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1章
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しおりを挟む「瞬きすらせずに、身体を強張らせて……僕に触れられるのはそんなに嫌ですか」
自嘲を含んだ刺々しい声で尋ねる彼に、わたしはゆるりとかぶりを振る。
「ただ貴方に見惚れていただけですよ?」
だってせっかくユリウスが近い距離に居るのだ。特等席といっても差し支えのない場所で彼を見やる好機。それを棒に振るだなんて勿体無い真似したくなかった。
しかし彼はわたしの答えに息を呑んだかと思うと、さらに顔を険しくさせた。
「……っ、そうやって僕の機嫌をとって逃げる算段でも立てようとしているんですか。残念ですね。僕はそんなことで懐柔される程、甘い男ではない」
「そのような意図は……」
「では見惚れたという言葉が真実なら、僕にキスの一つでもしてみせてくださいよ」
どうせ出来ないだろうといわんばかりに彼は鼻を鳴らした。
けれど彼のあからさまな挑発にわたしは目を輝かせる。
「えっ。良いんですか!」
「…………は?」
公式から触れることを許可されるだなんて願ったり叶ったりだ。
嬉しさに頬が緩む。押し倒された体勢では少しキツいけれど、せっかくお許しが出たのだ。
撤回がないうちにと触れるだけの口付けをした。
(あ、柔らかい)
記念すべき初めてのキスだ。
彼の顔を堪能しようと彼の表情をつぶさに観察する。ユリウスはわたしの行動が信じられないとばかりに目を見開いている。
(……あれ。もしかして引かれた?)
どうしよう。売り言葉に買い言葉とはいえ、はしたないと思われてしまっただろうか。
「あの、旦那様……」
「だ、旦那様っ?」
「……え。だってわたし達、結婚しましたよね。それともユリウス様とお呼びした方がよろしいですか?」
「身分的にいえば貴女の方が上なのですから、僕に対して敬称はいりません。ユリウスと呼んでくださって結構」
早口で言い切る彼にわたしはコクリと頷く。
「ではユリウスとお呼びします……だけど、なんだか照れますね」
本人の前でいきなり敬称なしに呼び捨てるのは気恥ずかしく感じる。推しに対して馴れ馴れしいのではないかと自分でも思うけれど、彼の了解は得たのだ。ならば有り難く享受しよう。
にへらとだらしなく頬が緩みそうになる。それを誤魔化すようにして、奥歯を噛めば、彼の視線が熱心にわたしに注がれていた。
「ユリウス……?」
「貴女。どうして監禁しようとしている相手にそんなのほほんとしているんです?」
「えっと。それはわたしがユリウスに対して好意を抱いているからですかね」
「好、意……」
わたしの解答に彼は口元を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
そして、そのまま扉の前までおぼつかない足取りで歩いていく。
ゲームではこのまま一夜を共にする描写があったのだが、それをしないのだろうか?
「ユリウス……」
「今夜は部屋を別にします。しかし、これで勝ったとは思わないことだ!」
え。勝ったって何に?
そう思うが引き止める暇もなく彼は乱暴にドアを閉め、部屋の外からしっかりと施錠する。
一人ぼっちになったわたしは何がいけなかったのか反省会をして夜を過ごした。
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