1 / 105
第1部
1
しおりを挟む
「あの、殿下。最近ご一緒に帰っておりません。今日はお忙しいですか?」
放課後急いで教室を出ようとする殿下に声をかけ、引き止めた。
「そうか?卒業パーティーの準備で忙しいんだ」
明らかに嫌そうに私を見ると、ため息を出した。
「でも、生徒会の仕事はもう終わってましたよね?3年生はもう何もする事はないと聞きました」
帰ろうとする殿下の袖を少しだけ掴むと、嫌がる素振りを見せた時に声がした。
「ガナッシュ!ごめん遅くなったわ。あら、スティングも帰る所?」
楽しそうな声と共に、殿下の腕に絡みながら、私の顔を見る。
ぐっと胸が痛くなる。
「レイン殿。殿下を学園内で愛称で呼ぶのは失礼にあたりますとお伝えしましたよね?」
「ええ?だってガナッシュがいいって言ったもん。ねえ?」
甘える声に殿下はレイン殿に微笑み、私には鋭い瞳を向けた。
「そうだ。私が許しているんだ。だが、レイン。もう少し小さな声で名前を呼ぶんだ。2人きりの時にと言っただろ?」
まるで恋人にでも言うような、いさめ方で囁いた。
2人きり?私が婚約者であるのに、そんな事を言うのですか?
私には1度も愛称で呼ぶことを許しもせず、そんな顔も見せたことがない。
「だってえ、ガナッシュはガナッシュでしょう?そんな面倒なこと出来ないよ。スティングが硬すぎるだよ。だって私達、生まれた時から一緒にいるんだよ。スティングよりもずぅぅぅぅっと仲良いのに、無理だよ、ねえ?」
この方は、無邪気な声にいつも剣を隠し、私の胸を突いてくる。
「レイン殿。前々から私の名も呼び捨てはおやめ下さいと忠告しております。周りに示しがつきません」
「スティングは硬すぎるよ」
「お前、レインをまた平民だと馬鹿にしているんだろ」
さすがに廊下で声を荒らげることはされなかったが、殿下は威圧のある声で私にぶつけた。
「いいえ、殿下。私はそのような事を口にしたことはありません」
「そんなにお前は平民を馬鹿にしたいのか?自分が公爵だからと言って高飛車なのだ。恥を知れ。レインは私の幼なじみ。そのレインを使って平民を馬鹿にするのはよせ」
「違います。私は平民を馬鹿にした事も、見下した事もありません。ですが、殿下を愛称で呼ぶ事も、私を呼び捨てで呼ぶ事が出来る人間はひと握りでございます。その方とレイン殿が同等に見られるのは、殿下にとっても差し障りが出て参ります」
「そ、それはそうだが・・・」
何故そんなに困惑した顔になるの?
考えればすぐに分かる事よ。
平民を馬鹿にする訳では無いが、平民のレインをそこまで特別扱いしてはいけないのよ。
「なによお。じゃあ私が、殿下、と呼ぶの?ガナッシュは、それがいいの?」
「それは嫌だ」
違うでしょ?
嫌だとかの問題ではないのよ。
もっと立場を考えて、と言っているのよ。そんな難しいことでは無いわ。
レインにも幾度も注意しているのに、理解して貰えない。
「だよねえ。だってさあ、ガナッシュとスティングは結婚するんでしょ?貴族だもんね。貴族には教育とか立場とか色々あるんだろうけど、私関係ないもん」
違うわ。
あなたがいるから殿下の評価が落ちていくのよ。
私は、
私の殿下を、
大切にしたいのよ!
「やだなあ、顔怖いよ。ねえ、帰ろうよ。今日は花屋によってくれる約束でしょ?」
殿下、卒業式の準備、と言われましたよね?
「ああ。そうだったな、レイン」
殿下、約束されているのですか?
「はあ、お前と言う奴は何故そんなに心が狭いんだ。レインのように優しくなれないのか?」
ちっ、と私に舌打ちしたが、直ぐに柔らかな顔になり、レイン殿を見た。
私の心が狭い?
私はこれ程までに殿下の事だけを想っているのに。
「もう、スティングを怒っちゃダメだよ。もともと狭い人なんだから」
からかうつもりもなく、当然のように言う言葉が、私の胸を抉っていく。
「じゃあね、また明日ね。あ、そうか一緒に帰りたいんだよね?ガナッシュ、一緒に帰ってあげようよ。何か可哀想だよ。たまには3人で帰るのも楽しいかもよ」
とても楽しそうに微笑み、私を見ると、殿下の手と私の手を取り引っ張った。
寒気を感じすぐに払った。
「どうしたの?皆で帰った方が楽しいよ?」
意味がわからないと首を傾げるレイン殿に、湧き上がる感情を抑えるのに必死だった。
馬鹿じゃない?
この状況で三人で帰る?
殿下の嫌そうな顔を見たでしょ?
よく言えるわ!
「レインの優しい気持ちをこいつは嫌なんだとさ。2人で帰ろう」
「そう?スティング、帰りたい時は教えてね。ガナッシュに言ってあげるからね。じゃあね。ねえ、花屋の後はガナッシュの所に遊びに行ってもいい?」
「いいよ。帰りは送ってあげるよ」
教えてね。
言ってあげるから。
遊びに行ってもいい?
