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憤り
しおりを挟む「どうでも良い、と言って捨て置ける問題ではありませぬ」
「ほう……?」
わたしの言動が彼の琴線に触れてしまったからと言ってそこで折れてしまえば、また意味のないタイムリープを繰り返すだけの永劫の日常に戻ってしまう。
(決めたじゃない。今世こそは幸せになってみせるって……!)
今世のタイムリープに気付いた時に決意した想いはまだ変わっていない。
たとえわたしが心の底に秘めている殿下の想いに蓋をすることになったとしても、それでも一度でも良いから幸せになってみたいと願った筈だ。
ーー殿下はわたしを愛さない。
幾度のタイムリープで得た結論から今世で殿下と幸せになることは諦めている。だからこそ『今』この婚約を成立させてはならない。
(……たとえわたしが殿下と婚約することもタイムリープの不文律だとしても時期はバラバラだったわ)
わたしが殿下と出会い、殿下がミアに恋慕を抱き、その想いを秘めたままにわたしと婚約することになるーーこれはタイムリープの不文律。
しかし、そのどれもがわたしの行動により時期は変わるのもまた事実ーーならばこそ今わたしの言動により婚約する運命を少し引き伸ばせるのではないのかと思案する。
今エドワードがわたしに婚約を持ちかけているのは頑ななわたしに対する嫌がらせに違いない。頭に血が上っているからこそ、好きでもない女に婚約を迫っている。
どうせ冷静になって時が経てば、ミアのことを好きになり、わたしとの婚約が重荷になる。そんな惨めな存在になりたくなんかない。
「殿下がわたしと婚約するメリットはあるのでしょうか?」
「……ああ、あるさ」
「その利点をお尋ねしても……?」
「…………」
ムスリと黙り込むエドワードにどうしたものかと考えた矢先、部屋の外から扉を叩く音が聞こえた。
彼は重たい溜息を吐き出しながら、誰だと苛立たしげに声を掛ける。
普段感情の起伏を一定に保っているエドワードの棘のある声に、扉の向こうに居る人物は怯えたようにおどおどと小さな声で返事をした。
「兄様、僕です。ジェノスです」
か細い柔らかな声は分厚い扉に隔てられている分、聞こえにくい。しかしジェノスはエドワードの腹違いの弟であり、次期国王になる人物。
予想外の人物の来訪に驚いたのはまたエドワードも同じだろう。
彼も目を丸くしたが、瞬きの間に穏やかな表情に変えて、ジェノスを迎え入れるのだった。
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