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第二章

28. 学園生活、始動

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 生徒会館なる場所に案内され始まった入学式。
 そこはまさしく体育館とも呼べるような場所で、全校生徒と教職員たちが既に集結していた。
 流石に由緒正しい学校であることもあってか、生徒たちの整列には一切のズレがなく少し魅入ってしまう。
 
 新入生全員が指定された場所に着いたことで式は始まったが──これが非常に退屈なものだった。
 それぞれの担任の挨拶や、教員全員からの一言など、形式だけ重視されて全く中身は無い話が進められていく。
 ずっと立っているのが苦痛すぎる。
 つまらなすぎてうとうとしていたらいつのまにか学校長挨拶という、俺にとっては・・・・・・重要なところまで進んでいた。

 俺がこの学校に入学した理由──一対の銀鏡リープテイルズの所在を知っているのは学校長のみらしい。
 らしいというのはサティスから聞いた古い情報だから、今はもう違う可能性があるということ。もしかしたら教員全員が所在を知っているかもしれない。
 何故サティスがそんなことを知っているのか。──実はサティスは校長と面識があるらしく、数十年前に会ったことがあるらしい。
 体が弱い校長の奥さんが病に臥した時に、薬草を調合してあげたりして仲が良くなったのだそうだ。サリィバの森に住み始めてからは会ってないらしいので、何十年前の話なのかは全く検討もつかないが。
 いずれにせよ、俺はこの学校長挨拶で学校長の姿と人物像を把握したかった。

 目を凝らす。
 ヨボヨボとした足取りでステージに立ったのは白髪と白髭が目立つ七十代後半くらいの男性。まさしく『校長』といった見た目をしている。
 それを見ると、サティスが年齢の割にいかに健康体であったのかが窺える。
 秘密裏に若返り薬でも開発していたのだろうか?
 魔女とも呼ばれているらしいサティスならやりかねない。

「えー、新入生の皆さん。合格おめでとうございます。頑張ってください。以上です」

 しわがれた声で発せられた挨拶は、実に簡潔なものだった。
 校長挨拶なんてとても長ったらしいものを想像していたのに。
 まるでお前たちには何も期待していない、とでも言いたげに気だるそうな表情をしている。
 どこか拍子抜けだったことは良いとして、その姿をしっかりと記憶する。

 次は生徒会長挨拶。
 呼ばれた生徒会長は颯爽とした面立ちでステージへと歩いていくが、かなり有名な生徒なのか周りが騒ついて女子たちが「かっこいい…」なんて言葉を溢していた。
 胸に三つの王冠の様な勲章をつけているのが特徴的である。
 しかしそんな生徒会長の話は、校長の百倍はあるんじゃないかと思ってしまうくらいつまらなくて長ったらしい話だった。

 そんなこんなで退屈な入学式は終わり、すぐさまあの憂鬱な階段を昇ってデルタクラスの教室へと戻る。

「皆席に着いたな。ではこれから施設の説明を始める」

皆が席に着いたのを確認した担任のテトラが、話を始めようとするが、

「せんせー、トイレ行ってきて良いですか?」
「休憩とかないんですか?」

 退屈な入学式が終わった直後。生徒たちの集中力は途切れようとしていた。
 そんな声が続々とあがってくる。
 今まで学校生活などの集団生活とは疎遠だったがゆえ、しょうがないことなのかもしれないが。

「まあ待て、すぐに終わる。まずは寮の説明からだ」

「寮って二人部屋なんですよね?相手とかもう決まってるんですかー?」

 教壇の目の前に座っている男子生徒がテトラの話を遮る。
 黙って聞いてられないのか、こいつらは。だが寮が二人部屋だというのは初耳だ。
 というかこの学校について知らないことばかりだ。

「そうだ相手はもう決まっている。今からペアを読み上げるからよく聞いているように」

 そうしてテトラは次々に寮のペアを発表していく。
 俺のペアはエレルトという男子生徒らしかった。ちなみに三人部屋のとこもあるらしい。
 そして男子寮と女子寮は建物が分かれている。

「毎日21時に各部屋で点呼が行われる。その時間以降は外へと出ないように」

「せんせー、朝飯とか夜飯とかは自分で作るんですかー?」

 意外と知りたいことを的確に質問する生徒たち。
 今朝、学校に入る時に金は校内に持ち込めないことを告げられた。
 よって生徒たちはみんな無一文なわけだが、料理なんかをどうするかは気になる。

