52 / 76
Chapter02 色付く世界
Dream 051
しおりを挟む
私のレベルが15に上がったことで、私とバルカンの二人は再び迷宮街──『カペラ』を訪れた。
相変わらず空気を飲み込むように開いたゲートは少し不気味で、しかしながらプレイヤーが訪れるのを待っているようで、ドキドキする。
ひとまずは前回引き返すことになったあの場所目指して歩く。
道中はほとんどモンスターがいなかった。というのも……
「レベル18⁉︎ どこでレベリングしたんすか⁉︎」
などと騒がしく私たちに話しかけてきた他プレイヤーが既にここらのモンスターを狩り尽くしていたからである。
ちなみにレベル18なのはバルカンだ。
確かに現時点でレベルが18のプレイヤーはバルカンぐらいしかいないだろう。……私が知らないだけで既に20に到達しているプレイヤーもいるかもしれないが。
「気安く情報を教えるわけないだろう。行くぞ」
だる絡みしてきた男4人パーティを軽くいなして、バルカンは私の腕を引っ張った。
こんなところで足止めをくらっているのは時間の無駄だからね。
「いいじゃないっすか。俺たちのレベルが上がれば、このクソゲーがクリアされて現実に帰れるまでの時間も早まるってことっすよ?」
4人パーティの中でも最もレベルが高い(といっても11だが)は、意外にもそんな鋭い指摘をしてきた。
これが普通のゲームであったのならば、情報は独占した方が個人として独走できる。しかしATEDは普通のゲームでは無い。
他プレイヤーが力を付けることも、自分の為になるのだ。この世界から脱するには、他プレイヤーと協力してこのゲームをクリアするしかないのだから。
私はバルカンの方を見たが、バルカンも同じ結論に至ったのか、
「ヘキタン荒野でレベル上げをしたんだ。プレイヤーが少なく、リソースの奪い合いがなかったからな」
私たちがどこでレベル上げをしてきたのか教えた。
しかしその情報は限られている。ウルベアードを倒したクエストやワールドクエストの存在は伏せた。
まあ、ここにいる時点でワールドクエストは知ってると考えていいのだけど。
「ヘキタン荒野か~。確かに行ったことねーな。あざっす!」
4人パーティのリーダーと思しき男は礼を告げると、出口の方へと向かっていった。
存外に礼儀正しかったことに驚きつつ、プレイヤーの前線がどんどん攻略へと近づいていることを予感する。
始まったばかりのこのゲーム。終わりは果たして訪れるのか。現時点では、ゲームマスターを除いて──誰もわからない。
そうこうしている内に、前回踵を返すことになったあの場所に辿り着いた。
追憶の断片が入っていた宝箱の抜け殻だけが置いてある部屋の先には階段がある。
その階段を駆け降り、表示されたのは。
『【水精の迷宮街カペラ:第二層──礫泥の沼地】』
前回は『ここから先に行くのはやめておけ』と言わんばかりに推奨レベルが表示されたが、そのレベルに追いついたことで今回は表示されなかった。
まだ訪れたことの無い、未開の大地。
もしかしたら私たちよりも先にプレイヤーが探索を始めているかもしれないが、その可能性は低い。さっき上層でモンスターを狩っていたパーティも、ここの推奨レベルを見て探索を諦めたのだろうから。
目の前に広がるマップは一言で言えば、陰気臭かった。
毒々しい見た目のモンスターが跋扈する、薄暗い空間。
広大に広がる沼地は、一歩足を踏み入れただけで足を取られて転んでしまいそうだ。
「あんまり長居したくないマップだな……」
「そうですね。早いとこ下層へ向かう階段を見つけましょう」
とは言っても追憶の断片を見つけなければならない。
こうして未知のマップでの探索が始まったのだが──。
数時間後。
全く何も見つからない!
水精のスロウルーパー、水精のマッドフロッグ、水精のスモールレッドアイサーペント、なんていういかにもな毒敵を倒しつつ探索を進めていたが、進展は何も無かった。
私のレベルは16に上がったが、本当にそれだけ。
迷宮街を訪れた意味、追憶の断片がこれっぽっちも見つかりやしない!
