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1章
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しおりを挟む「愛しています。だからこそ貴女をこの部屋に閉じ込めます」
初夜の日。夫となった男はベッドにわたしを押し倒し、そう告げた。
しなやかな長い指がわたしの頬をするりと撫で、ゆっくりと彼の顔が近付く。
月の光を一雫だけ閉じ込めたようなプラチナブロンドの髪に、隙がなさそうな切長な瞳。その下には泣き黒子が一つ点在しており、艶やかな印象を受ける。
女性であれば誰もが見惚れてしまいそうな端正な美貌。彼の顔を間近に見て、唐突に前世の記憶が脳に駆け巡る。
(……あれ。ここ『恋に落ちた日』の世界じゃない?)
それは前世でわたしがプレイして、どハマりした乙女ゲームのタイトルだ。
ーーヒロインであるリーシャは王立学園に通う子爵家の娘。
入学する直前。内気なリーシャはその引っ込み思案な性格から婚約者に見切りを付けられてしまう。
貴族である以上、結婚は義務だ。けれど婚約を破棄されたことで、面白おかしく噂を吹聴され、社交界での肩身が狭くなってしまった。それによりすっかり自信をなくし、たわいのない話をする友人すら居ない学園生活を送っていた。
そんなリーシャの態度に我慢の限界を迎えた両親は『学園に通っている間に自分自身の力で結婚相手を見つけ出せ。もしも見つからなかった場合は、自分達が新たに決めた相手と卒業後に結婚しなさい』と彼女を焚き付ける。
果たしてリーシャは運命の相手を見つけることが出来るのか……というのが、話の大筋だ。
目の前に居るユリウス・エルガーはリーシャが攻略キャラと結ばれなかった時にのみ、現れる隠しキャラ。即ち、両親が決めた結婚相手である。
彼は『ある理由』からひどくリーシャに執着しており、他の男と結ばれなかったことを心の底から安堵していた。
しかし他の男達と交流を深めたリーシャを見ていた彼は、もう二度と他の男と関わらせるものかと彼女と顔を合わせるなりに屋敷の奥にある部屋に閉じ込めた。
自由を奪われたリーシャは籠の中の鳥として、ユリウスに一生涯飼われることになるのだ。
彼のルートは監禁エンドが一つあるだけで、ハッピーエンドは存在していない。
そのことを踏まえるとわたしはこの先も彼に囚われ続けるのだろう。
(え。わたしずっとユリウスに監禁されるの? それって、それって……最高じゃない!)
ユリウス・エルガーはわたしの推しだ。
平民として生まれた彼はその昔、リーシャに助けられていた。
そのことからユリウスは彼女を盲目的なまでに愛するようになり、リーシャと結婚するために貿易商の社長として成り上がる。
社交界から成金だと蔑まれても、ユリウスはリーシャと結婚をすることを目標にして、死に物狂いの思いをして財を築き上げた。
本当に手に入るか分からない存在のために努力する姿。苦悶しながらも欲しいもののために前に進もうとするユリウス・エルガーという人間性が好きになり、前世ではずっと彼のグッズを集め続けていたーーその彼が目の前に居るのだ。
(神様ありがとう!)
前世のわたしは一体どんな徳を積んだのか。
覚えてはいないけれど、とにかくこの世の全てに感謝したい。
(睫毛長いなぁ)
既に彼との距離は息が吹き掛かる程。少し頭を動かせば、キスすら出来るのではないだろうか。
それを期待してユリウスを見やる。わたしと目が合った彼は不愉快そうに眉間の皺を深くした。
(えっ。なんで……?)
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