「安心しろ、この学校には大きな食堂がある。朝昼夜とそこで食事をとってもらうことになる」

「全部無料なんですか?」

「そうだ。しかし一回で注文できる量には制限があるから気をつけろ。食堂のメニューにはそれぞれ値段のような数字が割り振られている。
 例えばカツ丼なら800。ジュースは200といったようにな。これはポイントと呼ばれている。
 今のお前たちの一回に注文できる制限は1000ポイントだ。よって今言った二つを注文すれば他の料理はその時間帯では頼めなくなる」

「今のお前たちってことはそのポイント?の制限を1000から増やす方法があるってことですか?」

「いい質問だな。それは後で答えよう。他に質問は?」

 テトラが質問を促すが、新たに何かを質問する生徒はいない。よってテトラは話を続ける。

「次は最も重要なこの学校の制度、勲章制について話そう」

 勲章制?
 勲章と聞いて思い浮かぶのは生徒会長が胸につけていた三つの王冠型の勲章だが、あれのことだろうか?

「この学校には三つの勲章がある。
 『スター』、『キング』…そして『スカル』の三つがな。
 スターはテストで総合三位以内を取ったり、その他称賛されるべき行動を行った際に与えられる。ちなみにテスト順位は学年を総合した順位だ。
 先ほど質問で出たポイントを1000より増やす方法だが、このスター一つにつきポイントは100増える。
 キングはスターが五つたまると与えられる勲章だが、キングを一つ持っていればポイントが1500になるという訳だ。生徒会長の胸についているのを見ただろう?
 そして最後はスカル。
 これはテストで下から数えて三番以内だったり、暴力行為など様々な違反行動をとった際に与えられる。
 勲章ではなく烙印だ。このスカルを五つ貯めた生徒は、問答無用で『退学』となる」

 退学。
 その言葉に困惑を示し始めた生徒たち。
 だがその意識の根底には自分は退学にならない…大丈夫だろう、というものがあるのか目立って騒ぎにはならなかった。
 または予めこの制度を知っていたか。

「以上で説明を終わりとする。何か質問がある生徒はいるか?」

「ちょっと良いですか?」

 ここで俺は手を挙げる。質問することはただ一つだ。

「なんですか?」

「学校長に会いたいのですが、校長室に行けば会えるんですか?」

「…妙なことを聞くな?その通りだ。校長に会いたいなら校長室に行くといい。だが…簡単に話せるとは思わない方がいいな」

「どういうことですか?」

 簡単に話せない、の意味がわからない。

「お前が何を目的に学校長との接触を図りたいのかは推測しかねるが、学校長はこの学校の重要機密を様々知っている人間だ。そう簡単に知りたい情報を教えてくれるとは限らないだろう。まして新入生になど尚更だ。少なくとも信頼を得たいなら、キングを獲得するといい」

「…わかりました」

 とりあえず大人しく席に座り直す。
 確かに言われたことには納得する。
 いきなり入学したばかりの新入生が古代秘宝の在処を教えてください!なんて尋ねてきて答えてくれるわけがない。
 にしてもキングを獲得する、か。 
 生徒会長ですら五年で三つしか取っていない勲章だぞ?
 もしかしたら数年この学校に囚われ、その間にレヴィオンがベルフェリオ復活という目的を達成してしまうかもしれない。…悠長にはしてられないな。
 なんとかして勲章無しに学校長との信頼を築き上げ、一対の銀鏡リープテイルズの場所を教えてもらわなければならない。
 あるいはこの学校を探索して、自力で在処を見つけるか。
 ──こんな広大な学校でそれは無理難題に等しいだろう。
 
「他に質問は…無いみたいだな。今日はこれ以上授業はない。明日は八時から授業があるのできちんと起きてくるように。ではこれから休憩のち、寮まで案内しよう」

 …皆で集まって自己紹介する、といった時間は無いらしい。
 できればエレルトが誰なのかを確認しておきたかったが…すぐにわかることなので良いだろう。

 五分程度の小休憩を挟んだ後、俺たちはテトラの案内のもと敷地の西端にある寮群の一つへと足を運んだ。
 寮の建物は男子寮と女子寮が五学年分の計十棟建てられている。
 寮は同じ部屋を五年間使うので、俺たちが今から入寮するのは去年まで五年生が使っていた建物だ。

