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監禁は突然に
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映画や小説でのシチュエーションは、作り物だからこそ良いんだと思う。
実際に同じことをされても、ね?
(ああ、ありえない……)
高校を卒業してから十年間ずっと通っている会社の帰り道、突然黒い服を着た男に話しかけられた。
「西田七海さんですか?」
男は二人居て、どちらも見上げる程高く、眼光も鋭い。
…………明らかに普通の人じゃない。
(こんな怖そうな人達がなんでわたしの名前を知っているのよ?)
「っ、違います」
この場から逃げたくて震える足でその場を離れようとすれば、左腕を掴まれる。
「いいえ、あなたは西田七海さんで間違いないはずです」
男の抑揚のない声が余計に恐ろしく感じる。
「もう一度お尋ねします。あなたは西田七海さんですね?」
「………………はい」
言葉自体は丁寧なのに、どこか逆らえない空気があった。
「それでは車にお乗りください」
(冗談じゃない)
いかにも危険そうな男達の黒塗りの車になんか乗りたくない。
「嫌です……離して、くださいっ!」
「無理やり乗せられるほうが良いのですか?」
ギラリと獰猛な眼が光った。一瞬の怯んだ隙を逃さず、男はそのまま後座席に押し込め発進させる。
逃れようにも両脇にガッチリ固められていて、降りることすら不可能だ。
目的を聞いても教えてはくれない。わたしにできることは殺されるかもしれない恐怖にひたすら身体を震わせるだけだった。
「…………間もなく、到着致しますが逃げようなどと馬鹿なことは考えないで下さい」
「もしも、逃げたらどうなりますか?」
今のうちに最悪な事態を想定しておきたかった。
けれど、そのことが男の眼には反抗的な態度として映ったのかもしれない。
「止めておきなさい、ボスは絶対にあなたを捕まえますよ。そして逃げたことを後悔するくらい徹底的に追い詰められるでしょうね」
それはわたしの抵抗を封じ込めるのに最も適した脅し文句だった。
だけど、なにかが引っ掛かる。
(――まるで狂愛小説にでてくる台詞みたいなのは気のせいなのかな?)
「やっと来たか……」
連れられてきた場所は、いかにも高そうなマンションの最上階だった。
わたしを待っていた男は革張りの黒いソファーに書類を見ながら座っていた。
男は座っていても分かるくらい足が長く、ガッシリとした体形で、薄い唇に酷薄めいた笑みを浮かべ、男としての色香を纏っている。しかし、ひとたび眼を合わせればどこか獲物との距離を測る肉食動物のようだった。
わたしを連れてきた男が当たり前のように男の隣に座らせ、そのままソファーに座っている男に一礼してから去っていく。
(いやだ、こんな男と二人きりにしないでよ……)
「顔を上げろ」
命令のままにノロノロと顔を上げると視界いっぱいに男の顔が映る。
(ちょ、近っ!)
いつのまにか距離は縮められ、肩と肩がくっついている。
間近で見る男の顔は端正でどこにも欠点が見つかりそうにない。
(だけど、絶対に普通の人じゃない)
オールバックの髪にシルバーのスーツの下に着込んでいる黒い派手なシャッツは大きくはだけていて第三ボタンまで空けられている。明らかにこんな会社員なんかいるはずもない。
男から少しでも距離を取ろうとソファーから立ち上がりかけた時、男は腰に手を回し阻む。
「…………諦めろ、今更逃げられないぞ」
「ひっ」
嫌な予感ほどよく当たる。普通の子なら分からなかったかもしれない……
だけど普段からネット小説を読んでるわたしは直感的に、ピンときてしまった。
(――きっとこの男は典型的なヤンデレだ……)
「もうお前は俺のモノだ……」
(近い近い近いー!!)
