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しおりを挟む「れ、蓮様ー!!!」
突然の本人登場に驚いたのか三人揃って叫ぶ。近くに居たわたしは思わず耳を塞いでしまうくらいの大声で、耳がきーん、と痺れた。しかしながら現れた彼の表情は逆光で見えない。
(どうして、ここに……)
殆ど喧嘩に近い状態で保健室を出て行ったから本当は彼だって気まずい筈だ。
それでもヒントもなしに、わざわざわたしの居る校舎裏までやってきたのは相当探してくれた証拠だろう。
「悪いけど、一花と昼休み過ごす役目代わって貰っていいかな?」
大股で近付いてきた彼に彼女達はコクコクと頷いて封の開けていないプリンとお茶を手早く纏め、購買の袋に入れた状態でわたしに渡す。
「ほら、一花。おいで」
お弁当は既に食べ終わったところで、ランチバッグに入れてある。思わず空気に流されるままに手を取るとそのまま絡めとられた。
人前で恥ずかしいと俯けば視界の先に彼女達がぽうっと顔を赤らめて、内一人と目が合えば、ご馳走様ですというかのように両手を合わせて拝まれる。
「公式すごい」
「存在が尊い」
「作画が神」
三人の声はボソボソしていて、導かれるまま歩いていたらすこし離れてしまい、何を言っているか分からない。けれど、なんとなく声を掛けるのは躊躇われ、お辞儀だけして彼の後をついていく。
道中、彼が話しかけてくることはついぞなかった。
結局、彼が口を開いたのは殆ど使われることのない多目的室に着いてからだ。
「ひどい事は言われなかった?」
彼の硬い声に誤解しているのだと知る。よくよく見ると彼の顔は血の気が引いたように真っ青で、どうやら本気で心配してくれているようだ。
恐らくのところ彼は顔が女子達に人気があり過ぎるせいで、こういうことは度々あったのだろう。
だからこそ部活のマネージャーが取り囲まれた時にあんなに激怒したし、ほとんど喧嘩に近い状態であったわたしをわざわざ探したのだ。
しかし今回はただの冤罪だ。誤解をそのままにしては、しこりが残ってしまう。
「ただ彼女達から蓮くんの話を聞きながら、ご飯食べてただけなんだよ」
「は? 俺とのことを根掘り葉掘り聞かれたんじゃなくて?」
「うーん。わたしも呼び出されたから予想外だったんだけど。すごく熱心に蓮くんのこと語ってくれたし、多分純粋な蓮くんファンだと思う」
「……なに聞かされたの? いや、やっぱいい。言わないで。人から聞かされる自分の話って曲解されてそうで、なんか恥ずいから」
困ったように眉根を垂れさせる彼にわたしは思わずきゅうんと胸が疼いた。
(可愛い)
いつだったか男の人を格好良いではなく可愛いと思ったら、それは沼の入り口とどこかで聞いたことがある。そのことを自覚すればボッと顔が赤くなり、見られまいと俯く。
「…………ねぇ、やっぱ何聞かされたか教えて」
その様子を見た彼はまた誤解したようで、黙り込むわたしに低くなったテノールの声が問い詰める。
いつもなら怒らせたかと怖くなるというのに今日に限ってはそんなに怖くないのが不思議だった。
それどころか、もっと声を聞きたいと思ってしまう。今までのわたしであれば考えられない矛盾じみた気持ち。
――あぁ、そうか。これが好きだという感情なのね。
散々彼を拒絶しておいて、なんて虫のいい話なんだろう。
今までの自分の言動を思い出せば、申し訳なさで逃げ出したくなる。けれど、ここで逃げ出したら過去の自分と同じ結果になるのだと直感した。だからここで彼と対峙する決意をする必要があるのだと思えば、腹を括らざるを得ない。
「……ねぇ、蓮くん。わたし達、貴方が告白する前に喋ったことがあったのね」
わたしがポツリと呟いた言葉に彼はひゅっと息を呑む。わたしはそれが試合の始まりを告げるゴングの音に聞こえたのだった。
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