「いったん村に戻って、武器のメンテでもしますか?」
武器には耐久値がある。それが0になる前に鍛冶屋でメンテをしてもらわないと、武器は壊れて二度と使い物にならなくなってしまう。
まだもう少しは大丈夫だけど、折角+8まで強化された武器を耐久値切れで失くすなんて馬鹿な真似だけは避けたいのだ。
私の提案にバルカンは言葉を返さない。
何やら考え込んだそぶりを見せているが……
「こんなのアリか?」
突然思いついたようにそう言った。
何がアリなのか私にはわからない。
目の前にはただ巨大な古木があるだけで……
「この木の空の中。入れるぞ」
「うそ!」
「本当だ」
木の中に入れるなんてそんな馬鹿な、とは思ったがここはゲームの世界だ。
物理法則が通用しない、魔法すらも存在する世界なのだ。
半信半疑のまま、ぽっかりと木に開いた穴の中を覗き込んでみる。
そうして中から聞こえてきたのは。
「助けてくれぇ!」
なんていう、断末魔に似た悲鳴だった。
ギョッとして後退りし、バルカンと顔を見合わせる。そして中に入るのを躊躇う。
助けを呼ぶということはこの先にモンスターがいて、しかも強いのが確定しているのだ。
迷う。この先にいるであろうプレイヤーを見殺しにして体制を立て直すか、助けに行くか。
賢明なのは前者だ。
ウルベアードと戦った時を思い出す。あまりに無謀で、愚かな戦いだった。
しかしあれはほぼ不可抗力で始まった戦闘だった。
今回は違う。介入するか選べるのだ。
もしも視界左上に映るHPゲージが0になっても蘇るのであれば、すぐさま飛び込んで助けに行っていただろうけど……それはできない。
軽率な判断イコール死。そんな戒めをウルベアードと戦った時、課したのだ。
だけど。
私は言う。
「助けに行きましょう」
「……お前ならそう言うと思ったぜ」
やれやれと笑って、バルカンは私よりも先に空洞の中へ飛び込んでいった。
私もその後に続く。私たちならどんな困難も乗り越えられる。そんな確信を持って。
相変わらず空気を飲み込むように開いたゲートは少し不気味で、しかしながらプレイヤーが訪れるのを待っているようで、ドキドキする。
ひとまずは前回引き返すことになったあの場所目指して歩く。
道中はほとんどモンスターがいなかった。というのも……
「レベル18⁉︎ どこでレベリングしたんすか⁉︎」
などと騒がしく私たちに話しかけてきた他プレイヤーが既にここらのモンスターを狩り尽くしていたからである。
ちなみにレベル18なのはバルカンだ。
確かに現時点でレベルが18のプレイヤーはバルカンぐらいしかいないだろう。……私が知らないだけで既に20に到達しているプレイヤーもいるかもしれないが。
「気安く情報を教えるわけないだろう。行くぞ」
だる絡みしてきた男4人パーティを軽くいなして、バルカンは私の腕を引っ張った。
こんなところで足止めをくらっているのは時間の無駄だからね。
「いいじゃないっすか。俺たちのレベルが上がれば、このクソゲーがクリアされて現実に帰れるまでの時間も早まるってことっすよ?」
4人パーティの中でも最もレベルが高い(といっても11だが)は、意外にもそんな鋭い指摘をしてきた。
これが普通のゲームであったのならば、情報は独占した方が個人として独走できる。しかしATEDは普通のゲームでは無い。
他プレイヤーが力を付けることも、自分の為になるのだ。この世界から脱するには、他プレイヤーと協力してこのゲームをクリアするしかないのだから。
私はバルカンの方を見たが、バルカンも同じ結論に至ったのか、
「ヘキタン荒野でレベル上げをしたんだ。プレイヤーが少なく、リソースの奪い合いがなかったからな」
私たちがどこでレベル上げをしてきたのか教えた。
しかしその情報は限られている。ウルベアードを倒したクエストやワールドクエストの存在は伏せた。
まあ、ここにいる時点でワールドクエストは知ってると考えていいのだけど。
「ヘキタン荒野か~。確かに行ったことねーな。あざっす!」
4人パーティのリーダーと思しき男は礼を告げると、出口の方へと向かっていった。
存外に礼儀正しかったことに驚きつつ、プレイヤーの前線がどんどん攻略へと近づいていることを予感する。
始まったばかりのこのゲーム。終わりは果たして訪れるのか。現時点では、ゲームマスターを除いて──誰もわからない。
そうこうしている内に、前回踵を返すことになったあの場所に辿り着いた。
追憶の断片が入っていた宝箱の抜け殻だけが置いてある部屋の先には階段がある。
その階段を駆け降り、表示されたのは。
『【水精の迷宮街カペラ:第二層──礫泥の沼地】』
前回は『ここから先に行くのはやめておけ』と言わんばかりに推奨レベルが表示されたが、そのレベルに追いついたことで今回は表示されなかった。
まだ訪れたことの無い、未開の大地。
もしかしたら私たちよりも先にプレイヤーが探索を始めているかもしれないが、その可能性は低い。さっき上層でモンスターを狩っていたパーティも、ここの推奨レベルを見て探索を諦めたのだろうから。
目の前に広がるマップは一言で言えば、陰気臭かった。
毒々しい見た目のモンスターが跋扈する、薄暗い空間。
広大に広がる沼地は、一歩足を踏み入れただけで足を取られて転んでしまいそうだ。
「あんまり長居したくないマップだな……」
「そうですね。早いとこ下層へ向かう階段を見つけましょう」
とは言っても追憶の断片を見つけなければならない。
こうして未知のマップでの探索が始まったのだが──。
数時間後。
全く何も見つからない!
