プライベート・スペクタル

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第二章

第一節

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「シッ!フッ!ホァッ!!」
「…………………」
「ダオッ!キャオラッ!!」
「はあ…」
「ん?どしたい睦美?悩み事かい?」
大きく溜息を吐く睦美に大和は尋ねる。
「ええ…現在幾つかの問題がありましてね…それが脳裏に浮かぶとつい自然に…」
「へぇ、そいつは大変なこって」
「ちなみにその一つはすごく身近ですよ。具体的に言えば私の目の前、我々の【領域】内、その中でも心臓部ともいえるこの部屋でテレビゲームを興じる大馬鹿がいるって事なんですよ」
「仕方ねーだろぃ。アレから婆さんの連絡が一向にねーんだから」
死んだような目で大和を指さす睦美。
大和は他人事のようにコントローラーを握り締めながら明後日の方向を向いて応じる。
ヒミコの依頼で応じた【星具】奪取戦。アレから軽く一週間は経過していた。
目的の【星具】を奪取できた大和達。奪った【星具】はこちらが持っていておいて良いと言われたが…一応は報告するべきだと連絡を入れたのが帰還後直ぐの事。
「了解した」と応じた後。そこから一向に連絡が来ないのである。
「一応の目的は果たした以上、命令を聞く道理は無いですが…この後にどう動くかの方針ぐらいは教えて欲しいモノです。口裏を合わせることすら出来ないじゃあないですか…」
「案外関与自体を完全否定したいのかもな…あのヒミコばあさんの言葉を真似て言うなら「愛すべき我が国から生まれ出でたどうしようもない悪童共が勝手にしただけ」とかな…おっとナイスコンボ」
「それならそれでいいのですよ…奪ったのは我々ですし…」
「それにしてもよぉ~奪ったモノがモノだからなぁ……」
「…ええ、あんな無用の長物だとは…」
奪取した【星具】『月下の雫』。それは完全に破損していた。
有るはずの刃が根元からぽっきり折られた様に無く柄のみの状態。
その姿からは映像資料で感じたような威圧感は無きに等しく【星具】だと分かるのがせいぜい。
オブラートに包まずに言えばただただボロイ壊れたおもちゃみたいな代物なのであった。
「言うなら、刀身の無い剣なんぞソフトが無いゲーム機みたいなもんだな…手元にあっても遊ぶことすら出来ない」
「ふむ、的は得ています…得てはいるんですが、馬鹿の貴方に言われると軽い怒りが湧き立ちますね」
そう大和に皮肉で返す睦美。
だがそんな事よりも気になる点が一点。剣が折れていたのはいたのだが…どうも朽ちて折れたような感じではない。断面に真新しさを感じるのである。
まるで誰かが故意に折ったかのような……。
「それより、そろそろゲームを止めたらどうです?弟子のいる身でいつまでもピコピコピコピコ…呆れてものも言えませんよ」
「言い方お母さんかッ!?しかし、ハッハーッ!弟子がいるからって急に聖人君主になんかなれっかい!寧ろ普段の様子をあますとこなく見せて、見習う所か否かを取捨選択させてこそ、立派な教育だとは思わないかいお嬢さん?」
「この屁理屈を捏ねるところは是非とも捨ててほしいものですね…というよりお母さんかお嬢さんか…呼び方を統一したらどうです?まあどちらにしても軽く殺意を覚えたのでこれ以上口にしたらぶっ飛ばしますが…」
「おお怖い怖い」
睦美の言葉を適当に返しゲームを続ける大和。
とそこにエイプリルがやって来る。
「師匠…」
「おぅエイプリル、どしたい?」
「うぃ、そのですね師匠…実は少々お願いがございまして…」
「良いですよエイプリル。その馬鹿に正直に言ってやりなさい。「ここを占拠して自堕落にゲームをするのを止めろ」って」
「悪りぃなエイプリル。俺ァ誰に何を言われようとこの手に持つコントローラーを手放す気にゃあさらさら無いぜ」
「のぅ、そうではなくてですね……今後の師匠の時間を少々いただきたいと思いまして…」
「アポイントって事かぃ。良いぜ、おいちゃんに何でも言ってみんさい」
「うぃ、何でもですか?」
「二言はねぇ」
「でしたら師匠…私とデートをして下さい」
「OKOKデートね…はい?」
「はい?」
「うぃ」
「「はぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」」
予想はるか斜め上のエイプリルの言葉。思わず大和はゲームのコントローラーを手から落とした。

