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第二章
23. 王都到着
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「それで、話ってのはー?」
豪華絢爛に装飾された魔王城の一室で、魔王護六将校の一人、リーラ=イクスチェンはセミロングの横髪を人差し指でクルクルと回しながら床に跪く男魔族を見つめている。
男魔族の表情は曇っていて、どこかただ事ではない雰囲気を醸し出していた。
「五~七歳の子供が西ルクバー地区で三人、南ルクバー地区で四人、それぞれ失踪しております。チェシャ樣の情報も考慮して…間違いなく奴らの仕業と見て間違いないかと」
男魔族が怒りで喉を震わせながらリーラに用件を伝えた。それを聞いたリーラは納得したように顔を軽く縦に振る。
「奴ら…最近動きを見せないと思ってたけど、ルクバーって亜人族領に近かったわよねー?」
「はい…」
魔族領は『地区』と呼ばれる五つのエリアに分かれている。
ルクバーはその中でも亜人族領に最も近い場所にある地区だ。
近いと言っても亜人族領と魔族領が干渉し合うのは中々難しい。何故ならば亜人族領と魔族領の隔には地の底まで続く巨大な奈落…『ハーマゲドンの谷』があるからだ。
「ハーマゲドンの谷があんのにどっから湧いてくんのやらー?」
もちろん双方の領土を往来する手段はあるのだが、検問が厳しい以上難しい。
生身であの谷を越えられる身体能力や魔法があるのならば話は別だが。
「それがさっぱりわからないのです」
「厄介だなー。やっぱ狙いは魔石か?それで?私に調査してもらいたいと?」
「願わくば…奴らを壊滅にまでもっていって貰えば幸いですが」
男魔族はリーラの子供好きな性格を分かっていて、このような進言をしている。
「壊滅って。あいつら数だけは虫みたいに大量にいるのよ?まあ……できないことはないけど」
リーラは少し考えたような素振りを見せたが、奴らを壊滅まで持っていけると断言する。
それはリーラの紋章魔法を使えば十分に可能なことだからだ。
リーラが更に考えを巡らせていると、ギギギ…という音とともに部屋の扉が開かれる。
「あら?なんの話をしているの?リーラちゃん」
豪勢なソファーでくつろいでいたリーラも、突如部屋に侵入してきたその声の持ち主にはすぐさま姿勢を整える。
これまで跪いていた男魔族も、その存在の介入は予想外なのか驚愕に口を開ける…が、すぐに切り替えて腕を胸まで持っていく。
そう、リーラの部屋に許可もなく入ってきたのは魔王レヴィオンだった。レヴィオンは気に入ったのか相変わらずワタルの制服を身に纏っている。
「えと…なんかルクバーで子供が七人いなくなってるって話でー…それを私が助けに行こうカナー?的な…」
リーラは緊張している。
「犯人の目星はついているの?」
「はい。おそらく古代の代理人の連中かと」
これまで黙っていた男魔族が、リーラの慌てぶりに見かねたのか話に割り込んだ。その答えにレヴィオンは疑問符を浮かべる。
「古代の代理人?何かしら。それは」
「古代人の英知を復活させようと目論んでいる集団です…。奴らは非人道的な人体実験も平然と行うような野蛮な連中です。ですから囚われた子供たちも早急に救ってやらねばなりません!」
囚われた子供たちに何か思い入れがあるのか、芯のこもった言葉で力説する男魔族。その確かな声は小さな一室に響き渡った。
「古代の代理人とやらの根城はもう突き止めてるのかしら?」
「それは…亜人族領のどこかにあるのは確かなのですが…正確な位置までは」
「じゃあ子供たちは諦めたほうが良さそうね」
「それは!!」
レヴィオンの冷酷な言葉に思わず立ち上がる男魔族。それでも流石に弁えているのか、すぐに平常を取り戻して体勢を戻す。
「何かしら?」
「…失礼しました。ルクバーや亜人族に近い地域の警戒をより一層強化します。では」
居心地が悪くなったのか、男魔族はそう言うとリーラの部屋から退室した。
後に残るは慣れない姿勢に汗を垂らすリーラとレヴィオンだけ。
「ねえリーラちゃん…古代の代理人の根城を突き止めたら…私にも教えてね?」
緊張するリーラの元まで近づき、耳元で囁くレヴィオン。
