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Chapter02 色付く世界
Dream 035
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「ガルー家秘伝の杖か。+0から+1への強化素材は『石水晶』が3個と、『ムクチドリの嘴』が3個だ」
エンガル中央広場から飲食店や雑貨屋が立ち並ぶ通路に入り、しばらく進んだ先。そこにバルカンおすすめだというNPC鍛冶屋はいた。
鍛冶屋はプレイヤーでもなることが可能らしいけれど、まだプレイヤーではなくNPCに頼んだ方が良いらしい。というのも、鍛冶屋などの非戦闘職が序盤のレベル上げに困ることはほぼ間違いなく、生産系のスキルレベルが高いプレイヤーが現時点で存在している可能性は限りなく低いし、見つけるのも困難だからだという。
確かに序盤から死ぬ気でレベルを上げるような意思を持つ人は職業選択で戦闘職を選ぶだろう。
武器強化などの鍛治に関してはNPCに長くお世話になりそうだ。まあ、私も戦闘職というよりは支援職だけれど……
そんなことを考えつつも私はインベントリを確認した。
「ムクチドリの嘴は持ってます! でも石水晶? は……」
ムクチドリに関してはエンガル北方平原で飽きるほど倒した。だけど石水晶などというアイテムは聞いたこともなかった。
名前からしてモンスターを倒すことで得られるアイテムではないだろうし、もしかしてそこら辺にある鉱物から採取するとか?
「石水晶はスイレイ水晶窟に行けば腐るほど手に入る。受け取れ」
バルカンがそう言うとトレードウィンドウが現れて、私は石水晶を16個受け取った。
「こんなに沢山……良いんですか?」
「まあ+3くらいにはしたいからな。ムクチドリの嘴も足りなかったら言ってくれ」
「わかりました……」
何から何まで与えられてばかりだ。
私がやったのはこの杖の紋章をNPCに見せただけ。
考えすぎかもしれないが、バルカンがここまで時間をかけて私に手を貸してくれるのには何か裏があるように思えて仕方なかった。
0から1への強化には石水晶と嘴が3個ずつ。
1から2への強化には5個ずつ。
2から3への強化には8個ずつ。
計16個ずつの素材を使った。それを見越してバルカンは16個の石水晶を私に渡したのだった。
強化したことによって武器のMATKが上昇したが、他のAGIなどの数値は上昇しないらしい。
INT極振りで少なくとも他のプレイヤーよりはMATKが高い自信があったけど更に高くなってしまった。
これは迷宮街に行ってもなんとか戦力にはなりそうかな……?
「+3にはしたか?」
「はい! そういえばバルカンさん……バルカンはいつから迷宮街へ?」
「俺が初めて行ったのは昨日だな。今のローレンティアと同じレベル7の時に初めて『アルデバラン』に行った」
「アルデバラン?」
確かおうし座の一等星だったはずだけど…
「ああ、迷宮街にはそれぞれ名前があるんだ。俺が見つけていたのはアルデバランとポルックスの2つ。この星座の流れからして……1等星をモチーフにしてるなら20個くらいあるんじゃないかとは思っていたが、まさかそんなことにはならないようで助かったよ」
「なるほど……マップを見た感じ8つというのは冬の星座の一等星のようですね」
ここは別世界ではなく、日本の企業が作ったゲーム。
だから地球に存在していたものから名前を引用することなどなんら不思議ではない。
「詳しいんだな。星をモチーフにしたような地名が所々見られるが……星座を知っていればゲームが有利に進むかもしれないぞ」
私は目が見えない分、点字を読むために指の感覚を鍛え上げた。
その時に星座を指でなぞったりしていたので、たまたま星座には詳しいだけだ。
私は盲目ピアノに関して多少名が知られていると自負している。聞く人が聞けば本名までわかるだろうし、本名を明かすなと言われているこの現状では私が現実では盲目であることは伏せて置いた方がいいだろう。
よって話を迷宮街の方へと戻す。
「今から向かうのはアルデバランですか?」
「いや、アルデバランはわかりやすい場所にある。あらかた浅層は探索し尽くされているだろう。わかり辛い場所にある……そうだな。『カペラ』まで向かってみるか」
じっくりとマップを吟味した上でバルカンが結論を出す。
こうしてみるとかなりバルカンには安心感がある。受け身体質の私にとって行動を示してくれるのはありがたいことだ。
「わかりました」
マップを確認すると、カペラはエンガルの西南に存在していた。
村を2つ経由するっぽいし、かなり遠くにあると感じる。でも確かにそれならまだ他のプレイヤーが足を踏み入れてる可能性は低そうだ。
こうして私の最初の遠出は8つある迷宮街の内の1つ、『カペラ』に決まった。
今まで私はエンガルと北方平原以外から出てこなかった。それは根底にある『死』への恐怖からくるものだ。
ワクワク7割、不安3割を抱いたまま──私は颯爽と歩き出したバルカンの背中を追った。
エンガル中央広場から飲食店や雑貨屋が立ち並ぶ通路に入り、しばらく進んだ先。そこにバルカンおすすめだというNPC鍛冶屋はいた。
鍛冶屋はプレイヤーでもなることが可能らしいけれど、まだプレイヤーではなくNPCに頼んだ方が良いらしい。というのも、鍛冶屋などの非戦闘職が序盤のレベル上げに困ることはほぼ間違いなく、生産系のスキルレベルが高いプレイヤーが現時点で存在している可能性は限りなく低いし、見つけるのも困難だからだという。
確かに序盤から死ぬ気でレベルを上げるような意思を持つ人は職業選択で戦闘職を選ぶだろう。
武器強化などの鍛治に関してはNPCに長くお世話になりそうだ。まあ、私も戦闘職というよりは支援職だけれど……
そんなことを考えつつも私はインベントリを確認した。
「ムクチドリの嘴は持ってます! でも石水晶? は……」
ムクチドリに関してはエンガル北方平原で飽きるほど倒した。だけど石水晶などというアイテムは聞いたこともなかった。
名前からしてモンスターを倒すことで得られるアイテムではないだろうし、もしかしてそこら辺にある鉱物から採取するとか?
