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1章
28(side:ユリウス)
しおりを挟むエルガー家は代々、織物を扱う会社を経営しており、僕達兄妹はそれなりに裕福に育てられていた。
しかし祖父が病気で亡くなり、父に代替わりしたことが、終わりの始まりだった。
残念ながら彼には商才がなく、あっという間に経営が傾く。そして焦った父はどうにか補填しようとした矢先。
母が家の金を持って逃げたのだ。
それにより父は自暴自棄となり、酒やギャンブルに手を出して、多額の借金を作るようになった。
このままではきっと良くない展開になる。そう分かっていてもまだ十歳の子供であった僕にはどうすることも出来ず、歯痒い思いをしながらも、いたずらに時間だけが過ぎていく。
しかし時間が経てば経つ程に、たび重なる浪費と利子で借金の額は膨れ上がっていったーーそんなある日のことだった。
父がやけに猫撫で声を出して僕とジェシカを呼び付け、そこで僕達二人をそれぞれ違う娼館に売ったのは。
僕は娼館に到着する前に、機を見て逃げ出したものの、そこから妹の行方は十年も分からなかった。
ジェシカと再会を果たせたのは僕が二十歳の頃だ。
血の滲む努力により、貿易商の仕事はなんとか軌道に乗っていった。
そんな中、男爵家の息子が僕に会員制の『娼館』を紹介してきた。
リーシャ以外の女に興味はないものの、紹介された手前行かないのは不義理となるだろう。
今後のビジネスを考えるのならば、人脈を広げていきたい。だから仕方のない思いでそこに足を踏み入れた。
(時間までは適当に休んでおくか)
ただでさえ、寝る間も削って働いているのだ。それならば、この時間を休息と捉えよう。
そう考えてあてがわれた部屋に入る。
「ユリウス?」
「…………は?」
互いの顔を見て、呆然と固まる。
(どうしてジェシカがここに……?)
いや、考えたら分かることだ。
妹は子供の頃に娼館に売られた。
それならば今も働いていても、おかしくはないのだ。
(だけど願うことなら、ジェシカも逃げ仰せていたと思っていたかった)
自分だけが、逃亡に成功しただなんて。
そして僕が逃げたことにより、彼女の負担は増したはずだ。
「……いくら掛かろうと僕は貴女を引き取ります」
そんなことで自分の罪が軽くなるとは思わない。
深く頭を下げたから、ジェシカの表情は分からない。
けれど妹にはさぞ恨まれているだろう。
当然だ。自分だけ逃げて、負債の責任をジェシカ一人に押し付けたのだから。
それでも、たとえ恨まれているとしても、せめてこの先の自由くらいは僕が保証したい。
この思いがどれほどのエゴイズムであろうとも、ジェシカ・エルガーに対して、償いをしたいのだ。
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