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1章
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しおりを挟む「やはり貴女は下賤な平民に抱かれるのは嫌なんですね」
ポツリと男が呟く。
しかしその声があまりに小さかったがゆえに、リーシャの耳には届かなかった。
『嫌っ。離して……』
未だ暴れるリーシャの抵抗が鬱陶しいと思ったのか、男は自分のネクタイを解き、それを彼女の折れそうな程に細やかな腕を縛(いまし)めた。
後ろ手に拘束されたことで、身体も隠すことすら出来ず、ただ男の眼前に自分の裸体を曝け出す。
『随分と綺麗な身体だ』
余すことなく見つめられると羞恥から肌が赤らむ。
心の底からこんなことは止めて欲しいと願っているのに、リーシャの力では男に敵いようがない。自分の意思を無視されたまま、男の思うがままに蹂躙されるのだと思うと絶望から、視界が潤む。
『泣く程に、僕に触られたくないんですか?』
きつく唇を噛み締めて男は問うた。
この男に抱かれるから嫌なのではない。
そもそもリーシャは『花嫁』として、嫁いできたのだ。貴族の女の義務として、夫となる男性に抱かれることへの覚悟だってあった。
もしも目の前の人物がリーシャを閉じ込めずに、自分自身のことを紹介してくれたのならば。なんの抵抗もせずに、大人しくその腕に身を預けたことだろう。
しかし、男は身勝手にリーシャを閉じ込め、自分の名前すら明かさないまま、犯そうとしている。
(怖い……)
そもそもこの男が本当に自分の『夫』だという証拠はない。
たまたま鍵を持っていただけで、もしかしたら夫とは別の人物であるのかもしれないのだ。
未だ貴族の結婚において花嫁は処女であることは重要視されている。
その純潔を不確かな男を相手に散らしたくはない。
『お願いです。どうか許して……』
胸を乱暴に揉まれたことで、男の前で堪えていた涙がついに決壊する。しかし、その懇願は火に油を注ぐ行為であった。
『そこまで僕が嫌ですか? ああ、良いでしょう。絶対に貴女を屈服させてやります』
乳頭を摘まれ、弾かれる。痛みによって顔を歪めれば、男はリーシャの顎を掴んで、キスをした。
『んっ……っ……』
油断していたせいで、口が開いていた。その隙を逃すまいとばかりに舌が割り込み、逃げるリーシャの舌を追い掛ける。
男の存在を刻み込もうとするかのように執拗な行為。
キスというよりかはただリーシャが置かれている立場を知らしめようとしているだけのもの。
深まるキスに酸素が薄れ、頭がボンヤリとする。けれど、なすがままに男の好きにされたくはなくて、リーシャは最後の抵抗に出た。
『……っ、やりましたね』
男の唇を噛んで、口付けを強制的に中断させる。
そのことにより、男の眼は剣呑に光った。
だが、それによってますますリーシャの立場はまずいものになる。
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