水精のスロウルーパー、水精のマッドフロッグ、水精のスモールレッドアイサーペント、なんていういかにもな毒敵を倒しつつ探索を進めていたが、進展は何も無かった。
私のレベルは16に上がったが、本当にそれだけ。
迷宮街を訪れた意味、追憶の断片がこれっぽっちも見つかりやしない!
「いったん村に戻って、武器のメンテでもしますか?」
武器には耐久値がある。それが0になる前に鍛冶屋でメンテをしてもらわないと、武器は壊れて二度と使い物にならなくなってしまう。
まだもう少しは大丈夫だけど、折角+8まで強化された武器を耐久値切れで失くすなんて馬鹿な真似だけは避けたいのだ。
私の提案にバルカンは言葉を返さない。
何やら考え込んだそぶりを見せているが……
「こんなのアリか?」
突然思いついたようにそう言った。
何がアリなのか私にはわからない。
目の前にはただ巨大な古木があるだけで……
「この木の空の中。入れるぞ」
「うそ!」
「本当だ」
木の中に入れるなんてそんな馬鹿な、とは思ったがここはゲームの世界だ。
物理法則が通用しない、魔法すらも存在する世界なのだ。
半信半疑のまま、ぽっかりと木に開いた穴の中を覗き込んでみる。
そうして中から聞こえてきたのは。
「助けてくれぇ!」
なんていう、断末魔に似た悲鳴だった。
ギョッとして後退りし、バルカンと顔を見合わせる。そして中に入るのを躊躇う。
助けを呼ぶということはこの先にモンスターがいて、しかも強いのが確定しているのだ。
迷う。この先にいるであろうプレイヤーを見殺しにして体制を立て直すか、助けに行くか。
賢明なのは前者だ。
ウルベアードと戦った時を思い出す。あまりに無謀で、愚かな戦いだった。
しかしあれはほぼ不可抗力で始まった戦闘だった。
今回は違う。介入するか選べるのだ。
もしも視界左上に映るHPゲージが0になっても蘇るのであれば、すぐさま飛び込んで助けに行っていただろうけど……それはできない。
軽率な判断イコール死。そんな戒めをウルベアードと戦った時、課したのだ。
だけど。
私は言う。
「助けに行きましょう」
「……お前ならそう言うと思ったぜ」
やれやれと笑って、バルカンは私よりも先に空洞の中へ飛び込んでいった。
私もその後に続く。私たちならどんな困難も乗り越えられる。そんな確信を持って。
2
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
エッチなデイリークエストをクリアしないと死んでしまうってどういうことですか?
浅葱さらみ
ファンタジー
平凡な陰キャ童貞大学2年生の雄介はある日突然、視界にスマホゲーみたいな画面が見えるようになった。
・クエスト1 性的対象を褒めよ。
・クエスト2 性的対象の肌と接触せよ。
・クエスト3 性的対象の膣内に陰茎を挿入せよ。
視界の右上にはHPゲージもあり、どうやらクエストをすべてクリアしないと毎日HPが減っていく仕様だと気づく。
さらには、最終的にHPが0になると自らの死につながるということが判明。
雄介は生き延びるためにエッチなデイリークエストをこなしつつ、脱童貞を目指すのだが……。
※デイリークエストをクリアしていくためのアドバイス
デイリークエストクリアで貰えるポイントを”エッチをサポートしてくれるアイテム”と交換しよう!
射精回数を増やすためにレベルアップに励もう!
☆と★つきのページは挿絵付きです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる