上 下
9 / 41
1章

9

しおりを挟む


 二人の鼓動が高鳴り合う。
 お互いに同じ気持ちだからこその、協奏。
 彼の体温が全身に伝わり、愛おしさが増していく。

「ユリウス」

 自分の想いを込めるようにして熱っぽく彼の名を呼ぶ。
 先程彼が望んだ通りわたしに触れても良いのだと、視線で訴える。
 しかし彼はひゅっと息を飲み込んだかと思うと、勢いよくわたしの身体を引き剥がした。


(どうして……?)

 呆然と彼を見やれば、ユリウスは耳まで赤くしており、瞳を潤ませている。その理由を問おうとする。けれどそれよりも早く彼は身を翻し……。


「す、すみません。急ぎの仕事があることを忘れていました!」


 そして脱兎の如く駆け出していったのだ。


***


(ええー。なんて分かりやすい嘘を……)

 取り残されたわたしは呆然と見やった。ーー昨夜とは違い、鍵を掛けることなく、彼は部屋を飛び出していった。
 実際にドアノブに手を掛ければ、扉が僅かに開く。
 今ならば、わたしもこの部屋から抜け出せる。だけど、それは自ら彼の信頼を踏み躙る行為へと繋がるだろう。


(まぁ、あのユリウスが簡単にわたしを逃すはずがないのだけれど)

 実際、わたしが部屋を出たところで、廊下には見張りが何人も居るのだ。特殊な訓練も受けていない令嬢のわたしが、その男達を相手に出来ようはずもない。
 
(確かゲームではリーシャが脱走した際、すぐに捕まっていたものね)


 初夜が終わった翌朝。そこにユリウスの姿がなかった。
 夫になった男といえど、自分を犯すようにして抱いた人物が部屋に居ないことに安堵する。
 そして、どうにか部屋から抜け出せないか見渡したものの、窓のない部屋の出入り口はやはり重厚な扉が一つだけ。
 どうせ開かないだろうと半ば諦めた気持ちで、その扉に手を掛ける。
 しかし、意外にも鍵が開いていた。
 彼女はそれに歓喜し、意気揚々と部屋を出る。だが、その先には自分を見張る男達がおり、呆気なく部屋に連れ戻された。


『馬鹿な人だ。ずっと渇望していた貴女を僕が簡単に手放す訳がないというのに』
『大丈夫。僕は優しいですからね。何度だって教えてあげます。逃げても無駄だということを』
『ただし仕置きは受けてもらいますが……』


 仄暗い笑みを浮かべ、彼は嫌がるリーシャを抱き続けた。
 そのスチルを思い出して、わたしはあることに気付く。


(……あれ。初夜以外、わたしはゲームと同じルートを辿っていない?)

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,512pt お気に入り:2,657

彼女はまだ本当の恋を知らない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:61

ずっと隣に

BL / 連載中 24h.ポイント:2,124pt お気に入り:47

愛人を作ると言われましても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:329

悪役令嬢カミングスーン

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:37

拾った駄犬が最高にスパダリだった件

BL / 完結 24h.ポイント:1,554pt お気に入り:798

処理中です...