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第二章
第十節
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「なななななななななななななななななななななああああああ~~~~~~~~ッ!!?」
あまりにも予想外の事態。また不意に失った片手に困惑と怯えの表情を隠せない太蔵。
『ぺっ、不味ッ……』
一方、嫌そうな表情を作りながら噛み千切った太蔵の腕を吐き捨てた狗の顔。
言葉と共に身体を形作る。
漆黒の体毛を身に纏い。大型犬を一回り大きくしたような体躯。
見た目は完全な狗。だが、その目からは獣とは明らかに異なる知性を感じることが出来た。
『ふぅ~…ようやく出てこれた…』
「あ、貴方は…?それにその声……」
『おぅさ、アンタに話しかけていた声本人だ、人はダメだなこの姿じゃあ…それよりもこの姿で会うのは初めましてだな将軍。アンタの一の家臣である俺が出て来てやったぜ』
「一の…家臣?」
『ああそうか…そういう事もだったな……だったら改めよう』
俯いた姿勢で一人?で納得した狗。見上げるとエイプリルの方をじっと見つめた。
『俺はアンタの使い魔のような何かだ……『語り手の狗』と呼んでくれ!』
「『語り手の狗』ですか?」
『おぅさ、見ろこの俊敏そうな身体にモフモフの毛並み!気高き狼のようでありながら愛らしさも感じるこの見た目ッ!それに喋るんだぜッ!素晴らしいと思わないか!?』
「う、うぃ……素晴らしいと思います…」
狗に気圧されるような形で頷くエイプリル。その答えに狗も『だろう』と得意げな様子を見せる。
『まあ、語りたいことは他にもあるが……とにかく、今後の将軍には俺がついているんだ。アンタはそうそう危害は………おっと』
「どうしたのです?」
『いやちょっとな……「お前だけ自己紹介を済ませるな、この出しゃばり」と同僚からの文句があってな…ちょっと待ってくれ』
言葉と同時に膨れ上がる狗の身体。まるで細胞が分裂する様に分かたれ、別れた方から複数の人影が現れる。
狗と同じく黒一色の肉体。
だが、濃淡はキチンとした輪郭があり。羽根つきの帽子と中世の制服、腰には細剣、手には先込め式の火縄銃と長柄武器のパイクを携えた銃士隊のような身なりをしている。
『コイツ等の名は『近衛』。口を利くことは出来ないが…多数の手足となって働いてくれる俺の同僚にして頼れる仲間だ』
『…………………』
狗の言葉にエイプリルに対してペコリとお辞儀をした影達。エイプリルもつられて頭を下げた。
『まあ、その他にも色々いるが、それは追々…とりあえず俺やコイツ等他が『死せる忠臣の影』アンタの能力だ。せいぜい使い潰しておくれ』
「う、うぃ…よろしくです。皆様」
丁寧に頭を下げたエイプリル。そんな彼女に影達は拍手で応じ、狗は一吼えする。
そしてそのまま太蔵の方を睨んだ。
『さてと…自己紹介を待たせて悪かったなァ』
口の端から唸り声を漏らしながら太蔵にそう言った狗。
距離を取っていた太蔵はスコップを抱えながら失った片手を抑えていた。
「いえいえそんな…ありえないでしょう……ピンチになった瞬間に能力を理解するなんて…そんな物語みたいなこと……」
ブツブツと呟いている太蔵。止血用に巻いた布切れは血で滲む。
「ありえないでしょうッ!!」
そう叫ぶ太蔵、スコップを構え突貫する。
『将軍。わかっているよな?俺達へどういう命令をかければいいか』
「うぃ」
狗の言葉に頷くエイプリル。杖の先端を太蔵へと向ける。
「『迎え撃て』」
指令を出したエイプリル。まるで地の底から響くように聞こえるソレに応じる様に彼女から現れ出でた影達は武器を構え太蔵へと向かって行った。
「糞ッ!」
相まみえ剣戟を始める太蔵と影達。パイクと細剣、スコップを振るい白兵戦を行う。
序盤は捌く太蔵。だが、5体ほどの影が同時に休みなく襲って来る状況に徐々に押され始める。
それでも太蔵は笑みを浮かべた。
「甘いですねッ!『掘っては潰す』ッツ!!」
【演目】『掘っては潰す 風穴』
隙を何とか作り上げて影達から距離を取る太蔵。スコップで槍の様な突きを放つ。
瞬間、複数の影の胴体へ大きな穴がほぼ同時に穿たれた。
『ほぅ、大気を地面と見立て…それを穴として掘ったという訳か…思った以上に応用が利く【演目】みたいだな』
「ええはい!それは当然ですッ!そうでもしなければこの業界では雇われません!!」
