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1章
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しおりを挟む少し動かせば、キスすらも出来よう距離。
その近さから昨夜わたしから口付けた時のことを思い出す。
あれは唇同士を重ねるだけの軽いものであったけれど、実際に触れ合ったからこそ、その感触が鮮明に蘇り、緊張から動くことが出来ない。
だけど、その緊張は決して嫌なものではない。
確かに鼓動は高鳴り、手には汗が溜まってはいるけれど、希っている人物との接近に喜ばない女性は居ないのだ。
「ユリウス」
彼の出方を見るために名前を呼ぶ。
戸惑ったように頬を引き攣らせる彼の顔。彼もまた昨日のキスを思い出していたのだろうか。未だわたしの肩に置く手が強張っているように感じる。
(わたしから離れた方が良いかしら?)
さすがに昨日の今日でまたわたしから行動を起こす気にはなれない。もしそのような行動を起こして、彼が警戒するようになったら、いくらわたしでも心が傷付く。
だからこそ、距離を取ろうとしたのだけれど……。
「逃げる気ですか?」
彼の眼が剣呑に光る。
掴まれた肩の力は強く、苦痛に顔を顰めても、ユリウスはじっとわたしを見据えたまま。離す気はないようだ。
「だってユリウスがわたしとの距離を嫌そうにしているから」
「嫌そうになんかしていません」
「……本当に?」
昨夜とは反対にわたしが彼を訝しむ。
じっと彼を見やると、ユリウスはわたしの視線に根負けしたようで、消え入りそうな声で本音を洩らす。
「貴女を前にすると、柄にもなく緊張してしまうだなんて格好悪いでしょう」
思い掛けない理由に目を丸くする。
「昨日はわたしを押し倒していたのに?」
純粋に湧き上がった疑問。それを率直に尋ねれば、彼はあからさまにたじろいだ。
「昨日はまた話が別といいますか……」
先程の勢いはどこへやら。気まずそうに視線を逸らし、言葉を濁そうとする彼の本音を引き出すために畳みかける。
「ユリウスはどうしてわたしを前にすると緊張するんです?」
「……っ。それは」
「それは?」
わたしのことが好きだからと言って欲しい。
そう期待して、熱い視線を送る。
ユリウスは迷った挙句口を開こうとしたーーしかしそのタイミングで、訪問者がやって来たのだ。
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