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1章
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しおりを挟む二人の鼓動が高鳴り合う。
お互いに同じ気持ちだからこその、協奏。
彼の体温が全身に伝わり、愛おしさが増していく。
「ユリウス」
自分の想いを込めるようにして熱っぽく彼の名を呼ぶ。
先程彼が望んだ通りわたしに触れても良いのだと、視線で訴える。
しかし彼はひゅっと息を飲み込んだかと思うと、勢いよくわたしの身体を引き剥がした。
(どうして……?)
呆然と彼を見やれば、ユリウスは耳まで赤くしており、瞳を潤ませている。その理由を問おうとする。けれどそれよりも早く彼は身を翻し……。
「す、すみません。急ぎの仕事があることを忘れていました!」
そして脱兎の如く駆け出していったのだ。
***
(ええー。なんて分かりやすい嘘を……)
取り残されたわたしは呆然と見やった。ーー昨夜とは違い、鍵を掛けることなく、彼は部屋を飛び出していった。
実際にドアノブに手を掛ければ、扉が僅かに開く。
今ならば、わたしもこの部屋から抜け出せる。だけど、それは自ら彼の信頼を踏み躙る行為へと繋がるだろう。
(まぁ、あのユリウスが簡単にわたしを逃すはずがないのだけれど)
実際、わたしが部屋を出たところで、廊下には見張りが何人も居るのだ。特殊な訓練も受けていない令嬢のわたしが、その男達を相手に出来ようはずもない。
(確かゲームではリーシャが脱走した際、すぐに捕まっていたものね)
初夜が終わった翌朝。そこにユリウスの姿がなかった。
夫になった男といえど、自分を犯すようにして抱いた人物が部屋に居ないことに安堵する。
そして、どうにか部屋から抜け出せないか見渡したものの、窓のない部屋の出入り口はやはり重厚な扉が一つだけ。
どうせ開かないだろうと半ば諦めた気持ちで、その扉に手を掛ける。
しかし、意外にも鍵が開いていた。
彼女はそれに歓喜し、意気揚々と部屋を出る。だが、その先には自分を見張る男達がおり、呆気なく部屋に連れ戻された。
『馬鹿な人だ。ずっと渇望していた貴女を僕が簡単に手放す訳がないというのに』
『大丈夫。僕は優しいですからね。何度だって教えてあげます。逃げても無駄だということを』
『ただし仕置きは受けてもらいますが……』
仄暗い笑みを浮かべ、彼は嫌がるリーシャを抱き続けた。
そのスチルを思い出して、わたしはあることに気付く。
(……あれ。初夜以外、わたしはゲームと同じルートを辿っていない?)
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