アブノーマル・デイズ

兎まゆ

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第1話 静

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 「静さん。焦らなくていい。ゆっくりでいいからね」

 静謐で無菌室な診療室で、桐谷病院の院長、桐谷征十郎は、私に優しく語りかけた。
 征十郎は、カルテに【心因性吸血症】と書いた。

 征十郎は、歳は中年だが、年の割に若く見え、20代と言われても分からないほど若く見えた。

 征十郎は、慇懃な瞳で、私の顔を見つめた。


 「ごめんなさい。先生」


 私は、謝ることしかできなかった。
 何に対して謝っているのかもわからない。ただ、頭が霞がかかったようにぼうっとして、うまく思考できない。


 「いいんだ。静さん。自分を責めないで。その歳で、あまりに多くの辛い経験をしたのだろう。【吸血症】は遺伝もあるのだろうが、普通はよほどのことがない限り、なったりはしない」


 先生は、私に優しく語りかけてくれた。

 私は、心のダムが決壊するかのごとく、感情の波が押し寄せた。
 
 フラッシュバックのように思い浮かぶ。親友の顔。

 「私、一体、どうしたら」


 私は、必死にこみ上げてくる吸血衝動を抑えながら、高校1年生の頃に経験した悲劇を思い返した。
 
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