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甘い監禁が始まるまでに
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「無理を、させすぎてしまったな……」
ソファーになだれ込むように眠る彼女を見て思わず反省する気持ちが圧し掛かる。けれど二十年間求めていた存在がやっとこの腕で抱けたのだ。がっついてしまうのも仕方ないだろう。
――俺は小学生のころは典型的ないじめられっ子だった。
物心ついてから父親は居らず、母親は男狂いの人間で常に子供よりも自分の恋人を優先させていた。何日も帰ってこないこともザラで、その間の食事は用意されてないことが多い。家事をしない母のせいで食糧もなく、その間の俺は冷蔵庫にある調味料で凌ぐしかなかった。そのため身体はガリガリな上に背も低く、いじめっ子が目をつけるのも無理はない。その時に何度も助けてくれたのが小学二年で一緒のクラスメートになった彼女だった。
西田七海は背が高く、明るいクラスのムードメーカー的な存在で太陽みたいな人だった。
そんな彼女が虐められている俺を庇うものだから、さらにいじめっ子はおもしろくなかったのだろう。余計に突っかかってきたが、俺は嬉しかった。
いじめがひどければひどいほどに七海は心配してくれるから。
それに、本当はいじめっ子も七海のことを好きなのを知っている。俺を必要以上にいじめるのは七海に構ってもらいたかったのだ。だが、実際に俺をいじめる程に七海は軽蔑していくし、俺に気を使ってくれる。悔しそうに唇を噛み締めるいじめっ子をみると、いいようのない満足感が満たされていった。
(バカな奴だ……)
もともといじめなんかなかったら、クラスの中心人物と地味な俺じゃあ縁がなかった。だけど、いじめられることによって七海はこちらに気を配ってくれる。さらに俺の家庭環境を知れば同情も深まって、七海の家にお呼ばれする機会が重なる。
知れば知る程に七海が好きになり、彼女のことしか考えなくなっていった。
――しかし、小学六年の頃に事態は一変する。
今まで母がどんなに探しても行方すら分からなかった父が俺を引き取ると現れたのだ。当然俺は反対だったが所詮は子供のいうこと。生涯母が生活に不自由することのない金で俺はあっさりと売られてしまった。
父は極道の人間で跡取りが欲しかったが、本妻が生んだ子供が見事に女三人だった。女を頭にすることはできない。そのため昔捨てた女の子供をわざわざ引き取ったのだ。そんな大人の事情なんかのせいでナナと離されたと知った俺は思いっきり抵抗した。脱走やハンガーストライキ、組の下っ端たちを罠にかけ鼻でせせら笑った。手におえないと思わせることでナナの元に戻れると思ったのだ。
それに組員はどんなに俺にムカついても次期跡取りである俺には頭が上がることはない。
ナナが側にいないイライラをどんどん周囲にぶつけていき、幼稚な反抗をしていたのだ。
けれど、こんなことをしても意味がないと小学校を卒業する前に気付いた。だって俺はまだ子供で親の保護がいる。それならば大人しく従って力を蓄えたほうが良いと一年くらい経ってようやく冷静な結論を出すことができた。
――後に親父は言った。中学に入学する前に決意していなかったらナナの命がなかったと。
(俺は間に合った……)
中学の俺は成長期ということもあり、どんどん背が伸びだしていたころだ。顔も水商売をしていた母に似てそれなりに女に人気もあったし、勉強もみっちり叩き込まれた。
家のことや、女、素行なんかで知らない奴から喧嘩なんかも吹っかけられることも多くなったのもこの頃だ。ナナに会えない鬱憤もソイツらを殴ることで晴らしていた。
高校では親父の仕事を付き合わされていた。といっても会合での食事会や雑用が多かっただけだが、そのおかげで人脈が少しずつ広がっていった。この頃の俺はナナに近づけないことを本気で焦っていた。
