プライベート・スペクタル

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第一章

第三節

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そこから数日後…。
ヒミコの言葉通り、情報が睦美の元に送られてきた。
それに合わせるよう大和達は各々準備を整え、司令室へと集まった。
「しかし…準備とは言っても、いつもの一張羅を着たいつもの馬鹿共の面々。仕事なんですから…もう少し装備品を凝るとか何か無かったんですか?」
「あ?ねぇよんなもん…それに準備っていうなら物でなく心の部分だよ。仕事に対して十全の動きをするにゃあ、モチベーションを高めることが一番必要だからな」
「…ふむ、物は言いようですね」
大和の屁理屈にも近い言葉に呆れる睦美。
「そんな事よりも鉄面皮…情報をさっさと教えてくれ」
「そうですね…では……」
そう言ってデバイスを取り出す睦美。プロジェクター機器に接続し壁に投影した。
「今回の作戦地域となりうる場所はユーラシア大陸の東欧、その一地域の山奥にある鉄道の廃操車場になります。この場所を敵対勢力となりうる者達は今現在使用しているそうです」
「漠然としているな…」
欧州の地図やその他の地形図。操車場の写真が写されたスクリーン。
門司の言葉を無視しながらリモコンを操作する睦美。次の画像を映し出させる。
「そして彼らが運搬・守護を行い。我々の標的とする【星具】はこれです」
映し出されたモノ。それは一振りの剣であった。
白銀に鈍く輝く肉厚の両刃。実戦で用いることのみに考えられた簡素で無骨なデザイン。
一見すると質実剛健な造りのただの西洋剣。
だが、大和と門司はその剣の異質さを感じ取っていた。
「【星具】『月下の雫ムーンドロップ』。『吸収・放射』の能力を持ち。歴史の影にその一振りありと言われる程の曰くつきの剣…俗に魔剣と呼ばれるモノです」
「だろうな…」
睦美の言葉に頷く大和。
実物の無い画面越しからでも伝わる威圧感のような強力な気配。
見た時に纏わりついた感覚は先の『無にして全』と同一に近いモノ。
紛れもない【星具】だと理解できる。
「あの婆さん。こんなとんでもないモノを要らないのか?」
「貰えるモノなら病気以外なら貰う俺達には少々理解しにくい感覚だ。だがそれでこれが俺達のモノになるんだ…ありがたい事じゃあないか」
この手には未だないが笑みを浮かべる大和と門司。
睦美はそんな皮算用的な二人を引き戻す為大きく咳払いをした。
「妄想はそこまで…我々の目標は作戦地域にて標的である【星具】を奪取すること。以上になります」
概要部分の説明を終えた睦美。
「そしてこれを…」
ある物を取り出し大和達に手渡す。
渡された物。それはインカムタイプのワイヤレスイヤホンであった。
「通信機器です。貴方達馬鹿二人に任せれば全てを猪突猛進・見敵必殺で終わらせようとするのが目に見えますからね…チェルシーも歯止めをかけないタイプでしょうですし…私がナビゲーションを行います」
「へっ、美しい信頼関係に涙が出て来るぜ」
「大丈夫ですよぅ睦美様。私も不味い時はキチンと進言いたしますよぉ…たぶん」
「それと、今作戦では、貴方達3名の他、エイプリルも連れて行って下さい。エイプリルもよろしいですね?」
「うぃ」
「連れて行くのか?」
「当然です。後々の為、彼女がどんなものか知っておく必要がありますからね…」
「おいおいオイオイ…大丈夫かよ睦美」
「まあ問題ないでしょう。馬鹿とはいえ【銘付き】の2名とチェルシーが一緒です。独断専行等の変な行動が無い限り大丈夫でしょう…」
そう言った睦美。
そこに追加で「信頼に足るかどうか?」の試験も兼ねているのだが、そこの部分は伏せておくことにした。
「うぃ、よろしくお願い致します。門司さん、チェルシーさん…それに師匠」
「まあ、鉄面皮の言い分も一理あるか……で師匠って誰だ?」
「ワシじゃよ」
「お前か」
手を上げる大和。
「一体に何があって年端も行かない娘に師に仰がれているんだよ?」
「いや詳しくは俺もわからんがよ、この数日間一緒に居て面倒を見たら急に呼ばれてよぅ…エイプリル、なんで?」
「うぃ、知見を得るために所蔵されていた書物を読ませてもらったところ。そこには「生において自らを導くに足る存在は出自の如何であれ師である」と書かれておりました。この数日間師匠と過ごしたところ、師匠はそれにあたると考え、師匠を師匠と呼ばせてもらうことになりました」
「だそうだ、俺も今聞いたけれど…」
「成程、懐かれているようで何よりだ…」
納得する門司。エイプリルも「うぃ」と誇らしげに胸を張った。
「しっかしよ~師匠って言われるタマじゃあねぇと思うんだけれどなぁ」
「良いではないですかご主人。「オイ」だの「お前」だの「馬鹿」だのではない素晴らしい呼び方でぇ、こんな可愛らしい娘に「師匠」なんて呼ばれて懐かれるなんて、世が世なら、殺されて晒されても一切文句は言えませんよぅ」
「そいつはわかる。わかりみが過ぎる。否定は一切できない」
「それに私も一安心ですぅ。もし彼女がご主人を「ご主人様」系の呼び方をされていては私の立場を狙っているんじゃあないかな?と、内心焦っておりましたのでぇ」
「案外小さい事気にすんだなお前…」
「…おぉう(ぽんッ)」
「そんでエイプリルも「それはそれで…」的なリアクションは止めような」
「話を戻しますよ美少女と馬鹿」
「おとぎ話の題名みたいな罵倒ォ!」
脱線してきたところ睦美は咳ばらいを一つする。
「兎にも角にも…今回の仕事は4名で行います。チェルシーは全体のサポート。エイプリルはきっちりと見学。そして……馬鹿は馬鹿なことして馬鹿な問題を起こさないように…」
「承知いたしましたぁ」
「うぃ」
「馬鹿馬鹿言い過ぎじゃね?」
「では早速行きましょうか」
「…師匠。そう言えば今から向かって間に合うのでしょうか?……我々の『領域』の入口は日本が主、今から出て飛行機に搭乗となればかなりの時間がかかるかと…」
「ああそうか、そういう部分はまだ教えていなかったな…まあ大丈夫だ?」
「?」
首を傾げるエイプリル。
一方で睦美は【領域】に入る時と同じ形の鍵を取り出し、近くの扉へと差し込んだ。
かちゃりと開く扉。躊躇なく入っていく大和達。エイプリルも後に続く。

