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第10話 2年後 運命の夜
しおりを挟むはあはあ。
息を切らしながら、シャロンは夜の街を全力で走っていた。
人の垣根をかき分け、無我夢中で逃げていた。
「止まりなさい!!君!!誰か、そこの黒髪の娘を捕まえてくれ!!」
シャロンが、国外追放されてから2年後。
案の定、シャロンの人生はうまく行くどころか、どん底に更なるどん底が用意されており、底なし沼のように沈んで行っていた。
(私が何をしたっていうのよ!!)
シャロンが、国外追放されてから、2年間。心を入れ替え、真面目に働き、生きてきたはずだったが、めちゃくちゃ周りの人間たちからイジメられていた。
職を失った回数、実に10回。
シャロンはとにかく人から嫌われまくった。
見た目は美人で立ち振る舞いも気品があることから、職場の男性からは人気になりやすく、男性から食事を誘われようものなら、シャロンの時限爆弾が必ず炸裂した。
「え。シャロンさんって。あのエルダーク王国のエトワール家の令嬢って本当ですか?それも、王妃様に嫌がらせして、国外追放されたって本当なんですか?」
人の口に戸は閉めれない。
男性といい雰囲気になるようだったら、必ずどこかからその情報が職場に流され、シャロンは、職場の上司から、信用に関わるからという理由で、職場を変えざるおえなくなった。
昔から、エルダーク王国とルクセル公国は、友好的な関係を築いており、エルダーク王国で罪を冒し、国外追放された者が、店で働いていると世間に知られれば、その店は必ず信用が地に落ち、潰れるだろう。
そして、今、11度目の職が失われようとしていた。
ーーーちょっと君!!あそこで起きた窃盗事件に何か知っているとあちらのご婦人から話を聴いたんだ。詰所までご同行願えますか。
夜。シャロンは、街の通りを歩いていると、いきなり、憲兵からそう言われた。
なんでも、通りで起きた窃盗の容疑がシャロンにかかっているらしい。
通りの奥には、シャロンの前の職場の女性が、くすくすと笑っているのが見えた。
嵌められた。
詰所で事情聴取されれば、職場にシャロンの素性が間違いなくバレてしまう。
そこから、全力疾走のシャロンの逃亡劇が始まった。
はあはあ。
息を切らしながら、ヘトヘトになりながらもシャロンは、暗い路地に逃げ込んだ。
(ここまで逃げれば大丈夫かしら)
シャロンの表情は、少し安堵の色が浮かんだ。
矢先、
シャロンは、誰かにぶつかった。
「痛えじゃねえか。姉ちゃん」
巨体の大男が、シャロンを睨みつけてきた。
シャロンは、恐怖のあまり逃げようとした。
しかし、大男は、シャロンの腕を強引に掴んだ。
「痛っ」
自身と大男の、あまりに理不尽すぎる力の違いに、シャロンは、涙を浮かべて恐怖した。
(怖い。これも私の冒した罪の罰だって言うの)
「おい。ご婦人が泣いてるじゃないか」
突然。フードを被った顔を隠した男が、シャロンと大男の間に割って入った。
「なんだ。てめえ」
大男は、顔を隠した男を睨みつける。
「その手を離してやれ。さもないと」
フードを被った男は、フードの奥から、赤い瞳が妖しく光り輝いているのをシャロンは見た。
「お前は病院送りだ」
大男は、顔を真っ赤にして、フードを被った男に襲いかかる。
瞬間。
大男は、宙を浮き、一回転して地面に叩きつけられた。
フードを被った男が、こともなげに投げ飛ばしていた。
すると、
顔を隠した男は、フードが戦闘で外れ、素顔があらわになった。
「嘘」
シャロンは思わずつぶやいた。
短く切り揃えられた白髪。血のように赤い瞳。色白の不健康そうな肌。
シャロンは、かつて、一度だけこの男を社交界で見たことがあった。
魔鉱王と、巷では謳われる富豪。
「ガゼル・ロンド」
ガゼル・ロンドは、赤い瞳を、妖しく光らせ、不敵に笑っていた。
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