プライベート・スペクタル

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第二章

第五節

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「…はてさて…終わったぜ睦美」
『ふむ、ご苦労…殺さずに倒せたようですね……こちらも【領域】の座標変更を終えたところです』
「そっちもご苦労さん。エイプリルの奴はどうだい?」
『座して不動。画面に穴が開きそうなほどの視線で貴方を見ておりますよ…凄い集中力です』
「へへっ、そりゃあ録画でもしといたほうが良かったか?俺も後から自分のカッコいい動きを見てうっとり出来るし…」
『うわキモ……』
「そういう直球やめて!一番傷つくから!!」
とか何とかいうやり取りはさておき…本題に入る。
「ところで…【天使コイツ等】どうする?……殺したら刷新とはいえこのまま放置するっていうのも、後々面倒なことになりかねませんぜ社長」
『反応しませんよ…そうですねぇ………』
うーんと考える大和と睦美。
そこで何か思いついたのか大和は掌をポンと叩く。
「そうだ!いっそのこと封印するっていうのはどうだ!?」
『ふむ……で、どうやるんです?これまで私に隠していた秘められた能力が有るとでも…?』
即座に問題部分を返される大和。しばらく固まった後、良い笑みで…。
「それは睦美に任せるぜッ!」
「はぁ~……」
糞でか溜め息を隠そうとせずに吐く睦美。馬鹿が人の上に立つと碌な事にならない好例を見せられているようであった。
とそこでチェルシーがやって来る。
「お待たせいたしましたぁ~」
「ご苦労だったなチェルシー。怪我らしい怪我も無く何より…」
「いえいぇ、勿体ないお言葉ですよご主人」
ぺこりとお辞儀をしたチェルシー。とここで彼女にも意見を聞くことにする。
「ところでチェルえもん。今倒した【天使】の扱いに困っているんだ。何か良い方法はないかなぁ?」
「そうですねぇ……岩にでも埋め込ませて永遠に供養させましょうかぁ、ご主人の持っている漫画にもそんなやり方で敵を倒しておりましたしぃ」
「発想がサイコパスのソレ!?……いやいや、そんなドラム缶とコンクリを使った不思議なマジックじゃあねぇんだからよぅ」
「ちなみにご主人は何を思いついたんですぅ?おそらく封印とか言っていたんじゃあないですかぁ?」
「主人への理解度が100%で助かるよ……」
と話の途中。遠くで得体の分からない殺気を感じる大和。
「チェルシー、跳べッ!!」
燃える炎のような気からとっさにチェルシーに指示を出す。チェルシーも疑問に思うことなく指示に従い跳ぶ。
瞬間、彼らが立っていた場所が勢い良く燃え上がった。
「コイツは…」
付近の小型ビルの屋上に着地し様子を見る大和。
火の元が一切存在しなかったのに燃え盛る眼下。明らかに普通ではない。
「ご主人…これはぁ…」
「ああ、新手だろうな…」
言葉と同時に感じる先程と同様の殺気。これにはチェルシーも察知したのか大和と同時に屋上から飛び降りる。
数瞬後、先程と同じような爆発が起こった。
燃えていない地面を選んで降り立つ大和とチェルシー―。降り立つと同時に遮蔽物となりうる背の高い建築物の多い方向へと駆け出す。
感じる三度目の殺気。そこで大和は発火の原因を突き止める。
発火の原因。それは小型の炎の塊。銃弾のような形状のソレが何発もこちらに向かってきていた。
「どっせいッ!!」
地を砕くほどの踏み込みでコンクリートを畳返しの様にひっくり返す大和。盾となった壁を利用して炎の弾丸を受け止める。
壁は爆発と共に勢いよく燃え上がった。
「そこだなッ!!」
三度の攻撃で敵の大まかな位置を察した大和。爆発が収まると同時に起こした壁を砕き、敵の位置……少々離れた位置にあった雑居ビルの一角に蹴り飛ばす。
吸い込まれる様に高速で飛翔するコンクリート片。それを迎撃する様にビル一角から放たれる炎の弾丸。
コンクリート片は粉々に砕け散った。
「失礼いたしますぅ」
迎撃の隙をつく様に敵の居場所へと跳びかかるチェルシー。手刀を放つ。
「くっ…」
それを躱す形でビルから人影が一つ跳び出す。
灰色の外套を身に纏う人影。ボロボロの外套を頭まですっぽりと覆い容姿すら定かでないその姿はまるでボロ布の幽霊の様である。
そんな幽霊のような人影、だが放つ雰囲気はとても幽霊なんて呼べない噴火直前の火山を思わせるような熱量を放っていた。
「やれやれ…アンタかぃ?俺達に奇襲を仕掛けてきた闖入者っていうのは?」
「………………」
何も答えないボロ布。答えないというよりは「そんなわかりきっていることをいちいち問いかけるな」と言わんばかりに敢えて無視しているようでもあった。
大和も気にせず続ける。
「しっかし困るぜ、さっきのアンタの炎。それで折角殺さずに倒した【天使】が死んじまったじゃあねぇか…この人でなし!連中は殺されたら刷新されるって事を知らねぇのかい?」
「……………………」
「おいおいオイオイ…まだダンマリかぃ?だったら自己紹介からしようか?俺ァ……」
「呉成・大和……『龍王』…」
そこでようやく口を開いたボロ布。発する声色は女性を思わせるものであった。
「おっ、ようやく話が通じたな…俺の名前を知っているという事は俺目当てって事だろ?一体何の用だい?」
「…知れたこと。お前が奪った【星具】…それを返せ」
「返せ…ねぇ、成程…アンタもグラ…何とかさんのお仲間ってことね…」
「深く答える気は無い……返答は?」
「またまた~そんなの分かっているくせに~…お断りだよ、少しでも考えて欲しいってなら素顔を見せて親交を深めようとしてからにしな…」
「そうか…」
「残念か?」
「……いや…」
穏やかな声色のボロ布。まるで断ってくれるのを待っていたような心底安心したような態度である。
「良かった……本当に……」
ゆっくりと息を吐くボロ布。「ふぅ~…」っと胸の中の空気を全て出し切るような長い息。
そして…。
「じゃあ心置きなく……死ねェ!!」
そう言い掌をかざす。掌からは炎が勢い良く燃え上がる。
まるで巨大な生き物の様に揺らめく炎。勢いを下げることなくその形状を変える。
そうしてボロ布の手には炎で出来た拳銃が顕現したのであった。
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