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第2部
帝国へ(フィアット家)4
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慣れない場所と不安から、寝付けなくて外に出た。
残念ながら月は雲に隠れどんよりとした空に、湿気が肌を気持ち悪く纏っていた。
明日は雨かなあ。
ある程度の屋敷の見取り図を貰っていたし、差程広くにい敷地内のお陰で地図通り、馬屋にやってきた。
嘶きと草の香りが、気持ちを落ち着かせた。
ガルマ様が部屋から出た後、フィアット子爵様のご家族と一緒に夕食をしたが、とても楽しかった。
急な滞在の為、もてなしが不安だと何度も申し訳なさそうに言われだが、郷土料理をメインにした料理はとても美味しかった。
天候が良い国の為、海の魚は豊富でははない。つまり、温暖地域の海では魚が取れる種類が少ないのだ。
その魚を上手く干し、焼いてくれていた。
心がこもったもてなしと、一生懸命礼を尽くそうと言う気持ちが伝わり、その想いに私達はとても満足した。
だが、お疲れだろうと気を使ってくれ、早めに食事が終わらせ直ぐに部屋で寛ぐように薦めてくれた。
有難かった。
1人になりたかった。
夏の生暖かい風か体にまとわりつき、暑さの為頭がぼんやりととして働かなった。
それでも、1人になりほっとしたし、暑さと疲れのためにぼんやりとしたお陰で、今の状況を追い詰める自分がいなかった。
自分でも思う。気になる事は突き止め、追い詰め疲れてしまう、悪い癖だ。
だからこそ暗示にかかりやすく、また、それが洗脳だと周りも気づかなかったのだ。
フィーとカレンに出会えたお陰で、私は、己の創った狭い世界から、
外に出で、
殻に籠り足掻いていた己を知ることが出来た。
その1歩が、
全てを変えた。
全てを見せてくれた。
己の狭い世界と向き合い、己を気づかせてくれた。
とても、感謝している。
だから私は、私の気持ちに素直に生きたい。
がさりと足音が聞こえ、振り返ると、フィーが気まずそうにたっていた。
「フィー?」
「ごめん。邪魔したか?」
「ううん。寝れなくて外に出ただけよ。フィーも寝れなかったの?」
「・・・違う。ずっとスティングの部屋の前にいて、いつ扉を叩こうかと思っていたら、スティングが外に出てきたから後を追ったんだ」
「いつからいたの?結構前でしょう?」
苦笑いしながら私の前にやってきた。
「お見通しだな。夕食が終わってからだ」
「そんなに前から!?」
2時間はあるわ。
「かな?時間なんか見てない」
私の目を離さず近寄ると、手を握ってきた。
「フィー」
顔を上げ、優しく見つめる金色の瞳に自分が影のように揺らめいた。
「何?」
「お父様から、フィーの事を考えてあげて、と言われたわ」
「ヴェンツェル公爵様から?」
「うん。ずっと私の事をお父様に聞いていたんでしょ?」
「・・・聞いたのか?」
「うん」
繋ぐ手をより強く握り、頭をフィーの胸にもたれた。
「・・・そんなに前から想っているなんて知らなかった。私はずっと殿下のことばかりに夢中で、きっと嫌な女に見えたでしょう?」
「正直見ていていい気分はしなかった。俺ではない他の男の為だけに尽くし、それが報われないと分かっているのに、笑っている姿は結構辛かった」
「そう・・・ね。ずっと前から気づいていた。殿下の心にはいつもレインがいて、どんなに私が尽くしても」
最も側にいても、
「その心には届かない」
分かっていた。
触れる程に近くにいても、
寄り添える程に近くにいても、
まるで蜃気楼かのように手を差し伸べると、消えていく。
「それでも、私は愛していたわ。それが洗脳から作られた想いだったとしても、殿下に対する想いは確かに私の心にあったわ」
フィーの手が動揺するように震えた。
それが、殿下に対する怒りなのか、それとも私が愛していた、と言った言葉に対する戸惑いなのかは分からなかった。
握っている手をゆっくりと外し、私は腕をフィーの背中にまわし、抱きついた。
「フィー」
「・・・何?」
少し緊張気味の声で返事をしながら、私の背中に腕をまわし、抱きしめてくれた。
「これからはあなたに縋るわ。まだ、この気持ちが愛なのか、友情なのか分からない。でも・・・側にいたい、と思う気持ちは強くある。フィーの胸の中は・・・とても落ち着くね」
心臓の音がとても心地よく、安心する。
「嫌な女になるかもしれない。最後にあなたを選ばないかもしれない。それでも・・・縋りたいの。側にいて欲しいの」
「前は・・・見ているだけでも、少しでも側に入れたらそれでいいと思っていた」
わざと耳元で囁いてきた。
身体中が痺れるように、力が抜けていく。
「だが、今は違う。スティングが俺を選ぶように俺が努力する。ずっと縋っていたい、という男になる」
回された腕がより強くなり、
それ以上に、
フィーの意思が強くて、
きゅんと胸が高鳴った。
「ありが・・・とう・・・」
胸が熱くなり、涙が零れた。
私は卑怯だ。
フィーの恋心も、
カレンの友情も、
強大な帝国をも、
利用し、