背中にまで嫌な汗が伝わるリーラは「わかりました…」と答える他なかった。
それを聞いてレヴィオンは満足したように微笑み部屋を出る。
リーラは思う。
もしかしてレヴィオンは何もかも──未来ですら見透かしているのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
「見えたっす!あれがアルカイドの王都、セラリスっすよ」
アラッカ村を離れてから一週間。
ミザールの国境を跨ぎ、ようやく王都魔剣術学校があるアルカイドの王都、セラリスが見えてきた。
セラリスは亜人族領で最も安全な都市だと言われているらしい。
高さ5メートルはある堅固な城壁もそう言われる所以だが、主な理由は『セラリス騎士団』にある。
具体的なセラリス騎士団の偉業については知らないが、セラリス周辺に存在する魔物の殆どを狩りつくしていて、そのお陰で魔物を見たことが無い住民が多いと聞いた時は正直驚いた。
盗賊などの組織の動向も厳重に取り締まっているのだとか…
そんな精錬された騎士団が作られた理由はたった一つ。
この都市に亜人族領を総括している王がいるからだ。
その王が居住している豪勢な城が街の中央にそびえ立っているのは既に視界に映っている。
ちなみにこれらは学校への入学試験のためにサティスから教わった事前知識の一部だ。
リレッジの顔パスで城門から中に入る。
一気に空気が変わった。
「すごい…」
俺とともに車窓から顔を出すミルが活気あふれる街並みを眺めて感嘆の声を漏らしている。
人、人、人。
歩道は様々な人種の人間で溢れていた。
ゼレス大迷宮の入り口があるライラルも初めて見た時はその発展具合に感動したものだが、それを遥かに凌駕するレベルの感動が押し寄せてくる。
「見て見てあれ!」
ミルは全身を俺に預けながら、何やら楽器隊によるショーのようなものを指さしてはしゃいでいる。
──ミルとはこの一週間で随分仲良くなったもんだ。背中の手当てもほとんどミルがしてくれたし。
ミルの生い立ちだって聞いた。
ミルは物心つく前からアラッカ村にいたのだそうだ。
九年前に何らかの理由で捨て子になった。
ミルの両親がアラッカ村にいないことは明らかだったが、アラッカ村の人たちはミルのことをまるで自分の娘であるかのように育ててくれたという。
その話を聞いて俺は──そんな心優しい村人たちをなんの躊躇も無く虐殺した古代の代理人に対する怒りが強まった。
にしてもあんなに残虐に殺す必要があったというのだろうか?
何かストレスの発散にでも利用されたような気がしてならない。
そうこうしている内にも馬車は整備された道を突き進んでいき、別れの時が近づいてくる。
もう少し進んだ先にある大きな宿屋。
そこの前までたどり着いたらリレッジと別れる予定になっているのだ。
思えば随分リレッジにはお世話になった。
──やがて宿前までついた馬車は、久しぶりにその歩みを止める。
「着いたっす」
俺とミルは荷物を持って馬車から降りるが、これからポーションを依頼主まで運ぶというリレッジは降りない。リレッジもリレッジで忙しいのだ。
「じゃあ、世話になったな」
「ありがとうございました…」
「こちらこそっす。いつもは一人の旅路で退屈だったっすから。二人とも試験頑張ってくださいっす」
律儀に頭を下げる俺とミルにリレッジは手を振り、急ぐように馬車に鞭打った。
短い期間だったが、やはり別れというのはどこか人の心に暗雲をかける。
俺は世話になった馬車が見えなくなるまで、その背中を追った。
「ねえ、これからどうするの?」
子供二人だけ。
ミルにも俺の本当の年齢のことを言ってないから、少し不安げな顔をしている。
しかし…
「試験は四日後だ。三日間はこの宿に泊まる。それまで王都の探検でもするか?」
俺がそんな提案をすると、ミルは不安げな顔から一気に晴れやかな笑顔になった。
「良いの?やったー!」
アラッカ村から出たことがないというミルは飛び跳ねて喜んでいる。おいおい、可愛いな。
…待てよ?
誰かこっちをずっと見てるな。
わずか数メートル先の路地からミルを見つめる怪しい視線があることに気づく。
ミルはあまり見ない竜人族だ。狙われていると考えても無理はないだろう。
この街、本当に治安が良いのか?
