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1章
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しおりを挟む指先から彼の動揺が伝わる。
ゆっくりとそこから指を下ろせば、ユリウスは瞠目して、観念したように話し始めた。
「……僕はどうしても貴女が好いてくれている気持ちを素直に受け入れられなかった。リーシャが好きだと言ってくれるのは油断を誘うため。貴女の言動は決して本心ではないと思うことで、裏切られた時に備えようとしていました」
「ユリウス……」
「やっと手に入れた貴女を失いたくなかった。だからこそ警戒して、穿った見方しか出来なかった」
弱い男でしょう、と彼は吐き捨てる。
けれど、彼が疑心暗鬼になっていたのは絶対にわたしを失いたくないと思ったがゆえの執着。それは確かに人から見たら一概にキラキラしているとは言い切れない。
けれど、それだけ彼に一途に想われているのだと思うと、わたしの心は歓喜に打ち震えた。
「昨夜、ジェシカは貴女の気持ちを信じなさいと僕に訴えていたんです」
「そうなんですか」
「ええ。だけど、僕があまりに突っぱねるものですから、彼女が痺れを切らせまして。シャツに口紅の跡を残し、これを着たままリーシャに会って、貴女の感情を直接確かめてみたらどうだ、と提案され……」
「それでわたしを試した、と?」
無言で彼は頷いた。沈痛な面持ちで、唇を戦慄かせるユリウスの頬にそっと手を差し伸べる。驚いたように眼を丸くするユリウスに笑い掛け、そして軽くつねってやる。
「リ、ーシャ?」
つねったといっても形だけ。力は入れていないのだから、彼に痛みはほとんどないはずだ。
というか国宝級の顔面を損なうようなことは恐ろしくて出来ない。されど、勝手に試されていたのだ。それならば、ちょっとした仕返しくらいはしても良いはずだろう。
「わたしの気持ちを疑った罰です」
ユリウスがこれ以上罪悪感が抱かないよう意識して微笑む。彼は目を丸くした後に「罰ならばもっと強くしても良いんですよ」と言った。
「こんなことくらいで罰にならないでしょう」
「だってユリウスの顔に跡が残ったりしたら、悔やんでも悔やみきれません」
「貴女は……」
「好きですよ、ユリウス」
唐突に想いを告げると彼の喉がひゅっと鳴った。
ジワジワと頬が赤らむユリウスが可愛らしくて、つい薄い唇へと口付ける。
「リーシャ!」
涙目でこちらを睨むユリウスに「すみません」と小さく謝る。
彼はコホンとわざとらしく咳をして、わたしを抱きしめた。
「あまり僕を揶揄わないでください」
「わたしはユリウスを揶揄ったことなんかありませんよ?」
「けれど……今だって笑っているじゃないですか」
「抱きしめて顔が見れないのに、どうして分かるんです?」
「貴女の声を聞けば、そんなことくらい分かります」
拗ねた様子のユリウスをどうしようか考え、耳元でこう囁いた。
「なら、ユリウスがわたしの主導権を握ってみませんか」
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