プライベート・スペクタル

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第一章

第五節

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「…ッツ!?襲撃だッ!!襲撃だぞォ!!」
「総員迎撃ッ!迎撃ッ!!」
「ヒャッハー!!【星具】をよこしなァ!!」
鳴り響く警報。次々に飛び出してくる武装した男達。
その様子を見ながら大和は世紀末的叫び声と共に正面入口にいた見張りを軽くぶちのめした。
『非常に単純ですが…陽動にしましょう』
全体を二つに分け、一方が大多数の敵を抑え、その隙にもう一方が潜入、目的の【星具】の奪取を行う。
そういう手筈である。
『そしてその2組ですが、大和とそれ以外という形にします』
「おいおいオイオイ、イジメかい?睦美さんや…体育授業での2人組作れのトラウマが甦るじゃあねぇか、酷いわっ!!」
『シャラップ馬鹿。オネエ口調になるな馬鹿。戦略上の適材って奴ですよ…貴方性格上隠密には不向きですし…何よりその中でトップクラスに腕が立つんです。雑兵+【星】数名ぐらい容易く呑み込めるでしょう…だからやれってことです』
「へへっ、美しい信頼関係に涙が出てくらぁ」
鼻を擦りながら目尻から雫を一筋流す大和。
そんな彼を睦美はスルーして続ける。
『それと襲撃時ですが、二つ程注意を……一つは出来る限り素性を隠すこと…そして二つ目は出来る限り単純なフリをして下さい』
「単純?馬鹿っぽくって事か?」
『ええその通り、馬鹿っぽくという事です。人から星へと覚醒し慢心。超人的身体能力で暴れ回って天狗になり、どこからか【星具】の噂を聞きつけ、奪ってやろうと無策で突貫した。そんな背景が見えるぐらいに憐れな男と演じて下さい』
「ずいぶんと具体的ですねぇ…」
『それぐらいの方が敵も勘違いしやすくなるでしょう』
「成程な、それで素性を隠せってことか?連中の中に俺の事を知っている奴がいるかもしれないっていう保険として…」
『そうです。単純で且つ効果は見込みやすいでしょうからね』
「成程なぁ、でも出来っかな~俺、演技力はお世辞にも無いぜ」
『心配いりません。いつも通りで充分です。自然体なだけで充分馬鹿に見えますからね、演技については苦痛はあまり感じないはずです』
「うん、今苦痛感じたな……そろそろ泣いていい?」

そんなやり取りがあり……。

「ヒャア出てきやがったな雑魚共!くたばれやァ!!」
馬鹿らしさを出す為、某世紀末救世主漫画の三下のような言動の大和。
下卑た笑みを浮かべながら、近くにあった列車車両を一両蹴飛ばす。
大質量の砲弾と化した車両はサッカーボールのように高速で飛翔し地面に突き刺さる。
「ッツ!?この化物みたいな身体能力。コイツ【星】だ!」
「いいか決して近づくなよッ!近づかず銃で対処しろ!もし近づかれたら五体満足でいられると思うな!!」
「先生達呼んで来い!直ちにだッ!!」
人間離れした膂力に大和が【星】だと即座に理解する男達。複数名が建物内にとんぼ返りし、残りは銃口を向ける。
「撃てッ!」
一斉に火を噴く銃火器。
だが、【星】の存在は知らされていても用意できなかったのか、はたまた使いこなせる人間がいなかったのか、銃火器は対【星】用ではなく対人用。
【星】である大和の肉体に僅かな傷は負わせることが出来ても、致命傷を与えることは出来なかった。
さらには雇われの傭兵であるが故の各人の練度のバラつきにより弾丸の途切れるタイミングも生まれる。
大和は弾丸の雨を難なく打ち払い弾き飛ばした。
「こんだけかい?なら次はこっちの番だなッ!」
線路を勢いよく引っこ抜く大和。枕木とレールをそれぞれ手にすると敵に向かってぶん投げる。
高速で回転しながら飛翔する枕木。当たった者は濁った呻き声をあげながら吹き飛ぶ。
「撃ち続けろッ!撃ち続けるんだッ!!」
「フハハハハハッ!無駄無駄無駄ァ!!」
悪役のような笑い声を上げながら銃撃に気にすることなく次々と投擲していく大和。
敵はボウリングのピンの様に吹き飛んでいくが、派手に見えて威力は加減しており骨が折れるぐらいであろう。
「うぁあああああ!まだかッ!?先生たちはまだ来られないのかッ!!?」
「ヒャッハー!これ以上ボコられたくなかったら、とっとと【星具】をよこしなァ!!」

