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1章
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しおりを挟むぜぇぜぇと肩で大きく息をするユリウスは勢いよくジェシカを睨んだ。
「大人しく部屋に居るようにと言っておいたでしょう! それなのにどうして部屋の外に居るんだ?」
「だってぇ~。退屈だったんだもの」
「今年で二十三になるというのに、語尾を伸ばすな」
「まぁ、ユリウスったら! 勝手に乙女の年をバラさないでくださらない?」
「貴女が本当に乙女のような淑女然たる振る舞いをしているのならば、僕だってそれなりの対応をしますよ」
ユリウスが敬語をかなぐり捨てて怒鳴っている。
それに呆気を取られている間に、ユリウスはジェシカの手を取った。
「ほら。屋敷の主であるこの僕自らが玄関先まで送り届けてあげます。だから今日のところは帰りなさい」
「ええー」
「何が『ええー』だ!」
ジェシカは引っ張られた手を引き抜いて、仕方なさそうにユリウスと腕を組んだ。豊満な胸を彼の腕に押し付けているというのに、彼は怒るばかりで、照れた様子もない。
子供のように駄々をこねるジェシカ。仲は良さそうに映るがそこに男女としての情がないように映った。
(本当にジェシカはユリウスの『愛人』なの?)
よくよく思い返せば、ユリウスは一言たりともジェシカを『愛人』だと言っていない。またそれはジェシカも同様だ。わたしはそれを二人がやましい関係だからこそ口を噤んでいるのだと思っていたが。
(……え。わたしの勘違い?)
けれど、普通男女であんなに近しい距離を取るものか。
しかも彼のシャツにはキスマークすらあったのだ。
何が真実なのか分からなくて、混乱しそうになる。
「リーシャ。この煩いのは今すぐ屋敷から追い出しますから、僕と話をしましょう」
こちらを見やるユリウスとジェシカ。二人の顔が並んだことで、わたしはあることに気が付いた。
(あれ。二人とも瞳の色が同じヘーゼルグレーじゃない?)
髪はユリウスが銀糸で、ジェシカは黒髪。
それにより、二人の印象が異なって見えていた。しかし、濃い化粧を施されたジェシカの顔をまじまじと観察すれば、彼女の顔はユリウスとよく似通っている。そこから導き出される答えはーー。
「あの、もしかして」
遠慮がちに尋ねようとすれば、二人がわたしに注目する。その仕草はぴたりと揃っており、わたしの仮定が正しいのではないかと後押しするものであった。
「二人は兄妹なのでしょうか?」
わたしの問い掛けに彼らは顔を見合わせて、観念したように息を吐き出した。
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