プライベート・スペクタル

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第三章

第一節

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「それで……そこから連絡が取れなくなったという訳か鉄面皮」
「そうですよ一号」
尋ねる門司に素っ気なく返す睦美。
『領域』外に出た睦美が消息を絶ってからすでに1日過ぎていた。
「彼女が我々の【領域】から出た後の痕跡を辿ってはいますが、まだ掴めていないのが正直なところです。日本のとある繁華街に向かったというのは確かですが……」
「そうか…」
「……何か言いたそうですね?」
「いや何も…ただ普段ナビゲーションをし、俺達に偉そうに指示している割にはまだその辺りまでしか把握しきれていないんだな…と思ってな、そういうのを長年やっている割にはこういう時には役に立たないなんてな…」
「ふむ、それすら出来ず口だけの役立たずの貴方がソレを言うとは…説得力が違う」
皮肉に皮肉で返す睦美。門司も門司でいつもの事なので聞き流し入口の方を向く。
「それよりも大和の奴はどうした?仲間であり気にかけている弟子が消えたんだ。てっきり気にしすぎて取り乱していると思ったんだが……」
「半分は正解ですよ一号。行方知れずを知り狼狽し足が建設機械のランマーばりの貧乏揺すりを起こしていたのが十時間前。その後組織の長としてドンと構える必要があると思い立ちコーヒーを飲もうとするがその際に入れたのが砂糖でなく誤って塩を入れた塩コーヒーを一気に呷ったのが数時間前。今は消息を絶った繁華街にて情報収集を行っておりますよ」
「瞼の裏にありありと浮かんでくるぐらいに想像がつく光景だな…チェルシーも付いて行ったのか?」
「当然。今のアレは乳児並みに目が離せない状態でしたからね」
モニターを覗き機器を操作しながらそう返す睦美。
とそこで入口ドアが勢いよく開いた。
「ケケケ~~ッ!証拠があったぜ!!」
英国出身の超人のマスクをはぎ取った半魚人モチーフの超人のような言動で何かを掲げて入ってくる大和。
「とんでもなくイカレたテンションでのご帰還…おかえりなさい」
「……色々と大丈夫かアイツ?」
「……おそらく心配の閾値が振り切れたのと、ようやく掴んだ手掛かりによって何かがぶっ壊れたんでしょう……おそらく」
そんな大和に軽く引いた表情の門司と冷静に分析する睦美。
「……それよりも証拠が見つかったんですか?」
「ああバッチリだ門司。コイツを見てくれ」
言って証拠と思われる物を卓の上に放る大和。それは焦げた木片に一度ドロドロに溶解してから固まった金属片であった。
「コレは?」
「エイプリルが消息を絶った繁華街。そこにある公園のベンチその一部だ。同じ公園内の草むらの中に転がっていた」
「ふむ、これがエイプリルと関係が?」
「おうさ、エイプリルが消息を絶った昨日についてあの辺りで聞き込みしていてな…基本他愛の無い内容だったんだが、一つだけ妙な話を聞いてな……そいつが繁華街内にある公園のベンチの一脚が一夜にして消えたらしい」
「一夜で一脚か…」
「その話にきな臭い何かを感じてな…件の公園をいろいろと調べ回ってな、そんで見つけたのがコイツってわけだ」
「これが消えたベンチの一部って事か」
「おうさ、しかもこの破片見ての通り焦げたり金属部分がガッツリ溶けている。だから次にこいつをもって聞き込んだんだ「昨晩、火事とか小火騒ぎとかの火関係の何かが公園で無かったか?」ってな………答えはこれまた奇妙、「誰もそんなことは無かった」らしい」
「誰もか?」
「ああ、少なくとも金属がドロドロになる程の熱量。普通なら大火事があっても然るべき事なのに、誰も見てない知らないの一点張りさ………普通なら奇妙や口裏合わせで済ませるんだろうが…俺達は【星】。つまるところ…」
「ふむ、一般人に認知させないように働きかける人払い。秘匿技術から我々関係の事と?」