 寮は思いの外立派な建物であり、完全な木造で通気性も良さそうな造り。
 他の生徒たちの反応を見ても文句はなさそうだったが、ただ一人不満の表情を浮かべている生徒がいるのが気になった。
 その生徒とは、俺が最初に教室に入った時に見た金髪パーマ女子。
 まさにお嬢様といった見た目のこの少女には、こんな庶民的な建物などお気に召さなかったのだろうか。
 しかし彼女は大人だった。
 このことに関しては特に愚痴を溢すこともなく皆とともに女子寮内へと入っていった。

「お前がワタルってやつだな!よろしく頼むぜ!」

 それぞれが指定された寮の部屋へと入り、そのペアを確認する。
 俺のペアのエレルトは鮮やかな緑色の髪が目立つ、活発的な少年だった。
 これからコイツと一緒の部屋で過ごすのか。いびきとかうるさそうだな。
 エレルトの印象からそんな率直な感想が浮かんでくる。

 にしても十歳で親元離れて寮暮らしか。結構問題が起こりそうなもんだが。
 およそ六畳ほどの、二人にしては小さな部屋に机が二つと二段ベットが一つ。最低限のものしか無いといった印象だ。
 他にはトイレとシャワー、水道。
 もちろん冷蔵庫や電子レンジなんてものは無い。それでも十分満足に過ごせそうだった。

「二段ベットか。どうする?上の方が良いか?」

 二段ベット、上を取るか下を取るか問題。
 きっと今頃他の部屋では揉めてる所もあるだろう。俺は正直どっちでも良い。

「俺は上がいいけど、ワタルが上のが良いってんなら譲ってやっても良いぜ」

「じゃあ俺は下でいい」

「そうか?じゃあ遠慮なく!」

 梯子を昇りベットにダイブするエレルト。そのとき結構大きめなミシッという音が聞こえた。
 おいおい、俺が寝てる最中に落下してくるなんてことにはならないでくれよ。

「これからどうする?もうすぐ十一時だし、食堂行こうぜ!混んでるかもしれないけど」

 エレルトの提案に賛成し、食堂に行くことに決める。
 その前にエレルトに確認しておく。

「ダイアっていう友達がデルタクラスにいるんだが、そいつも誘って良いか?」

 寮は男子と女子で分かれている。よってミルを誘うのは困難だ。

「お前もう友達出来たのか?もちろんだぜ!」

 目を見開くエレルト。
 確かに先ほどまでクラスメイトと喋る時間はほとんどなかった。驚くのも無理はないだろう。

「元々知り合いだったんだ」

「なるほどな。知り合いと同じクラスになるなんてワタルは運いいな!」

「確かダイアの部屋番号は406。行ってくるから待っててくれ」

 寮もクラスと同じように一階から四階まであり、四階がデルタクラスである。
 ちなみに俺とエレルトの部屋番号は401だ。
 406の部屋のドアの前に立ち、軽くノックする。するとダイアが顔を出した。

