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 地上にいる鬼たちの構えた大砲が火を噴いた。

 アルハンドロは指笛を鳴らした。二度、短く。そして最後は長く。エズメラルダははっとしてアルハンドロを見た。空の一点に、大きな黒い影が現れた。
それは、大きな鳥獣だった。
「まさか、あなた様がこんなことまでおできになるとは……」
「あなたが教えてくれたのではないか」
 アルハンドロは少し照れたように笑った。
 あの頃は、「汚らわしい。触りたくもない」そう言って、近寄ろうともしなかったのに。
 鳥獣は警戒心が強い。心を開いて根気よく接しなければ、決してなついてはくれない難しい動物だった。
 懐かしい思いが、次から次へと押し寄せる。まるで、むかしに戻ったかのようだった。

 決して、同じであることなどないはずなのに。

 どうん、という地響きがして、大砲の球がこの塔を支える岩の一つに当たった。塔が、ゆっくり傾きはじめた。バランスをとりながら鞭を手繰り寄せて軽く動かすと、鉄格子に巻き付いていた先端がほどけた。素早く鞭を巻き取って片方の手でドレスをまくしあげた。
「間に合うか?」
 アルハンドロが目を細めて鳥獣を見た。まだ少し距離がある。エズメラルダは鞭をしまい、ベルトについた小さなポケットの中から練り爆弾を出し、指先に乗せて見せた。
「以前、『間に合わなければ、こちらから向かえばよい』、と、おっしゃいませんでしたか?」
「……覚えていたか」
 懐かしそうに笑った。
 壁を爆破し、その爆風を使って、遠く離れた鳥獣のもとへと飛ぶのだ。むかし何度か、ふたりでためしたことがあった。懐かしさに胸が締めつけられる。
 爆弾は空気に触れ、すでに小さな煙を上げ始めている。
 足元にはりつけた。
 飛び出そうと構えたときだった。
「待て」
ぐっと腰を引き寄せられた。
「二人一緒の方が遠くまで飛べるのはなかったか?」
「しかし、タイミングが」
「わたしが指示する」
 アルハンドロを見上げる。真剣なまなざしで鳥獣と自分たちの距離を測る姿は、むかし胸をときめかせて見つめた、そのままの姿だった。心の底にしまっていたはずの気持ちがあふれそうになる。
それがこぼれださないように気を付けながら、アルハンドロの体に両腕を回した。あの頃よりも、たくましくなっていた。それでも、腕に感じる感触は、なにも変わらない。ほのかに感じる香のかおりに胸が締めつけられる。
「三秒後に飛ぶ」
 うなずいて、すべての思いをもういちど胸にしまう。ふたり同時に体をかがめた。
 一、二。……三。
「いまだ!」
 同時に足元の壁を蹴った。宙に浮いたところで、ボン、という音とともに小さな爆発が起こり、その爆風のあおりを受けて、二人の体が勢いよく飛んだ。塔も、大きな音を立てて崩れた。
 アルハンドロが強く自分を抱くその感覚に気が遠くなりそうになる。離れないように、アルハンドロの体に回した腕に力をこめる。ふたりの体は塊になって鳥獣のいる方向へと飛んで行った。
 きゃあああっ。
 雄たけびを上げ、黒い影が近づいてくる。

 このまま死んでもいい。
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