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2章
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しおりを挟む父が腰を浮かせ、立ちあがろうとしている。
それよりも前に父を引き止める必要があった。
言葉を考えている暇はない。一番の疑問に思っていることをそのまま投げかけた。
「どうしてそんなにわたしを恨んでいらっしゃるのです?」
なんの飾りもない質問に、父は音もなく笑い、そしてもう一度ソファーへと腰を沈ませた。
「うん。私としては特段お前に嫌なことをされたことはないよ。あったとしても別に子供のしたことだ。大して気にはしないだろうさ」
「ならば……」
歌うように父が語る。その口調だけを聞けば、彼が上機嫌であると思い込みそうだ。
「けれどね、リーシャ」
ここにきて改めて名前を呼ばれたことに動揺する。
父の口から何を発せられるのか。注意深く動向を探る。
「お前の言動に否はなくても、私にとってお前の存在事態が『否』であったんだよ」
「それは、どういう……」
言っている意味が分からなくて父を見つめた。その瞳は当惑に揺れていたことだろう。
「お前は私の子ではない」
あっさりと言い放つ父に、わたしは目を見開く。
「当時、仕事が忙しく、私は屋敷に帰る間もなかった。たまに帰った時も寝て過ごしたくらいだ。当然、行為をする余裕もない。しかし、その期間に私の妻エリザベートが妊娠したんだ」
指をテーブルに叩きながら、忌々しげに語る父の姿にそれが虚言ではないのだと嫌でも理解させられた。
「お母様が不貞を……」
呆然と呟く。けれど、次に湧き出たのは強い疑問だった。
「ならば何故わたしをノエル家の子として育てたのですか?」
わたしの質問は強い敵意の視線に迎え撃たれた。
「それをエリザベートが許さなかったからだ。今ならばまだ間に合う。堕ろしてしまおう。さもないと、きみの実家にも傷が付く。そう説得もしたんだけれどね」
説得という名の脅迫をしても尚、母は頷かなかったと父が続けた。
「エリザベートは使用人である庭師と密かに関係を結んでいた。私はその現場を発見した後。怒りのままに間男を切り捨てたよ。するとエリザベートが許さない、と言ったんだ」
父が拳を机に振り下ろして叩いた。ビリビリとした彼の怒気が急速に部屋を包み、そして更に怨嗟の言葉を吐き出す。
「死んだ庭師の男を抱きしめて、愛していたのに、とエリザベートは泣きながら私を謗った。許さない、絶対に許さないと罵って、私に唾を吐き捨てた」
私だってエリザベートを愛していたのに、と父が続ける。
その声は悲嘆に満ちている。
「当初。私はお前を堕ろすよう進言したし、実行に移そうともした。しかしそれをエリザベートは許しては来れなかった。もし、不慮にせよ腹に居る子が死にでもしたら、自分もその時に死ぬ。そう私を脅したんだ」
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