【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶

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第二章

29. サバイバル試験 開幕

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 神学の授業が終わって数分待つと、やがて相変わらずの無表情で担任であるテトラが教室に入って来た。
 これから試験の説明をするというのは事前に知らされていたため、教壇に立ったテトラを見つめる生徒たちの表情は真面目そのもの。
 試験とはすなわちスターを取る機会でもあるため、生徒たちは普段よりも引き締まっている。

「皆…いるな。ではこれから一週間後に行われる試験の内容を説明する。一週間後、一年生全ての生徒には学校所有の広大な森に行って生活してもらう。クラス対抗戦を行う為にな」

 クラス対抗戦。その言葉で一気に静まり返っていた教室内は騒ぎで満たされた。
 無理もない。この一週間で、俺たちにはクラスのことについて分かったことがあるのだから。

「クラス対抗戦ってことは、アルファクラスとも戦うことになるのかよ!冗談じゃないぜ!」

 一際大きい怒声を放ったのは俺のルームメイト、エレルトだ。
 そう、この学校のクラス分けはとても平等と呼べるものでは無かった。
 最初はおかしいと思ったのだ。デルタクラスには家名がある生徒が一人しかいない・・・・・・・ことに。
 だが、アルファクラスの生徒はなんと一人を除いて・・・・・・その他全員が家名持ちだった。
 家名があるということは、それなりに裕福な家であるということ。
 つまり幼い頃から剣術や魔法の英才教育を受けてきた者が多い。
 よって必然的に家名を持つ生徒の方が持たない生徒よりも技術が優れていることが多いのだ。
 それはすなわち比較的優秀な生徒がアルファクラスに集約されているということ。明らかに意図的に。

「落ち着け。まだ試験の説明は終わっていない」

 テトラによって放たれた冷たい声によって辺りは再び静けさを取り戻す。

「生活してもらう広大な森の中には、九体の魔物が放たれている。どんな魔物なのかは教えられないが、大中小、その三種類の魔物がいるとは言っておこう。内訳は大が一体、中が三体、小が五体。それぞれのサイズの魔物にはポイントが設けられており、大が5ポイント、中が3ポイント、小が1ポイントという配点だ」

「その九体全てを、デルタクラスのみんなで全部倒せば晴れて試験突破ってことですか?」

 ダイアが試験の概要を理解したように問う。だが、テトラはすぐさまそれを否定する。

「いや、違う。別に一体も倒さなくていいんだ。クラス対抗戦だと言っただろう?」

 疑問を投げかけ、考えろとでも言いたげにテトラは沈黙する。

「なるほど。大中小の魔物を倒した総ポイント数の最も多いクラスが優勝というわけですね?」

 それに最初に答えたのはクラスメイトの男子、アロルド。アロルドは十歳の割には大きい身長が目立つクラスの中心的人物だ。

「そうだ。ポイントは魔石で確認するため魔石は取り込まずとっておくように。また、厳密なルールは当日説明する。今はこの試験の概要だけを聞いて対策を練っていたまえ。何か質問は?」

「スターって、テスト一位の人に与えられるんですよね?今回はクラス対抗戦ということなんで、勝ったクラスの人全員にスターが与えられるってことですか?」

「そうだな、説明を忘れていた。今回は優勝してもスターを与えられることがないが、スターを与えられる機会はある。それは、大の魔物を倒した生徒にだ」

「つまり、クラス一位じゃなくても大の魔物を倒せばスターを与えられるってことですか!?」

「そうだ。まあ十中八九、大の魔物を倒したクラスが一位となるがな」

「先生ちょっと待ってください。それだとクラスで勝つ意味が無くないですか?優勝した時のメリットがわからないのですが」

 これまで黙って話を聞いていた女子生徒、ミネラが的確な疑問をテトラにぶつける。
 確かにこの説明だと例えクラス一位でも大の魔物を倒した生徒の一人勝ちになってしまう。
 何かクラスの順位によって与えられるメリットが無ければ、順位をつける意味がなくなってしまう。