治安が良いといってもヤバい奴は一定数いるものか。
「先にチェックインするぞ」
俺ははしゃぐミルの手を強引に連れ宿の中へ急ぐ。
流石に警備の聞いた宿内で人攫いなんてことはできないはずだ。
「二名様ですか?」
「ああ。リレッジという名で予約していたはずだ」
まるでホテルのドアマンのような着こなしをした受付に人数を伝える。
ここは宿と言うよりホテルと言った方がいいのかもしれない。
毎年この時期には王都魔剣術学校の試験があるので子供だけでのチェックインは珍しくないのか、受付は手際よく終わる。もちろん、予約していたお陰でもあるが。
代金は先払いだったようで、俺は六泊×二人分の代金36万リピルを支払った。
朝食と夕食付きでこの値段。
妥当なのか、それとも試験があることで確実に客が増えるだろうから普段よりも代金を高くしているのか、それはわからない。けど、サティスからたんまりお小遣いを貰っている俺にとっては微々たる金額だ。
代金と引き換えに受付から部屋の鍵を貰い、階段を昇る。
俺たちの部屋は四階らしく、二、三階の客席はもう既に全部埋まっているようだった。
流石は亜人族領の七つの国全てから受験者が殺到する学校。まだ試験四日前なのにこの状況とは。
当日はどれだけの密空間が生まれるのだろう。想像もしたくない。
「ねえ外見に行こうよ」
部屋に入って取り敢えず窓から外を観察していたら、ミルが待ちきれないという様にそわそわしていた。
綺麗に整備された区画と食欲をそそる匂いをここまで漂わせる露店商を見ていれば必然とそうなるか。
ちなみに俺とミルは同じ部屋である。
…やましい気持ちなんてないぞ。生憎俺は年上のおねーさんが好きなんだからな。万一を取ってだ。
「じゃあ…行くか」
正直外に出るのは不安だ。
もしかしたら古代の代理人の連中が目を光らせてるかもしれないし、それ以外でもさっきのようにミルに怪しい目を向けてる奴は少なからずいるはず。
まあ…いざとなってもミル自身が強力な魔法を使えるし、俺も警戒を怠るつもりはないから、外へ出ても問題ないか。
そう判断して街へ繰り出る。
もったいないくらいの快晴と、辺りを漂う心地よい喧騒、匂い。
どれを取ってもインドア派な俺でもわかるアウトドア日和だ。
お、あれは!
「おっちゃん、串カツ二本!」
宿を出て真っ先に目についた露店に飛びつく。
油物なんて、いつぶりだろうか…!
流石にサティスは老体ということもあり、そういったものを全く食べれなかった。
なんの肉かは知らないが、串に刺さった綺麗な赤身に粉と液をつけて油に突っ込む様を見ていると嫌でも腹が鳴ってしまう。
「あいよ、ほれ」
既に揚げあがっていた串カツ二本を受け取り、一本をミルへと手渡す。
ミルも揚げ物なんて初めて見たのか興味深々だ。
「400リピルだな」
俺は金の入った袋から100リピル硬貨を四枚取り出して串カツ屋のおっちゃんに手渡す。
「お前ら王都魔剣術学校の試験を受けに来たのか?ってかそれしかないか」
「そうだが、この街はいつもこんなにお祭り騒ぎなのか?」
見渡す限りの露店といい、まるで祭りが行われているかのようだ。
「まあな。でも入学試験の時はいつもより賑やかだな。稼ぎ時だ!」
「へえ、たぶんまた買いに来るわ。じゃあな」
「あいよ!…ああ、一応言っとくが…この時期はあまり子供だけで街に出ない方が良いぞ。身代金目当ての人攫いが目を光らせてるからな」
「忠告感謝するよ。肝に銘じておく」
食べ終わった串のゴミを併設されたゴミ箱に放り投げ、おっちゃんの忠告を頭の片隅に置きつつ──その後もミルと共に露店巡りを楽しんだ。
食べ物はもちろんアクセサリーなんて売ってる店もあって、金に余裕がある俺はミルにねだられてついつい買ってあげたりなんかしてしまった。
「お、これ似合うんじゃないか?」
ふと目についた商品を手に取って見てみる。
それは、青色のベレー帽のような帽子。
ミルの特徴的な角を隠すために丁度良さそうで、お勧めしてみる。
試しに被らせて見ると、それが中々似合っていてミルも気に入った様子だった。
初日に金を使い過ぎた感もあったが、ミルの楽しげな表情を見ていればついつい財布の口が緩んでしまうもので、それも買ってしまった。
「そろそろ宿に戻るか」
俺が宿でとったプランは夕食と朝食があるプラン。もう時期夕食が提供される時間になる。
「えー、もうちょっと見てたいよう。あっあれ可愛いかも!」
ミルは何か良いものを見つけたのか、人混みをかき分けてどんどんと道を進んでいった。
まずい、今の俺の視野は身長130センチ前後のもの。
ガタイのいい屈強な男たちが多いこの街内でその視界はかなり制限されている。
それに今は薄暗い黄昏時。姿が見えなくなれば厄介なことになる。
俺は足早にミルの背中を追った。
だが小さな少女は速いペースで人混みをかき分けていってしまう。
ついにはその背中を見失ってしまった。
「あれだけ離れるなって言ったのに…!」
思わず悪態を吐く。
変な奴らに捕まってなければ良いんだが…
周囲を見回してもミルらしき影は見えない。それどころか試験前ということもあってミルに酷似した少女が歩いていたりしている。
──そんな時、路地裏を注視していた俺の視界にまるで何かに駆られたように走り出す金髪の少年の姿が映った。
あんな誰もいなさそうな路地裏で何を見つけたんだろうか。
疑問と確信が入り混じる中、俺は少年を追ってその路地裏へと向かう。
「右、左…どっちだ?」
狭い路地裏を突き進んでぶつかったのは左右への分かれ道。
少年はどっちに向かった?