「イグザクトリー。俺達関係だろう。そんな【星】関係の事態が発生している最中にエイプリルはその付近にいた…それはつまるところその事態に巻き込まれたもしくは当事者ってことじゃあねーか?」
「可能性は高そうだ…となると好戦的な野良連中に巻き込まれたか、それとも俺達に敵対する連中に襲われたか……でも炎を扱う奴なんて…あっ…」
「ああそうさ、いたよな一人。直近で俺達と敵対関係にあり且つ炎を使う奴…『爆炎』晴菜の野郎がよぉ…」
「ふむ、つまりはエイプリルは晴菜と出会いそして戦ったというわけですか……そして敗れ彼女に連れ攫われたと……」
それ以外はあり得ないかと言いながらも思案する睦美。ただあまりにもピースが揃い過ぎておりそれ以外の事が考えられない。
「そう言うこったよ糞ッ!晴菜の奴、いかに幼馴染でも俺の可愛い可愛いエイプリルに何かしたら許さねぇからな!!」
「いや貴方のでもないんですけれどね…」
怒っている大和にそう冷静に返す睦美。更に思った事を口にする。
「………時に大和。エイプリルが『爆炎』早乙女・晴菜と会敵し敗北し連れ去られた…そこまではわかりました……それで、肝心の晴菜の居場所はわかったんですね?」
「えっ?」
睦美の言葉に思わず固まる大和。
少しの間のフリーズの後、言い難そうな表情で口を開く。
「……んっと、そいつは………まだわからねぇな………」
「…はぁああああ~………」
「なに糞デカ溜息を漏らしてんだ睦美ィ!僅かな時間でここまでやったら頑張った方だろうがぃ!!」
死んだような目の睦美にそう噛みつく大和。問題の部分はわかった。だが、わかっただけである。解決の糸口は一向に見えていない。
「どうしましょうか…晴菜の居場所=敵の【領域】は間違いないでしょう。現在は当然座標もわからないですし、秘匿されているでしょう……手がかりゼロの状況から我々が見つけ出すとなると時間を要するのは確かです。そうなればその分だけエイプリルの安否は…」
「おいおいオイオイ、見捨てるなんて言わねぇよなァ!?」
「そんな訳ないですよ馬鹿。落ち着きなさい……」

「困っているようだなッ!」
言い争いかけている大和と睦美を遮る様にかけられた声。それと同時に入口が再び勢いよく開け放たれる。
そこから現れたのはヒミコであった。
「泰然自若がデフォルトの貴様等のような悪童共がそんなに取り乱しているとはよっぽどのことだと見える」
「余計なお世話だ婆さん…こちらが連絡した時には一切応じなかったくせに、そちらは普通に来るとは随分なご対応だな…感心するよ」
「そもそもいきなり過ぎんぞぅこの野郎…それにこっちは取り込み中だ、茶飲み話に付き合って欲しいなら日を改めてアポを取りなアポを…」
「おやおや、随分な挨拶だね悪童共、軍師殿に聞いているだろう?こちらもこちらで色々とごちゃついていたんだ…その程度ぐらい目を瞑る位の度量を見せたらどうだい・」
「それで…貴方は一体何の用でここに来られたのです?」
「そうだね…余計な前置き無しに言わせてもらうとすれば、アンタ等悪童共が今喉から手が出るほど欲しい情報を提供してやろうと思ってね…エイプリルの居場所だ」
「本当かッ!?」
「いくら何でもそのネタでからかって命を失う程。私も愚かじゃあないさ…」
乗り出す大和を抑えるようにしながら笑みを浮かべるヒミコ。
反対に門司と睦美は怪訝な顔を作る。
「色々と聞きたいことはありますが…一体どうやって?そもそもこちらの内情は…」
「勿論存じ上げているさ、突如繁華街で消息を絶ったエイプリル。証拠や状況から『爆炎』と遭遇し敗れ、彼女等敵対勢力の虜囚になったかもしれないと予想したんだろう」
「エスパーかよ…もしかしてどっかに盗聴器とか仕掛けられてる?この椅子の下とか?」
「そんなモノ仕掛けるわけないだろう。そもそも次元ごとに区切られている【領域】にそんなもの仕掛けても機能しない、時間の無駄さ…」
「話の続きを…どこで情報を?」