「一位だったクラスには、次の試験…ペーパーテストの総合点数にプラス五十点の加点を行う。二位は三十点。三位は十点。ビリはもちろんゼロだ」

 遂に明かされた試験のメリットに、クラスは湧き上がる。
 ペーパーテストは明らかな個人戦。
 上位三位であればスターが与えられ、下位三位であれば退学への道標、スカルが与えられる。
 その順位は一学年の全員をひっくるめた順位であり、三位以内というのはかなり鬼門だ。
 だから殆どの生徒は上位三位を狙うことよりも、下位三位に入らないことを意識する。
 今回の試験でプラス五十点のアドバンテージを取れればそれだけスカルから遠ざかることになるのだ。
 逆に最下位になってしまえば下手すれば取り返しがつかないほどの差が他クラスとの間に生まれてしまう。

「他に質問は?」

「その試験の期間は?」

 俺も一応声を出しておく。
 こういった機会で声をあげておけば、何かとクラスメイトに認知してもらえるかもしれないから。

「期限は一週間だ。例え全ての魔物が狩られたとしても一週間、クラス別に設けられた拠点で過ごしてもらう」

「マジかよ~」
 
 俺はこのルールに違和感を感じた。が、口には出さない。何故ならばまだルールの全貌が明らかになっていないからだ。

「説明は以上だ」

 それを最後にテトラは教室を後にした。そして一気に教室は騒がしくなる。
 そんな中、エレルトがこちらに歩いてきた。

「なあ、あのアルファクラスに勝てると思うか?王子だっているんだぜ?」

 王子、という言葉を妙に強調するエレルト。
 そう、俺がセラリス到着初日に見た王子のことだ。
 忖度があったのかもしれないが、もちろん王子は合格していた。当然のことながらアルファクラスの生徒である。

「わかんないな。運よく魔物を見つけられれば勝てるんじゃないか?」

 正直運ゲーな気もする。
 大の魔物がアルファクラスにしか勝てないような強さである可能性は低いと思っている。
 だから、先程までのテトラの説明だと他クラスよりも早く魔物を見つけて倒してしまえば終わりな気がする。
 厳密なルールは当日説明するとのことだから、当日になってみないとわからないが。

「この一週間ワタルと過ごして分かったことがある。…お前頭いいだろ!だからクラスのブレインとして参謀になってくれないか?」
 
 エレルトが意外なことを提案してきた。
 確かに俺は本来なら十八歳。十歳と比べれば知的に見えてるのかもしれないが、作戦を考えられるほど頭がいいわけでもない。
 まあ、80パーセントくらいの確率でスターを獲得する方法は思いついているのだが、クラスのためになるとも限らないのでそれは口にしない。

「残念だが却下だ。俺は表立ちたくないからな」

 もし俺がクラスを率いていくことになって、クラスメイトたちが俺を頼ることになったら。
 それは俺にとっては悪いことではないが、後々クラスメイトたちにとっては致命的なものになる。
 何故なら俺は一対の銀鏡リープテイルズを手に入れればこの学校を去るから。
 無闇に関係をかき回した挙句学校を去るなんてことはしたくない。
 極力クラスの目立たないところにいて、俺が抜けてもなんともならないようなクラスになって欲しいのだ。

「そうかよ、じゃあしょうがないな!」

 呆気なく引いてくれたと思えば、別の生徒に同じようなことを言い聞かせているエレルト。
 どうやらブレインとか参謀とか最近知った言葉を使いたくてしょうがないらしい。
 そんなエレルトの姿にため息を吐きながら、俺は一人で校長室へと向かう。


