プライベート・スペクタル

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第二章

第七節

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「ほぅ、あの晴菜がな……」
感慨深そうな表情で頷く門司。
あれから即座に『創世神』の【領域】へと帰還した大和達。
戻って早々にエイプリルの心配と怒りを受け、チェルシーからの手当てを受けている時に帰還した門司と出会い顛末を話したという次第である。
「アイツが【星】それも【銘付き】の『爆炎』とはな……」
「ああ、こっちもびっくりだ」
門司の反応にうんうんと頷く大和。
そこに睦美とエイプリルもやって来る。
「ではそこの馬鹿二名。いい加減にそこだけが理解できるローカル状態を止めて、私達に説明して下さい」
「うぃ、お願いします」
詰め寄る睦美とエイプリル。「ああ、もとよりそのつもりだぜ」と大和と門司は説明を始める。
「アイツ、早乙女・晴菜は俺の幼馴染だ……」
「これはまた…ベタで直球のが来ましたね……」
「歳は俺と同じ、家も近所…それこそ物心ついた時から始まり幼稚園から中学校まで全てが同じ学校に同じクラスというある種呪われているんじゃあないかと思うぐらいの近しさだ」
「ふむ、それは呪われていますね…彼女が……」
「まあそんな間柄だったからな…四六時中一緒にいたさ、登下校、放課後、夕飯やお泊り会なんてのもした。一緒じゃあない時が無かった程にな」
「大和経由で一つ年上の俺ともよく一緒にいたな…」
「……ちょっと待って下さい。そんなに一緒にいた娘。高校時代に私が貴方達と初めて会った時には見かけませんでしたよ。それ程の距離感なら出会うはずでしょう?」
「言っただろう中学校までってな……高校に進学するちょっと前、アイツは親御さんの都合で遠くに引っ越してしまったらしい。俺達に何も言わずにな……それっきりさ」
「言わば鉄面皮。お前はアイツと入れ替わるような形で俺達と出会ったってわけだ…」
「ふむ成程…そんな昔の知り合いが【星】に覚醒し、そして我々と敵対すると……一体何があったんでしょうか?」
「さあな…だが【星】になったのは驚く事ではねぇな…小学校の時にはもう【星】だった俺達にヒィヒィ言いながらも付いて来ていたからな…素質自体は十分だったんだろうな…」
「ふむ、じゃあ質問を変えましょうか……大和、貴方一体なにをやらかしたんです?」
「どういうこって?」
「だってそうではないですか、貴方達のような馬鹿共に付き合う聖人君主が、あんな敵意と殺意満載の態度で襲い掛かって来たんです。馬鹿が馬鹿みたいな馬鹿な考えで余計な馬鹿をやらかしたとしか思えないでしょう」
「馬鹿馬鹿ひどくね?……んなこと言われてもそんなひどいことやった記憶なんてねーよぅ」
「記憶に残らないぐらいにやっていた…と」
「どんな受け取り方ッ!?」
「…ではやっていないと、胸を張って言えますか?」
「それは…えーと……うーんと…ひょっとしてアレかな?……中2の時、ご多分に漏れず、とある国民的病である中二病を発症した俺が、ピクニックがてらに一緒に樹海に連れて行って、100名程度の【星】と軽く殺し合いをした時とかかな……?」
「うわぁ…」
もはやドン引きを超えた何かのような冷ややかな視線で大和を見る睦美。
大和は何とかその視線をかいくぐり咳ばらいを一つした。
「兎に角ッ、俺ァ恨まれるような事は一切記憶にない!だからこの話はまた今度!今はそれよりも傷を癒すことを考えないとな………チェルシー」
「はぁい」
大和の手拍子と共にやってきたチェルシー。手には銀のトレー、その上には座布団のような大きさのステーキが乗せられている。
チェルシーはそのままナプキンを身に付けた大和の目の前に置く。
「んじゃ、いただきます」
置かれると同時に手を合わせる大和。肉を切り分け口へと運ぶ。
「大和。いえ馬鹿…一体なにしているんです?」
「言い直すなよッ!…見ての通り食事だけど何か?」
その光景を見て思わず尋ねる睦美に大和は食器を動かす手を止めることなく答える。
「いえ、それはわかります……わかりますが…ではなぜソレを今?」
「致命傷にゃあならなかったが、晴菜の野郎にバカスカ撃たれ燃やされたからなぁ…それの回復のためだ、回復には飯食うのが一番だろ?だから喰っているんだ?」
「週刊少年漫画の主人公にだけ通じる。イカレた理屈を捏ねくり出しましたね…」
溜息を吐く睦美。
そんなやり取りの裏でお構いなしにどんどんとカートに乗ってやってくる料理達。
デミグラスソースたっぷりのハンバーグ、櫛に丸ごと刺さった焼き魚、山盛りのイカ墨のパスタにどんぶり茶碗山盛りの白ご飯、具沢山味噌汁、何層にも積まれたパンケーキにフルーツたっぷりのパフェ等ありとあらゆるものがやって来る。
大和はそれらをやって来るままに胃袋へと納めていく。
「ん?見ているだけじゃあ腹が減るだけだろ?どうだい睦美も…」
「いえ結構、そんな量をとてもじゃあありませんが腹に納められませんので…」
「あっそ、んじゃ門司とエイプリルは?」
