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始まりの人生
しおりを挟む目を閉じて思い出すのは遥か彼方の記憶。
擦り消えて朧げになる恐ろしさを回避する為にわたしは久方ぶりに過去を思い返すことにしたのだ。
わたしの人生の起点はやはり王宮のお茶会に参加した時のことだった。
まだあの頃のわたしは考えが幼く、自分よりも妹に関心を持つ両親の気をなんとか引きたくて堪らなかった。
(もしもわたしがお茶会で殿下に見染められでもしたら、少しはお父様とお母様はわたしを凄いと褒めてくれるかしら?)
それは何時か自分の元にも白馬に乗った王子様が現れるのではないか、と少女の頃に誰しもが抱く夢の微睡み。
現実に対面する機会があっても王子様は自分なんか見向きもしないことは分かってはいる。けれど現実逃避に似た夢を見ることで自分の居場所を得られるのではないかと浅ましく期待してしまう。
お茶会であるエドワードの風貌は噂程度に聞いたくらいだが、皆一様に褒めちぎっているーーその方に自分が対面出来るとなると高揚から胸が早鳴る。
(早くお会いしてみたい……)
今日の為に用意された白いドレスはレースがふんだんに使われており、遠目から見ても一等華やかなものであると認識出来る。
間違いなく自分の持っているドレスの中で最上位に値する。朝早くから幾人ものメイドに髪を結われ、丁寧に丁寧に薄化粧を施されると立派なレディーになったようで嬉しくて鏡を何度も見やった。
くるりと回ってドレスを靡かせる程に浮かれるさま――それを戻ってきたミアにまさか見られるとは思いもしなかった。
(恥ずかしい……!)
馬車の準備が出来るまでの僅かな自由時間。王宮へ向かう手筈で屋敷の中は慌ただしく使用人達が駆け回っていて、わたしの支度を終えた彼女達もそちらの準備の応援に回っているから屋敷を発つ時間までは衣装部屋には誰も来ないだろうという油断から、無防備な姿を見せてしまった。
羞恥で打ち震えているとミアは鬼の首を取ったかのようにニンマリと唇の端を釣り上げる。
「あらあらお姉様は随分とご機嫌ですのね」
「……別にどこかおかしなところがないか見ていただけよ」
下手な言い訳をすれば尚更彼女は口撃できる材料を手に入れたといわんばかりに嬉しそうに顔を歪ませる。
父も母も使用人も誰にも見せないわたしだけが知っている妹の素顔ーーわたしが特別だから見せるのだとミアは嘯くけれど、その『特別』は到底嬉しいものではなかった。
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