 校長室は『本館』と呼ばれる建物に存在する。
 最近、俺は毎日そこに通っていた。
 校長と会って一対の銀鏡リープテイルズの情報を聞き出すために。

「なんだお前、また来たのか?」

 校長室の前まで来たところで、今ではすっかり顔馴染みになってしまった騎士に話しかけられる。
 校長室には何故か見張のように騎士が一人配置されている。理由はわからない。だが、そのせいでまだ中に入れないでいた。

「やっぱり校長に合わせてくれることってできないんですかね?」

「そうだな。目的はなんだ?」

「俺の育ての親が校長と面識があるんですよ。だから入学したら挨拶に行ってくれって頼まれてて…」

 馬鹿正直に一対の銀鏡リープテイルズが目当てですとは言えない。
 だからそれっぽい理由を言うことでなんとか面会の機会を得ようとしているのだが…

「何度も言う通り、校長室は機密が多い。入学したばかりの新入生をそう易々と入れていたら俺がいる意味がなくなるだろ?少なくともキングを獲得してから出向いてくれ」

 やはり、いつも通りの言葉であしらわれてしまった。
 テトラが言っていたようにキングを獲得する他ないらしい。
 はあ…面倒だな。

 俺は「わかりました」とだけ言って、その場を離れた。
 

◆◇◆◇◆◇


 それから特に何も起こることなく一週間が経過し、俺たちは今学校所有の馬車の荷台で揺らされていた。
 四クラスが二つずつで計八つの馬車。かなりの大団体だ。

「なあ、せんせーは一週間で対策を練れとか言ってたけど、無理だよな?結局運じゃね?」

 各々思い思いの会話をしていたところにクラスメイトの一人、スコッチが皆に聞こえるように叫んだ。意見を求めてるのだろう。

「たぶんアルファクラスの勝ちじゃん?噂によると索敵系の魔法を持ってる生徒がいるって話じゃん」

 それにライラという男子生徒が諦め気味に答える。
 もしライラの話が本当なら確かに勝ち目がないだろう。大の魔物がアルファクラスでも倒せないほどの強さだというなら話は別だが、そんなことは試験の性質上あり得ない。

「着いた…っぽいな」

 話の途中だったが馬車が止まり、目的地についたことがわかる。
 車窓から見た外の景色はひたすらに緑。
 完全に四方八方を木々で囲まれた森の中だ。

 外にいたテトラから馬車を降りるよう指示され、俺たちデルタクラスの男子生徒十五人はそれに従う。
 やがて後続にいた馬車からも女子たち十人が降りてきて、完全にデルタクラスは合流を果たした。
 馬車から降りて分かったが、どうやら既に他クラスの馬車は俺たちとは別のルートへと向かったようだった。
 確かにテトラは一週間前の説明の時に、四つのクラスはそれぞれの拠点に分かれると言っていた。

「今からデルタクラスの拠点に向かう。詳しい試験の説明はそこで行う予定だ」

 暫くテトラについて行き、やがて森の中を切り開くような形で建てられた木造建築が見えてきた。
 その建物は学校の寮なんかと比べると壁に蔦のような植物が巻きついていたりして古めかしさを隠し切れないでいるが、俺たちは今から一週間ここで暮らすことになるらしい。
 テトラがその建物の扉を開けると外見とは裏腹に中は思ったよりも綺麗だった。
 しかし見たところ部屋が五つほどしかなく、二十五人が満足に生活できるようには思えない。

「ここには寝泊りするようのベッド、ダイニングルーム、シャワールーム、トイレしかない。また、食料については後ほど説明しよう」

「食料…ってことは自分で食事を作るってことですかー!?」

 スコッチが驚いたように叫ぶ。
 確かに俺以外の生徒はまだ十歳か十一歳。生徒たちだけで全員分の料理を作るのは中々難しい。

「そうとも限らない。じゃあ食料についての説明からしようか。この森に我々職員が『ミールボックス』と呼ぶ宝箱をいくつか配置した。そこには様々なメニュー、食材が書かれたカードが入っている。それをこの拠点にいる私に渡して貰えば、手配してもらえるようになっている」