「うーん……こんなもんかね?」
アパートの自室にある衣装タンスの前でもぞもぞと動く大和。衣装を次々と引き出し並べていく。
エイプリルからのデートのお誘いを受けあっという間にデート当日。彼はデートでの衣装選びに難渋していた。
「いやー…コイツはちっと派手過ぎるか…もっとこう、なんか……」
この世に生を受け早や20数年。初めてとなる年下相手のデートに臨む大和。
起床後からずっと「あーでもない。こーでもない」と言いながら鏡の前で格闘する。
「よし、こいつで良いだろう」
そして格闘すること数時間。ようやく納得のいく格好をすることが出来た大和。満足げに頷く。
これで準備が整った。後は待ち合わせの場である『創世神』の【領域】に向かうだけである。
「さぁいざ行かん!決戦の地へ、健全と不健全の境界線までッ!!」
「何トチ狂っているんですかこの馬鹿」
タキシードとシルクハットという格好で向かおうとした大和をいつも持っている本で思いっきりぶっ叩く睦美。
金属で装飾された表紙の一撃は大和を衣装箪笥に叩きつけた。
「全く……どんな準備をしているかと思えば…なんていかれた格好をしているんです」
「痛てて…コイツは礼儀だろうが睦美ッ!重要な事だろうがぃ!!」
「階段を一体何段飛ばす気ですか貴方は…初デートの何処にそんなパーティに行くみたいな恰好をする馬鹿がいるんです」
「いるさっここにひとりな!!初めてだからだろうがよぃ!初めての相手にゃあ思い出に残る様に完璧な身なりで迎えるのが義務だって、ウチの婆ちゃんも言ってたぞ!」
「貴方の場合は浮かれているだけでしょうこの馬鹿。ただでさえ一回りも年の離れた幼子という事案ギリギリレベルの事なのに…もっと考えなさい」
「考えてのこの格好だろうがぃ!」
そう言って胸を張った大和。睦美は頭を抱える。
「全く……こんな馬鹿を放ってチェルシーは一体どこに行ったんです?こういう時に主の暴走を止めるのが従者としての役目でしょうに…」
「あん?チェルシーなら夕飯の買い物に行ったぜ「おめでとうございますぅご主人。いや~中々ないですよぅあんな小さな娘からお誘いなんてぇ、それも弟子っていうある意味特権階級、世の男性からの怨嗟の声が漏れ出てきそうです。ではではお邪魔虫は退散しておきますねぇ~」とか何とか言って…」
「完全に楽しんでいますねソレ…あとモノマネが無駄に上手いのが腹が立ちます」
「そいつの芯を捉えるのがコツだぜ、まあ俺の人物観察あって賜物だがな」
とそこでノックの音が聞こえた。
「師匠、エイプリルです。待ち合わせの時間に姿が見当たらなかったので、お迎えに上がりました」
「ってやべ、もう待ち合わせの時間が過ぎていやがったか。睦美なんかに気を取られて忘れていたぜ」
「さりげなくこちらの所為にしないで下さい2号。そもそも貴方が浮かれポンチ満点な格好をしていたのが悪いんです」
「初めてのデート。遅刻で彼女が迎えにやって来るなんて、最低な野郎だぞ!早く!早く応対をッ!!」
慌てて扉を開ける大和。あらん限りのイケメンボイスで出迎える。
「よぅエイプリル。待たせたな」
「し…師匠大丈夫なんですか?」
「…?何が?」
「いえそんな恰好で……」
「ん?……一番いいモノにしたから問題ないと思うが…」
「うぃ…でしたら大丈夫ですね……」
「そんな事より遅れてしまった分。その失敗を取り戻すぐらいに見事なプランを練ってある…楽しみにしてくれよ」
「うぃ、ありがとうございます師匠。それでは参りましょう!」
「ああ参ろう。して希望は何処だぃ?水族館?遊園地?映画館?それともショッピング!?」
「訓練場へッ!」
「おおそうかッ、では訓練場へ……って何で?」
「え?」
何故そこ?わけがわからない大和と睦美は首を捻る。
「あのよぅ、エイプリルさん」
「うぃ?何でしょう師匠?」
「デートなんだよな?」
「うぃデートです」
何故なにゆえその場所で候?」
「うぃ?デートですから迷惑のかけない広い場所が必要では…?」
そこで大和は何かが噛み合っていないことを悟る。
「あのよエイプリル?デートってどういうモノか知ってる?」
「うぃ、デートは親しい間柄同士が…」
「うんうん」
「互いに親睦を深める為に…」
「そうそう」
「用途に応じた訓練を行うという事です」
「うん違うな」
とそこで違和感の正体を突き止めた。
「…違うのでしょうか?私は師匠に戦闘訓練をつけて欲しくデートに誘った次第なのですが……」
「ちなみによぅ、その知識の出所って何処?」
「うぃ、ヒミコ様です。師匠と訓練をするためにはどうすれば良いか?と相談をしたときにですね、教えていただきました。曰く「こう誘えばお前のお師匠様は絶対に断らない」と…」
「碌でもねぇなあのババァ…」
「引っかかっている時点で十全に効果があったようですが…」
「黙らっしゃい」
ぼそりと呟く睦美を黙らせる大和。
「ですので師匠、本日は訓練の程…よろしくお願い致します」
「わかったわかった……ただし一般常識も一緒にな……」
乏しいながらも目を輝かせお辞儀をするエイプリル。
そんな彼女にそうとしか言えない大和であった。
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