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Chapter02 色付く世界

Dream 051

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 私のレベルが15に上がったことで、私とバルカンの二人は再び迷宮街──『カペラ』を訪れた。
 相変わらず空気を飲み込むように開いたゲートは少し不気味で、しかしながらプレイヤーが訪れるのを待っているようで、ドキドキする。

 ひとまずは前回引き返すことになったあの場所目指して歩く。
 道中はほとんどモンスターがいなかった。というのも……

「レベル18⁉︎ どこでレベリングしたんすか⁉︎」

 などと騒がしく私たちに話しかけてきた他プレイヤーが既にここらのモンスターを狩り尽くしていたからである。
 ちなみにレベル18なのはバルカンだ。
 確かに現時点でレベルが18のプレイヤーはバルカンぐらいしかいないだろう。……私が知らないだけで既に20に到達しているプレイヤーもいるかもしれないが。
 
「気安く情報を教えるわけないだろう。行くぞ」

 だる絡みしてきた男4人パーティを軽くいなして、バルカンは私の腕を引っ張った。
 こんなところで足止めをくらっているのは時間の無駄だからね。

「いいじゃないっすか。俺たちのレベルが上がれば、このクソゲーがクリアされて現実に帰れるまでの時間も早まるってことっすよ?」

 4人パーティの中でも最もレベルが高い(といっても11だが)は、意外にもそんな鋭い指摘をしてきた。
 これが普通のゲームであったのならば、情報は独占した方が個人として独走できる。しかしATEDエイテッドは普通のゲームでは無い。
 他プレイヤーが力を付けることも、自分の為になるのだ。この世界から脱するには、他プレイヤーと協力してこのゲームをクリアするしかないのだから。
 私はバルカンの方を見たが、バルカンも同じ結論に至ったのか、

「ヘキタン荒野でレベル上げをしたんだ。プレイヤーが少なく、リソースの奪い合いがなかったからな」

 私たちがどこでレベル上げをしてきたのか教えた。
 しかしその情報は限られている。ウルベアードを倒したクエストやワールドクエストの存在は伏せた。
 まあ、ここにいる時点でワールドクエストは知ってると考えていいのだけど。

「ヘキタン荒野か~。確かに行ったことねーな。あざっす!」

 4人パーティのリーダーと思しき男は礼を告げると、出口の方へと向かっていった。
 存外に礼儀正しかったことに驚きつつ、プレイヤーの前線がどんどん攻略へと近づいていることを予感する。
 始まったばかりのこのゲーム。終わりは果たして訪れるのか。現時点では、ゲームマスターを除いて──誰もわからない。

 そうこうしている内に、前回踵を返すことになったあの場所に辿り着いた。
 追憶の断片が入っていた宝箱の抜け殻だけが置いてある部屋の先には階段がある。
 その階段を駆け降り、表示されたのは。

『【水精の迷宮街カペラ:第二層──礫泥れきでいの沼地】』

 前回は『ここから先に行くのはやめておけ』と言わんばかりに推奨レベルが表示されたが、そのレベルに追いついたことで今回は表示されなかった。
 まだ訪れたことの無い、未開の大地。
 もしかしたら私たちよりも先にプレイヤーが探索を始めているかもしれないが、その可能性は低い。さっき上層でモンスターを狩っていたパーティも、ここの推奨レベルを見て探索を諦めたのだろうから。

 目の前に広がるマップは一言で言えば、陰気臭かった。
 毒々しい見た目のモンスターが跋扈する、薄暗い空間。
 広大に広がる沼地は、一歩足を踏み入れただけで足を取られて転んでしまいそうだ。

「あんまり長居したくないマップだな……」

「そうですね。早いとこ下層へ向かう階段を見つけましょう」

 とは言っても追憶の断片を見つけなければならない。
 こうして未知のマップでの探索が始まったのだが──。

 数時間後。
 
 全く何も見つからない!

 水精のスロウルーパー、水精のマッドフロッグ、水精のスモールレッドアイサーペント、なんていういかにも、、、、な毒敵を倒しつつ探索を進めていたが、進展は何も無かった。
 私のレベルは16に上がったが、本当にそれだけ。
 迷宮街を訪れた意味、追憶の断片がこれっぽっちも見つかりやしない!

「いったん村に戻って、武器のメンテでもしますか?」
 
 武器には耐久値がある。それが0になる前に鍛冶屋でメンテをしてもらわないと、武器は壊れて二度と使い物にならなくなってしまう。
 まだもう少しは大丈夫だけど、折角+8まで強化された武器を耐久値切れで失くすなんて馬鹿な真似だけは避けたいのだ。
 私の提案にバルカンは言葉を返さない。
 何やら考え込んだそぶりを見せているが……
 
「こんなのアリか?」

 突然思いついたようにそう言った。
 何がアリ、、なのか私にはわからない。
 目の前にはただ巨大な古木があるだけで……

「この木のうろの中。入れるぞ」

「うそ!」

「本当だ」

 木の中に入れるなんてそんな馬鹿な、とは思ったがここはゲームの世界だ。
 物理法則が通用しない、魔法すらも存在する世界なのだ。
 半信半疑のまま、ぽっかりと木に開いた穴の中を覗き込んでみる。
 そうして中から聞こえてきたのは。

「助けてくれぇ!」

 なんていう、断末魔に似た悲鳴だった。
 ギョッとして後退りし、バルカンと顔を見合わせる。そして中に入るのを躊躇う。
 助けを呼ぶということはこの先にモンスターがいて、しかも強いのが確定しているのだ。
 
 迷う。この先にいるであろうプレイヤーを見殺しにして体制を立て直すか、助けに行くか。
 賢明なのは前者だ。
 ウルベアードと戦った時を思い出す。あまりに無謀で、愚かな戦いだった。
 しかしあれはほぼ不可抗力で始まった戦闘だった。
 今回は違う。介入するか選べるのだ。
 もしも視界左上に映るHPゲージが0になっても蘇るのであれば、すぐさま飛び込んで助けに行っていただろうけど……それはできない。
 軽率な判断イコール死。そんな戒めをウルベアードと戦った時、課したのだ。
 だけど。
 私は言う。

「助けに行きましょう」

「……お前ならそう言うと思ったぜ」

 やれやれと笑って、バルカンは私よりも先に空洞の中へ飛び込んでいった。
 私もその後に続く。私たちならどんな困難も乗り越えられる。そんな確信を持って。
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