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 婚礼も近づいたある新月の夜、エルデュリアから遣いが届いた。その者からの文は、今回の婚礼に待ったをかけるものだった。その進言をした者はアルズール。
 エズメラルダが三百年ぶりに現れた最強運を持つ娘ならば、アルズールは千年に一度の逸材とささやかれるほどの優秀な予言者だった。
 アルズールの進言は次のようなものであった。

 世の中は幸と不幸がより合わせるようにして成り立っている。最大の運を手に入れる者は最大の犠牲を払わねばならぬ、それが世の中の道理である。アマーナの将来を盤石なものにするためには、アルハンドロ王子には困難に立ち向かい、それを克服する義務がある、と。

 そこで、予言者たちはアルハンドロに冒険をさせることを思いついた。エズメラルダを連れ去り、魔物の住処へと閉じ込めた。予言者たちは、未来の妃を救いに行くように命じた。ところが、だ。
 アルハンドロは言ったのだ。

「そんなことはしたくない」

 と。


 そんなこととは知らぬエズメラルダは待った。
 死臭の漂う沼地には全身に岩と腐った植物のようなものを張り付けた人の形をした大きな生き物がいて、そばを通りかかる動物などを食べては沼に捨てていた。その奥にある洞窟で、一年耐え忍んだ。
 食事は洞窟の中にある川を伝って送られてくるが、排せつも風呂もすべてその水を使う。川は枝分かれしているので汚物が混ざり合うことはないが、不快この上なかった。

 食事が運ばれてくる川をさかのぼったこともあったが、鉄柵で封鎖されており、そこから逃げたらすぐに予言者に見つかることは間違いなかった。
 エズメラルダは洞窟の中から魔物の様子を観察した。動きが鈍いこと、鼻はきくけれど、目と耳はそれほどでもないこと。右腕の可動範囲が左腕より狭いこと、などを知った。
 
 この程度の魔物なら、あの方は一瞬で討ち果たせることができるだろうに。

 そう思うと、切なさだけがこみあげた。

 なぜ、あたくしを救いに来ない。

 アルハンドロは剣術では右に出るものがなく、武術にも馬術にも長けている。実際、エズメラルダの腕がたつのは、アルハンドロの手ほどきを受けていたからなのだ。
 いっそのこと嫌いになれればどれほど楽だったかしれぬ。けれども、その思いを消し去ることができなかった。

 アルハンドロの意思は固かった。

 そして、半年後、予言者たちの見ていた未来は、別のものへと変わった。
「エズメラルダの愛を勝ち得た者はエズメラルダを妃として迎えることができ、さらに強力に国を導く王子を授かるだろう。そして、聖地エルデュリアはエズメラルダとともにその王のものとなる」
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