「メニューってことは、カツ丼とかも食えるってことですか!?」

「カツ丼と書かれたカードを見つけることができたらな。しかし大半は食材が書かれたカードだ。野菜や肉なんかのな。食材カードのみを見つけてメニューが書かれたカードを見つけることが出来なかったら自分たちで作ってもらうことになる」

 スコッチの発言からカツ丼を例にして説明するテトラ。
 俺はカツ丼にトラウマがあるのでできればその話題は出さないで欲しいものだが、どうやらこの世界でもカツ丼は大人気らしい…

「まじすか!?俺料理なんてできねーよ!」

 絶望に崩れ落ちるスコッチ。それにつられて他の男子生徒たちも悲鳴をあげ始める。

「まあ食に関しての説明は以上だ。次は肝心なポイントについての説明を行おう。一週間前は9体の魔物が放たれると言ったな。その魔物は大中小に分けられ、大は5ポイント、中は3ポイント、小は1ポイントであると」

「はい、それで一番ポイントが多いクラスが勝ちなんですよね」

「ああ。この話には続きがある。実はポイントを獲得する方法は魔物の魔石を得る以外にもある」

「えっ、他クラスをぶっ潰すとかですか?」

 随分とぶっ飛んだ発想を披露するスコッチ。だが、その発言は意外にも的を射ていたようだった。

「いい発想だなスコッチ。そう、お前たちにはクラス旗というものが与えられる。それをこの後すぐ森のどこかに立ててもらうんだが、それを他クラスに奪われればマイナス3ポイント。逆に他クラスの旗を奪えばプラス3ポイントとなる。しかしクラス旗以外の略奪行為は禁止。魔石や食材カードなんかを他クラスから奪うことは不可能だ。ちなみに折角魔石見つけても、無くしてしまった場合はポイント換算されないのでくれぐれも保管には気をつけるように」

「この後すぐ立ててもらうって、旗を立てるのはどこでもいいんですか?また、旗を立てずにこの小屋内で保管しておくのは?」

 クラスでも頭脳派でクラスの中心とも呼べる人物、アロルドがここで初めて口を開く。何やら戦略が思いついたのだろうか。

「旗を設置するのは例え火の中水の中草の中でも大丈夫だ。しかし、設置は試験範囲内の森の中だけであり、この建物内で隠しておくのは禁止となっている」

 どこか聞いたことのあるような言い回しをするテトラ。いや、火の中はダメだろ。と心の中でツッコミを入れておく。

「旗の立てる位置を一度立てた場所から変えるのは可能ですか?」

「不可能だ。だが一つ例外がある。それは他クラスに旗を奪われて、それを奪い返した場合だ。この場合別な場所にもう一度旗を立てることができる。もう一度言うが旗を奪う以外の他クラスへの略奪行為は禁止だ。魔石や食材カードなんかのな。魔石に関しては最終日に倒した生徒に取り込んでもらうことになっているから、そもそも奪うことを考えるのはナンセンスだ。魔石は魔物を倒した人にしか取り込めないからな」

「なるほど。わかりました」

「もう一つ言っておくが、他クラスから旗を奪うことができたなら、その旗も一時間以内に森のどこかに立ててもらうことになる。他に何か質問はあるか?」

 どうやらクラス旗の奪い合いがこの試験の肝になりそうだ。
 テトラはしばらく生徒からの質問を待っていたが、しばらく沈黙が続いたので言葉を続けた。

「最後になるが、もし戦闘不能・続行不可能だと判断された生徒は先に学校へと戻ってもらう。その場合、学校へ戻った生徒につきマイナス3ポイントだ。魔物の近くには、それぞれバレないような場所に職員がいる。もし危険だと判断したら介入することもあるので、くれぐれも無茶しないように」