お互いの吐息すら感じる距離だ。遠ざかろうにも、もうソファーの淵まで追い詰められている上に、顎を固定され俯くことすら許されていない。
(なんでヤンデレ男って自己中・俺様・ジャイアン様が多いのよ)
心の中の突っ込みは幸いなことに男に届くことはない。
「――顔色すら変えないか」
(いいえ、驚きで固まっているだけです)
むしろ心はめまぐるしくアレコレ考えています。
こんな緊張状態で動けるはずもない。それにヘタに動いてしまえば、唇が重なり合いそうで動こうにも動けない。
「つまらんな……」
つまらないなら帰してくださいー、切実なる本音は突然のキスに口から洩れることはなかった。
(なんでっ、こんなに、うまいのよっ!)
現実のキスなんてタダのスキンシップくらいのものだと思っていた。けれど男は口付け一つで巧みにわたしの眠っていた快感をひきずりだそうとする。
「っ、ふぁっ、ぁん、んっ」
甘い痺れが身体を苛む。きっとソファーに座っていなかったら、そのまま腰が砕けてしまったかもしれない。口付けが終わっても、そのまま身体の芯から溶けてしまいそうで、少しでもすがるモノが欲しくて男のシャッツを掴む。
「……そうやって俺にだけ甘えたらいい」
甘くかすれた声で耳元に囁かられれば、更に身体から力が抜ける。きっと男は自分の武器を知っていて、使っているのだ。
なすがままにされていると男の機嫌が上がる。
素直ないい子にはご褒美をあげないとな、そう呟いて一気に視界を反転させられる。気付いたらいつのまにか押し倒されていたのだ。
だけど、いつの間にか逃げる気は拡散されていた。むしろ正直に言えば、このまま快楽に流されてしまいたい気持ちが強い。
(名前も知らない男なのに……)
こんなこと慎重派でコツコツ生きていたわたしにとって初めてのことだった。
「ナナ余計なことは考えないで、全部俺のせいにしろ」
男が昔の愛称まで知っていたことに驚く。しかし、それも一瞬だけのこと……
再び男が仕掛けてきたキスで思考までもとろけさせられたから。
きっと男のキスは媚薬に近いんだと思う。甘い痺れに支配されて快楽のままに、わたしは全てを男に明け渡してしまった……
実際に同じことをされても、ね?
(ああ、ありえない……)
高校を卒業してから十年間ずっと通っている会社の帰り道、突然黒い服を着た男に話しかけられた。
「西田七海さんですか?」
男は二人居て、どちらも見上げる程高く、眼光も鋭い。
…………明らかに普通の人じゃない。
(こんな怖そうな人達がなんでわたしの名前を知っているのよ?)
「っ、違います」
この場から逃げたくて震える足でその場を離れようとすれば、左腕を掴まれる。
「いいえ、あなたは西田七海さんで間違いないはずです」
男の抑揚のない声が余計に恐ろしく感じる。
「もう一度お尋ねします。あなたは西田七海さんですね?」
「………………はい」
言葉自体は丁寧なのに、どこか逆らえない空気があった。
「それでは車にお乗りください」
(冗談じゃない)
いかにも危険そうな男達の黒塗りの車になんか乗りたくない。
「嫌です……離して、くださいっ!」
「無理やり乗せられるほうが良いのですか?」
ギラリと獰猛な眼が光った。一瞬の怯んだ隙を逃さず、男はそのまま後座席に押し込め発進させる。
逃れようにも両脇にガッチリ固められていて、降りることすら不可能だ。
目的を聞いても教えてはくれない。わたしにできることは殺されるかもしれない恐怖にひたすら身体を震わせるだけだった。
「…………間もなく、到着致しますが逃げようなどと馬鹿なことは考えないで下さい」
「もしも、逃げたらどうなりますか?」
今のうちに最悪な事態を想定しておきたかった。
けれど、そのことが男の眼には反抗的な態度として映ったのかもしれない。
「止めておきなさい、ボスは絶対にあなたを捕まえますよ。そして逃げたことを後悔するくらい徹底的に追い詰められるでしょうね」
それはわたしの抵抗を封じ込めるのに最も適した脅し文句だった。
だけど、なにかが引っ掛かる。
(――まるで狂愛小説にでてくる台詞みたいなのは気のせいなのかな?)