「少しぐらいなら付き合ってやるよ」
そう言って茶碗を手にする門司。
一方のエイプリルは…。
「のぅ…私は遠慮します」
「そうか(もごもご…)」
手を前に突き出し、拒絶のポーズをとるエイプリル。
大和も口を止めることなく無理強いは良くないとそう返す。
「うぃ…では私はこれにて失礼いたします…」
そしてそう軽く頭を下げた後、エイプリルは部屋から出て行った。
「…はぁ……ほら、これからの方針を連絡するはずが、席を離れてしまったじゃあありませんか…」
「…そう吼えるな鉄面皮、まあ先の戦いを観て考えることがあったんだろう。連絡はあとで俺か大和がやっておこう」
門司の言葉通り、今あまり深く聞くのは駄目だと…気にはかけつつ、食事を再開した大和。
そうして数十分後、山のようにあった料理は全て食べ尽くされた。
「ふぃ~ご馳走さん」
「ご馳走様だ、チェルシー」
「はぁい、お粗末様でした」
礼儀である手を合わせる大和と門司。
よく見ると大和の肉体は食事前に負っていた傷のほぼ全てが治っていた。
「出鱈目な…」
その体質に思わず呆気にとられる睦美。大和はそれを気にも留めずに食後のコーヒーを啜り一服する。
そしてその後、睦美に問いかける。
「いやぁ、待たせて悪かったな睦美……さて、この争奪戦。強化刷新されただろう【天使】と晴菜がいる【星】の集団……俺達はどう出る?」
「待たせおいてその物言い……まあ気にはしませんが…」
諦めにも似た軽い溜め息を吐く睦美。そのまま卓上に現状を図で描く。
描かれた図は三つの円に文字という簡単なモノである。
「さて現状ですが…知っての通り今現在我々は二つの勢力と相対しております。【天使】達である世界そのものに晴菜さんの【星】の集団……その双方共がこちらに矛先を向けている状況です」
「まあ、俺達が目標となる【星具】を有しているからな…当然か……」
「しっかしまあ…あんなボロ剣のどこを欲しがっているのやら……だからと言って渡す気はさらさら無ぇけれど…」
「早速話の腰を折りにかかろうとしない馬鹿共……ただ狙ってきている両陣営ですが、初動を見た限りでは結託する可能性は限りなく低いと言えるでしょう」
「そりゃ晴菜の奴が連中を爆殺したからな…」
「そうです。また【天使】の方も【星】の事を敵視しておりますから…結託するつもりは毛頭無いでしょう…」
「つまりは三つ巴の状況か…」
三つの円がそれぞれ矢印で指し合うような構図を見ながら呟く門司。それを踏まえて睦美は続ける。
「ではその状況の中、我々はどのような指針で動けばいいか……とはいっても【星具】を有している今では取るに足る行動は大きく三つ。一つ目はいずれかの集団への同盟の打診、もう一方の集団を潰した後、同盟を破棄して決戦へと持ち込む方針。二つ目は盤面外でありますが協力関係である『フツノミタマ』の支援を利用し、一方を我々、もう一方を彼女等という2正面状況に持ち込ませる方針。最後が現状を維持したまま二つの勢力の攻撃を上手くいなしぶつかり合わせて双方とも潰す方針。その三つですね」
「三つねぇ…でも最後の奴以外はこちらとしてはデメリットも多そうだな…」
「ああ、一つ目の方針は敵の目的が分からない以上、下手に動けば取り返しのつかない可能性になる可能性がある。それに双方とも一度は刃を交えた間柄だ……裏工作を行っていない以上。話すら難しいだろうな…」
「二つ目は一見妥当だけれどよ、連中が上手く協力してくれるかどうか…今の音信不通の状況じゃあ難しいだろうな」
「ちなみに単独で動いていた時に拾った情報だが、連中は今俺達が奪った『無にして全』での某国の工作で忙しいらしい……どうやら俺達がこの件で動いた代わりにそちらをやってくれているらしい」
「火消しをしようってだけじゃあねぇの?」
「ふむ、ただそこにさらにお願いは難しいですね…」
「だとしたら最後しかねぇな…両方を相手取り両方とも潰す。一番シンプルで後腐れも無い。気持ちいい手段だぜ」
「だな…ともすれば将来的にも邪魔になりそうな存在を二つも潰せることになる。それにこちらの敗北以外代償も不要だ…手間は手間だがかなりいいんじゃあないか?」
「そう言いつつ負ける気が無い傲慢さ、貴方がた。いいえ我々らしいと言えばらしいですね…良いでしょう。こちらも出来る限りの策を考えさせていただきます」
「へへっ…んじゃ、そうすっか」
方針が決まり意気揚々の大和達。後はエイプリルにい伝えておくだけである。
「で、アイツどこ行った?」
「どうやら外の空気をを吸いに【領域】外に出た様ですねぇ…」
「…襲われたという現状で、あまり出て欲しくないのですが……」
「そんな事で目くじら立てちゃあ、ずっとここに引きこもらにゃあならなくなるぜ睦美。ちょっと出るだけなんだからすぐに戻って来るぜ…それに……」
(あいつ自身何か思い詰めているように見えたからなぁ…)
そんな時に余計な口出しをするより一人で考える時間が必要なのだと思い。大和はカップに残ったコーヒーを啜りながら待つことに決めたのだった。
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