「学校に戻れば減点って!体調不良でもですか?」

「無論だ。ああ、あともう一点だけ。普段の寮生活と同じように21時に点呼を行う。もしその点呼の時間にいない生徒がいたら、いない生徒一人につき1ポイント減点されるので必ず点呼時にはこの拠点にいるように」

「なんかルールがいっぱいで訳わかんなくなってきたぞ⁉︎」

 相変わらずのスコッチの相槌をテトラは無視する。

「他はいいか?ちなみにこの拠点で寝泊りする場所は男子と女子で一部屋ずつだ。これからクラス旗を設置してもらうが、設置する際には私も同行することになっている。クラス全員で旗の設置場所を探すのでもいいが、それだと目立つだろう。下手すれば他クラスの目についてしまうかもしれない。よって推奨人数は三人だ」

 テトラのその言葉で、クラスメイトたちは一斉に周りを見回し始める。
 そんな中、一人の男子生徒が手を挙げた。

「あの…ボクが行きます。ボクの魔法を使えば…」

 手をあげたのはダイアのルームメイト、ラティだった。
 俺は皆が魔法の授業を受けてる最中にポーションの授業を受けてるのでラティがどんな魔法を使えるのか知らないが、皆が肯定しているので信頼していいのだろう。

「じゃあ俺が一緒に行くぜ!」

 ラティと仲の良いエレルトが次に挙手をする。
 すぐにダイアが手を挙げるかと思ったが、ダイアは手を挙げず三人目は中々出てこない。
 よってラティの魔法が気になる俺が名乗り出ることにした。クラスメイトからの異論はない。
 そうしてテトラがどこから取り出したのか赤いクラス旗をラティに渡し、一行は森へと繰り出る。

「俺は拠点の近くに設置した方が良いと思うんだ!ワタルはどう思う?」

「理由は?」

「いや、普通目立つ拠点の近くに旗を設置するなんて考えないだろ?だから裏をつくんだよ」

「まあラティがいいならいいんじゃないか?」

「ボクも…良いと思います」

 確かに拠点のすぐそばに設置すれば見張も立てやすい。

「ここなんてどうだ?」

 暫く拠点の周囲を散策し、良い感じに木々の隠れ蓑となっている場所を発見する。
 二人も異論はないようで、デルタクラスのクラス旗の設置場所は早々にここで決定した。 

 エレルトが力一杯地面に旗を突き刺し、風なんかで飛ばされないように固定する。
 それを確認したラティが紋章を展開させた。
 祈るように両手を握り合わせるラティ。どんどんと紋章の紅の輝きは強さを増していき、それと同時に周囲の木々がざわめき始める。
 やがて近場の木の幹が三つ編みのようにウネウネと絡まり出したかと思えば、先ほどエレルトが立てた旗を囲むようにして停止した。
 まるで木の防壁である。完全に中が見えなくなってしまったが、これだったら遠目であの鮮やかな赤を見つけることも出来まい。

「何度見ても凄いぜ!」

 エレルトが感心するのも肯ける。
 ラティは制服を見た感じ魔法選抜で合格した生徒。これくらい出来なければ合格も難しいのだろう。

「…場所は確認した。以上で私の勤めは終わりだな。後はミールボックスからカードを見つけたら私に渡したまえ」

 踵を返し拠点へと戻るテトラ。俺たちもその後を追って皆が待つ拠点へと戻った。


「──ラティ君たちも戻ってきたようだし、今後について話そうか」

 いつの間にかダイニングルームにあった大きなテーブルに一同会していたクラスメイトたち。仕切っているのは無論アロルドだ。

「今後っつっても飯だよな!料理作るなんて冗談じゃないぜ!俺たち男子がミールボックスを探しに行くから、女子たちで料理作ってくれよ!」

「真っ先にそれ?これだから単細胞は…」

 スコッチの発言に露骨に嫌な顔をして見せるミネラという女子生徒。
 確かに男は狩り、女は料理などというジェンダー的な考えは今時避けるべきなのかもしれない。この世界でどうなのかは知らないが。