「これから俺のルームメイトと食堂に行こうと思ってるんだが、来るか?」

「行く行く。僕のルームメイトも連れてっていいかな?」

 俺の提案にダイアは乗り気で頷いている。

「もちろんだ」

「ちょっと待っててね」

 ドアを解放したまま部屋へと戻って行くダイア。すぐにもう一人を連れて戻ってくる。

「初めまして…ラティです。よろしく…お願いします」

 なんとか聞き取れるくらいの声量で自己紹介をしたラティの外見に、俺は思わず目を疑った。何故なら…

「ここ、男子寮だよな。なんで女子がいるんだ?」

 丸みを帯びた体に十歳にしては小さな身長、高めの声。
 綺麗な栗色のショートヘアーが似合う少女?がそこにいた。

「違うよ。僕も最初は驚いたんだけど。ラティは男の子らしいんだ。制服を見ればわかるでしょ?」

 確かに制服は男のものを着用しているが、俺は未だ半信半疑。でも深堀りするのもラティに失礼か。

「わかった。じゃあ一度俺の部屋に行こうか」

「オーケー。ワタルのルームメイトはエレルト君だったっけ?」

「そうだな。よく他の人のルームメイトまで覚えてるな」

「記憶力には自身があるんだ…剣はさっぱりだけど」

「そういえば二次試験の模擬戦は勝ったか?俺負けたんだけど受かったんだよな」

「ホント?僕はたまたま勝てたんだ。負けたら落ちてたかも」

「そうか、良かったな。俺は別枠審査で上手く行ったから」

「別枠審査?何をやったの?」

「ポーション作りだ」

「へえ凄いね…って早くワタルの部屋に行こうか」

 自然と話が弾んでしまい、ラティを置いてけぼりにしてしまった。軽く謝罪しつつエレルトの待つ401号室まで戻る。

「遅いじゃねえか…ってなんで女子が!?」

 俺と同じようにラティを見て驚くエレルト。やれやれとダイアが説明しながら三人は自己紹介を交わす。
 こうして仲良くなったところで、丁度よく十一時を示す鐘の音が校内を響き渡った。すると俺たちと同じことを考えていたのか、部屋から続々とクラスメイトたちが出て来た。
 このままでは廊下が人で一杯になってしまう。その前に、と俺たちは階段を駆け下りて食堂へと向かった。



「すっげえなあ」

 エレルトが感嘆の声を漏らすのも頷ける。
 この学校に在籍する生徒数はたとえ誰一人退学していないとしても五百人。
 だが、明らかに五百席を超えるテーブルと椅子が設置されている。
 それらはまるで芸術作品のように綺麗に整備され、窓枠に設置されたステンドグラスや様々な装飾品が美しい。
 まあ利用者は学生だけじゃなく職員もいるだろうし、これだけ広大なのもそのせいなのだろうが、それでも過剰なんじゃないかと感じてしまう。

「どこ座る?」

「あそことかいいんじゃないか。丁度四人がけだし」

「その前に料理を受け取ってからにしようか」

 今日新入生が大勢来ることが予期されていたのか、入り口でメニューの一覧が書かれた紙を渡された。
 メニューには料理名とその横にその料理のポイント数が書かれており、決めるのに結構悩まされる。
 散々悩んだ挙句、エレルトが頼むと言ったシチューの案に乗ることにした。シチューとお茶で850ポイント。
 別にスターや王冠なんて取らなくても毎日満足できそうだったが、高級肉のステーキなんかは一品で1500ポイントだったりするので、やはりできるだけ勲章は取っといた方いいようだ。
 
 料理を受け取り、席に着き、出身や得意なことなんかの談笑に花を咲かす。
 なんで俺は高校であまり友達ができなかったんだろう。
 切に疑問に思うが──こうして俺の、望まないながらも幸先の良い学園生活が幕を開けたのだった。


◆◇◆◇◆◇


 入学してから早一週間が経った。

 一対の銀鏡リープテイルズについてなんの情報も得られないまま、あっという間に時間は経過してしまっていた。
 というのも校長室に赴く時間が無かったからである。
 しかし学校生活は怖いくらい順調。
 算学や歴史学、剣術についての授業も難なくこなしている。

 俺が死人の紋章コープスアイデントであることは既に学校全体に認知されてしまった。
 もちろん剣術選択といえど、魔法を使う機会などいくらでもあるのだ。
 例えば魔剣学の授業。
 自分が使う剣術に、いかにして自らの紋章魔法アイデントスペルを付与するか。そんな授業である。
 つまり俺は紋章魔法アイデントスペルを使えないと公にする必要があったのだ。

 だから今のところエレルトが勝手に作った『デルタクラス最強ランキング』は俺が最下位である。
 もちろん魔剣術学校に魔法が使えない生徒がいるというのは異端なわけで、俺の存在はまだ入学してから一週間だと言うのに上級生にまで知れ渡る事態となってしまっていた。
 正直最悪と言わざるを得ない。

 だが、そんな俺の存在を認めている人たちも多い。
 その理由はポーションだ。
 俺は他の生徒が魔剣学の授業を受けてる最中、特別に上級生に混ざってポーションについての講義を受けることになっている。
 ポーションには魔力を注ぎ込む。
 だから最初は死人の紋章コープスアイデントである俺にポーションが作れる訳がないと馬鹿にされたものだが、神々封殺杖剣エクスケイオンの最上級の魔力によって作ったポーションを見せつけ全員を黙らせた。
 もちろん神々封殺杖剣エクスケイオンの存在は知らしめてないため、魔力が無くてもポーションが作れるという誤った認識を学校という教育機関に認知させてしまったのは少し良くなかったかもしれない。
 まあ正直俺に取ってはどうでもいいことなのだが。

 ちなみにミルも上級生に目を付けられるくらい魔法の腕が上達しているらしい。
 この間、魔法を使って人形をまるで生きているかのように動かしているのを見せられた時は本当に驚いたもんだ。

