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しおりを挟む初めはただのきまぐれだった。駆け落ちした本家の娘がどんな家庭を築き上げたのか、それを確認したかっただけの。
(本家のどす黒い血を受け継いだ女が幸せになんかなれるはずがない)
血の薄い分家の自分ですらそうだったのだ。いくら普通になろうと取り繕っても上手くいくのは表面だけ。あがけばあがくほどに思い知る過激で残酷な呪われた血の呪縛を。
だからこそ不幸になっていると思っていた。一時の熱に全てを失った女が平凡な毎日なんて暮らせるわけがないと。ゆえに彼女の子供がどのように成長したか見てみたかった。凡庸に育てられたとはいえ、あの呪われた血が流れているのだ。決して普通など満足することなどない。
――だけど、違った。
始業式を終えて家に帰ろうと桜並木を歩く少女はどこまでも普通で、そしてなにも知らないがために無垢だった。
(まるで桜の妖精だ)
一族の中でも最も狡猾だと言われている自分よりも、なおも濃い宿命に当たるはずなのに無邪気に学校帰りに白猫と戯れる少女が眩しい。
――もしも、この少女が……
全てを失っても今と同じようにこの笑みは浮かべられるのだろうか…
当たり前であった日常も、ありふれた幸せもなくなったら――どうなるのだろうか。
少女の絶望した表情を想像するだけで、背中にゾクリと甘い痺れが走る。
(そして私以外は少女にとって敵になればいい)
私だけが甘やかして、私が居ないと生きていけなくなればいい。そして身も心も私に捧げた後に、真実を知ればいいのだ。
――両親は私に殺されるよう仕組まれた、ということを……
もちろん自分自身では手を出してはやらない。幸いにも私の手になってくれる人物はいくらでもいるのだから。交通事故にでも見せかけてやるくらいは造作もないことだ。
そして両親を亡くした後は、彼女が吉永の家に入れるように手を回しておこう。私自らが少女の世話を焼き、ベタベタに甘やかしてやる。
(その日まではせいぜい今の生活を楽しんでいてくださいね、お嬢さん)
そうして一カ月後、わたしの計画は実った。その日少女の両親は自分の娘の誕生日プレゼントを買おうと揃って出かけた。そしてその日はあいにくの雨で道路の見通しはかなり悪く押しボタンもなにもない横断歩道を渡っている時に『運悪く』確認を怠った乗用車に跳ねられ即死したのだ。
葬儀の最中に後部座席に紛れ少女の様子を伺う。少女は遺族席で静かに頬を濡らし、白い頬が紅く染まるさまはどこか扇情的であった。
(――あの甘露を舐めればどんな味がするのだろうか……?)
まだ義務教育も終えていない少女に対し、自分はなにを思っているのか。
しかし自分でも不思議に思うくらいに彼女の涙は自分の雄を刺激してくる。この少女がいけない。どこにでもいるような顔をしているくせに、泣き顔がこんなにも艶があるだなんて誰が思うか。睫を震わせるさまも、唇が無防備にも半開きになっているさまも、細い肢体が小さく椅子に座り込んでいるさまも、全てが男を刺激してやまない。
(あぁ、どうして私が……!)
抱きしめて守ってやりたい、など思うのか。むしろこの状況を作り上げた張本人のくせになんというザマだ。しかし、葬儀が終わった後も白いハンカチを握りしめてどうやって彼女に渡そうかタイミングを何度も考えている内に逃していることもまた事実だった。
自分の持っているマンションに帰ってからも、胸の棘はとれないままベッドに寝転んだ。
(なぜ私が……)
今も少女が泣いているのかを気にしているというのか。
(嗚呼、イライラする……!)
これはただのきまぐれだったではないか。それなのに、一言も話したこともない少女に翻弄されてどうするのだ。
(酒でも飲むか)
時刻はまだ昼だが、たまにはいいだろう。こんな日はとびきり強い酒が良い。たしかまだ開けていない年代物のウィスキーがあったはずだ。それをロックで飲むとしよう。そうして立ち上がった時だった。スマートフォンからメールを知らせる電子音が鳴ったのだ。
メールの相手はひと月前から少女を監視させている部下からの写真付きの定期報告だ。
『泣き疲れたのか自分の部屋で眠っています』
やはり少女は泣いていたのだ。苦々しく思う気持ちを抑えてなんとなしに添付された写真を開くと私は眼を放すことができなくなった。
「これは……!」
少女は確かに自分のベッドで眠っている。しかし着替えることも面倒だと思ったのか中学のセーラー服のまま横になっているせいで、普段はひざ上までにしているスカートは太ももまで露わになっているし、スカーフは中途半端に剥ぎ取られ上のボタンも全部開けられているせいで薄いピンク色の下着がチラリと覗き見える。
(…………なんて淫らな)
紺色の制服のせいか余計に白い肌が艶やかな色気を帯び、泣き腫らして眠っている様子はまるで情事の後のようだ。
(こんな子供相手になにを思っているんだ)
そうだ。この少女はまだ義務教育すら終わっていない。それなのに私はなにを思っているというのか。
(最近女を抱いていないからか?)
それなら女を呼び出すか、と電話帳を開いても誰を呼びだそうかと考えて止めた。
――具体的にどの女にしようか、と考えても少女の扇情的な写真よりも興奮しないと気付いたからだ。
「くそっ」
スマートフォンを操作し直してもう一度少女の写真を開けば、やはり自分の雄が興奮する。仕方なくベルトを緩めて自身を取り出し扱いてやることにした。
(自慰なんて何年ぶりだ……?)
思春期の頃から女に不自由したことなんてなかった。自分の周りには見目の良い女が取り囲んでいたし、適当にそれらを使えば良かったのだ。だから自慰なんて精通を迎えた頃にしかしていない。
――それなのに今となって自身のモノに手を伸ばすなんて自分でも信じられない。
(あの少女がいけない)
あんな恰好で私を惑わせるのだから。監視役は男にしか興味のない奴でつくづく良かったと思う。そうでなかったら、きっと私のように狂ってしまうはずだ。
(あの少女はどんな声で鳴くのだろう)
そしてどのように乱れるのだろう。想像するだけで私のモノは一段と大きくなった。
(嗚呼、少女を抱くとしたら散々焦らしてから私を求めさせたい)
快楽で思考も理性もグチャグチャに蕩けさせて、ひたすらに私だけのことを考えるようになればいい。だって私がこうも少女の痴態を想像しただけで欲望を募らせているというのに、お嬢さんはなにも知らないで眠っている。そんなのは不公平だ。少女も知ればいいのだ。自分が隠し持っている欲望を――その時に少女は本当の意味で女として花開くだろう。
――それを想像して私は達した。
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