空飛ぶ大どろぼう

八神真哉

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第8話 捜査

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先生にうながされて中にはいると、意外にたくさんの人間が待っていた。

入口側の応接用ソファーに座っているのが校長先生。
奥側で、ふんぞり返って、葉巻をふかしているのが国会議員の鬼山。

その横に立ち、メガネをはずし、ハンカチでひたいをぬぐっている50は過ぎているだろう男が、県会議員の田抜。
漣の話によると、議員になる前は大和機工の理事だったという。
すみでうなだれている木津根とは対照的に、体つきはがっしりしている。

校長先生のうしろには、目つきのするどい男が2人立っていた。

藤原先生から、報告を受けた校長先生は小さくうなずいて翔太に話しかけてきた。
「きのうの夜、9時ごろ。きみは、多家神社で人影を見たんだね」

葉巻のにおいと煙にむせ返りそうになる。
隠しとおさなければならないこともあるからだろう。息苦しさが増す。

鬼山のうしろにいた男が、校長先生の横に座るようにすすめた。
背が高く、彫りの深い顔立ちをした鋭い目の男だった。二枚目と言っていいだろう。
年は40というところか。

「東署の細野です。彼は――」
細野にうながされ、となりに立っていた丸顔の男が頭を小さくさげた。
細野よりわずかに低いとはいえ、こちらも180cmはありそうだ。

「おなじく、安田です。よろしく」
警察官の制服を着ていないところを見ると、二人とも刑事なのだろう。

細野刑事は翔太の緊張をほぐそうとするかのように笑顔を見せ、しぶい声でたずねてきた。
「昨夜、多家神社のすぐ下にある木津根さんの家に泥棒が入ったんだが、木津根さん以外には目撃者もいなくてね。正直なところわれわれも困っているんだ。なんでもいいから、覚えていることを話してくれないかな」

おとな7人の目が翔太に向けられる。
うまく答えられるだろうか?
「見たことは見たけど、それが犯人かどうかは……」

「かまわんといっとるだろう!」
どなり声が部屋にひびきわたった。
国会議員の鬼山が、にらみつけてきた。

「おまえは見たことをしゃべればいいんだ。そいつが犯人かどうかは、われわれが決めることだ!」
ふんぞり返り、組んだ足はテーブルに乗らんばかりだ。

刑事は何事もなかったかのように平然としていたが、藤原先生はと見れば、こぶしを固め、今にも鬼山になぐりかかりそうな気配だった。

「教育が行き届かず、まことに申し訳ございません……ですが鬼山先生。なにぶん子どものことですから、ここはひとつ……」
校長先生が、間に入って謝った。
だが、それは、翔太をかばうというより、自分の立場を守ろうとしているようにしか見えなかった。

いつもの翔太であれば、「われわれって、どういうことだよ!」と、つむじをまげて帰ってしまっただろう。

だが、藤原先生の立場もある。
なにより、自分が「空を飛ぶ泥棒」や、その仲間ではないことをわかってもらうためにも、話を最後まで聞いてもらわなければならない。
なにしろ常識を超えた話なのだ。

鬼山のきげんをそこねないように気をつかいながら、翔太は話し始めた。
神社宝物殿の横で動いた人影らしきもの。そのあと黒い影らしきものが空に舞いあがったこと。ごみ袋かもしれないと思いながらも駆けつけたこと。
おとなたちは、身をのりだして翔太の話に聞きいり、安田刑事は手帳にメモを取る。

ところが、宝蔵の裏で見つけた赤い木の実の話になると、またも鬼山がさえぎった。
翔太にしてみれば、ここからが一番大事なところだ。
「でも、その赤い木の実を――」

「もういい、といっとるだろう! わからんやつだ!――とにかく、その人影が犯人と見て、ほぼ間違いあるまい」
鬼山は、翔太を無視して細野刑事に目をやる。

「そうですね。時間的にも一致しますし――犯行後も、木津根さんのお宅の裏山にあたる、神社の竹やぶを登っていったと考えれば、目撃者がないのもうなずけます。あそこは、自然歩道とつながっていて、どこへでもぬけられますから」

安田刑事が手帳をしまいながら、つけくわえる。
「竹やぶと神社近辺は、捜索中です。遺留品はともかく、あのあたりは土の斜面ですから、足あとが残っている可能性があります」

「そんな! ――犯人の足あとなんて残っているはずないでしょ!」
ヒステリックな、かん高い声で、話に割って入ったのは木津根だった。
顔を赤らめ、涙ぐんでさえいる。

「何度も言っているじゃありませんか。本当に空を飛んだんですよ。空を! なぜ、信じてくれないんです? 入ってきた時のことは知りませんよ――ええ、わたしだって、そこまでならゆずりますとも。見ていないんですから。でも、逃げるときは間違いなく飛んだんです。足あとなんか残るわけないじゃないですか! 空を飛ぶほど身の軽い男なんですよ。そうでしょ? えっ?」

木津根は、すがるような目つきで、鬼山と田抜を見る。

だが、怒りで顔を赤くそめた鬼山が一喝した。
「いいかげんにせんか! 子どもじゃやるまいし、常識をわきまえろ! 近いうちに県会議員に推してやろうと思っていた、わしの顔までつぶしおって。政治から足を洗う覚悟があって言っているんだろうな?」

「そんな……。ただ、わたしは。確かに……」
「わしが、なにも知らんと思っとるのか! おまえはあの晩、酒を飲んでいたそうじゃないか!」

木津根は、鬼山の言葉に青くなり、力なくうつむいてしまった。

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