 今は神学とかいう宗教じみた授業を受けている。
 この世界を構築した六人の神についての説明や、紋章や魔力についての説明を聞かされていた。

「何故神がレベルなどという概念を設けたのか知っていますか?」

「レベルという制限が無いと、どこまでも強くなっちゃう人が出ちゃうからでーす!」

 神学の先生の質問に呑気な声で答えを返す女子生徒、リネ。これで大抵答えが合っているものだから面白い。

「その通りです。ではレベルという概念を設けたのはどの神だかご存知ですか?」

「リレイティア様でーす」

「よく知っていますね。制約の女神、リレイティア様。彼女が紋章にレベルという概念を設けたのですね」

 その後の話は、この世界には六つの大迷宮と六人の神が存在するという話だった。
 大迷宮の名前は全てその神の名から取られている。

 ちなみに一番大きい迷宮は魔族領にあるベルフェリオ大迷宮で、次に大きいのは俺がヴァルムと出会ったメルクリア大迷宮らしい。
 この話はフォーミュラから聞いたこともあったので特に新鮮味は無かったが、興味深かった話もいくつかあった。

 それはそれぞれ六人の神にはつかさどるものがあるという話。
 リレイティアは『制約』、へティアは『誕生』、メルクリアは『癒し』、ロラーは『時間』、そしてベルフェリオは『魔族』。最も興味深かったのが、ゼレスの『次元』。
 ベルフェリオの魔族という具体的なものにも驚いたのだが、やはり特筆すべきはゼレスだろう。
 レヴィオンの思惑はベルフェリオの復活。
 復活するということは、神とは概念ではなく実在するものであるということ。
 つまりゼレスも実在し、ゼレスに会うことができれば元の世界…日本に戻ることもできるのでは無いだろうか。
 そんな考え事にふけりながら窓から外を眺めている。
 大きな雲が浮かんでは流されていく青空に気を取られていたが、どうやら意識が散漫している俺に気づいたのか、神学の担当教師が俺の名前を呼んでいた。

「ワタルくん?四百年前に暴虐の魔王を倒したと言われている二人の勇者の異名を知っていますか?」

 どうやら俺は指名されているようだった。運が良く知っている内容だったので胸を撫で下ろし、答える。

「『封印』と『未来視』ですよね?」

 フォーミュラから散々聞かされた話だ。間違えるはずがない。
 魔王レヴィオンを封印した通称『封印の勇者』と、四百年前に俺がレヴィオンを倒すことを予言したという『未来視の勇者』。

「ちゃんと授業を聞いていないように見えたのですが…予習しているようですね…」

 どこか悔しそうな顔をする教師。
 俺は内心でドヤ顔しておく。しかし──、

「では、未来視の勇者が魔王討伐以外で成し遂げた偉業のことを知っていますか?」

 教師の続け様の質問。
 未来視の勇者の魔王討伐以外の異名?そんなの知らねー!
 ってか今の世の中では魔王…レヴィオンは封印されたのではく倒されたと伝わっているのか。
 ここでこの質問に答えられないのは少し恥ずかしいな。
 今までの知識から推測して答えてみるか。
 
 数秒考えた素ぶりを見せた上で、答える。

竜王リントヴルムを手懐けたことですかね?」

 俺のそんな答えに、教室内は沈黙に包まれる。
 竜王ヴァルムは勇者パーティの一員だった。竜王リントヴルム最悪の五芒星ディザ・スターの一角に入れられるくらいには厄災と思われていたようだし、俺の答えはあながち間違っていないように思えたが、教師の求める答えではなかったらしく……

「違います。現代でも使われているシャワーや水道、トイレなどを開発して世に広めたことです。しかしワタル君の回答は実に興味深いですね。確かに厄災である竜王リントヴルムをパーティメンバーにすることで世に出ないよう抑えつけていたと考えるならば、手懐けたという表現は間違っていないように思えます」

 教師は思いの外、俺の回答を誤答だと断定できてはいないようだった。
 そして俺を面倒な生徒だと判断したのかそれ以上何かを言ってくる事はなく、授業は淡々と進められる。

 そんなこんなで授業の鐘が鳴り響き、授業は終わった。
 次はホームルーム。何やら第一回目の試験について説明があるらしい。
 話を聞いた感じ、学力試験では無いとか。
 まあ剣術や魔法に重きを置いているこの学校ではペーパーテストよりも実技テストを重視するのは普通の事なのかもしれないが、それにしても入学してから一週間で試験とは、早すぎじゃないか?とは思う。
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