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2章

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「久しぶりね、リーシャ」
「……お姉様。お久しぶりです」


 ゆっくりとこちらにやってきたのは姉であるフレデリカであった。
 三つ年上の彼女は幼少より身体が弱く、あまり社交界に出ていない。しかし線の細い風貌は花のように美しく、パーティーに参加すれば男性達に囲まれることは珍しくなかった。
 だが男性達にとっては残念なことに、フレデリカは自身の身体が弱いことを気にしており、結婚に乗り気ではない。

 その上、医者からもフレデリカが子を産むのは難しいと診断されたものだから、両親は彼女の望みを優先した。
 そんな彼女も一度だけ恋をしたのだと頬を染めたことがあったのはちょうど去年の今くらいの頃ではなかったか。
 

「貴女の顔が見れて嬉しいわ」


 ふわりと微笑む。白くて細やかな指が柔らかく頬を撫ぜて、すっと離れていく。ただそれだけの動作ですら優雅で、淑女のお手本のようだと思った。

「わたしもお姉様にお会い出来て嬉しいです。今日はお身体の調子はどうですか?」
「最近はすこぶる調子が良いの。今も庭園へと散歩しようと思って出てきたところよ。良かったら貴女もどうかしら?」

 久しぶりに話がしたいわと言われて、どうして断られようか。
 来た道を戻りながら、二人で談笑する。
 最初は天気のこと。そして最近読んだ本ので内容に、まだ学園に通っている弟の様子。当たり障りのない話をしているうちに庭園へと着く。
 ここで座りましょうかと彼女が示した場所は大きな木の裏にあるベンチであった。


「ねぇ、リーシャ。先程浮かない顔をしていたけれど、何かあったのかしら?」


 パチリと瞠目してからこちらに向き直る姉に、わたしは勘付かれてしまった気まずさから唇を噛む。

「なにもありませんよ」
「そうかしら。貴女気まずくなるとよく唇を噛む癖。直っていないように思えるけれど?」

 確信を持った言い方に思わず不貞腐れたくなる。
 しかし、事実。ユリウスとの仲は表面上なにも問題ない。
 ただわたしが一方的に悩んでいるだけ。


「……お姉様は前に恋をされたと仰っていましたね」
「そうね」
「今もそのお相手をお慕いされているんですか?」

 わたしの質問に姉は驚いたようにしてウェーブ掛かった髪を揺らす。
 しかしその動揺は一瞬だった。


「ええ。わたしの想いは変わらないわ」

 たおやかな声で肯定する。彼女が想いを寄せる男性の名前をなんとなくわたしは聞けていない。
  

「どうしてその男性を好きになられたのですか?」
「以前パーティーに出た時。お酒に呑まれ過ぎた男性に絡まれたの。その時わたしを助けて下さったのよ」

 節目がちに語る彼女の瞳はどこか熱が籠っているように見えた。

「そうだったんですね」
「誰にも打ち明けたことのない秘密の話よ。絶対に誰にも言わないで頂戴ね」
「ええ。もちろんです」


 口に人差し指を当てて、念押しする彼女に頷く。
 そうすると彼女は安心したみたいに胸を撫で下ろした。

「じゃあ、リーシャ。次は貴女の番よ」
「……え」
「先程何か口篭ったでしょう。わたしが打ち明けたのだから、貴女だって言って頂戴。じゃなきゃ、なんだか寂しいじゃない」


 じっとわたしが口を開かないか見つめるフレデリカの姿に、わたしは降参したように口を開く。普段であれば深窓の令嬢を体現化したような彼女であるが、意外にも意固地であることをわたしは知っているからだ。


(口実を作ってしまったわ)

 内心ガックリと項垂れる。けれど、姉である彼女の口が硬いことは知っている。ならば、今くらいは悩みを吐露しても許されるのではないだろうか。


「……結婚した夫を愛しています」
「まぁ……!」
「お互いに想い合っているのだと思います。ただ……」
「ただ?」

 促すようにして相槌が打たれる。
 話すか話さないか。悩みながらも言葉を選ぶ。


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