扉の先。それは複数の扉が向かい合ったホテルの廊下のような空間であった。
「師匠、こちらは?」
「【無間回廊ユビキタス】。俺達【星】の共用移動空間ってところだな…」

【無間回廊】
【星】達の共同移動用空間である。
【星】が異空間を利用、そこに【領域】を創り出し生活や移動に使うというのは先に説明した通り。仲間や本人、許可や座標を得たものでしか、その場に行くことは出来ない。
だがこの【無限回廊】だけは異なる。あるという認識さえ知っていれば誰だって行くことが出来るし誰だって招くことが出来る。
【星】は此処を利用することであらゆる遠隔地に一瞬で向かうことが可能なのである。

「まあ行く位置は知っておかなければならないけれどな…これさえあればどこでも一瞬、地球真裏すら余裕ってわけだ」
『ちなみに共有であるが故。戦闘行為はご法度、違反すれば厳しいペナルティが課せられます…まあ良識ある【星】ならそんな愚行は犯さないですがね』
「睦美さん!?」
「んだよ、聞いてたのか?」
『ええ、通信機の動作チェックも兼ねて……それよりもさっさと先に進んだらどうです?確かに【無間回廊】を使えば目的地近くまで移動できるとはいえ、ダラダラ歩く理由にはなりませんからね…』
「そりゃそうだ」
溜め息交じりでそう言った睦美。尤もだと感じた大和達は廊下を進む。
少し進むと開けた場所が現れた。
円形状のホールのような空間。等間隔で囲むように並んでいる多くの扉。
まるで高層ビルのエレベーターホールのような場所。
そんな場所には一人の先客がいた。
場所の中心に事務机を置き席に腰かけ、何かを一生懸命に作業している少女である。
図書館司書のような身なりの少女が無表情のまま昔の立方体のようなパソコンに張り付き一心不乱にタイピングを行っていた。
「失礼…春日・睦美の者だ…」
「……………」
「師匠。門司さんを一瞥することなく何かを入力しているあの方は?」
「アイツはファスト。【無間回廊ここ】の管理人だよ。アイツにお願いして行きたい場所に繋げてもらうんだ」
「成る程……ですが、聞いているのか心配になるような態度ですね」
「不愛想はデフォルトだから気にするな、仕事はきっちりしているからよ」
目の前でそんなやり取りを繰り広げていても一切動じない少女ファスト。
書類の一つを取り出し書き殴る様にサインを行う。
するとホールの中の扉の一つが開いた。
「んじゃ行こう」
開いた扉に入る大和。門司とチェルシーも続けて入る。
睦美も後へと続いた。
扉の中は少し狭めの部屋のような空間。制御盤が扉近くに置かれエレベーターを思わせる。
全員が入ると扉はゆっくりと閉まった。
「これで場所が繋がるんだよ、そして次に扉が開いた時……」
開かれた扉。
「こうなる……」
扉の先は見知らぬ場所であった。
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