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2章
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しおりを挟む部屋を訪ねてきたのはユリウスの秘書であった。
彼はメガネが良く似合う老紳士であり、いつも朗らかな笑顔を見せていたのだが、今夜に限ってはどうも様子が違うようだ。
「どうなさいました?」
入り口の前から動こうとしない彼に合わせて、私も少しだけ距離を取って立ったまま話し始める。
ふと扉の先に視線を向けるとわたしの『護衛』を務める使用人が二人彼の背後に控えていた。
そして扉を開けっぱなしにした状態でわたしと対峙したのは、周囲にやましいことはないと証明するためのものだろうと推測した。
困ったように眉を下げる彼を安心させようと、意識して微笑む。
そうすると彼は唐突に部屋を訪ねたことへの謝罪をし、ぎこちなくも本題に移った。
「……実は奥様にお願いしたいことがございまして」
「わたしに、ですか?」
「ええ。その、ユリウス様の様子を見て頂きたくて……」
「ユリウスに何かあったんですか?」
驚いて彼を見やる。すると彼は気まずそうに眉を下げユリウスの様子を語った。
彼曰くーー休みを取ったはずのユリウスがここ二日もの間、ほとんど寝食をとらずに働き詰めであること。
最近激務を終えたばかりなのだから、このままでは倒れかねないこと。
再三、休むように言い募ったがユリウスが聞く耳を持ってくれないため、こうしてわたしに直談判することになったのだとと経緯を語ってくれた。
(……あれ? これってもしかして、わたしのせい?)
ユリウスと気まずく別れた日から二日経っている。
その間、本来は休みだったにも関わらずに彼が仕事に打ち込んでいたという事実から、余程わたしと顔を合わせたくないのではないかと思ってしまった。
(明らかに避けられているのよね)
であれば、いくら目の前の秘書に請われたところでのこのことユリウスの元へ訪ねても良いものだろうか。
(あぁ、駄目。せっかく前向きになろうと思っていたのに)
ことユリウスに関してはこうも打たれ弱いのだから、自分でも参ってしまう。
しかし、このままユリウスを放っておく訳にもいかないのだろう。
まして彼のためにわざわざ秘書がわたしの元へ出向いているのだ。その意向をないがしろにするのはユリウスの顔に泥を塗るような行為ではないだろうか。
「……分かりました。わたしで良ければ、ユリウスと話してみます」
決心したことを改めて口に出して宣言すれば、目の前に立つ秘書の顔が目に見えて明るくなる。
わたしはそれに苦笑しながら、ただしと条件を出した。
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