気配を探ろうにも人の気配がありふれていて、ミルのものだとは断定できない。
迷った時人は左に行く…そんな話をどこかで聞いたことがある。
というわけでとりあえず左側の通路へと進むことを選ぶ。
左側の通路を進んで、またしても同じような分かれ道にたどり着く。
下手すりゃ総当たりで探そうなんて思っていたが、それだと途方もない時間がかかってしまいそうだ。
大都市の路地なんて、それこそ迷路と言っても過言ではない。
何か打つ手は無いか?
ミルが思いつきそうな手段は……
俺だったら、こんな人が溢れた場所で自分の位置を知らせるときにどうする?大声で叫ぶか?
いや、声の小さいミルの叫びは届かないだろう。
ただ闇雲に探すか…?
考えるのを放棄しようとした時、違和感を感じてふと空を見上げた。
──あれは……ミルだ。
上空わずか数十メートル先。そこに煉瓦のようなものが浮かんでいた。
ミルの紋章魔法は物を操り、宙に浮かせることができる。
あれはミルが俺に託したメッセージだ。あの浮遊煉瓦の下にミルがいる。
俺は足元に神光支配を集約させ、家屋の屋根目掛けて垂直跳びした。
屋根の上を走る。
そこに住んでる住民からしたら迷惑極まりないだろうが、状況が状況だ。躊躇ってられない。
一瞬でその場所までたどり着いた俺は、屋根の上から状況を確認する。
そこには男が二人いた。ミルを押さえつけてる男と、もう一人は……
…やっぱりか。
もう一人の男は、俺が路地に飛び込むのを見た金髪少年と対峙していた。
やはり金髪少年はミルが攫われた姿を目撃してその後を追ったのだ。
男は剣を持っているが、金髪少年は何も持っておらず全くの無防備。
一人で大丈夫なのだろうか?いや、俺も行くべきだろう。
「いるんだよなあ、自分は試験を受ける特別な人間だと思い込んでいるクソガキ共がよお」
剣を振りかざしながら、そんなことを言っている男。金髪少年はそれに怯えた様子も見せない。
「その女の子を今すぐ離せ」
毅然とした態度で少年は男に命令した。
それに男は苛立ちを隠そうとしない。
「へえ、離せば見逃してくれるってか?ガキ一人で何が出来る?」
「離しても見逃しませんが…良いでしょう」
少年はそう言うと、口まで指を持っていき、勢いよく指笛を鳴らした。
その音は狭い路地を反響し、やがて消える。
紋章魔法の中には発動するのに条件を必要とするものが存在する。
少年が放った指笛もその類によるものかと考えたが、生憎少年は紋章を顕現させていないのでその可能性は無い。
では一体なんのためにそんなことを。
「…なんも無いじゃねえか。そんな指笛で俺が倒れるとでも思ってたのか?」
何も起こらないことに嘲笑を隠さない男二人。
だが、屋根の上にいて周囲を見渡せる俺には状況が一転したことがわかった。
笛を聞きつけたセラリス騎士団が数人、こちらに向かってきていた。
ってかよくあの音で聞き取れたな。
数秒続く沈黙。のち、騎士団たちはその姿を現す。
そして次に発した騎士団一人の言葉にこの場は硬直する。
「怪我はありませんか?殿下」
殿下。
つまりこの金髪少年は王族であるってことだ。
どうりで指笛一本で騎士団がこの場所を特定できたもんだ。王子の親衛隊として訓練された賜物なのだろう。
「どうします?このまま騎士団と戦いますか?」
殿下と呼ばれた少年は凛々しく人攫いの男を威圧する。
対して男は人質という圧倒的なアドバンテージを使って少年を威圧し返そうとする。
「う、うるせえ!こっちには人質が──」
させるかよ。
ミルに向かって振り上げようとした男の剣を、俺が弾き落とした。
完全な死角から放たれた一撃。
何があったかわからないというように飛ばされた剣を見る男だったが、状況を理解したのか諦めたようにこの場にヘナヘナと座り込む。
「あなたは?」
「この子の連れです。お騒がせしました」
俺は礼を言いながら頭を下げた。
王族相手なら下手に出た方がいいだろう。それにあまり関わりたくない。顔を覚えられる前にこの場を去らなければ。
しかし…俺のそんな考えは次の王子の言葉によって否定される。
「君たちは今年王都魔剣術学校の試験を受けるのかな?僕も受けるんだ。よろしくね」
にこやかに笑いながら手を差し出す王子。俺は引きつった顔ながらもその手を握り返す。
