上 下
78 / 105
第1部

77王妃様との決戦

しおりを挟む
「申し訳ありません」
私は膝をつき、深く頭を下げた。
「申し訳ありません!!」
私の言葉に続き、幾つもの、いいえ、幾百もの謝罪の声がホールに響いた。
軽く片膝をつく私に比べ、背後に控える爵位ある貴族、そう、クラウスを筆頭に、左右に並ぶ召使い達が土下座をしている。
鬼気迫る異様な空気が否応でも漂う。
「私の配慮不足と経験不足の為、このような事態になり大変申し訳なく思っております」
「な・・・何故・・・何を・・・?」
狼狽え、意味がわからないと、御前に立つ王妃様と比べ、その横に立つ陛下は平然とした表情が、私の気持ちをより高鳴らせた。
「スティング殿、理由を聞こう」
「はい、陛下」
頭を上げ、慎重に言葉を選びながらも、陛下の気持ちはこちらにある、と確信する。
陛下の言葉の中に隠れる真意が、
想いが、
今、
ようやく芽吹いている。
微笑み、と言う蓋で無理に沈め、諦めという蓋でさらに重ねた秘めた想いを、
私が、
叶えてみせます!
すっと、立ち上がり悲痛な面持ちで前に立つ陛下と王妃様を見つめた。
「私の通う学園での失態を痛感しながら、昨日の非礼を起こしていまい至極不本意極まりなく思っております。その為このような場を設けさせて頂きました」
やっと私の行動の意味を理解したようで、王妃様の顔色が変わったが、もう遅い。
「学園での、帝国皇子、皇女様に対する無礼を目の当たりにしながら、昨日の王宮での、帝国皇子、皇女様への、無作法者の対応にお2人は大変ご立腹され、私の屋敷に帰るや否や私は多大なる説教を受けました」
嘘だけどね。
まず、フィーとカレンの顔をまともに知っている召使いは然程いないと知っているから、あえて、私から少し離れて歩くように頼んだ。
王妃派は私に挨拶をしない上に、侮蔑の顔で笑ってくる。
その態度の中、私の後から歩く2人に同じ対応をしてくれた。
おもうつぼだ。
そして、公爵派は私の顔を見るや否や、たとえ遠くとも私が目前を通るまで、ずっと頭を下げていた。
そのあまりにも対応の違いに、怒っていたには間違いはない。
悪いけど、使える物はなんでも使う。
そこまで私達の立場は、差し迫っている。
高等部を卒業した時点で、私は、本当の意味で殿下の婚約者となる。
その時、私の立ち位置で、全てが決まる。
勿論最終的に私は、正式な婚約披露の前に殿下の傍を離れるが、今離れるのはあまりに危険だ。
そうなれば、私は、ただの貴族令嬢となり、王宮に出入りも出来なくなる。
そうなれば、王妃派に潰され、公爵、と言う爵位の意味も瓦解してしまう。
そんな事があってはならない。
王妃派が、存在しても構わない。
それは公爵派、あってこそ。
立場の違う者達が切磋琢磨する事で成り立つ国の繁栄を、一角だけになっては独裁国家となり、滅び行くだけだ。
わかっておられますか、王妃様?
あなたは今、その危うい国を、作ろうとしているのです。
それは、
絶対に、
叶えてはいけない。
「たとえ王妃様の慈深く、お優しい心があり、全てお許しになりたいと切に願っても」
あえて言葉を切り、王妃様を見ると、ぎっと睨んできた。
あなたが誰かに流させた、ご自分の印象です。
噂の言葉、ですよ。
私は間違った事は言ってないわ。
「私は、ヴェンツェル公爵家の娘であり、殿下の婚約者であります。その私が帝国皇子様、皇女様を王宮に招き、このような結果になり大変重く受け止めております。責は全て私が負います!このスティング・ヴェンツェルが、陛下、王妃様の、ご慈悲を頂き、この者たちを処罰致します!!」
響く私の言葉と裏腹に、一気に吹き出すように土下座する誰もが王妃様への懇願言葉がひしめき合った。
目線も、思いも全て、王妃様。
助けて欲しい、
と、
泣き喚く。
さて、王妃様?
あなたが私を貶める為に使った人達を、
助けれるかしら?
ホールに響く阿鼻叫喚の間をぬってゆっくり歩く。
誰もが王妃様にしがみつくように集まり、それを必死に剥がす醜い姿の王妃様。
それを冷静に見つめる陛下。
ある意味この方が一番の被害者かもしれない。
愛する者と結ばれる事を夢見た筈が、
立場の為それを無くし、
国の犠牲となった、
石楚。
その結果が、これだ。
最善を尽くした、
その時が、
たとえ結果が良かったとしても、
人の気持ちは、
変えられない。
涙が出そうになったのを、ぐっと我慢した。
まだ、よ。
まだ、終わっていない。
そう、
まだ、よ!
この真夏の中轟轟と燃える暖炉へと足を勧め、
その熱さが、
私の気持ちを、落ち着かせた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~

氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。 しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。 死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。 しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。 「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」 「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」 「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」 元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。 そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。 「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」 「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」 これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。 小説家になろうにも投稿しています。 3月3日HOTランキング女性向け1位。 ご覧いただきありがとうございました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...