影達が倒れる一瞬の隙を突いて包囲網を抜け出した太蔵。エイプリルへと向かい駆ける。
「それに理解しましたよ貴方の能力ッ!影から様々な存在を呼び出す能力!物量という点においては、私が知る中ではトップクラスともいえる程に恐ろしいモノ。ですがッ言ってしまえばそれだけですッ!」
復活した影の攻撃を逸らし駆ける太蔵。
「ですのでこのように、一瞬の隙を作り本体の貴方を倒せばッ!!」
エイプリルの眼前まで迫りスコップを振りかぶった。
『成る程な…その洞察力は流石と褒めてやるさ……だが…』
そんな太蔵に感嘆の声を呟く狗。
次の瞬間、立ちはだかる様にエイプリルの前に無数の影が生まれ。同時に太蔵をパイクと細剣で突き刺した。
『その弱点は俺達においては存在しないのとほぼ同義だッ!俺達は将軍のモノ!将軍の目の前に敵が現れる限り俺達は何処にでも現れるッ!無限にッ!無尽蔵にッッ!!』
「ガフッ!!」
胴をめった刺しにされ盛大に吐血する太蔵。無慈悲に引き抜かれた槍に地面に倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
「ゼヒュー…ゼヒュー……」
何とか立っているのを証明するような肺から漏れ出る荒い息。
そんな太蔵へ狗は告げる。
『本来なら卑劣な手で将軍を狙ったアンタはただでは済まさないのが俺達の総意だが…将軍を追い込み能力を自覚させてもらった功も無視には出来ない。それを踏まえるなら何もしなければこのまま見逃してやっても良いんだぜ?』
「……………」
『さあ、どうする?』
血溜まりを作る程に血をボタボタと流しながら狗の勧告を聞いた太蔵。
表情が消えるのは一瞬、荒い息の中鬼の形相で歯を食いしばると…。
「うぉおおおおおおおおおおおおおッツ!!『掘っては潰す』ゥツ!!」
エイプリルへ向けて【演目】を放った。
【演目】『掘っては潰す 風穴』
渾身の力で放たれた【演目】。
だが、影達が折り重なるようにして作られた壁によりエイプリルへ届くことは無い。
『撃て』
狗の号令により影達が構えた先込め式の銃が一斉に火を噴く。
さらに多くの穴が太蔵に作られる。
『合理的で卑劣…だが、【星】としての誇りはきっちりと持っていたようだな、アンタ…』
狗のそんな言葉に何も答えること無く太蔵は血溜まりの地面に倒れ伏した。
あまりにも予想外の事態。また不意に失った片手に困惑と怯えの表情を隠せない太蔵。
『ぺっ、不味ッ……』
一方、嫌そうな表情を作りながら噛み千切った太蔵の腕を吐き捨てた狗の顔。
言葉と共に身体を形作る。
漆黒の体毛を身に纏い。大型犬を一回り大きくしたような体躯。
見た目は完全な狗。だが、その目からは獣とは明らかに異なる知性を感じることが出来た。
『ふぅ~…ようやく出てこれた…』
「あ、貴方は…?それにその声……」
『おぅさ、アンタに話しかけていた声本人だ、人はダメだなこの姿じゃあ…それよりもこの姿で会うのは初めましてだな将軍。アンタの一の家臣である俺が出て来てやったぜ』
「一の…家臣?」
『ああそうか…そういう事もだったな……だったら改めよう』
俯いた姿勢で一人?で納得した狗。見上げるとエイプリルの方をじっと見つめた。
『俺はアンタの使い魔のような何かだ……『語り手の狗』と呼んでくれ!』
「『語り手の狗』ですか?」
『おぅさ、見ろこの俊敏そうな身体にモフモフの毛並み!気高き狼のようでありながら愛らしさも感じるこの見た目ッ!それに喋るんだぜッ!素晴らしいと思わないか!?』
「う、うぃ……素晴らしいと思います…」
狗に気圧されるような形で頷くエイプリル。その答えに狗も『だろう』と得意げな様子を見せる。
『まあ、語りたいことは他にもあるが……とにかく、今後の将軍には俺がついているんだ。アンタはそうそう危害は………おっと』
「どうしたのです?」
『いやちょっとな……「お前だけ自己紹介を済ませるな、この出しゃばり」と同僚からの文句があってな…ちょっと待ってくれ』
言葉と同時に膨れ上がる狗の身体。まるで細胞が分裂する様に分かたれ、別れた方から複数の人影が現れる。
狗と同じく黒一色の肉体。
だが、濃淡はキチンとした輪郭があり。羽根つきの帽子と中世の制服、腰には細剣、手には先込め式の火縄銃と長柄武器のパイクを携えた銃士隊のような身なりをしている。
『コイツ等の名は『近衛』。口を利くことは出来ないが…多数の手足となって働いてくれる俺の同僚にして頼れる仲間だ』