「やっと来たか……」
連れられてきた場所は、いかにも高そうなマンションの最上階だった。
わたしを待っていた男は革張りの黒いソファーに書類を見ながら座っていた。
男は座っていても分かるくらい足が長く、ガッシリとした体形で、薄い唇に酷薄めいた笑みを浮かべ、男としての色香を纏っている。しかし、ひとたび眼を合わせればどこか獲物との距離を測る肉食動物のようだった。
わたしを連れてきた男が当たり前のように男の隣に座らせ、そのままソファーに座っている男に一礼してから去っていく。
(いやだ、こんな男と二人きりにしないでよ……)
「顔を上げろ」
命令のままにノロノロと顔を上げると視界いっぱいに男の顔が映る。
(ちょ、近っ!)
いつのまにか距離は縮められ、肩と肩がくっついている。
間近で見る男の顔は端正でどこにも欠点が見つかりそうにない。
(だけど、絶対に普通の人じゃない)
オールバックの髪にシルバーのスーツの下に着込んでいる黒い派手なシャッツは大きくはだけていて第三ボタンまで空けられている。明らかにこんな会社員なんかいるはずもない。
男から少しでも距離を取ろうとソファーから立ち上がりかけた時、男は腰に手を回し阻む。
「…………諦めろ、今更逃げられないぞ」
「ひっ」
嫌な予感ほどよく当たる。普通の子なら分からなかったかもしれない……
だけど普段からネット小説を読んでるわたしは直感的に、ピンときてしまった。
(――きっとこの男は典型的なヤンデレだ……)
「もうお前は俺のモノだ……」
(近い近い近いー!!)
お互いの吐息すら感じる距離だ。遠ざかろうにも、もうソファーの淵まで追い詰められている上に、顎を固定され俯くことすら許されていない。
(なんでヤンデレ男って自己中・俺様・ジャイアン様が多いのよ)
心の中の突っ込みは幸いなことに男に届くことはない。
「――顔色すら変えないか」
(いいえ、驚きで固まっているだけです)
むしろ心はめまぐるしくアレコレ考えています。
こんな緊張状態で動けるはずもない。それにヘタに動いてしまえば、唇が重なり合いそうで動こうにも動けない。
「つまらんな……」
つまらないなら帰してくださいー、切実なる本音は突然のキスに口から洩れることはなかった。
(なんでっ、こんなに、うまいのよっ!)
現実のキスなんてタダのスキンシップくらいのものだと思っていた。けれど男は口付け一つで巧みにわたしの眠っていた快感をひきずりだそうとする。
「っ、ふぁっ、ぁん、んっ」
甘い痺れが身体を苛む。きっとソファーに座っていなかったら、そのまま腰が砕けてしまったかもしれない。口付けが終わっても、そのまま身体の芯から溶けてしまいそうで、少しでもすがるモノが欲しくて男のシャッツを掴む。
「……そうやって俺にだけ甘えたらいい」
甘くかすれた声で耳元に囁かられれば、更に身体から力が抜ける。きっと男は自分の武器を知っていて、使っているのだ。
なすがままにされていると男の機嫌が上がる。
素直ないい子にはご褒美をあげないとな、そう呟いて一気に視界を反転させられる。気付いたらいつのまにか押し倒されていたのだ。
だけど、いつの間にか逃げる気は拡散されていた。むしろ正直に言えば、このまま快楽に流されてしまいたい気持ちが強い。
(名前も知らない男なのに……)
こんなこと慎重派でコツコツ生きていたわたしにとって初めてのことだった。
「ナナ余計なことは考えないで、全部俺のせいにしろ」
男が昔の愛称まで知っていたことに驚く。しかし、それも一瞬だけのこと……
再び男が仕掛けてきたキスで思考までもとろけさせられたから。
きっと男のキスは媚薬に近いんだと思う。甘い痺れに支配されて快楽のままに、わたしは全てを男に明け渡してしまった……
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