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1章

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 ユリウスに会えるかもしれないということを考慮して、なるだけ彼に好ましいと思って貰えるように自分を着飾る。
 清楚そうな水色のドレスに、シニヨンの髪。そして、薄化粧を施して貰って鏡を見る。

(やっぱり『リーシャ』は乙女ゲームのヒロインだけあって、可憐な顔立ちをしているわよね)

 ぱっちりと丸みを帯びた少し垂れた琥珀色の瞳に、腰まである柔らかな色をした金糸の髪。小さな鼻はツンと上向いており、華奢な体型は儚げな風貌も相待って、庇護欲を掻き立てるもの。


(……これで少しはユリウスに可愛いと思われたら嬉しいのだけれど……)


 会えるか分からないが、同じ屋敷に住んでいるのだ。出会う確率はそれなりにある。その可能性があるのならば、自分のコンディションを少しでも高めておいて損はないだろう。



***


 長い回廊を歩く。広い屋敷を見て回るのは気分転換にもなって楽しい。先程まで塞ぎ込んでいた気持ちが軽やかになっていくのを感じる……それは本当だ。
 しかし気になるのはわたしを突き刺す視線。
 その正体はわたしの『護衛』だと紹介されたのは三人の屈強な男のもの。男達はずっとわたしが進む方角の前後にピタリと張り付いている。


(なんてあからさまな態度)

 これでは『護衛』ではなく『監視』だ。
 けれど男達を配置したユリウスの思惑がどうであれ、彼がわたしを外に出す気になったのだ。 


(ゲームのユリウスなら『リーシャ』に自由なんて最後まで与えなかったものね)

 彼が何を考えているか分からない。
 だけど実際に、こうして部屋の外に出ることを許可したのだ。
 ならばゲームの物語よりも事態は良い方向に進んでいるのではないか。
 そう前向きに捉え、次いでゲームでは未公開に等しいユリウスの住居をこの目で見れる機会を喜ぶ。



 案内された場所をゆっくりと興味深く見やる。この廊下も彼が歩いたのだと思うと途端に愛おしく感じる。

 そうして屋敷の案内が一通り終われば、庭園に出るかと聞かれた。わたしはそれに頷き、しばらくそこを見て周ったのだ。


(少し休憩しようかな)

 さすがに歩き通しでは疲れた。庭の奥にあるベンチで一休みすることにした。
 メイドは何か飲み物を持ってきます、とわたしから離れ、屈強な男達に遠目から見守って貰う。



 大人しくベンチで座っているーーその条件で彼らは離れる。
 とはいっても、彼らはわたしの死角に控えており、不審な行動を起こせばすぐさまにやってくるだろう。


(……お茶を飲んだらどうしようかしら?)


 また庭園も見て周るか。それとも大人しく部屋に戻るか。
 どちらにしようと考えて、視線を彷徨わせたその時。庭の奥に誰かが立っていることに気付いた。


(あれは……)


 ユリウスだ。思わず立ち上がって彼の元へ歩こうとする。男達も慌ててわたしを追い掛けてきて、早計だったと彼らに謝る。
 そして、またユリウスの元へ近付こうとしたら……彼はそこで女性と腕を組んでエスコートしていたのだ。



 
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