本当はすぐに会いに行って抱きしめたかった。けれど、そんなことしたらまた親父に狙われてしまうことくらい容易に推測できる。だから俺はナナのことを忘れたフリをすることにしたのだ。
大学を卒業して、ようやくナナを調べることにした。十年越しに写真で見るナナは本当に綺麗になっていた。バレーをしていたからか背も170センチ近く色白い肌。そしてどこか憂いを見せる表情に色気を感じる。
(……くっ、むしゃぶりつきてぇ)
写真だけで本気で欲情したのは初めてだった。俺がこんなに我慢しているのに誇らしげにナナの肩を抱く男が、ひどく憎たらしくて裏の力を結集させて別れさせた。本当は殺してしまいたかったが、もしもナナに知られたら、ということもあるから苦渋の想いで押しとどめることにした。何度も別れさせているうちに、やがて男と付き合う自信をなくしたようで、二十代半ばになる頃にはもうだれとも付き合わなくなった。
その頃、ナナはネット小説にハマり始めたようだった。なかでも一年前に狂愛モノが好きだと知った時、俺は秘かに歓喜したのだ。
(これで、俺が愛を押し付けても引かれることはない)
その日から俺は周到に鳥籠を作り始めた。ナナの好きなものと色合いを考えながら形になっていく部屋を考えることはすごく楽しくて、早く招待したかった。念のため、ナナが受け入れてくれなくても、逃げだせないように鍵選びも慎重にしなければいけない。それすらも楽しいと思っている俺は相当歪んでいるのかもしれない。
そうして組長となった俺はようやくナナを手に入れることができた。思い描いていた以上に彼女の身体は甘美で、余裕もなく抱き潰してしまったが、まだ足りないと思ってしまう。
もしかしたら、ナナの身体には麻薬みたいに常習性があるんじゃないか、と本気で考えてしまう。
(ナナ、もう離さない……)
例え彼女が記憶の彼方に俺を忘れても、それでいいと思う。だってその分以上に俺が覚えているのだから。
だけど、まだ名前は教えないことにしよう。
だってもしもナナが自分から思い出してくれたら最高の思い出になりそうだから……
彼女を抱きしめながら、俺も眠りに就く。
――これから始まる甘い監禁生活を夢見るために……
ソファーになだれ込むように眠る彼女を見て思わず反省する気持ちが圧し掛かる。けれど二十年間求めていた存在がやっとこの腕で抱けたのだ。がっついてしまうのも仕方ないだろう。
――俺は小学生のころは典型的ないじめられっ子だった。
物心ついてから父親は居らず、母親は男狂いの人間で常に子供よりも自分の恋人を優先させていた。何日も帰ってこないこともザラで、その間の食事は用意されてないことが多い。家事をしない母のせいで食糧もなく、その間の俺は冷蔵庫にある調味料で凌ぐしかなかった。そのため身体はガリガリな上に背も低く、いじめっ子が目をつけるのも無理はない。その時に何度も助けてくれたのが小学二年で一緒のクラスメートになった彼女だった。
西田七海は背が高く、明るいクラスのムードメーカー的な存在で太陽みたいな人だった。
そんな彼女が虐められている俺を庇うものだから、さらにいじめっ子はおもしろくなかったのだろう。余計に突っかかってきたが、俺は嬉しかった。
いじめがひどければひどいほどに七海は心配してくれるから。
それに、本当はいじめっ子も七海のことを好きなのを知っている。俺を必要以上にいじめるのは七海に構ってもらいたかったのだ。だが、実際に俺をいじめる程に七海は軽蔑していくし、俺に気を使ってくれる。悔しそうに唇を噛み締めるいじめっ子をみると、いいようのない満足感が満たされていった。
(バカな奴だ……)
もともといじめなんかなかったら、クラスの中心人物と地味な俺じゃあ縁がなかった。だけど、いじめられることによって七海はこちらに気を配ってくれる。さらに俺の家庭環境を知れば同情も深まって、七海の家にお呼ばれする機会が重なる。
知れば知る程に七海が好きになり、彼女のことしか考えなくなっていった。
――しかし、小学六年の頃に事態は一変する。