「そこまでだッ!」

その言葉と共に何かが砲弾の様に大和に向かって飛んでくる。
軽々と躱す大和。着弾した地面は大きな爆発と土埃を巻き上げる。
「いいねッ!」
徐々に晴れていく土埃。着弾の衝撃によりひび割れた大地には二名の人物が立っていた。
一名は西洋の金属鎧に身を包み長柄の戦斧を担いだ精悍な顔つきの男。
もう一名は素顔を仮面とフードで覆った者である。
まるで場違いの奇妙な出で立ちの二名。
だが大和はその唯我独尊な奇妙さと発する気配から、彼らは【どうるい】である事を理解した。
「ようやく来やがったか…待たせやがって……」
陽動による大多数の人間と複数名の【星】の足止め。
ようやくの本命の登場に大和は笑みを浮かべる。
「ずいぶんと派手に暴れたな侵入者めッ!だがそれもここまでだッ!」
「な……なぜなら…わ、我々が来たのだからな…ッ」
戦斧の穂先を大和に突き付けそう吼える鎧の男と仮面の者。
「なんだぁ?来たからってどう変わるんだ?見たところハロウィーン帰りみたいなのが二人増えただけだと思うんだがよ…どうなるんだ?教えてくれよ?」
「な…舐めた態度を……」
「落ち着け、あんなわかりやすい挑発に乗るな」
「…だ…だが……」
「相手はこのような場所にたった一人で来るような男だ…自分の事を無敵かなにかと勘違いしているんだろう」
意外と沸点の低い仮面の者と意外と冷静でなだめる鎧の男。
それにどうやら門司達別動隊の存在は悟られていないようである。
「では侵入者よ覚悟しろッ!貴様はこの俺グランダルと…」
「り…李・転羽リ・テンウが倒す」
戦斧と鉄爪。それぞれの武器を構え名乗る鎧のグランダルに仮面の転羽。
大和も重心を落とし戦闘態勢に入る。
「呉成・大和だ、先手は譲ってやるぜ」
「……後悔するなよッ!」
険しい表情で大和に一直線に向かって行くグランダル。
「ハァツ!」
上段へと戦斧を振り上げ、兜割りの要領で勢いよく振り下ろす。
人智を超えた身体能力である【星】からの一撃。
その速度は常人では目視する事すら叶わず、仮に防いだとなれど、その防御ごと持って行かれるであろう必殺の一撃。
それを大和は刃を掴むような形で軽々と受け止めた。
「なッ!?」
素手で難なく受け止められるという。予想していなかった出来事に困惑の表情を見せるグランダル。
「シャァアアア!!」
続く転羽。死角から気配無く近づき首を狙う形で鉄爪を振るう。
それも大和は起点を止めるような形で抑えた。
そのまま流れる様に両名の胴体へ打撃を叩き込む大和。
何とか防ぐグランダルと転羽。だが衝撃により吹き飛び壁に叩きつけられる。
「うっ!?」
「クアッ……」
何とか受け身を取り衝撃を逃す両名。だが、格下であると思っていた大和との想像以上の実力の差に思わず顔を歪める。
「どした?もう終わりか?」
「「く、クソォォオオオオオオオオオオオオッ!!」」
笑みを浮かべながら、二本の指で招くような動作を取る大和。
その態度への腹立たしさから両名は武器を構えると必死の形相で向かって行った。
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