銘付き】ライフルとライフル弾を使用したというのに…』
「それは残念だったな……あの威力を考えると、跳弾は不可、且つそれ程離れていない距離でお前本人じゃあないと使用できなさそうだな……それに位置も今ので大体わかったぞ、飛んできた方向約500メートル程だな?……俺の足なら十数秒で行ける距離だ…」
『そうですか…してどうするのです?……その刀で私を両断できるならぜひ見てみたいものです…』
「見せてやるさ…だがその時にはアンタは生きていられるかな?」
門司の言葉にスピーカーの先で『ふ…』と笑ったような亡霊。門司も同じく笑みを浮かべる。

そして次の瞬間、両者は同時に動く。

弾丸の方向に一気に駆ける門司。直ぐに木々の奥ボロ布を纏う人影が見える。
亡霊も門司へと外さないようにピタリと銃口を合わせる。
発砲により爆ぜる銃口。飛翔する弾丸。
頭部目掛けて寸分違わず向かってくるソレを門司は跳ねた空中で頬を掠めながらも身を捻る様にして何とか躱す。
そこで弾丸の影に隠れもう一発の弾丸が飛翔していることに気づいた。
「隠し弾ッ…」
「貴方程の実力です。初弾は躱されることは読めていました……足場の無い空中、無理な姿勢…防ぐ獲物もない……さてどう躱します?」
亡霊に応じる様に刀を鞘から抜き放った門司。だが早々に握った柄は放り捨て鞘だけにする。
鞘を振る門司。出て来たのは最初に折られた切っ先部分であった。
切っ先を握り締める門司。掌から血が流れ出ようとも気にせず、弾丸に向けて振るう。
砕け散る切っ先。だが、弾丸は門司の身体から逸れた。
「何と…ッ!?」
驚愕する亡霊。門司は間合いまで完全に踏み入る。
「ですがッ…刀の無い状況で私をどう斬りますかね!?」
亡霊に向けて掌底を放つ門司。亡霊も容易く受け止める。
瞬間、亡霊の側頭部に衝撃と鈍い痛みが走る。
「…ッツ!?」
目をやる亡霊。正体は逆手持ちから振るわれた鞘であった。
「悪いが…俺は二刀流だ……こういう形のな…」
「そう来るかッ!?」と言わんばかりの短い悲鳴を上げよろめく亡霊。だが即座に意識を保つように研ぎ澄まし懐から近接戦用のナイフを取り出し斬りつける。
ソレを蹴り上げる形で弾き飛ばす門司。鞘を逆手から順手に持ち替えると上段へとかまえた。

【演目】『鬼震 番外 大震撼 』

鞘の先端があまりの速度でぶれるほどの勢いで振り下ろす門司。
頭部に二度。それも渾身の威力の打撃に流石に耐えられないのか亡霊はぐしゃりと膝をついた。
「こんなことを言うのもアレだと思うが、感謝する…久々に刀が折られるここまで追い詰められ、闘争の妙味をわからせてくれたよ…」
そう言い、鞘にこびり着いた血を振るう門司。亡霊は何も答えることは出来ず糸の切れた人形の様に地面へと倒れ伏した。
「………………中身を見てやろうかと思ったが…情けで止めておいてやる」
近づきボロ布に手を伸ばしたが門司、手を引っ込める門司。そのまま立ち上がり来た道を戻ろうとする。
そこで言い忘れていたことがあり、足を止めて亡霊の方へと向いた。
「だがこれだけは情け容赦なく言っておいてやる…この戦い。俺の勝ちだ……完膚なきまでに…な……」
「それだけは忘れるなよ…」と言い残しその場から立ち去る門司。亡霊が聞こえているかは不明だったが、そんな事についてはもはや知った事ではなかった。
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