今まで母がどんなに探しても行方すら分からなかった父が俺を引き取ると現れたのだ。当然俺は反対だったが所詮は子供のいうこと。生涯母が生活に不自由することのない金で俺はあっさりと売られてしまった。
父は極道の人間で跡取りが欲しかったが、本妻が生んだ子供が見事に女三人だった。女を頭にすることはできない。そのため昔捨てた女の子供をわざわざ引き取ったのだ。そんな大人の事情なんかのせいでナナと離されたと知った俺は思いっきり抵抗した。脱走やハンガーストライキ、組の下っ端たちを罠にかけ鼻でせせら笑った。手におえないと思わせることでナナの元に戻れると思ったのだ。
それに組員はどんなに俺にムカついても次期跡取りである俺には頭が上がることはない。
ナナが側にいないイライラをどんどん周囲にぶつけていき、幼稚な反抗をしていたのだ。
けれど、こんなことをしても意味がないと小学校を卒業する前に気付いた。だって俺はまだ子供で親の保護がいる。それならば大人しく従って力を蓄えたほうが良いと一年くらい経ってようやく冷静な結論を出すことができた。
――後に親父は言った。中学に入学する前に決意していなかったらナナの命がなかったと。
(俺は間に合った……)
中学の俺は成長期ということもあり、どんどん背が伸びだしていたころだ。顔も水商売をしていた母に似てそれなりに女に人気もあったし、勉強もみっちり叩き込まれた。
家のことや、女、素行なんかで知らない奴から喧嘩なんかも吹っかけられることも多くなったのもこの頃だ。ナナに会えない鬱憤もソイツらを殴ることで晴らしていた。
高校では親父の仕事を付き合わされていた。といっても会合での食事会や雑用が多かっただけだが、そのおかげで人脈が少しずつ広がっていった。この頃の俺はナナに近づけないことを本気で焦っていた。
本当はすぐに会いに行って抱きしめたかった。けれど、そんなことしたらまた親父に狙われてしまうことくらい容易に推測できる。だから俺はナナのことを忘れたフリをすることにしたのだ。
大学を卒業して、ようやくナナを調べることにした。十年越しに写真で見るナナは本当に綺麗になっていた。バレーをしていたからか背も170センチ近く色白い肌。そしてどこか憂いを見せる表情に色気を感じる。
(……くっ、むしゃぶりつきてぇ)
写真だけで本気で欲情したのは初めてだった。俺がこんなに我慢しているのに誇らしげにナナの肩を抱く男が、ひどく憎たらしくて裏の力を結集させて別れさせた。本当は殺してしまいたかったが、もしもナナに知られたら、ということもあるから苦渋の想いで押しとどめることにした。何度も別れさせているうちに、やがて男と付き合う自信をなくしたようで、二十代半ばになる頃にはもうだれとも付き合わなくなった。
その頃、ナナはネット小説にハマり始めたようだった。なかでも一年前に狂愛モノが好きだと知った時、俺は秘かに歓喜したのだ。
(これで、俺が愛を押し付けても引かれることはない)
その日から俺は周到に鳥籠を作り始めた。ナナの好きなものと色合いを考えながら形になっていく部屋を考えることはすごく楽しくて、早く招待したかった。念のため、ナナが受け入れてくれなくても、逃げだせないように鍵選びも慎重にしなければいけない。それすらも楽しいと思っている俺は相当歪んでいるのかもしれない。
そうして組長となった俺はようやくナナを手に入れることができた。思い描いていた以上に彼女の身体は甘美で、余裕もなく抱き潰してしまったが、まだ足りないと思ってしまう。
もしかしたら、ナナの身体には麻薬みたいに常習性があるんじゃないか、と本気で考えてしまう。
(ナナ、もう離さない……)
例え彼女が記憶の彼方に俺を忘れても、それでいいと思う。だってその分以上に俺が覚えているのだから。
だけど、まだ名前は教えないことにしよう。
だってもしもナナが自分から思い出してくれたら最高の思い出になりそうだから……
彼女を抱きしめながら、俺も眠りに就く。
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