プライベート・スペクタル

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第三章

第五節

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「ッツ!!?『龍王』呉成・大和ォッ!!!?」
気づきとっさに武器を構えようとする【星】達。大和はそれよりも速い速度で一番近くにいた者の首を絞めあげる。
その者が盾になることで【星】達は攻撃することが出来ない。
「んじゃ、初めッかい!!」
「はいはい」
絞めあげながら大きく指を鳴らした大和。それを合図として睦美は懐からリモコンのようなものを取り出しスイッチを入れる。
瞬間、ジェラルミンケースの外部パーツがガチャリと地に落ちる。
中から現れたのは導線が剝き出しで接続されている電子機器であった。
「何だッ!?」
叫ぶ【星】に構うことなく起動する電子機器。濃い煙と閃光、極高音の音波が同時に発せられる。
「ぎゃあ!」
「くッ!?」
至近距離からの感覚器へのダブルパンチ。それも全てが対【星】用に改良されているモノを受け思わず持っていたケースを落とす久弥。
その拍子でケースから『月下の雫』が飛び出る。
「隙あり」
そんな睦美の声と共に『月下の雫』が空中で制止する。
奇怪な状況。だが、煙によりすぐに原因が判明する。
『月下の雫』には極最細の糸のようなものが絡まっていた。
糸は伸びており遠くに繋がっている。
「フィッシュ」
言葉と共に繋がっている糸の方向へ飛ぶ『月下の雫』。引っ張られる様に空を飛び、糸の繋がる先…睦美の掌へと収まった。
「しまった!?」
『月下の雫』が再び睦美の手に渡った事に思わず叫ぶ【星】達。即刻奪い返さなければならないと躍起になる。
そしてそれと同じぐらいに解せない疑問も生まれる。
それは……。
「『龍王』ッ!貴様一体どうやって入り込んだッ!!」
そのことであった。
「おいおいオイオイ、あんないかにも「ガン待ちしてます」みてーな、お手紙送られてきちゃあ、そりゃ策の一つ二つ考えるさァ!」
「ふむ、要点だけ教えてあげましょう」
笑みを浮かべる大和に懐から取り出した別のケースに『月下の雫』をしまった睦美。懐にしまう。
「確かにメッセージの座標では、あの扉のみがこの【領域】に繋がるのは間違っていません…現に私はその通りにここに出て来たのですから……」
「だったら何故!」
「しかしながら一つ考えてみて下さい。扉とは本来どのようなモノかを…」
「まさか…」
そこで正解を察し扉を見る【星】達。
開け放たれている扉は既に【無間回廊】との接続が切れ、元来の空間が見える。
物置程の広さであるそこには、先には存在していなかった穴が地面に空いていた。
「まさか…逆にも繋げたのかッ!?こちら側だけでなく物置あちら側にもッ!?」
自分達が何をされたのか理解出来てきた【星】達の問いかけ、睦美は「その通り…」と頷き続ける。
「そちらの方にも繋げました。扉の表と裏その両方。普通なら絶対に繋げない袋小路である空間に…」
「そんでそっからはオタク等が理解した通りッ!睦美と同時に扉をくぐった俺は高速穴掘りだ!方向と気配だけで結構きつかったが、案外いい目印になったぜ、オタク等の馬鹿笑いはよォ!!」
「くッ…潰せぇッ!!」
苦虫を噛みしめたような言葉と共に一斉に斬りかかる【星】達。爛々とした表情で大和は迎え撃つ。
まるで暴風雨の如き勢いで大和は【星】達を蹴散らしていく。
「糞がッ!」
何とか援護しようと銃火器も向ける【星】達。
だがその次の瞬間にはそれら全てに糸が絡まりつく。
「…私を忘れては困りますよ……」
無数の糸を手から繰り出していた睦美。
【星】達が気づくころにはもう遅く。彼女が引く様に手を繰るとその場に存在した全ての銃火器が天井へと吊るされる。
「こんな…ッ!」
それから間もない時間で刀剣持ちたちが全滅したのを見た丸腰の【星】達。
いの一番に逃げ出そうとするが、即座に睦美の糸が胴体へと絡みつく。
「殺しはしません…が、逃がしもしませんよ…私の糸は縛術よりですから……」
言い十指全てを引く様に繰った睦美。それにより残された者達も自らの武器と同じ運命を辿ることになった。