「じゃあ、俺たちはこれで」
ミルの手を引き、そそくさとこの場を去る。まさか王子も今年試験を受けるなんて予想外だった。
王子なんて絶対権力かコネかなんかで受かるだろ。ってことは、定員が一人減ったようなもんだ。
もう無用心に俺から離れるんじゃ無いぞとミルに釘をさしつつ、俺たちは夕食が待つ宿へと戻ったのだった。
豪華絢爛に装飾された魔王城の一室で、魔王護六将校の一人、リーラ=イクスチェンはセミロングの横髪を人差し指でクルクルと回しながら床に跪く男魔族を見つめている。
男魔族の表情は曇っていて、どこかただ事ではない雰囲気を醸し出していた。
「五~七歳の子供が西ルクバー地区で三人、南ルクバー地区で四人、それぞれ失踪しております。チェシャ樣の情報も考慮して…間違いなく奴らの仕業と見て間違いないかと」
男魔族が怒りで喉を震わせながらリーラに用件を伝えた。それを聞いたリーラは納得したように顔を軽く縦に振る。
「奴ら…最近動きを見せないと思ってたけど、ルクバーって亜人族領に近かったわよねー?」
「はい…」
魔族領は『地区』と呼ばれる五つのエリアに分かれている。
ルクバーはその中でも亜人族領に最も近い場所にある地区だ。
近いと言っても亜人族領と魔族領が干渉し合うのは中々難しい。何故ならば亜人族領と魔族領の隔には地の底まで続く巨大な奈落…『ハーマゲドンの谷』があるからだ。
「ハーマゲドンの谷があんのにどっから湧いてくんのやらー?」
もちろん双方の領土を往来する手段はあるのだが、検問が厳しい以上難しい。
生身であの谷を越えられる身体能力や魔法があるのならば話は別だが。
「それがさっぱりわからないのです」
「厄介だなー。やっぱ狙いは魔石か?それで?私に調査してもらいたいと?」
「願わくば…奴らを壊滅にまでもっていって貰えば幸いですが」
男魔族はリーラの子供好きな性格を分かっていて、このような進言をしている。
「壊滅って。あいつら数だけは虫みたいに大量にいるのよ?まあ……できないことはないけど」
リーラは少し考えたような素振りを見せたが、奴らを壊滅まで持っていけると断言する。
それはリーラの紋章魔法を使えば十分に可能なことだからだ。
リーラが更に考えを巡らせていると、ギギギ…という音とともに部屋の扉が開かれる。
「あら?なんの話をしているの?リーラちゃん」
豪勢なソファーでくつろいでいたリーラも、突如部屋に侵入してきたその声の持ち主にはすぐさま姿勢を整える。
これまで跪いていた男魔族も、その存在の介入は予想外なのか驚愕に口を開ける…が、すぐに切り替えて腕を胸まで持っていく。
そう、リーラの部屋に許可もなく入ってきたのは魔王レヴィオンだった。レヴィオンは気に入ったのか相変わらずワタルの制服を身に纏っている。
「えと…なんかルクバーで子供が七人いなくなってるって話でー…それを私が助けに行こうカナー?的な…」
リーラは緊張している。
「犯人の目星はついているの?」
「はい。おそらく古代の代理人の連中かと」
これまで黙っていた男魔族が、リーラの慌てぶりに見かねたのか話に割り込んだ。その答えにレヴィオンは疑問符を浮かべる。
「古代の代理人?何かしら。それは」
「古代人の英知を復活させようと目論んでいる集団です…。奴らは非人道的な人体実験も平然と行うような野蛮な連中です。ですから囚われた子供たちも早急に救ってやらねばなりません!」
囚われた子供たちに何か思い入れがあるのか、芯のこもった言葉で力説する男魔族。その確かな声は小さな一室に響き渡った。
「古代の代理人とやらの根城はもう突き止めてるのかしら?」
「それは…亜人族領のどこかにあるのは確かなのですが…正確な位置までは」
「じゃあ子供たちは諦めたほうが良さそうね」
「それは!!」
レヴィオンの冷酷な言葉に思わず立ち上がる男魔族。それでも流石に弁えているのか、すぐに平常を取り戻して体勢を戻す。
「何かしら?」
「…失礼しました。ルクバーや亜人族に近い地域の警戒をより一層強化します。では」
居心地が悪くなったのか、男魔族はそう言うとリーラの部屋から退室した。
後に残るは慣れない姿勢に汗を垂らすリーラとレヴィオンだけ。
「ねえリーラちゃん…古代の代理人の根城を突き止めたら…私にも教えてね?」
緊張するリーラの元まで近づき、耳元で囁くレヴィオン。
背中にまで嫌な汗が伝わるリーラは「わかりました…」と答える他なかった。
それを聞いてレヴィオンは満足したように微笑み部屋を出る。
リーラは思う。
もしかしてレヴィオンは何もかも──未来ですら見透かしているのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
「見えたっす!あれがアルカイドの王都、セラリスっすよ」
アラッカ村を離れてから一週間。
ミザールの国境を跨ぎ、ようやく王都魔剣術学校があるアルカイドの王都、セラリスが見えてきた。
セラリスは亜人族領で最も安全な都市だと言われているらしい。
高さ5メートルはある堅固な城壁もそう言われる所以だが、主な理由は『セラリス騎士団』にある。
具体的なセラリス騎士団の偉業については知らないが、セラリス周辺に存在する魔物の殆どを狩りつくしていて、そのお陰で魔物を見たことが無い住民が多いと聞いた時は正直驚いた。
盗賊などの組織の動向も厳重に取り締まっているのだとか…
そんな精錬された騎士団が作られた理由はたった一つ。
この都市に亜人族領を総括している王がいるからだ。
その王が居住している豪勢な城が街の中央にそびえ立っているのは既に視界に映っている。
ちなみにこれらは学校への入学試験のためにサティスから教わった事前知識の一部だ。
リレッジの顔パスで城門から中に入る。
一気に空気が変わった。
「すごい…」
俺とともに車窓から顔を出すミルが活気あふれる街並みを眺めて感嘆の声を漏らしている。
人、人、人。
歩道は様々な人種の人間で溢れていた。
ゼレス大迷宮の入り口があるライラルも初めて見た時はその発展具合に感動したものだが、それを遥かに凌駕するレベルの感動が押し寄せてくる。
「見て見てあれ!」
ミルは全身を俺に預けながら、何やら楽器隊によるショーのようなものを指さしてはしゃいでいる。
──ミルとはこの一週間で随分仲良くなったもんだ。背中の手当てもほとんどミルがしてくれたし。
ミルの生い立ちだって聞いた。
ミルは物心つく前からアラッカ村にいたのだそうだ。
九年前に何らかの理由で捨て子になった。
ミルの両親がアラッカ村にいないことは明らかだったが、アラッカ村の人たちはミルのことをまるで自分の娘であるかのように育ててくれたという。
その話を聞いて俺は──そんな心優しい村人たちをなんの躊躇も無く虐殺した古代の代理人に対する怒りが強まった。
にしてもあんなに残虐に殺す必要があったというのだろうか?
何かストレスの発散にでも利用されたような気がしてならない。
そうこうしている内にも馬車は整備された道を突き進んでいき、別れの時が近づいてくる。
もう少し進んだ先にある大きな宿屋。
そこの前までたどり着いたらリレッジと別れる予定になっているのだ。
思えば随分リレッジにはお世話になった。
──やがて宿前までついた馬車は、久しぶりにその歩みを止める。
「着いたっす」
俺とミルは荷物を持って馬車から降りるが、これからポーションを依頼主まで運ぶというリレッジは降りない。リレッジもリレッジで忙しいのだ。
「じゃあ、世話になったな」
「ありがとうございました…」
「こちらこそっす。いつもは一人の旅路で退屈だったっすから。二人とも試験頑張ってくださいっす」
律儀に頭を下げる俺とミルにリレッジは手を振り、急ぐように馬車に鞭打った。
短い期間だったが、やはり別れというのはどこか人の心に暗雲をかける。
俺は世話になった馬車が見えなくなるまで、その背中を追った。
「ねえ、これからどうするの?」
子供二人だけ。
ミルにも俺の本当の年齢のことを言ってないから、少し不安げな顔をしている。
しかし…
「試験は四日後だ。三日間はこの宿に泊まる。それまで王都の探検でもするか?」
俺がそんな提案をすると、ミルは不安げな顔から一気に晴れやかな笑顔になった。
「良いの?やったー!」
アラッカ村から出たことがないというミルは飛び跳ねて喜んでいる。おいおい、可愛いな。
…待てよ?
誰かこっちをずっと見てるな。
わずか数メートル先の路地からミルを見つめる怪しい視線があることに気づく。
ミルはあまり見ない竜人族だ。狙われていると考えても無理はないだろう。
この街、本当に治安が良いのか?
治安が良いといってもヤバい奴は一定数いるものか。
「先にチェックインするぞ」
俺ははしゃぐミルの手を強引に連れ宿の中へ急ぐ。
流石に警備の聞いた宿内で人攫いなんてことはできないはずだ。
「二名様ですか?」
「ああ。リレッジという名で予約していたはずだ」
まるでホテルのドアマンのような着こなしをした受付に人数を伝える。
ここは宿と言うよりホテルと言った方がいいのかもしれない。
毎年この時期には王都魔剣術学校の試験があるので子供だけでのチェックインは珍しくないのか、受付は手際よく終わる。もちろん、予約していたお陰でもあるが。
代金は先払いだったようで、俺は六泊×二人分の代金36万リピルを支払った。
朝食と夕食付きでこの値段。
妥当なのか、それとも試験があることで確実に客が増えるだろうから普段よりも代金を高くしているのか、それはわからない。けど、サティスからたんまりお小遣いを貰っている俺にとっては微々たる金額だ。
代金と引き換えに受付から部屋の鍵を貰い、階段を昇る。
俺たちの部屋は四階らしく、二、三階の客席はもう既に全部埋まっているようだった。
流石は亜人族領の七つの国全てから受験者が殺到する学校。まだ試験四日前なのにこの状況とは。
当日はどれだけの密空間が生まれるのだろう。想像もしたくない。
「ねえ外見に行こうよ」
部屋に入って取り敢えず窓から外を観察していたら、ミルが待ちきれないという様にそわそわしていた。
綺麗に整備された区画と食欲をそそる匂いをここまで漂わせる露店商を見ていれば必然とそうなるか。
ちなみに俺とミルは同じ部屋である。
…やましい気持ちなんてないぞ。生憎俺は年上のおねーさんが好きなんだからな。万一を取ってだ。
「じゃあ…行くか」
正直外に出るのは不安だ。
もしかしたら古代の代理人の連中が目を光らせてるかもしれないし、それ以外でもさっきのようにミルに怪しい目を向けてる奴は少なからずいるはず。
まあ…いざとなってもミル自身が強力な魔法を使えるし、俺も警戒を怠るつもりはないから、外へ出ても問題ないか。
そう判断して街へ繰り出る。
もったいないくらいの快晴と、辺りを漂う心地よい喧騒、匂い。
どれを取ってもインドア派な俺でもわかるアウトドア日和だ。
お、あれは!
「おっちゃん、串カツ二本!」
宿を出て真っ先に目についた露店に飛びつく。
油物なんて、いつぶりだろうか…!
流石にサティスは老体ということもあり、そういったものを全く食べれなかった。
なんの肉かは知らないが、串に刺さった綺麗な赤身に粉と液をつけて油に突っ込む様を見ていると嫌でも腹が鳴ってしまう。
「あいよ、ほれ」
既に揚げあがっていた串カツ二本を受け取り、一本をミルへと手渡す。
ミルも揚げ物なんて初めて見たのか興味深々だ。
「400リピルだな」
俺は金の入った袋から100リピル硬貨を四枚取り出して串カツ屋のおっちゃんに手渡す。
「お前ら王都魔剣術学校の試験を受けに来たのか?ってかそれしかないか」
「そうだが、この街はいつもこんなにお祭り騒ぎなのか?」
見渡す限りの露店といい、まるで祭りが行われているかのようだ。
「まあな。でも入学試験の時はいつもより賑やかだな。稼ぎ時だ!」
「へえ、たぶんまた買いに来るわ。じゃあな」
「あいよ!…ああ、一応言っとくが…この時期はあまり子供だけで街に出ない方が良いぞ。身代金目当ての人攫いが目を光らせてるからな」
「忠告感謝するよ。肝に銘じておく」
食べ終わった串のゴミを併設されたゴミ箱に放り投げ、おっちゃんの忠告を頭の片隅に置きつつ──その後もミルと共に露店巡りを楽しんだ。
食べ物はもちろんアクセサリーなんて売ってる店もあって、金に余裕がある俺はミルにねだられてついつい買ってあげたりなんかしてしまった。
「お、これ似合うんじゃないか?」
ふと目についた商品を手に取って見てみる。
それは、青色のベレー帽のような帽子。
ミルの特徴的な角を隠すために丁度良さそうで、お勧めしてみる。
試しに被らせて見ると、それが中々似合っていてミルも気に入った様子だった。
初日に金を使い過ぎた感もあったが、ミルの楽しげな表情を見ていればついつい財布の口が緩んでしまうもので、それも買ってしまった。
「そろそろ宿に戻るか」
俺が宿でとったプランは夕食と朝食があるプラン。もう時期夕食が提供される時間になる。
「えー、もうちょっと見てたいよう。あっあれ可愛いかも!」
ミルは何か良いものを見つけたのか、人混みをかき分けてどんどんと道を進んでいった。
まずい、今の俺の視野は身長130センチ前後のもの。
ガタイのいい屈強な男たちが多いこの街内でその視界はかなり制限されている。
それに今は薄暗い黄昏時。姿が見えなくなれば厄介なことになる。
俺は足早にミルの背中を追った。
だが小さな少女は速いペースで人混みをかき分けていってしまう。
ついにはその背中を見失ってしまった。
「あれだけ離れるなって言ったのに…!」
思わず悪態を吐く。
変な奴らに捕まってなければ良いんだが…
周囲を見回してもミルらしき影は見えない。それどころか試験前ということもあってミルに酷似した少女が歩いていたりしている。
──そんな時、路地裏を注視していた俺の視界にまるで何かに駆られたように走り出す金髪の少年の姿が映った。
あんな誰もいなさそうな路地裏で何を見つけたんだろうか。
疑問と確信が入り混じる中、俺は少年を追ってその路地裏へと向かう。
「右、左…どっちだ?」
狭い路地裏を突き進んでぶつかったのは左右への分かれ道。
少年はどっちに向かった?