「なんだよ単細胞って!じゃあ俺が作った料理を食べたいやつがいるっていうのかよ!?」

 自虐することで、自身の発言に正当性を持たせようとするスコッチ。それは中々良い手だったみたいだ。

「確かに…それもそうね。じゃあミールボックスとやらは男子に任せることにして。クラス旗はどこに置いてきたの?」

 ミネラはラティを見ながら尋ねた。

「えっと、この拠点の裏側に良い感じに草木に隠れる場所があったので、そこに旗を立てて、ボクの魔法で覆いました」

「そう。そこなら見張も立てやすいだろうしね。わかったわ」

 他のクラスメイトたちも異論は無いようで、話は次に進む。

「じゃあ次はポイントをどうするかだね。まず間違いなく5ポイントの魔石はアルファクラスに取られるだろう。索敵に適した紋章魔法アイデントスペルを持っている生徒がいるようだし」

「それじゃあ魔石ポイントを全部アルファの奴らに譲るってことかよ!?ベータ、ガンマクラスだっているんだぜ!?」

「もちろんそんなことはさせない。ダイア君、説明を頼む」

 突如ダイアに話を振ったアロルド。
 この試験会場にたどり着くまでの間、馬車内で何やら二人で話をしていると思っていたが、どうやら策を練っていたらしい。さっき名乗り出なかったのはそういうわけか。

「先ず5ポイントの魔物が一体、3ポイントの魔物が3体、1ポイントの魔物が5体この森に放たれているっていう話を聞いたよね?前提として僕たちは二位、三位を狙っているということで話を聞いてほしいんだけど…」

「俺様は反対だゼ。どうせやるなら一位を狙う」

 ここでダイアの言葉を遮るようにして、一際体の大きい狼獣人の男子生徒、ブラドが声をあげた。
 確かにこの学校に入学した以上、これまで負けなしの生活を送ってきたのかもしれない。最初から一位以外を狙うなんてのは考えられないのだろう。

「一位を完全に狙っていないわけでは無いんだ。でも一位を取るには5ポイントの魔石を獲得することが必要不可欠になってくる。アルファクラスより先に見つけることができ、尚且つそれを倒せるのかというのは、総合的に考えて難しいことだと判断した」

 十歳とは思えない饒舌で話を進めるアロルド。それにブラドも少し気圧される。

「俺様ならいけるゼ。一人でも5ポイントの魔物を倒してやるよ」

「それならそれで良いんだけど、もしあんたが一人特攻して怪我でもして、学校に戻るとなったらマイナス3ポイントなのよ?少しは周りを見て」

 宥めるようなミネラの正論に、ブラドは大人しく口を閉じた。まるで怒られた飼い犬のようで面白い。

「他に意見はあるかな?なければ話を続けるけど」

 ブラドの現状を見て名乗り出る生徒はいない。よってダイアは話を続けた。

「それで、最下位にならないためにはどうすれば良いのかを考えてみたんだ。クラス旗を奪われないことを念頭に入れて欲しいんだけど…まず絶対に最下位にならないために取るべきポイントは5ポイントなんだ。つまり、3ポイントの魔物を一体、1ポイントの魔物を二体狩ることを目標に行動したい」

「その3とか1とかの魔物を探してる最中に、5ポイントの魔物を見つけたら倒しても良いんだよな?」

 ここでエレルトが口を挟む。
 エレルトととしても、みすみすスターのチャンスを逃す気などないのだろう。

「実はこの前、食堂で先輩からこの試験についての情報を聞いたんだ。去年の5ポイントの魔物はブルータルベアー。Bランクの冒険者でも苦戦する相手だよ。去年はアルファクラスの総力戦でなんとか倒せたらしいけど、もし少人数で見つけたら即刻逃げるべき相手だ」

