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Chapter01 茨の道を行け

Dream 002

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 キラードライアドのフラワーカレーを食い終わって満足した俺は、レムの会場へと向かうべく再び駅まで来ていた。

 にしてもカードに書かれていた内容。めちゃくちゃ抽象的だったな。
 世界樹バベル? 世界観としてはファンタジーで間違いなさそうだが……
 もういいやと思ってネットで調べてみたが、結局ネット民もよくわかってない様子だった。
 だったら無理して情報を遮断するまでもなかったな。リーク情報もどれも信憑性のないものばかりだったし。
 まあコラボカフェの内装には感動したものだが。
 事前に画像なんかを見ていればあれ程の感動は得られなかっただろう。

 電車を待つ時間で会場への行き方を調べる。
 駅から降りてバスに乗らないと行けないみたいだな。はあ……結構面倒だ。
 軽いため息を吐きながらスマホをポケットに入れ、そのまま何気なく横を見る。
 そうして目に映ったのは、白い杖を持ち目を瞑ってじっと電車を待つ少女の姿だった。

 盲目の人か。
 そういえばドリーマーズインターネットの利点は全盲の人にでも使えるという点だったな。
 現実世界では光が見えなくても、夢の世界に入ってしまえば世界を認識できる。
 それを聞いた時は驚いたもんだ。

 ……生まれつき全盲の人は普段どんな夢を見るんだろうな?
 そんなひょんな疑問を浮かべながら電車を待つ俺だったが、暫くして異変に気づく。
 到着予定時刻になっても電車が来ないのだ。
 現在の時刻は13時過ぎ。
 電車とバスと徒歩でここから会場まで一時間程度かかる予定だから、それは非常にまずい。何があったんだ?
 その時ホームに無慈悲なアナウンスが流れた。

『お急ぎのところお客様には大変ご迷惑をおかけしています。ただいま人身事故の影響により30分ほど運行が遅延しております』

 マジか……人身事故?
 まあ30分程度ならかろうじて間に合う。とりあえず待つか。
 騒ぎ始めるホームに満ちた怒声や悪態に耳を背けながら、スマホに目を向ける。その時引き寄せられるようにチラッと隣の少女を見た。
 少女も不安そうな表情。
 そして「3時までに間に合うかしら……」と呟いているのが聞こえた。
 間違いない。この少女も俺と同じレムの東京会場へと向かうつもりなのだ。勘違いだったら恥ずかしいが。

 にしても目が見えないのに付き添いの一人もなしか? 一人で本当に大丈夫なんだろうか。
 何故だか気にかかる少女のこと。
 それは少女の姿がどこか儚げで、今にも消えいってしまいそうに見えたからだろうか。

 それから暫く待ち、およそ35分後に電車は到着した。
 電車の中はもうパンッパンのぎゅうぎゅう詰め。
 息をするのも苦しいくらいの満員電車で、俺は貧血にならないように精神を保つのに精一杯だった。
 しかし多少の意識は隣にいたあの少女に向けた。
 こんなすし詰め状態で、はたして少女は目的の駅で難なく降りることができるのかという疑問──否、心配があったからだ。
 何とか人の隙間を縫って少女の近くを陣取る。
 そこから30分。人の出入りが激しいながらも何とか耐え続け、目的の駅まで到着した。

 莫大な人の流れに呑まれつつ、少女の姿を確認する。
 やはり俺の危惧した通り少女は電車から降りるのに苦労しているようだった。

 電車に慣れていないからか心なしか少女の顔色は悪く見え、足元もふらついているように見える。
 そして人波が激しくなるにつれ、世界が見えない少女はどんどんと出口から遠ざかっていく。
 ええい、やっぱりこうなるのかよ。
 俺はすみませんと呟きながら波をかき分け少女の手を掴んだ。

 少女は「え?」といった表情を見せたが、構わず俺は人の少ないホームの端まで少女を引っ張る。

「き、君も『レム』を受けにこの駅まで来たんだろ?」

 ああ、久しぶりのまともな会話。
 ちょっとキザぶった自分の発言に多少の後悔を感じつつも少女の返答を待つ。
 もしもこれでレムと関係なかったら、俺はただの痛い奴だ……

「ええそうですが……何故わかったのですか? それと……ありがとうございます」

 少女はオドオドとしているが丁寧な口調を崩さない。
 やはりレムだったらしい。ひとまずは安堵しつつストーカーの類では無いことを説明しておく。

「どういたしまして。たまたま君の3時まで間に合わないとかどうとかって呟きを聞いて。もしかしてと思ったんだ。それにこの駅で降りようとしていたようだったから確信した」

「そうでしたか……それでは失礼します」

 ペコリと頭を下げてそそくさと歩き出そうとした少女。俺は慌てて引き止める。

「その杖……目が見えないんだろ? 一緒に会場まで行こうか?」

 正直ここで別れるのは何となく違う気がする。
 それに俺の友達でレムに当選した人はいなかったから、ドリーマーズインターネットを始める時の知り合いが欲しかったのだ。
 けっして、さっきコラボカフェで見たカップルに影響されたとか、そういうわけではないぞ!

「確かに私は目が見えませんが……ご迷惑をおかけするわけにはいきません」

「気にすんなって。どうせ行く場所は一緒なんだから。俺は紡錘茨つむいばら。茨って呼んでくれ」

「茨……さん。私は七宮糸眞ななみやいとまです。大変失礼ですが年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「19歳だ」

 確かに相手の姿が見えない以上、相手を判断するには声しか情報がない。年齢は結構重要なことなんだろう。

「19歳ですか⁉︎ 私と同い年ですね」

「マジ? 確かにタメっぽい感じはしたんだ。……それで一緒に行くか?」

「そうですね……あなたは良い人そうです。実は私、一人で会場まで行けるか少々不安でした。ご一緒お願いできますか?」

「もちろん……って、時間がないな。バスで行こうとしてたけどやっぱタクシーで行くか。それで大丈夫?」

「もちろんです」

 こうして俺たちはタクシーに乗り込んで一緒に会場へと向かった。
 糸眞との会話は初めて会ったとは思えないほどに弾み、会場にはあっという間についてしまったのだった。

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