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1章
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しおりを挟むユリウスのエンドはリーシャが自分で腹部を刺した場面で彼の回想が入り、そこで初めて……どうしてユリウスがリーシャに執着していたか明かされて終わる。
つまり自殺を図ったリーシャの生死が曖昧なまま終わるのだ。
***
(せっかく夫婦になれたのに、このままじゃ二人とも幸せになれない)
リーシャが死ぬということは、彼女を心の底から愛しているユリウスもまた闇に堕ちるということ。
だけど今はゲームの大筋通りに進んでいるとはいえ、前世の記憶を思い出したことにより、方向性は変わっているのだ。
そもそもわたしが体験した初夜の夜は、顔も知らない誰かと結婚した事実に落ち着かなくて、部屋の鍵が閉められていることを気付いてもいなかった。そしてやってきたユリウスはすぐにわたしを押し倒し、そこで前世の記憶を取り戻したのだ。
(どうせならわたしはユリウスを幸せにしたい)
ユリウスルートの最後のスチルは血に濡れたリーシャを腕に抱いて、絶望している彼の姿。
わたしは彼にそのような顔をさせたくない。
ユリウスが好きだからこそ、笑っていて欲しいのだ。
(絶対に幸せにしてみせるわ!)
たとえ今、ゲームと同じ展開になっていたとしても、初夜だって違う展開になったのだ。
それならば、わたしとユリウスがきちんと互いを想い合えばハッピーエンドの道が開かれるのではないか。
(……だったら、まずはユリウスの信頼を得るところから始めなきゃいけないわね)
今一番分かりやすいのは、わたしが彼から逃げないと知らしめることだ。
鍵の開いた扉から距離を取り、部屋の角にある本棚へ向かう。そしてそこから数冊選び取って、長椅子に座ってそれらを読む。
元々、読書は好きだ。だから、ここに本が合って良かったと思う。とりあえず、これらの本を読んで時間を潰し、彼の訪れを待つとしよう。
美しい装丁の本のページを捲ると、物語の世界を頭で想像する。
最初はただの暇潰しの道具として選んだものの、ページを捲るごとに物語に引き込まれてしまっていた。
名残惜しい気持ちで最後のページを読む。
そしてパタリと分厚い本を閉じて物語の余韻に浸ろうとしたその時。背後から視線を感じて、振り返る。
「随分と集中されていましたね」
「ゆ、ユリウス。……え。いつからそこに居たんですか?」
「少し前からです。貴女があまりにも集中している様子でしたので、声を掛けるのは忍びないかと……」
「声くらい掛けてください。ビックリするじゃないですか」
彼の端正な顔が突然視界に入るのは心臓に悪い。
つい肩を跳ね上げさせて驚けば、彼は何かを考えるような仕草で顎に手をやる。
「どうして貴女は呑気に読書なんかしていられるのです?」
「……え」
「だって鍵が開いていることくらい気付いているでしょう?」
「まぁそうなんですけど……。ユリウスの許可がないまま、部屋の外に出るのは貴方が嫌がると思いましたから」
彼の眼がキラリと光る。これで少しは信頼して貰えただろうかと期待するが……。
「……それはつまり、僕の機嫌を取っておこうという算段ですか?」
どうやらわたしの望む道はそう甘くないらしい。
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