 Bランク冒険者でも苦戦する相手。
 Bランク冒険者と言われて思い浮かぶのは、炎を纏った剣を操る男、ロートだ。
 ブルータルベアーとやらは、あのロートレベルでも苦戦する相手なのだろうか?
 銀鏡の蜘蛛アトロネが思い浮かんだが、さすがにあれ程ではないだろう。
 にしても先輩に話を聞くとは。反則的なアイデアだ。
 それにしては何故、試験当日になってからその情報を出したのかは疑問だが。

「それマジなんだよな?でも俺たちなら皆で頑張れば倒せないこともないんじゃないか?」

「とりあえず様子を見てだね。さすがにアルファクラスも今日5ポイントの魔物を倒すってことはないと思うから…まずは1、3ポイントの魔物を重視して探そう」

「3ポイントの魔物は一人でも倒せそうなのか?」

「いや、3ポイントの魔物でも五人のパーティで挑むべきだと考えている。このクラスは二十五人。とりあえずこの場で五グループを組んでくれないかな?」

 アロルドの提案で、クラスメイトたちは一斉に周囲を確認し始める。
 まだこの学校に入学してから二週間。
 仲の良い友達も少ない中五人でグループを組むというのは中々厳しいことだ。
 大体の人はルームメイトと組んでいるが、いかんせん寮の部屋は二人部屋。
 五人で組むとなるとどこかのルームメイトどうしははぐれることになる。

 俺はいつものメンバーであるエレルト、ダイア、ラティと組んだが、やはりあと一人がすぐには決まらなかった。
 個人的にはミルを誘いたいものだが、ミルは既にグループを作っているようで手が出せない。
 どうやらミルは結構友達が多いらしく、この二週間で俺との関わりもめっきり減ってしまった。
 なんだか少し悲しいが、俺がいずれこの学校から離れることを考慮すれば良いことなのかもしれない。
 そんな中、エレルトとダイアが一人どっしりと椅子に構える男子生徒に声をかける。

「なあブラド、俺たちと組もうぜ」

 その男子生徒とは、先ほどミネラに宥められてから消沈しているブラドだ。
 ブラドのルームメイトであるロイタは既に別のグループに引っこ抜かれたようだったので、見かねたエレルトが声をかけたのだ。ちなみにロイタとは猫獣人の男子生徒である。

「良いのか?周り見ずの行動を取っちまうかもしれないゼ?」

 ブラドはどうやら先ほどのことを引きずっているようだ。
 エレルトはそれに対し「気にすんな!そん時は俺たちがフォローすっからよ」とブラドの肩をポンポンと叩く。
 ブラドはそれで元気を取り戻したようだった。

「グループは出来たみたいだね。じゃあこれから役割を分担しようと思う。戦闘に自信のないグループは料理などを行ってもらい、自信のあるグループには森に出て魔物とミールボックスを探してもらう。期限は一週間あるのに森の中には九体しか魔物がいない。ってことは相当魔物を見つけるのに難儀するはずだから、まずはミールボックスを探すのを頑張って欲しい」

「私たちが料理担当でいいかしら?」

 アロルドの話を聞いて、真っ先にそう名乗り出たのはファレット率いる女子生徒の五人グループ。
 ちなみにデルタクラスは男子十五人、女子十人で構成されているため男子グループが三組、女子グループが二組出来ている。

「…反対は無いみたいだね。じゃあファレット、ナータ、イズ、リーデ、イェルス。全員分の料理は任せたよ」

「アロルド君はここに残るんでしょ?少しは手伝ってよね」

 多少赤面しながら確認を取るファレット。ははーん、そういうことか。

「じゃあ他の三グループには魔石、カードの回収を専念してもらう。それじゃあ一旦解散しよう」

 ポンとアロルドが手を叩き、この場はお開きとなる。そうして俺たちのグループを含む三グループは森を探索すべく拠点を離れた。
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祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

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