目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません

さち姫

文字の大きさ
上 下
76 / 105
第1部

75コリュ目線1

しおりを挟む
「ガンダラ、俺に住む場所をくれ」
ボロボロの家、と言うには家とも呼べない、つぎはぎだらけの板でどうにか作った
四角いハリボテ?
一応家?
どっちでもいいがそこで俺は、俺なりに頼んだ。
目の前に座るガンダラが、俺の言葉に胡散臭い顔だ。
ガンダラと俺が呼んだ男は、この貧民街の、
えーとな、
つまり、
長だ。
確か40代と聞いているが、赤茶色の髪に隙を見せない赤い眼光からはもっと年上に見えた。
無駄の無い筋肉質な体に、幾つも切り傷や刺傷があるのは誰もが知っている事だ。
貧民街と外では呼ばれているが、実際ここは1つの国の様に成り立っていている。
そこで長として認められているという事は、過酷な環境を生き抜いたからこそだろう。
平民街の奥にこの貧民街があるのだが、特に塀や仕切りがある訳ではなく、そのまま繋がっている。
たが、境目と言える場所に小屋があり、貧民街の人間が交代で見張り、部外者がやってくると追っぱらわれる。
それは子供でも容赦ない。
俺は、平民街にいる友人の親がこの貧民街生まれだった為と、お前ならここでやっていけそうだな、とか言われ連れてきてもらったのが今思えば功を奏した。
この貧民街は、王都とその周辺の街が範囲となり、それぞれそこを治める者がいる。特に呼び方が決まってないが、選考はちゃんと選挙で決める。
この王都の街はでかいから、治めるナワバリを決め3人いるのだが、そのうちの1人がこのガンダラだ。だから、この辺りで何かしようと思ったら、ガンダラに頼むしかない。
ちなみに他の街は1人しかいない。
あちこちから綿が出て、ネジもあちこち出たソファに俺は座り、俺の前に座る中年の男ガンダラは、呆れた顔をしながらも、腕を組み、考えてくれていた。
「お前、貴族だろ?」
神妙な声で、確認するように聞いてきた。俺の頼み方云々ではなく、気になるのはやはりそこ、か。
貴族。
貧民街の民は誰も貴族に好意を持っていない。
かと言って平民街に住んでいる奴を仲間として見ているのか、と言えばそれも違う。
本当に、ここは、一国なのだ。
邪魔するやつは全て敵。
その中で貴族は弊害でしかない。
貧民街に住む人々を人間として扱わず、まるでゴミのように見てくる。
国から対した補助もない為、余計気貴族を敵対するのは仕方ないだろう。
「もうすぐ、廃嫡になる。どうせ皆知ってるんだろ?俺の家が色んな失敗して、爵位返上させられる上に借金まみれ。その失敗の原因が俺だ、と」
「噂は聞いている。たが、王妃に助けて貰えるようになったからこれからは貴族らしい生活をする、と言って去って行ったんだろうが、帰ってくるのがえらく早いな」
人をからかうような言い方になった。あの言った時、俺が喜んで出て言った訳ではないと知っているからだ。
「そりゃあ上手くいくと思っていたからな。王妃様が助けてくれたら、父さんのワインがもっと売れて金持ちになる、と思ってたが世の中そんな甘くなかった」
これは本当だ。
父さんだけでなく、家族も農園で働く皆も一心に喜んでどれだけの希望をもったか。
たが崩れるのも一瞬だった。
「売れなかったのか?」
「売れないと言うよりも、知りもしない奴を取引相手にしてくれなかった、というだけさ。王妃様は確にいい商人を紹介してくれたが、俺達を助けてやれ、とは言わなかったみたいだ。その商人から二束三文の値段なら取引する、と父さんに言ったらしい」
「一杯食わされたのか。それが気に入らなくて、腹いせに帝国のお偉いさんに食ってかかったのか。お前は口が悪いわ、手が早いわ。出ていくと聞いた時は逆に心配したが思った通りになったな!それも、相手が帝国のお偉いさんだなんて、お前やってくれるな。そりゃあ、あっちの世界じゃ生きれねーな!!」
ガッハッハッと楽しそうに笑いだした。
なるほどな、そういう風に解釈されたのか。
「その通りだ。その上公爵令嬢にも喧嘩売ってるからさあ、謝罪がないから、廃嫡だ、と言われてさ、こりゃマジで俺はここでしか住めないわ、と思ったわけさ。それと、卒業したら前に教えただろ?幼なじみのクレスと結婚する事になってるから、今から足場を固めとこうと思ってさ」
「お!ついに結婚するのか。よく話に出ていたもんな。だが、お前はともかく、貴族の嬢ちゃんだろ?ここでいいのか?婆さんがここに住んではいたが、嬢ちゃんは生まれた時から貴族だろ?」
「そこは話をした。と言うよりも、クレスも王妃様に騙された口なんだ。だから、貴族世界から離れて暮らしたい、と言っていた」
これは嘘だ。
さすがに貧民街は、嫌だ、と言われたが、悪いが少しずつ慣れていって貰うつもりだ。
最悪、スティング様が失敗した場合、本当にここに住むことになる。
上手く行けば、平民街で暮らせばいい。
「そうか、貴族世界ってのはやっぱり面倒だな。だが、わかった。幾つか空き家になってるところがあるから、適当に見繕ってやるよ」
「ありがとな。出来れば早い方がいいな。早く家から出て行け、と爪弾きされてるんだ。俺が家にいると、目障りらしい」
「そりゃそうだろ」
また、ガッハッハッと笑いだのが、あまりに楽しそうで、
むかっ、とした。
俺をどういうふうに思ってるんだ?


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...