「アンタ等は一体何処を戦場にしたと思うんだい?我々『フツノミタマ』が監視、管理して何も知らない人々の安全を保障している素晴らしき我が国日本の一繁華街だよ。【星】同士または類する人外が小競り合いが起こったとなれば即座に目を向けるさ」
「そうでしたね…日本で戦闘時においての一般人の安全確保と戦闘後の処理。【星】の小競り合いについて何から何までやっていると聞きます。それによる我々の情報は会得済みですか……そこからエイプリルがどこに行ったのかを把握したというわけですね」
「ああ、戦闘に勝利した『爆炎』がエイプリルを抱えて何処かの領域に消えたまでは監視カメラや付近にいた【星】達によって追えた。そこまではね…」
「そこまではこちらもわかっている。俺達が聞きたいのはそこから先だ」
「話を最後まで聞きな『鬼神』。そこまでは追えた。そこから先を調べようとしていた矢先、とあるメッセージが私等宛に届いたのさ…」
「こいつがね…」と卓の上に封筒を放るヒミコ。放った拍子に中身が飛び出る。
飛び出したもの、それはとある日時と【領域】の座標が入ったメモ。そして…。
「エイプリルが首に巻いていたもの…」
焦げて少し黒ずんだ十字架であった。
「内容物から察してやれば…コレはおそらく取引の申し出だろうね。エイプリルとアンタ等が奪った【星具】の……この座標にて行うって言ったところだろう」
「「「…………………………」」」
「で、どうするつもりだぃアンタ等」
「どうするも何も…決まってんだろ。エイプリルを助けに行く、勿論【星具】を渡すなんてことは無く…な」
「強欲だねぇ…相手からの招待状だ。十中八九何かを仕掛けているよ」
「関係ねーさ…何でどう待ち構えようが、エイプリルは無事に連れて帰る。そんだけだ」
「くくっ…そうかい」
大和の言葉と発せられる圧力で本気と覚悟を認めるヒミコ。
であれば、邪魔をするのは野暮だと感じる。
「それじゃあ頑張りな悪童共」
「待ちな」
そのまま立ち去ろうとするヒミコを大和は止める。
「なにそそくさと去ろうと思っていやがんだ…手前らにも当然手伝ってもらうぞ」
「ほぅ…それにしては頼む立場じゃあないね…元々『フツノミタマうち』に所属していたとはいえ今はアンタ等の仲間だろうに」
「情報は提供をした。後は関係ないってか?手前らにメッセージが届いてんだ。連中は俺等と組んでいることは知っての事だろう。だったらもう表立って手助けした方が良いと思うがな」
「…………」
「それに関係ないと黙殺しても良い情報。あえて俺達に流したということは、アンタ等自体も俺達に何とかして欲しい…そう考えてんだろう?」
「……………………」
「それでも無下にして黒幕ぶろうとするならそれでもいいぜ…ただしこの件への交渉材料を持っているのはウチだ。このまま連中と結託してアンタ等の敵に回っても良いんだぜ。こっちをないがしろにする都合の良いアンタ等を敵に回すのも十分面白そうだ」
「…中々に面白い考えじゃないかい」
「なーに、ただの若造の浅知恵だよ……それに何も前線に出て一緒に戦えって言っているわけじゃあねぇさ。ただ支援を寄越せ、俺達がアンタ等の味方でいて欲しいならな。
「どうだい婆さん?」と締めくくった大和。ヒミコは俯く。
だが次の瞬間、笑い始めた。
「くくくっ…あ~はっはっはははは~イイねぇイイよぉ悪童共。力だけの連中かと思いきや、きっちりと交渉できるじゃあないか、見直したよッ!」
「お前の評価なんてどうでもいい……俺達に協力するのか?どうなんだ?」
「イイねッ『龍王』『鬼神』……リスクとリターンを秤にかけさせ、脅迫を交えつつ欲しい共闘を申し出る。組織の長としては及第点だ。いいさ、協力してやる!揺りかごから墓場まできっちりと御膳立ててやるよ悪童共ッ!!」
「イイね婆さん。こっちも多少は見直したぜッ!」
言って手を差し出す大和。ヒミコもその手を取った
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