目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません

さち姫

文字の大きさ
上 下
100 / 105
第2部

帝国へ(フィアット家)9

しおりを挟む
「ターニャ!」
名を呼ぶと、離れた場所ながらも急いでそばに来てくれた。
「はい、公爵令嬢」
「帰るわ。もう、ここには用は無い!」
あえて大きな声でいい、必死に消火作業や片付けをしている人達を睨みながら歩いた。
背後から、嫌悪感に満ちた私への悪口雑言が聞こえた。
当然だろう。
ヴェンツェル公爵家の為に働いてくれているのに、労いもなく、怒鳴り散らして終わり、なんて、憤る気持ちになる。
「公爵令嬢、本気、ですか?」
不穏な空気に、ターニャは戸惑いながらも、ついてきた。
「私はこの国では、非道な令嬢なの」
これでいいのよ。
「だから、あえて先程のような罵倒を浴びせていたのですね。いやあ、驚く程似合ってましたよね。私だけでなく、特に自国の者達が、最低女だ、と吐き捨ててました」
ああ、と得心を得たように楽しそうに笑いだした。
「いちいち教えなくていいから」
「しかし、落ち込んだ時の、私はこの世の不幸を背負った令嬢です、と言わんばかり顔で、人のお情けを乞うような顔するくせに」
「いちいち教えてなくていいから」
そ、そんな顔してるの?
「今のように、鬼の様な非情な顔と声で威圧を掛けてくるなんて、いやあ、敵にしてはいけませんね。それで、これからどうされるのですか?」
なんだが、面白がるように言われた。
「何も」
「何も?」
「そう、何もしないわ。クルリとリューナイトは捜索は打ち切って貰う。こちらで見つけ、帝国へと一緒に向かった、と噂を流すようにに頼んだわ」
「公爵令嬢! ?」
一気に表情が凍り、逼迫した声を出した。
「申し訳ありませんが、今のお言葉は、まるで本気で捜索を打ち切ったように聞こえました!」
「本気よ。捜索は終了よ」
「馬鹿な!貴方様の大切な召使い達でしょう!その為に我々はここに来たのではありませんか!?」
「静かにしなさい、ターニャ」
顔を青ざめながらも、納得いかないとギリッと睨んできた。
「落ち着きなさい。2人が、私の代わりに連れ去られたのは聞いたでしょう?捜索すればする程、こちらの手駒が誰だか顔が割れていく。それは是が非でも避けたい。それに、捜索をして見つかるような愚かな連中ではないでしょうね。それならば、クルリとリューナイトはこちら側で保護したと流し、捜索を打ちきればどうなる?」
「偽物だと思い、直ぐに殺されます」
「どうかしら?」
すい、とターニャを見つめた。
「私ならそうしないわ。元々馬車に乗っていたのは私の身代わり。その時点から、全てが狂っている。では、捕えた2人は本当に、クリンとリューナイトか?偽物なのか、本物なのか?では、誰がそれを確認できる?誰も出来ないわ。でも、確認したいでしょうね。本物なら、餌として使える」
「そこを、狙って捕まえるのですね」
「そうよ。綻びは必ず出てくる。それに、生きて帰ってくる確率は少ないわ。私でなければ、用は無いでしょうから、違う手を使ってくるはず。それならば、死体から証拠を探すわ」
「非情になるのは結構です。情はスティング様の言うように、綻びを生んでしまいます。しかし、貴方様がどこまで冷酷になれますか?」
ターニャの見透かすような言葉と表情から逃げるように顔を背けた。
ギリギリと胸が痛み、狂いそうだった。
そうしなければ前に進めないのよ!
自分の気持ちが1番弱いのは、私が知っている!現実逃避をしたいのをどれだけ我慢しているかわかる!?
でも、できないのも分かっていた。
そうした所で、2人は戻ってこない。
それなら、前に進むしかない。
掴んだ情報が、2人の犠牲の上に成り立つなら、
無駄にできない!
「何を言っているの。現実を見ているだけよ。さあ、フィーのカレンの所へ案内して。それと、ザンにも言っておいて。外では、私の事を公爵令嬢と呼ぶように、と」
「御意」
一瞬足をとめ、綺麗に頭を下げると、すぐに私の前を歩き出した。
顎を上げ、睨みながら歩いた。
襲われたヴェンツェル公爵家の馬車の後を片付けてくれている人々から、嫌悪感を感じる目線と、聞こえるような悪口が耳に入る。
何故か笑いが出た。
悪女、か。
優しい言葉をかけられ、ぬるま湯に浸かるよりも、棘の道を歩く方がずっと私を気高く、冷酷にしてくれる。
「何をしている!!ヴェンツェル公爵令嬢である私が通るのよ、さっさと前を開けなさい!!ターニャ、汚い人間達を退かせなさい!!」
あまり広くない道を、バケツを持つもの、燃えた木々を拾う者達が、怒りの目を向けた。
「誰のためにやっていると思っているんだ!」
溜まりかねて男が怒鳴ってきたのを、ターニャが溝打ちに1発殴った。
余計に空気が悪くなった。
「誰にものを言っているか、分かっているの?お前達が、ヴェンツェル公爵家の為に動いて当たり前でしょう!無駄口を叩く前にさっさと動きなさい。ターニャ、早く馬を寄越しなさい!こんな汚らしい場所から早く出たいわ!」
「申し訳ございません、公爵令嬢。前を開けろ!!」
ターニャの言葉に帝国騎士が動き出し、作業をしている人達を羽交い締めにしながら脇に寄せ、前を開けた。
悪口雑言の花道をぬけながら、私は悠々と歩いて行った。
ターニャは、無表情のまま私の背後からついて歩いてきてくれた。
馬に乗るのすぐ様その場を離れ、近くの水飲み場の休憩で、ターニャは 詰め寄ってきた。
「あそこまでする必要があるのですか!?」
「あるわ。敵を欺くにはまず味方から、と言うでしょう。私の味方は、本当に数少ない。それに、救助作業をしている人達は、ヴェンツェル公爵家の者達ではなかったわ。勿論何人かはヴェンツェル公爵家の騎士がいたけれど、その者達はちゃんと分かっている顔をしていたわ」
リューナイトが説明しているのだろう。私を見る眼差しが、覚悟を決めていた。
いや、むしろ私よりも辛い気持ちでいる筈だ。目の前で、クルリとリューナイト連れ去られたのだ。心中穏やかでは無いだろうし、私に合わせる顔もなかっだろう。
「いいのよ、これで。ところで、フィーとカレンは何処で待ってるんだろうね。疲れたから、ゆっくり休みたいんだけど、宿とか取れてるのかなぁ。ねえ、どう思う?」
うーんと背伸びしながら聞くと、
え!?
と、何故か微妙な顔をし、まあまあ、の所ですよ、と変な事を言った?
どういう意味?




しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...