『…………………』
狗の言葉にエイプリルに対してペコリとお辞儀をした影達。エイプリルもつられて頭を下げた。
『まあ、その他にも色々いるが、それは追々…とりあえず俺やコイツ等他が『死せる忠臣の影』アンタの能力だ。せいぜい使い潰しておくれ』
「う、うぃ…よろしくです。皆様」
丁寧に頭を下げたエイプリル。そんな彼女に影達は拍手で応じ、狗は一吼えする。
そしてそのまま太蔵の方を睨んだ。
『さてと…自己紹介を待たせて悪かったなァ』
口の端から唸り声を漏らしながら太蔵にそう言った狗。
距離を取っていた太蔵はスコップを抱えながら失った片手を抑えていた。
「いえいえそんな…ありえないでしょう……ピンチになった瞬間に能力を理解するなんて…そんな物語みたいなこと……」
ブツブツと呟いている太蔵。止血用に巻いた布切れは血で滲む。
「ありえないでしょうッ!!」
そう叫ぶ太蔵、スコップを構え突貫する。
『将軍。わかっているよな?俺達へどういう命令をかければいいか』
「うぃ」
狗の言葉に頷くエイプリル。杖の先端を太蔵へと向ける。
「『迎え撃て』」
指令を出したエイプリル。まるで地の底から響くように聞こえるソレに応じる様に彼女から現れ出でた影達は武器を構え太蔵へと向かって行った。
「糞ッ!」
相まみえ剣戟を始める太蔵と影達。パイクと細剣、スコップを振るい白兵戦を行う。
序盤は捌く太蔵。だが、5体ほどの影が同時に休みなく襲って来る状況に徐々に押され始める。
それでも太蔵は笑みを浮かべた。
「甘いですねッ!『掘っては潰す』ッツ!!」
【演目】『掘っては潰す 風穴』
隙を何とか作り上げて影達から距離を取る太蔵。スコップで槍の様な突きを放つ。
瞬間、複数の影の胴体へ大きな穴がほぼ同時に穿たれた。
『ほぅ、大気を地面と見立て…それを穴として掘ったという訳か…思った以上に応用が利く【演目】みたいだな』
「ええはい!それは当然ですッ!そうでもしなければこの業界では雇われません!!」
影達が倒れる一瞬の隙を突いて包囲網を抜け出した太蔵。エイプリルへと向かい駆ける。
「それに理解しましたよ貴方の能力ッ!影から様々な存在を呼び出す能力!物量という点においては、私が知る中ではトップクラスともいえる程に恐ろしいモノ。ですがッ言ってしまえばそれだけですッ!」
復活した影の攻撃を逸らし駆ける太蔵。
「ですのでこのように、一瞬の隙を作り本体の貴方を倒せばッ!!」
エイプリルの眼前まで迫りスコップを振りかぶった。
『成る程な…その洞察力は流石と褒めてやるさ……だが…』
そんな太蔵に感嘆の声を呟く狗。
次の瞬間、立ちはだかる様にエイプリルの前に無数の影が生まれ。同時に太蔵をパイクと細剣で突き刺した。
『その弱点は俺達においては存在しないのとほぼ同義だッ!俺達は将軍のモノ!将軍の目の前に敵が現れる限り俺達は何処にでも現れるッ!無限にッ!無尽蔵にッッ!!』
「ガフッ!!」
胴をめった刺しにされ盛大に吐血する太蔵。無慈悲に引き抜かれた槍に地面に倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
「ゼヒュー…ゼヒュー……」
何とか立っているのを証明するような肺から漏れ出る荒い息。
そんな太蔵へ狗は告げる。
『本来なら卑劣な手で将軍を狙ったアンタはただでは済まさないのが俺達の総意だが…将軍を追い込み能力を自覚させてもらった功も無視には出来ない。それを踏まえるなら何もしなければこのまま見逃してやっても良いんだぜ?』
「……………」
『さあ、どうする?』
血溜まりを作る程に血をボタボタと流しながら狗の勧告を聞いた太蔵。
表情が消えるのは一瞬、荒い息の中鬼の形相で歯を食いしばると…。
「うぉおおおおおおおおおおおおおッツ!!『掘っては潰す』ゥツ!!」
エイプリルへ向けて【演目】を放った。
【演目】『掘っては潰す 風穴』
渾身の力で放たれた【演目】。
だが、影達が折り重なるようにして作られた壁によりエイプリルへ届くことは無い。
『撃て』
狗の号令により影達が構えた先込め式の銃が一斉に火を噴く。
さらに多くの穴が太蔵に作られる。
『合理的で卑劣…だが、【星】としての誇りはきっちりと持っていたようだな、アンタ…』
狗のそんな言葉に何も答えること無く太蔵は血溜まりの地面に倒れ伏した。
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