「よっし、とりあえず此処を取れたな」
「ふむ、そうですね」
叩きのめされ、縛り吊るされた者達の中、合流を終えた大和と睦美。
突入での上々の出来に嬉しそうにしながら通信機へと耳を当てる。
「そういうわけだジュリ」
『了解致しました。領域の正確な座標が判明したのであの扉以外の出入り口を作成。更に無力化した者達は作成後投入する『フツノミタマ』が拘束しておきます』
「頼まァ」
とそこで扉が開き門司とチェルシーが入ってくる。
「ご苦労だったな大和、鉄面皮…」
「お疲れ様ですぅご主人。此度も一番槍でしたねぇ」
「まっ敵は【星】でも【銘付き】も【演目】持ちも居ない連中だったからな…楽なもんだ」
「ふむ、社長出勤をしてくるどこかの誰かよりは働きましたね…」
そんな門司の言葉にサムズアップと皮肉でそれぞれ返す大和と睦美。
「はあ…嫌だ、嫌だ…」
とそこで割り込む溜め息。
主は感覚が復帰した久弥である。
「いくら【銘付き】でも【演目】持ちでもない連中とは言え…雇った連中がこんなにあっさり…連中も無料じゃあないんだが…」
「おっ、立ち位置的にこいつらの親玉だと思って放置していた奴。目はもういいのか?」
「軽いようで極厚の敵意を放つのは止めろよ『龍王』……」
「そんな口を叩けるほどの余裕があると思っているのか?……何者だ?」
そう問いかける門司に急派は溜息を吐く。
「本来なら御免だが、オイだのお前だの言われても癪だからな……俺は東郷・久弥…君等と同じ【星】であり、今そこに転がっている連中の雇い主さ…」
「へぇ、そうなのか……ィっ!」
言葉により敵の首魁であると察し動く大和。即座に接近すると久弥の顔面目掛けて蹴りを叩き込む。
響く破砕音。完全に直撃コース。
分厚い鋼鉄板すら紙切れの如く穿ち裂く威力の大和の蹴り。最良で再起不能、それ以外なら頭部を散華するであろう即死の一撃。
だが……。
「はあ…そう来ると思ったぜ」
受けながら久弥は立っていた。
それどころか無傷のような何事も無いような振る舞いである。
傍から見れば不可思議極まりない現象。だが、当事者の大和は即座に理解する。
「成程…お前の【演目】だな…」
「そうだ」
久弥は短く頷く。

【演目】『虚ろな蜃気楼バミューダ・トライアングル 幻映ヴィジョン

「君が蹴ったのは気配のみを持ってきたただの立体映像のようなモノ…悪いが君らの小細工の後、即座に撤退させてもらったからな」
「ま、首魁がそう簡単に取れたら面白くねぇもんなぁ~」
楽しそうな表情を浮かべる大和。
そんな大和の表情を見て久弥は「やれやれ」と言葉を零す。
「しかしこれで…『月下の雫』は取り返さずじまいでエイプリルという主導権の鍵も奪われたか……面倒だ…」
「面倒…ねぇ、その口のわりにゃあ…そうは見えないけれどな」
「そりゃそうだ、元々『爆炎』がたまたま手に入れた機会…利用はするが、それでもたられば程度にしか見ていないさ……それに…」
「何だよ?」
「君らのあのジェラルミンケース。閃光等を出す装置だけでなく爆弾も仕込んでいただろう。それも【星具】のみならず一つの【領域】程度なら簡単に破壊できるほどの超強力な奴を……」
「あちゃあ…バレてたか♪」
笑みを浮かべる大和。それこそが『フツノミタマ』に頼んでいたモノの一つである。
「いくら【星具】とはいえあんな濡れた新聞紙程の役立ち度の代物モンでもお前らに良い様に奪われるのは癪だからな…そりゃあ、拠点である【領域】を直接攻撃するぐらいの事は考えるさ……」
「仲間の為なら収集対象物でも一切の躊躇すら無しで攻撃か…これだけでもこの場で奪い返さなくて良かったと考えれる…それに敵である君等のことも色々と知ることが出来た」
「そいつはお互い様だろ久弥?…俺等も理解わかったんだぜアンタ、否アンタ等が『月下の雫コイツ』のもう半分を持っているってことをよぉ~」
「はあ、気づかれていたか…」
「でもねぇと…こんなにも欲しがるわけないもんな、それに『月下の雫』が完成したらとんでもないことが起こるって事もな……」
「………………………」
互いに腹を探り合う大和達と久弥。
やがて根が負けたように久弥は溜息を吐く。
「まあいい…エイプリルはこの奥だ…この場での勝利のご褒美に連れて帰るがイイよ…」
「そいつはどうもご丁寧に…」
「はあ…それじゃあ俺はもう用は無いから僕らの本拠に帰らせてもらおうか………ではまた今度…戦場にて…」
そう言い残し姿を掻き消す久弥。
「しかし、これで残すところ囚われのエイプリルを救い出すだけだな」
「ふむ、敵の…それも首魁の言葉を鵜呑みにするとは…やはり貴方は馬鹿一号の名に恥じませんね…」
「言ってくれるじゃあないか鉄面皮…その糸ごと叩き斬ってやろうか?意図をってな」
「ウマくないですよ馬鹿」
「まあまあ~折角、立案した策が上手くいったのですからぁ…そんな言い争いはせずに参りましょう」
チェルシーに宥められ奥へと進んでいく門司と睦美。
「あれご主人?向かわないのですかぁ?」
「ん?おお」
立っていた所にそう言われた大和。門司と睦美を追いかける。
その際の「ああ…次は戦場…手前らの本拠でな…」という呟きは誰も聞こえていなかった。
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