「石水晶はスイレイ水晶窟に行けば腐るほど手に入る。受け取れ」
バルカンがそう言うとトレードウィンドウが現れて、私は石水晶を16個受け取った。
「こんなに沢山……良いんですか?」
「まあ+3くらいにはしたいからな。ムクチドリの嘴も足りなかったら言ってくれ」
「わかりました……」
何から何まで与えられてばかりだ。
私がやったのはこの杖の紋章をNPCに見せただけ。
考えすぎかもしれないが、バルカンがここまで時間をかけて私に手を貸してくれるのには何か裏があるように思えて仕方なかった。
0から1への強化には石水晶と嘴が3個ずつ。
1から2への強化には5個ずつ。
2から3への強化には8個ずつ。
計16個ずつの素材を使った。それを見越してバルカンは16個の石水晶を私に渡したのだった。
強化したことによって武器のMATKが上昇したが、他のAGIなどの数値は上昇しないらしい。
INT極振りで少なくとも他のプレイヤーよりはMATKが高い自信があったけど更に高くなってしまった。
これは迷宮街に行ってもなんとか戦力にはなりそうかな……?
「+3にはしたか?」
「はい! そういえばバルカンさん……バルカンはいつから迷宮街へ?」
「俺が初めて行ったのは昨日だな。今のローレンティアと同じレベル7の時に初めて『アルデバラン』に行った」
「アルデバラン?」
確かおうし座の一等星だったはずだけど…
「ああ、迷宮街にはそれぞれ名前があるんだ。俺が見つけていたのはアルデバランとポルックスの2つ。この星座の流れからして……1等星をモチーフにしてるなら20個くらいあるんじゃないかとは思っていたが、まさかそんなことにはならないようで助かったよ」
「なるほど……マップを見た感じ8つというのは冬の星座の一等星のようですね」
ここは別世界ではなく、日本の企業が作ったゲーム。
だから地球に存在していたものから名前を引用することなどなんら不思議ではない。
「詳しいんだな。星をモチーフにしたような地名が所々見られるが……星座を知っていればゲームが有利に進むかもしれないぞ」
私は目が見えない分、点字を読むために指の感覚を鍛え上げた。
その時に星座を指でなぞったりしていたので、たまたま星座には詳しいだけだ。
私は盲目ピアノに関して多少名が知られていると自負している。聞く人が聞けば本名までわかるだろうし、本名を明かすなと言われているこの現状では私が現実では盲目であることは伏せて置いた方がいいだろう。
よって話を迷宮街の方へと戻す。
「今から向かうのはアルデバランですか?」
「いや、アルデバランはわかりやすい場所にある。あらかた浅層は探索し尽くされているだろう。わかり辛い場所にある……そうだな。『カペラ』まで向かってみるか」
じっくりとマップを吟味した上でバルカンが結論を出す。
こうしてみるとかなりバルカンには安心感がある。受け身体質の私にとって行動を示してくれるのはありがたいことだ。
「わかりました」
マップを確認すると、カペラはエンガルの西南に存在していた。
村を2つ経由するっぽいし、かなり遠くにあると感じる。でも確かにそれならまだ他のプレイヤーが足を踏み入れてる可能性は低そうだ。
こうして私の最初の遠出は8つある迷宮街の内の1つ、『カペラ』に決まった。
今まで私はエンガルと北方平原以外から出てこなかった。それは根底にある『死』への恐怖からくるものだ。
ワクワク7割、不安3割を抱いたまま──私は颯爽と歩き出したバルカンの背中を追った。
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