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現実
しおりを挟む王城に向かう馬車に乗り合わせたのはわたしとミア、そして母だった。
母はミアを見るとよく似合っているわ、とにこやかに話しかける。
「こんなに愛らしいミアの姿を見れば、きっと殿下も声をかけずにいられないでしょうね」
愛おしくて堪らないとばかりに優しい声で彼女はミアにのみ語り続ける。
疎外されて空気みたいになった惨めな感覚をわたしは唇を噛んで耐えた。血の繋がった母に自分の存在を居ない者とされる屈辱は言葉に出来ない苦しさがあり、それでも泣くと更に邪魔だと思われるだろうから、冷たい視線が降り注がれないように懸命に堪えるしかない。
ミアは母の横でべったりと甘え、そして母に見えない角度でわたしを嘲笑う。
あからさまに見下された視線が居た堪れなくて、わたしは俯くことを選ぶ。
(なんでお母様はわたしに微笑んでくれないの……?)
それとも父にも母にも妹にも疎外される自分は本当に存在価値のない人間なのだろうか。
家族に疎まれて育ったことで卑屈になる自分がイヤだった。けれどそれは言い訳なのかもしれない。
(わたしとミアが入れ替わったとしてもきっと彼女のように上手くいかないわ)
明るい彼女と根暗な自分。改めるべきは自分の性格だとしても、どこを直せば良いのか分からないからこそ、対処のしようがない。
(……やっぱりこんなわたしが殿下に見惚れられる訳がないわ)
殿下が見惚れるのはきっとミアのように華やかな愛嬌がある人物だろう。まかり間違っても自分の親にすら話しかけられないような者ではない。
現実を直視するとあれだけ胸を高鳴らせていた王城でのお茶会が早く終わればいいとすら思ってしまう。
なんて現金なのだろうと我ながら呆れる他ない。
けれど、挨拶を交わす程度の友人しかいないわたしにとってこういう集まりは決まって時間を持て余す。
(途中どこかで休める場所があれば良いのだけれど……)
出来れば一人で居てもバレないような少し会場から離れた場所が良い。
挨拶だけ先にして後は何処かに抜け出して、そして終わり際に戻ればそれで良い。誰もリリーが何処に居たのか気に留める者など居ないのだ。
であれば、後は適当にやれば万事上手くいくーーこの時までは確かにそう思っていたのだ。
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