聞こえてくる2人の楽そうな内容に、我慢よ、とおまじないのように言う自分に笑いが出た。
放課後急いで教室を出ようとする殿下に声をかけ、引き止めた。
「そうか?卒業パーティーの準備で忙しいんだ」
明らかに嫌そうに私を見ると、ため息を出した。
「でも、生徒会の仕事はもう終わってましたよね?3年生はもう何もする事はないと聞きました」
帰ろうとする殿下の袖を少しだけ掴むと、嫌がる素振りを見せた時に声がした。
「ガナッシュ!ごめん遅くなったわ。あら、スティングも帰る所?」
楽しそうな声と共に、殿下の腕に絡みながら、私の顔を見る。
ぐっと胸が痛くなる。
「レイン殿。殿下を学園内で愛称で呼ぶのは失礼にあたりますとお伝えしましたよね?」
「ええ?だってガナッシュがいいって言ったもん。ねえ?」
甘える声に殿下はレイン殿に微笑み、私には鋭い瞳を向けた。
「そうだ。私が許しているんだ。だが、レイン。もう少し小さな声で名前を呼ぶんだ。2人きりの時にと言っただろ?」
まるで恋人にでも言うような、いさめ方で囁いた。
2人きり?私が婚約者であるのに、そんな事を言うのですか?
私には1度も愛称で呼ぶことを許しもせず、そんな顔も見せたことがない。
「だってえ、ガナッシュはガナッシュでしょう?そんな面倒なこと出来ないよ。スティングが硬すぎるだよ。だって私達、生まれた時から一緒にいるんだよ。スティングよりもずぅぅぅぅっと仲良いのに、無理だよ、ねえ?」
この方は、無邪気な声にいつも剣を隠し、私の胸を突いてくる。
「レイン殿。前々から私の名も呼び捨てはおやめ下さいと忠告しております。周りに示しがつきません」
「スティングは硬すぎるよ」
「お前、レインをまた平民だと馬鹿にしているんだろ」
さすがに廊下で声を荒らげることはされなかったが、殿下は威圧のある声で私にぶつけた。
「いいえ、殿下。私はそのような事を口にしたことはありません」
「そんなにお前は平民を馬鹿にしたいのか?自分が公爵だからと言って高飛車なのだ。恥を知れ。レインは私の幼なじみ。そのレインを使って平民を馬鹿にするのはよせ」
「違います。私は平民を馬鹿にした事も、見下した事もありません。ですが、殿下を愛称で呼ぶ事も、私を呼び捨てで呼ぶ事が出来る人間はひと握りでございます。その方とレイン殿が同等に見られるのは、殿下にとっても差し障りが出て参ります」
「そ、それはそうだが・・・」
何故そんなに困惑した顔になるの?
考えればすぐに分かる事よ。
平民を馬鹿にする訳では無いが、平民のレインをそこまで特別扱いしてはいけないのよ。
「なによお。じゃあ私が、殿下、と呼ぶの?ガナッシュは、それがいいの?」
「それは嫌だ」
違うでしょ?
嫌だとかの問題ではないのよ。
もっと立場を考えて、と言っているのよ。そんな難しいことでは無いわ。
レインにも幾度も注意しているのに、理解して貰えない。
「だよねえ。だってさあ、ガナッシュとスティングは結婚するんでしょ?貴族だもんね。貴族には教育とか立場とか色々あるんだろうけど、私関係ないもん」
違うわ。
あなたがいるから殿下の評価が落ちていくのよ。
私は、
私の殿下を、
大切にしたいのよ!
「やだなあ、顔怖いよ。ねえ、帰ろうよ。今日は花屋によってくれる約束でしょ?」
殿下、卒業式の準備、と言われましたよね?
「ああ。そうだったな、レイン」
殿下、約束されているのですか?
「はあ、お前と言う奴は何故そんなに心が狭いんだ。レインのように優しくなれないのか?」
ちっ、と私に舌打ちしたが、直ぐに柔らかな顔になり、レイン殿を見た。
私の心が狭い?
私はこれ程までに殿下の事だけを想っているのに。
「もう、スティングを怒っちゃダメだよ。もともと狭い人なんだから」
からかうつもりもなく、当然のように言う言葉が、私の胸を抉っていく。
「じゃあね、また明日ね。あ、そうか一緒に帰りたいんだよね?ガナッシュ、一緒に帰ってあげようよ。何か可哀想だよ。たまには3人で帰るのも楽しいかもよ」
とても楽しそうに微笑み、私を見ると、殿下の手と私の手を取り引っ張った。
寒気を感じすぐに払った。
「どうしたの?皆で帰った方が楽しいよ?」
意味がわからないと首を傾げるレイン殿に、湧き上がる感情を抑えるのに必死だった。
馬鹿じゃない?
この状況で三人で帰る?
殿下の嫌そうな顔を見たでしょ?
よく言えるわ!
「レインの優しい気持ちをこいつは嫌なんだとさ。2人で帰ろう」
「そう?スティング、帰りたい時は教えてね。ガナッシュに言ってあげるからね。じゃあね。ねえ、花屋の後はガナッシュの所に遊びに行ってもいい?」
「いいよ。帰りは送ってあげるよ」
教えてね。
言ってあげるから。
遊びに行ってもいい?
聞こえてくる2人の楽そうな内容に、我慢よ、とおまじないのように言う自分に笑いが出た。
933
お気に入りに追加
2,727
あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。


今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる