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Chapter03 本当のゲーム開幕
Dream 074
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「ってか話を戻すけど、モンスター側のプレイヤーがシンギュリティを倒したら、現実に戻れるのか?」
リリーはそんなことを言ったと思うが……
「そのハズだったんダヨ。プレイヤーとして参加したシンギュラリティをモンスターのプレイヤーが倒せば、シンギュラリティと紐付けられているアカウントがデータベースから削除されて、二度とこのゲームに関与することはできないっテ」
「は? このゲームがデスゲームになる保証なんてないよな? モンスタープレイヤーがシンギュラリティを倒したとして、シンギュラリティはリスポーンする。それじゃあ意味ないだろ」
まるでリリーは、このゲームはシンギュラリティが運営としてゲームシステムを変更する前から死んだら二度とリスポーンしないデスゲームだと言っているようだが……
そのまさかだった。
「イヤ、このゲームのコンセプトはそもそも復活したらリスポーンしないものだったンダ」
「……マジかよ」
翔子博士は最初に俺にメールを送ってきた時。シンギュラリティはこのゲームを良いように改変してるだろうと言った。
その改変部分に、死んだら二度と目覚めないということが含まれるのかと思っていたのだが、そもそもそれがATEDの仕様だったらしい。
……流石に現実世界でも目覚めないなんてことは無いと思うが。
「ソユコト。だからシンギュラリティが運営側に回っタのには翔子先生も頭を抱えてるダローネー」
リリーはナハハと笑っているが、全く他人事ではない。
リリーは開発者なのだ。『ワタシがこのゲームを続けられなくなる』と語ったのは、開発者とバレたら周囲のプレイヤーから袋叩きにされるからに違いないのだ。
それが分かっていてこうも俺に打ち明けてくれたからには、仁義を通さねばなるまい。
「開発者ってことは黙っておく。…………って待てよ? このゲームはPKが認められている。わざわざモンスタープレイヤーなんて用意しなくても、プレイヤーにシンギュラリティを襲わせれば……」
俺は名案が思いついたと言わんばかりに指を鳴らしたが、リリーに否定される。
「誰がシンギュラリティか区別つかないダロ? それにそんな、PKを推奨するような真似はしたくなかった。曲がりなりにも、ワタシたちはATEDを楽しんで欲しいんダヨ」
リリーや翔子博士はシンギュラリティの責任を取らなければならない技術者であって、同時にゲームを作成した開発者なのだ。
その気持ちはわからなくもない。
「そっか……で、結局俺になんのようだ? ただ俺がバベルの塔でどんなふうに過ごしたのか知りたいだけか?」
俺は話を最初に戻したが、
「ソーだね。まずは謝っておくヨ。フェニックスイーダらに嘘ついてまで君をここまで誘き出したコト」
リリーは妙なカミングアウトをした。
「誘き出した?」
俺は俺の意思でここまできた。
そんなリリーに誘い出されたような気はしないが……
「ワタシは一対一で、誰もいない場所で君と話したかっタ。だから、フェニックスイーダに偽の情報を流したんダ。生命力の呪い・大の解呪ができるレベル25以下のプレイヤーがパーティメンバーにいれば、水精の都の二つ目のワールドクエストが受けられるッテナ」
「……さっき『聖職者の心眼』で呪いを鑑定したら、NPCが侵されていたのは生命力の呪い・中だった。つまり、お前は時ノ支配者を持つ俺がこのクエストを受注してここまで来るよう仕向けるために、フェニックスいいだに嘘をついたってことか……」
レベル25以下でMATKが1000以上のプレイヤーなど、サブアカ以外にありえない。それを見越して、コイツはフェニックスいいだに貴重な情報を流した。
俺がパーティ申請を出すなんて確証は無いのに。
承認欲求を利用され、俺はコイツにここまで誘導されたんだ。少し悔しい。
「ソユコト。そんで、君はどうやって『第二の夢想を手に入れタ?」
第二の夢想ってのは……シンギュラリティが開けたプレゼントボックスみたいなアイテムか。
「手に入れたってよりは、シンギュラリティに強制的に使わされたって言った方が正しいな」
猫野郎の魂を俺が育てた竜の体に宿らせるために。
「シンギュラリティに直接会ったノカ?」
「ああ。バベルの塔のエリアボス六体を従えて俺を待ち構えていた」
「大体わかったゾ。じゃあ、モンスターのプレイヤーがシンギュラリティを倒すのは不可能ってことダナ」
開発者が思い描いていた、シンギュラリティがこのゲームを支配した時の対処法。
それは、プレイヤーとして参加したシンギュラリティをモンスタープレイヤーが倒すことだった。
しかしその計画は頓挫したと言えよう。
どうすれば、このゲームを終わらせてシンギュラリティの支配から解放されるのか。
ゲームをクリアすること?
そんな単純なことでは無い気がするが。
「俺たちはこのままずっとこのゲームに幽閉されたままってことか……」
独り言のように呟く。
そしてその言葉に、眉を顰めてリリーは問うてくる。
「そうかナ? 最初にシンギュラリティに送られてきたメールには、このゲームをクリアすれば現実に帰レルって書いてタンだけどナ」
「マジか?」
おいおい、そういう重要なメールは俺にも送っといてくれよな……
俺はシンギュラリティが愉快に笑う様を思い浮かべた。
「コレ、信じてイイと思うカ?」
リリーは無表情でそう聞いてきた。
俺の答えは。
「信じていいと思うぞ。アイツはおそらく嘘をつかない」
アカウントが切り替わる間際に、俺と猫野郎を合わせてくれたあのシンギュラリティが、そんな重要な約束を破るとは思えない。
「そっカー」
確信を持った俺の断言に、リリーは笑った。
リリーはそんなことを言ったと思うが……
「そのハズだったんダヨ。プレイヤーとして参加したシンギュラリティをモンスターのプレイヤーが倒せば、シンギュラリティと紐付けられているアカウントがデータベースから削除されて、二度とこのゲームに関与することはできないっテ」
「は? このゲームがデスゲームになる保証なんてないよな? モンスタープレイヤーがシンギュラリティを倒したとして、シンギュラリティはリスポーンする。それじゃあ意味ないだろ」
まるでリリーは、このゲームはシンギュラリティが運営としてゲームシステムを変更する前から死んだら二度とリスポーンしないデスゲームだと言っているようだが……
そのまさかだった。
「イヤ、このゲームのコンセプトはそもそも復活したらリスポーンしないものだったンダ」
「……マジかよ」
翔子博士は最初に俺にメールを送ってきた時。シンギュラリティはこのゲームを良いように改変してるだろうと言った。
その改変部分に、死んだら二度と目覚めないということが含まれるのかと思っていたのだが、そもそもそれがATEDの仕様だったらしい。
……流石に現実世界でも目覚めないなんてことは無いと思うが。
「ソユコト。だからシンギュラリティが運営側に回っタのには翔子先生も頭を抱えてるダローネー」
リリーはナハハと笑っているが、全く他人事ではない。
リリーは開発者なのだ。『ワタシがこのゲームを続けられなくなる』と語ったのは、開発者とバレたら周囲のプレイヤーから袋叩きにされるからに違いないのだ。
それが分かっていてこうも俺に打ち明けてくれたからには、仁義を通さねばなるまい。
「開発者ってことは黙っておく。…………って待てよ? このゲームはPKが認められている。わざわざモンスタープレイヤーなんて用意しなくても、プレイヤーにシンギュラリティを襲わせれば……」
俺は名案が思いついたと言わんばかりに指を鳴らしたが、リリーに否定される。
「誰がシンギュラリティか区別つかないダロ? それにそんな、PKを推奨するような真似はしたくなかった。曲がりなりにも、ワタシたちはATEDを楽しんで欲しいんダヨ」
リリーや翔子博士はシンギュラリティの責任を取らなければならない技術者であって、同時にゲームを作成した開発者なのだ。
その気持ちはわからなくもない。
「そっか……で、結局俺になんのようだ? ただ俺がバベルの塔でどんなふうに過ごしたのか知りたいだけか?」
俺は話を最初に戻したが、
「ソーだね。まずは謝っておくヨ。フェニックスイーダらに嘘ついてまで君をここまで誘き出したコト」
リリーは妙なカミングアウトをした。
「誘き出した?」
俺は俺の意思でここまできた。
そんなリリーに誘い出されたような気はしないが……
「ワタシは一対一で、誰もいない場所で君と話したかっタ。だから、フェニックスイーダに偽の情報を流したんダ。生命力の呪い・大の解呪ができるレベル25以下のプレイヤーがパーティメンバーにいれば、水精の都の二つ目のワールドクエストが受けられるッテナ」
「……さっき『聖職者の心眼』で呪いを鑑定したら、NPCが侵されていたのは生命力の呪い・中だった。つまり、お前は時ノ支配者を持つ俺がこのクエストを受注してここまで来るよう仕向けるために、フェニックスいいだに嘘をついたってことか……」
レベル25以下でMATKが1000以上のプレイヤーなど、サブアカ以外にありえない。それを見越して、コイツはフェニックスいいだに貴重な情報を流した。
俺がパーティ申請を出すなんて確証は無いのに。
承認欲求を利用され、俺はコイツにここまで誘導されたんだ。少し悔しい。
「ソユコト。そんで、君はどうやって『第二の夢想を手に入れタ?」
第二の夢想ってのは……シンギュラリティが開けたプレゼントボックスみたいなアイテムか。
「手に入れたってよりは、シンギュラリティに強制的に使わされたって言った方が正しいな」
猫野郎の魂を俺が育てた竜の体に宿らせるために。
「シンギュラリティに直接会ったノカ?」
「ああ。バベルの塔のエリアボス六体を従えて俺を待ち構えていた」
「大体わかったゾ。じゃあ、モンスターのプレイヤーがシンギュラリティを倒すのは不可能ってことダナ」
開発者が思い描いていた、シンギュラリティがこのゲームを支配した時の対処法。
それは、プレイヤーとして参加したシンギュラリティをモンスタープレイヤーが倒すことだった。
しかしその計画は頓挫したと言えよう。
どうすれば、このゲームを終わらせてシンギュラリティの支配から解放されるのか。
ゲームをクリアすること?
そんな単純なことでは無い気がするが。
「俺たちはこのままずっとこのゲームに幽閉されたままってことか……」
独り言のように呟く。
そしてその言葉に、眉を顰めてリリーは問うてくる。
「そうかナ? 最初にシンギュラリティに送られてきたメールには、このゲームをクリアすれば現実に帰レルって書いてタンだけどナ」
「マジか?」
おいおい、そういう重要なメールは俺にも送っといてくれよな……
俺はシンギュラリティが愉快に笑う様を思い浮かべた。
「コレ、信じてイイと思うカ?」
リリーは無表情でそう聞いてきた。
俺の答えは。
「信じていいと思うぞ。アイツはおそらく嘘をつかない」
アカウントが切り替わる間際に、俺と猫野郎を合わせてくれたあのシンギュラリティが、そんな重要な約束を破るとは思えない。
「そっカー」
確信を持った俺の断言に、リリーは笑った。
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