たかだか小さな自国を護ろうとしている。
それでも、これが、私の本心だ。
私が、
国を変える。
残念ながら月は雲に隠れどんよりとした空に、湿気が肌を気持ち悪く纏っていた。
明日は雨かなあ。
ある程度の屋敷の見取り図を貰っていたし、差程広くにい敷地内のお陰で地図通り、馬屋にやってきた。
嘶きと草の香りが、気持ちを落ち着かせた。
ガルマ様が部屋から出た後、フィアット子爵様のご家族と一緒に夕食をしたが、とても楽しかった。
急な滞在の為、もてなしが不安だと何度も申し訳なさそうに言われだが、郷土料理をメインにした料理はとても美味しかった。
天候が良い国の為、海の魚は豊富でははない。つまり、温暖地域の海では魚が取れる種類が少ないのだ。
その魚を上手く干し、焼いてくれていた。
心がこもったもてなしと、一生懸命礼を尽くそうと言う気持ちが伝わり、その想いに私達はとても満足した。
だが、お疲れだろうと気を使ってくれ、早めに食事が終わらせ直ぐに部屋で寛ぐように薦めてくれた。
有難かった。
1人になりたかった。
夏の生暖かい風か体にまとわりつき、暑さの為頭がぼんやりととして働かなった。
それでも、1人になりほっとしたし、暑さと疲れのためにぼんやりとしたお陰で、今の状況を追い詰める自分がいなかった。
自分でも思う。気になる事は突き止め、追い詰め疲れてしまう、悪い癖だ。
だからこそ暗示にかかりやすく、また、それが洗脳だと周りも気づかなかったのだ。
フィーとカレンに出会えたお陰で、私は、己の創った狭い世界から、
外に出で、
殻に籠り足掻いていた己を知ることが出来た。
その1歩が、
全てを変えた。
全てを見せてくれた。
己の狭い世界と向き合い、己を気づかせてくれた。
とても、感謝している。
だから私は、私の気持ちに素直に生きたい。
がさりと足音が聞こえ、振り返ると、フィーが気まずそうにたっていた。
「フィー?」
「ごめん。邪魔したか?」
「ううん。寝れなくて外に出ただけよ。フィーも寝れなかったの?」
「・・・違う。ずっとスティングの部屋の前にいて、いつ扉を叩こうかと思っていたら、スティングが外に出てきたから後を追ったんだ」
「いつからいたの?結構前でしょう?」
苦笑いしながら私の前にやってきた。
「お見通しだな。夕食が終わってからだ」
「そんなに前から!?」
2時間はあるわ。
「かな?時間なんか見てない」
私の目を離さず近寄ると、手を握ってきた。
「フィー」
顔を上げ、優しく見つめる金色の瞳に自分が影のように揺らめいた。
「何?」
「お父様から、フィーの事を考えてあげて、と言われたわ」
「ヴェンツェル公爵様から?」
「うん。ずっと私の事をお父様に聞いていたんでしょ?」
「・・・聞いたのか?」
「うん」
繋ぐ手をより強く握り、頭をフィーの胸にもたれた。
「・・・そんなに前から想っているなんて知らなかった。私はずっと殿下のことばかりに夢中で、きっと嫌な女に見えたでしょう?」
「正直見ていていい気分はしなかった。俺ではない他の男の為だけに尽くし、それが報われないと分かっているのに、笑っている姿は結構辛かった」
「そう・・・ね。ずっと前から気づいていた。殿下の心にはいつもレインがいて、どんなに私が尽くしても」
最も側にいても、
「その心には届かない」
分かっていた。
触れる程に近くにいても、
寄り添える程に近くにいても、
まるで蜃気楼かのように手を差し伸べると、消えていく。
「それでも、私は愛していたわ。それが洗脳から作られた想いだったとしても、殿下に対する想いは確かに私の心にあったわ」
フィーの手が動揺するように震えた。
それが、殿下に対する怒りなのか、それとも私が愛していた、と言った言葉に対する戸惑いなのかは分からなかった。
握っている手をゆっくりと外し、私は腕をフィーの背中にまわし、抱きついた。
「フィー」
「・・・何?」
少し緊張気味の声で返事をしながら、私の背中に腕をまわし、抱きしめてくれた。
「これからはあなたに縋るわ。まだ、この気持ちが愛なのか、友情なのか分からない。でも・・・側にいたい、と思う気持ちは強くある。フィーの胸の中は・・・とても落ち着くね」
心臓の音がとても心地よく、安心する。
「嫌な女になるかもしれない。最後にあなたを選ばないかもしれない。それでも・・・縋りたいの。側にいて欲しいの」
「前は・・・見ているだけでも、少しでも側に入れたらそれでいいと思っていた」
わざと耳元で囁いてきた。
身体中が痺れるように、力が抜けていく。
「だが、今は違う。スティングが俺を選ぶように俺が努力する。ずっと縋っていたい、という男になる」
回された腕がより強くなり、
それ以上に、
フィーの意思が強くて、
きゅんと胸が高鳴った。
「ありが・・・とう・・・」
胸が熱くなり、涙が零れた。
私は卑怯だ。
フィーの恋心も、
カレンの友情も、
強大な帝国をも、
利用し、
たかだか小さな自国を護ろうとしている。
それでも、これが、私の本心だ。
私が、
国を変える。
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