気配を探ろうにも人の気配がありふれていて、ミルのものだとは断定できない。
迷った時人は左に行く…そんな話をどこかで聞いたことがある。
というわけでとりあえず左側の通路へと進むことを選ぶ。
左側の通路を進んで、またしても同じような分かれ道にたどり着く。
下手すりゃ総当たりで探そうなんて思っていたが、それだと途方もない時間がかかってしまいそうだ。
大都市の路地なんて、それこそ迷路と言っても過言ではない。
何か打つ手は無いか?
ミルが思いつきそうな手段は……
俺だったら、こんな人が溢れた場所で自分の位置を知らせるときにどうする?大声で叫ぶか?
いや、声の小さいミルの叫びは届かないだろう。
ただ闇雲に探すか…?
考えるのを放棄しようとした時、違和感を感じてふと空を見上げた。
──あれは……ミルだ。
上空わずか数十メートル先。そこに煉瓦のようなものが浮かんでいた。
ミルの紋章魔法は物を操り、宙に浮かせることができる。
あれはミルが俺に託したメッセージだ。あの浮遊煉瓦の下にミルがいる。
俺は足元に神光支配を集約させ、家屋の屋根目掛けて垂直跳びした。
屋根の上を走る。
そこに住んでる住民からしたら迷惑極まりないだろうが、状況が状況だ。躊躇ってられない。
一瞬でその場所までたどり着いた俺は、屋根の上から状況を確認する。
そこには男が二人いた。ミルを押さえつけてる男と、もう一人は……
…やっぱりか。
もう一人の男は、俺が路地に飛び込むのを見た金髪少年と対峙していた。
やはり金髪少年はミルが攫われた姿を目撃してその後を追ったのだ。
男は剣を持っているが、金髪少年は何も持っておらず全くの無防備。
一人で大丈夫なのだろうか?いや、俺も行くべきだろう。
「いるんだよなあ、自分は試験を受ける特別な人間だと思い込んでいるクソガキ共がよお」
剣を振りかざしながら、そんなことを言っている男。金髪少年はそれに怯えた様子も見せない。
「その女の子を今すぐ離せ」
毅然とした態度で少年は男に命令した。
それに男は苛立ちを隠そうとしない。
「へえ、離せば見逃してくれるってか?ガキ一人で何が出来る?」
「離しても見逃しませんが…良いでしょう」
少年はそう言うと、口まで指を持っていき、勢いよく指笛を鳴らした。
その音は狭い路地を反響し、やがて消える。
紋章魔法の中には発動するのに条件を必要とするものが存在する。
少年が放った指笛もその類によるものかと考えたが、生憎少年は紋章を顕現させていないのでその可能性は無い。
では一体なんのためにそんなことを。
「…なんも無いじゃねえか。そんな指笛で俺が倒れるとでも思ってたのか?」
何も起こらないことに嘲笑を隠さない男二人。
だが、屋根の上にいて周囲を見渡せる俺には状況が一転したことがわかった。
笛を聞きつけたセラリス騎士団が数人、こちらに向かってきていた。
ってかよくあの音で聞き取れたな。
数秒続く沈黙。のち、騎士団たちはその姿を現す。
そして次に発した騎士団一人の言葉にこの場は硬直する。
「怪我はありませんか?殿下」
殿下。
つまりこの金髪少年は王族であるってことだ。
どうりで指笛一本で騎士団がこの場所を特定できたもんだ。王子の親衛隊として訓練された賜物なのだろう。
「どうします?このまま騎士団と戦いますか?」
殿下と呼ばれた少年は凛々しく人攫いの男を威圧する。
対して男は人質という圧倒的なアドバンテージを使って少年を威圧し返そうとする。
「う、うるせえ!こっちには人質が──」
させるかよ。
ミルに向かって振り上げようとした男の剣を、俺が弾き落とした。
完全な死角から放たれた一撃。
何があったかわからないというように飛ばされた剣を見る男だったが、状況を理解したのか諦めたようにこの場にヘナヘナと座り込む。
「あなたは?」
「この子の連れです。お騒がせしました」
俺は礼を言いながら頭を下げた。
王族相手なら下手に出た方がいいだろう。それにあまり関わりたくない。顔を覚えられる前にこの場を去らなければ。
しかし…俺のそんな考えは次の王子の言葉によって否定される。
「君たちは今年王都魔剣術学校の試験を受けるのかな?僕も受けるんだ。よろしくね」
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「じゃあ、俺たちはこれで」
ミルの手を引き、そそくさとこの場を去る。まさか王子も今年試験を受けるなんて予想外だった。
王子なんて絶対権力かコネかなんかで受かるだろ。ってことは、定員が一人減ったようなもんだ。
もう無用心に俺から離れるんじゃ無いぞとミルに釘をさしつつ、俺たちは夕食が待つ宿へと戻ったのだった。
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